西条 八十
『僕の帽子』
母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?
ええ、夏、碓氷から霧積へゆくみちで、
谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ。
母さん、あれは好きな帽子でしたよ、
僕はあのときずいぶんくやしかった、
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。
母さん、あのとき、向こうから若い薬売りが来ましたっけね、
紺の脚絆に手甲をした。
そして拾はうとして、ずいぶん骨折ってくれましたっけね。
けれど、とうとう駄目だった、
なにしろ深い谷で、それに草が
背たけぐらい伸びていたんですもの。
母さん、ほんとにあの帽子どうなったでせう?
そのとき傍らに咲いていた車百合の花は
もうとうに枯れちゃったでせうね、そして、
秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。
母さん、そして、きっと今頃は、今夜あたりは、
あの谷間に、静かに雪がつもっているでせう、
昔、つやつや光った、あの伊太利麦の帽子と、
その裏に僕が書いた
Y.S という頭文字を
埋めるように、静かに、寂しく。
猫ドン
『あたしの帽子』
パパラッチ、あたしのあの帽子
どうしたかにゃ
夕涼みしてる時の
ブラッシングの抜け毛で
せっせと作った
グレー色の あの変な帽子にゃ
パパラッチ、あたしはあれが
大嫌いだったにゃ
だってあたしには 似合ってなかっにゃ
あたしには 白い帽子が
一番似合うと思ってたから
パパラッチ あにゃたは
お花を帽子に飾って
何度もかわいい~って・・・
自己満足な、あにゃたを見て
あたしはドッチラケーだったにゃ
イヤイヤ被らされ
記念撮影までされて
あたしはずっと
不満タラタラだったにゃ
あにゃたが
盛り上がれば
盛り上がるほど
あたしは
ドッチラケーだったにゃ
早く気付いてほしかったにゃ
バカーーーーーー
失礼しました