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NO.20 Tさん、NHKハートネットTVに出演!!

2025年02月11日 | 記事

Tさん NHKハートネットTVに出演!!

 

 これまでに、かつて療育施設を卒園した子どもたちが、大人になり、その活躍をテレビ取材され、テレビに出演した人たちは、結構いる。特にNHKのハートネットTVで取り上げられることが多かった。このブログで書かせていただいたNO.10の劇団員ひでさんも、以前、劇団での活躍が紹介されたことがあった。

最近では、デフリンピックを目指して陸上をがんばっているMさんがNHKの「おはよう日本」に登場している。Mさんがデフアスリートとして会社でもがんばっている様子を見ることができて、うれしかった。Mさんには、また今年のデフリンピックが無事終了してから、ゆっくり社会人インタビューしたいなと思っている。

 そして、つい最近、今大学2年生のTさんがやはりハートネットTVに出演するという情報があり、楽しみに見た。お母さんの話では、Tさんは緊張しているだろうから見る方もドキドキするということだったが、実際には、落ち着いて堂々としていて、発言も自分なりに考えられていて、とてもよかった。やさしくてシャイで繊細なTさんが、テレビを通して、堂々と話をしているのを見て、これまでのお母さんの努力とか、学校での先生方のご指導の数々を思い、感無量だった。

 Tさんは、高度難聴で補聴器を両耳に装用している。私たちの療育施設では、小さい頃のTさんは、友だちと楽しそうに遊ぶ子だったが、とても恥ずかしがり屋で、繊細で、自信がなく、常にお母さんにくっついているというような男の子だった。

 特に記憶に残っているのは、給食の時間だ。2、3歳児は、保護者さんが傍に付き添い、食べ終わると、遊び始め、その後保護者さんがお昼ご飯を食べることになっていた。4、5歳になると、大抵は、段々保護者さんと別れて友だちやスタッフと給食を食べることができるようになり、保護者さんたちも別室で会話しながらお弁当を食べられるようになる。子どもにとっても、友だち同士で同じものを楽しく食べるという、療育の中でもよい時間であった。

 しかし、Tさんは、5歳になっても、6歳になってもガンとして、給食時間にお母さんと別れることを拒んだ。ずっと食べ終わるまでお母さんにいてもらい、食べ終わるとやっとお母さんを解放してくれた。お母さんだって、早く子どもから解放され、お母さん同士の楽しいお昼の会話の時間が持ちたかったに違いない。誰だっておなかがすく時間だ。

 通常ならば、「ねえ、お母さん行ってもいい?一人で食べてよ。◯くんも◯くんもみんな一人で食べてるでしょ。」とちょっとイライラしながら言うところを、Tくんのお母さんは、そのイライラを見せず、やさしい眼差しでTくんを見守っていた。その頃のスタッフはみなそういうお母さんの姿をよく覚えているはずだ。みんなそんなお母さんの姿を見て、「すごいなあ、えらいなあ」と思っていた。

 ある時、Tさんが給食の味噌汁だったか、おかずだったかを間違ってひっくり返して、こぼしてしまった。一瞬ワッとまわりのみんなが反応すると、Tくんは、お母さんの膝に顔を埋めて、そのまま、ずっと顔を上げようとしなかった。記憶では、その後、給食を食べることなく、終わったような気がする。ちょっと失敗しちゃったこと、みんなが注目すること、Tさんは、そういうことになかなか耐えられないシャイで繊細なところがあった。療育場面の随所で、そのような自信のないことなどへの消極的な態度が見られた。

 いよいよ就学を迎えた時、就学先を地域の小学校にするか、聴覚の特別支援学校(以下ろう学校)にするか、Tさんのおかあさんと担当スタッフは、何度も話し合いを重ねた。ことばの力だけを見れば、地元の小学校でもやっていけるまで成長していたが、大きな集団の中では、自分を発揮することが少し難しいだろうと思われた。

 散々迷った挙句、ご家族でも話し合い、結局ろう学校に入学することにしたのだった。学校に入学してからも、「いまだに、この選択でよかったかどうか、揺らぐ時があります」とお母さんがおっしゃっていたのを覚えている。

 しかし、Tさんは、ろう学校で手話を覚え、友だちと楽しく会話し、のびのびと学校生活を送ったようだ。その後Tさんは、生徒会長になったり、部活の陸上でも部長として活躍したりして、後輩たちの憧れの的だという話をきいたりした。彼にとっては、彼のペースで楽しくコミュニケーションを積み重ね、陸上競技で活躍することでも、大いに自信をつけたのだと思う。

 優しく、リーダシップもあり、スポーツもうまいということで、さぞ学校でモテモテだったろうなと想像する。Tさんは、高校から筑波大附属の聴覚特別支援高校に入り、大学は、一般の大学に入って、今は大学で、スポーツ学や体育学を学んでいるようだ。デフ陸上競技もがんばっている。

 ハートネットTVは、「就職活動応援企画」というものだった。Tさんともう一人大学3年生の女性、二つの企業から就職担当者がそれぞれ1人ずつ、障害学生と企業の橋渡しをしてきたという大学教授そして司会者というメンバーで番組が構成されていた。

 就活で、①自分の障害をどう伝えるか、②自己PRをどうするか、③面接での情報保障をどうするか、などについて話し合われた。②の自己PRのところでは、企業側から、弱みも強みに変換して考えることができるとアドバイスされていた。例えば、Tさんの「自分の意見を強く主張できない」という弱みは、人の意見を尊重できるという強みに読み替えることができると。Tさんも、なるほどーと納得している様子だった。

 「内定をもらう」ということがゴールなのではなく、その先、実際に仕事を続けてゆく上では、会社側に自分のことをよく知ってもらうことが大切であるし、そのためには、まず自分が自分をよく理解していることが大切だという内容は、深く頷ける内容だった。

 Tさんは、将来は、スポーツや体育に関する仕事に就きたいそうだ。目的を持って、学生生活を送っている様子が伝わってきた。

 翻って考えるに、Tさんの場合は、ろう学校での、手話環境や少人数教育を選択したのは、本当に適切な選択だったのだと思う。聴力上のことだけでなく、彼の性格を考慮した賢明な選択だった。あの小さなTさんが、こんな風にテレビ出演し、ちゃんと自分の意見や考えを述べる姿に成長したのは、小さな自信がしっかりと積み重なり、弱みを強みに変え、しっかりと地面を踏みしめて自分の足で歩めるようになるまで、見守ったご家族の力、ろう学校の先生方のご指導の賜物と思う。世の中の趨勢よりもむしろお子さんの個性をしっかり見つめ、それに合った選択をすることが大切なのだなと改めて思う。

 Tさんが自分を理解し、自分をしっかりアピールし、居心地のよい仕事環境で社会人として活躍する日を心待ちにしている。Tさんの社会人経験についてインタビューさせてもらう日が楽しみだ。

 

 

 



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