今日の本紹介

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本紹介49「悪意の手記」

2021-01-31 02:54:00 | 日記
至に至る病に冒されたものの、奇跡的に一命を取り留めた男。生きる意味を見出せず全ての生を憎悪し、その悪意に飲み込まれ、ついに親友を殺害してしまう。だが人殺しでありながらもそれを苦悩しない人間の屑として生きることを決意する―。人はなぜ人を殺してはいけないのか。罪を犯した人間に再生は許されるのか。若き芥川賞・大江健三郎賞受賞作家が究極のテーマに向き合った問題作。

人を殺すということの本質と殺した人間がどうなってしまうのかという長い歴史の中で幾度となく考察されてきた究極的テーマに挑んだ著者の意欲作。
虚無が生み出す悪意、そしてそれによって狂う万物の事象は限りなく忠実に再現されているように思う。まるで人を殺したかのような錯覚人間陥る。
なぜ作者は人を殺したことがないにもかかわらずこのような哲学が理解できるのだろうか。
死を意識して、初めて生きている実感が湧く。死は生の反対にあるのではなく、生の隣にあるもの。どちらかが希薄になった時、もう一方も比例して希薄となる。
だからこそ、生を謳歌している我々は、死を同じように意識しなければいけないと思った。そうしなければ、いつ何時主人公のように虚無に包まれてしまうか分からないのだ。
死とは何か。人を殺すということはどういうことか。人を殺した人間に再生は許されるのか。
皆さんもこれを読み、一度究極のテーマと向き合ってほしい。

悪意の手記 (新潮文庫)』の感想

人を殺すということはどういうことか。人を殺した人間はどうなってしまうのか。その本質が余すことなく書かれている。どういう訳か、ここでの事象、つまり人間を殺害した人間の陥る精神状態や症状は、他のあらゆる作品に共通している。
全てがリアルで中村文則作品で一二を争う不朽の名作。

#ブクログ




本紹介48「ユートピア」

2021-01-26 00:40:00 | 日記

太平洋を望む美しい景観の港町・鼻崎町。先祖代々からの住人と新たな入居者が混在するその町で生まれ育った久美香は、幼稚園の頃に交通事故に遭い、小学生になっても車椅子生活を送っている。一方、陶芸家のすみれは、久美香を広告塔に車椅子利用者を支援するブランドの立ち上げを思いつく。出だしは上々だったが、ある噂がネット上で流れ、徐々に歯車が狂い始め―。緊迫の心理ミステリー。


感想にも書いたことだけど、現状に満足し、精一杯生きている人間は、ユートピアなどないことを重々知っている。

これは、この作品に限ったことじゃないが、現状を必死かつ満足に生きている人間は過去の栄光に縋ったりはしない。逆に過去の栄光(武勇伝)ばかり語る人間は、現状に満足していないか、怠惰な生き方をしているのであると私は思う。

比較論では決して幸福にはなれないことを教えてくれる一冊。


   『ユートピア (集英社文庫)』の感想

「地に足付けて生きている人間は、この世界にユートピアなどないことを知っている」
この作中の言葉が世界観と筆者の主張全てであると感じた。
ちっぽけなマウントの取り合いほど見苦しいものはないと教えてくれた。

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本紹介47「送り火」

2021-01-25 00:48:00 | 日記
第159回芥川賞受賞作。単行本未収録の2篇を加えて、待望の文庫化。 

春休み、東京から東北の山間の町に引っ越した、中学3年生の少年・歩。 
通うことになった中学校は、クラスの人数も少なく、翌年には統合される予定。クラスの中心で花札を使い物事を決める晃、いつも負けてみんなに飲み物を買ってくる稔。転校を繰り返してきた歩は、この小さな集団に自分はなじんでいる、と信じていた。 

夏休み、歩は晃から、河へ火を流す地元の習わしに誘われる。しかし、約束の場所にいたのは数人のクラスメートと、見知らぬ作業着の男だった――。少年たちは、暴力の果てに何を見たのか――。 

「圧倒的な文章力がある」「完成度の高い作品」と高く評価された芥川賞受賞作。 

都会はよく世知辛いと言われるが、田舎には田舎特有の恐ろしさがあることを教えてくれる一冊。
町の住人のほとんどが顔見知りであるということは、時にどういうジレンマを生み出すのか。同調圧力の根源が問われる。
この物語の登場人物達(主人公以外)は、田舎の雰囲気しか知らずに育っているため、前述の恐怖を恐怖と感じておらず、(というか知らず)知らず知らずの内に理不尽を受容してしまっているが、多くの人間がこれを読んで、環境が生み出す潮流を客観的に感じとってもらいたい。
『送り火』の感想

閉鎖的な田舎では、そこで馴染めないものはただただ理不尽を受け入れるしかない、村八分になったら死活問題であるということを如実に教えてくれる作品。

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本紹介46「メモリーを消すまでI」

2021-01-21 18:30:00 | 日記

犯罪防止のため、全国民の頭に埋められたメモリーチップ。「記憶削除」を執行する組織MOCの相馬誠は腐敗はびこる所内の権力闘争に巻き込まれていく。実権を掌握しようとする黒宮の真の目的はなんなのか? そして争いに巻き込まれたストリートチルドレンの悲劇とは? 「消えた9時間」をめぐる戦慄のストーリー! 隠蔽、逃走、復讐劇の果てに、感動のラストが待ち受ける! !


SFサスペンスミステリーの王道。事件を巡ってのバトルが見どころ。伏線が多用されてるため、再読にもぴったり!

これを読んで、人間の記憶を消すことがいかに重いかを学んだと同様、我々は嫌でも自分の記憶と向き合って生きていかなくてはならないと悟った。

これも続編があるため、また後日紹介します。


文庫】 メモリーを消すまで I (文芸社文庫)』の感想

疾走感があって面白かった。記憶が消せる装置など、夢の発明だが、こうした負の側面もあるのだと勉強になった。シミュレーションがリアルで何度でも読み返せます。

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本紹介45「あなたが消えた夜に」

2021-01-15 14:45:00 | 日記

連続通り魔殺人事件の容疑者“コートの男"を追う所轄の刑事・中島と捜査一課の女刑事・小橋。しかし、事件はさらなる悲劇の序章に過ぎなかった。 
“コートの男"とは何者か。誰が、何のために事件を起こすのか。男女の運命が絡まり合い、 
やがて事件は思わぬ方向へと加速していく。闇と光が交錯する中、物語の果てにあるものとは。


人間の持つ本性や狂気性を極限まで追求した哲学作品。

この本を読み、現代人は皆疲れており、自らの持つ闇に振り回されているように感じる。ジレンマを感じているように感じた。

生きることは辛くても簡単にはのたれ死ねないとのが人間である。

闇や悪はあらゆるものを超越し伝染するが、それに飲まれないよう、色々な経験から知識を蓄積させることが大切だと思う。

生きづらい世界ですが、共に生きましょう。


   『あなたが消えた夜に』の感想

主人公の過去、小橋刑事の語り、椎名啓子の闇、椎名めぐみの癖、吉高亮介の狂気、その他キャラクターの闇は人間の持つ本性のピースなのだと思う。著者のいる領域がいかに高次元かを突き付けられる作品。

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