【社説①】:駅の窓口削減 利用者を置き去りにせぬよう
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:駅の窓口削減 利用者を置き去りにせぬよう
デジタル機器に不慣れで、対面での切符販売を望む利用者への配慮を欠いていたのではないか。JR東日本は、顧客の目線に立って、事業の効率化を図ることが大切だ。
JR東は、新幹線の切符や定期券などを対面で販売する「みどりの窓口」の削減計画を、当面の間、凍結すると発表した。すでに閉鎖した駅の一部では、繁忙期に限って臨時に再開するという。
削減計画は、2021年5月に公表した。当時、約400駅に設置していた窓口を、25年までに約140駅に減らす内容だった。
コロナ禍で経営が大幅に悪化したため、インターネットや券売機での切符販売を増やして、コストを削減する狙いがあった。
現在、窓口があるのは209駅に半減している。だが、乗客数の回復で昨年末や今春の繁忙期は窓口に長蛇の列ができ、利用者の不満が高まった。窓口に来る訪日客も多くなり、混雑が増した。
切符や定期券の購入のために1時間以上も待たされる例もあったという。JR東が、窓口の削減を一時凍結するのは当然だろう。
窓口をなくす代わりにオペレーターと遠隔で通話し、機械の操作方法を案内してもらえる券売機の導入を段階的に進めているが、認知度が高いとは言えない。
駅員に相談しながら窓口で切符を購入する希望者は、今も少なくない。JR東のチケット販売サイトである「えきねっと」に対しては、デジタル機器に慣れた若年層からも、操作が複雑で分かりづらいとの指摘が出ている。
JR東が、デジタル化や省人化を急ぐあまり、利用者に不便を強いたとすれば残念である。
不慣れな人でもネット販売や券売機を使えるように改善し、窓口の適切な配置を再検討するべきだ。公共交通を担う責任の重さも改めて認識してもらいたい。
JR東は、窓口の削減に加え、携帯電話の普及により、大半の乗客は自分で時間が確認できるとして、21年からは約500駅を対象に時計の撤去を進めている。
これに対しても、利用者から反発が出ている。JR東は、地域の声に丁寧に耳を傾けてほしい。
JR東は、コロナ禍で乗客が激減し、21年3月期決算で5779億円の最終赤字を計上した。しかし、24年3月期は、1964億円の黒字にまで回復している。
過去の緊急時に決めた経費の削減策が、日本経済が平時に戻った現在でも適切なのかどうか、再点検する必要もあろう。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年05月16日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。