石ころ

山行きさんとの四十数年




 主人の聖書カバーは絣木綿。それは何十年もタンスに眠っていた布。しゃきっと張りのある木綿はカバーにすると手触りも良かった。
主人がイエスさまを受け入れた時に買った聖書。真っ新な聖書に大きな字で名前を入れる主人の様子を、今もはっきり覚えて居る。とても嬉しかったから・・もう15年ほどになるかな・・。

その布は、丸く曲げた木に漆を塗って仕上げた、お櫃のような弁当面櫃(メンツ)を入れるための、オチガイを作った残り布。オチガイはネクタイのようにバイアスに長く縫って、真ん中にメンツを滑り込ませて腰に結びつけるもの。一反の木綿を買って作るもので、メンツには二合ほどご飯がはいる。身と蓋に2食分いれるようになっていた。山に着くと一食を食べる。道具を持って仕事場に行くだけで一仕事ということなのだろう。

時々、空のメンツに蕗の葉で包んだ木イチゴなどか入っていた。蟻が入っていたりしたけれど・・甘いお土産を口に放り込みながら洗ったものだった。

 台風で、裏山の木々が近所の住宅の屋根に倒れかかった時、それらを山側に倒して家々を守ったことがあった。
みんなで息を止めて見ていた。一歩間違って家側に落ちると住宅が潰れるから・・。私は主人の仕事を初めて目の当たりにして、主にしがみつくように安全を祈りながら見ていた。
主人の「見ときや」と言う声で、屋根に被さっていた大きな木が、バサッと山側に寝返りを打った。
何日か掛かって全部片付け、ご近所さんに幾らか払うといわれた時、主人は「ええ、ええ、要らんよ」と言った。あの時から主人を少しは尊敬した。ふふふ・・

今、あのように木を扱う山行きさんが、どれくらい居られるのだろう・・。山々は放っておかれて暗くて無惨な姿が多い。昔は美林と歌われた地方なのに・・。
植林された山は手入れしないと崩壊してゆく。木は勝手に真っ直ぐに育ちはしない、荒れた山を見ると胸が痛む。

 朝、暗い内に起きて、炊きたてのご飯をメンツにぎっしり詰め、おかずも2食分入れて、オチガイにスルスルと滑り込ませて渡すと、腰にきりっと結び斧や様々な道具を差し、夜が明けたばかりの山に入って行く主人は頼もしかった。

「もうええ、もうええ。」「ありがとう、ありがとう」と繰り返しつつ、天に召されてもう3年半も過ぎた。40数年共に生きた日をゆっくりと思い返す余裕が、やっと出て来たのだと思う。まあ、また会える日もそれほど遠くはないだろうし・・。

今私が紺絣のその聖書を使っている。きれいだった聖書を書き込みや線だらけにして消費している。ふふふ・・

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コメント一覧

ムベ
ままちゃんさんコメントありがとうございます
はい。イエスさまに信頼して祈りつつ、「夜は寝て、朝は起き、そうこうするうちに・・」いのちの種は芽を出し成長して行くようです。

神のご計画によって祈る者に、日々を大切に生きる力を与えて、導いてくださいます。
だからその時、反発しているように見えても、安心して共に生きることができます。

「祈りの答えは一朝一夕にくるものではなく、ある日気づくと叶っていたり、思いがけないところで叶っていたり、・・」

まったくそのとおりですね。初めに、神の良いご計画があるのだと思えます。
手段を模索したり力に頼ったり、そのように主のお邪魔をしなければ、良い方の良いご計画は成って行くものだと・・つくづく思います。

「クリスチャンホームのかたち」読んでくださってありがとうございます。色々な形があると思いますが、あれは私に備えてくださった恵みです。
ただ、祈られた者の幸いは、いかなる環境も不遇も奪うことの出来ない、永遠に至るパワーを持っています。
祈った人には拠らず、聞いていてくださる主のご真実に拠ることですから。
ムベ
のしてんてんさんコメントありがとうございます
のしてんてんさんも山育ちでいらっしゃるのですか、身近に感じてくださって
うれしいです。

日が経つにつれて、もう大丈夫だと・・あれこれと思い出します。
キリストに出会ってからの主人は、その愛で私を思いやってくれました。ふふふ・・
ままちゃん
伝わる
https://blog.goo.ne.jp/rell248/e/aea10fec80d97051ad872a4e13ed6763
福音を伝えるのは、口伝だけではできませんね。やはり信仰者としての言動からのことが多いし、また祈りの答えとして、人は心を開き、目を開くのだと思います。祈りの力は身に染みてとてつもないものだと思います。そして祈りの答えは一朝一夕にくるものではなく、ある日気づくと叶っていたり、思いがけないところで叶っていたり、自分の願うこととは反対に叶ったり、と、不思議です。”クリスチャンホームのかたち”を拝読し、その通りだなあと深く感じいりました。今日は、いまさらのように、祈りは答えがあると深く心に感謝を抱いたのですが、あなた様のブログを読み、ますます感謝の念を感じます。お元気で夏をお過ごしください。
のしてんてん
お久しぶりです
http://blog.goo.ne.jp/nositen10/
力強くそして優しい御主人の姿が目の前に浮かぶようです。

山育ちの私には、山行きさんの本当の苦労を知らなくても、なんとなく身近に感じるものがあります。

山を愛されていたのですね。キリストの愛を木の一本一本に注がれていたのではないでしょうか。

心温まりました。
ありがとうございます。
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