石ころ




 先日チャイムが鳴って、急いで玄関に行くと、ガラスに貼り付くようにして「俺や俺や!」と叫んでいる人が居た。「誰やねん」と思いながら開けると同時に
「どうしたんや!今頃から鍵掛けて」
「いやいや、別にどうもしてないよ。」って、顔が合った瞬間に彼は笑顔になった。何時も親戚のように気を配ってくれる人だった。戸締めだったので心配しのだろう。

「何か入れ物持って来て」
この前ミカンを貰うときに「小さい」と叱られたので、大きなボールを持って飛び出して行くと、軽トラックの荷台に積んでいたクーラーを開けていた。
「えっ!釣に行ってきたん。嬉しい~大好きやねん」
氷の中から大きな鯛の尾を掴みだして「ほら」って放り込んでくれた。「重い!」鯛のしっぽと頭がはみ出している。

「一人やし、こんな大きいのいらん」
「なに、もっと大きいのがええってか」どうしてそう聞こえるのか・・と反論する間もなく氷をかき回して
「ほら。これでどうや」もっと大きくなってしまった。もう、これ以上何を言っても駄目。
「今日は寒かったやろ」
「峠はこれくらい雪が積もってたで・・、これから嫁さん迎えに行かんならん。帰るわ。それ、どうなとして」手を振って慌ただしく帰ってしまった。

寒い中、軽トラックで雪の峠を越えて釣ってきたものを一番に届けてくれたことに胸がジンとした。彼には親戚も多いのになぜ私が貰うのか・・それはいつもよくわからない。ただ受けるばかり。
イエスさまに祈る。「彼に十分に返してあげてください」と・・。

私には水族館の大水槽で泳ぐ魚が「おいしそう」に見えるほど好きだ。でも嬉しいのはそれだけではなく、私にとって丸のままの魚は遊び相手でもあるのだ。
捌くのも好きであり、どうやって喰ってやろうか・・片手では持てない大鯛は、荒々しい海獣気分に掻き立てられて胸躍るのだ。そう、ちょとした冒険。

取りあえず鱗を引くこれが大ごとである。主人も以前大きな鯛を釣ってきてくれたことがあった。あの時は鱗を引いてから渡してくれたけれど、寡婦サンは全部自分でやるのだ。
流しにまな板を置いて、これで少しくらい鱗が飛んでも大丈夫だ。
大根があって本当に良かった。これで直ぐに取りかかれる。ふふふ・・今夜は鯛の刺身だ。「とったぞ~」いやいや、貰ったんだし・・。

ザクザクと大根で鱗を剥いで行く。大根をケチったことで大きな鱗が刺さりそうでちょっと怖い。ここまでの贅沢が降って来たのにと大根ケチる自分に呆れながら・・、
でも、やはり大根をもう少し大きく切って裏側もザクザク・・、しかし・・大きすぎる。
指に怪我しないためには手袋をしたほうが良いかも・・いやいや、手袋に穴が空くのは嫌や・・、その考える方がケチ過ぎるし、手より手袋を惜しむのは間違っているやろ。
そんな言葉を頭の中で弄びながらの鯛との格闘。

自慢じゃないけれど、スルメイカで松かさが作れるほど魚はいじってきている。昔は誰でも大きなハマチを家で刺身にするくらいは普通だった。
しかし・・この大鯛を、それも切れ味の悪い三徳包丁では手こずることは事実だ。主人は包丁の音を聞いただけで研いでくれたけれど。まあ、今更嘆いても・・なので、一応簡単に研いでなんとかする他ない。
出刃包丁が欲しいと思っても、最近は使う頻度がほとんど無いだろうだから買わないのだ。

かまに包丁を入れると案外すっと入った。頭を切り落とすのは不可能を可能にする力仕事で、何度か包丁を叩きつけても薄っぺらな三徳包丁では大した効果もない。それでも一応切り離すことができた。
大きな身をやっとこ二枚に下ろしたら、刃は油で切れ味が落ちた。それにしても、身の堅く締まって腹のきれいなこと。これだからなまくら包丁でもなんとかなるのだ。

三枚に下ろすのは面倒なので止めた。疲れてちょっと嫌になって来たのだ。最近こういうことが間々ある。そんな時はどんなに好きなことであっても、潮が引くようにやる気が失せて行く。年のせいかな・・まあ、そういうときはあっさり放り出すことにしている。

ただ、今は夕食にお刺身を食べたい一心で半身の皮を引いた。これも鯛の幅が広くて簡単ではなく・・腹の方がちょっと残ってしまったがこれは潮汁にすれば皮付きでよい。わかめも入れれば野菜が取れる。鯛素麺が好きだけれど・・。

お刺身と半分はカルッパッチョに潮汁。ご飯代わりに鯛というほど食べた。刺身はコリッとするほど身が締まっていて、もっちりと旨味があり油が乗っていてお醤油を弾いた。
翌日残った潮汁は、とろんとして少し煮こごりになっていた。

さてと次の日はでっかい頭をどうするか考えた。包丁を入れることは不可能だ危険すぎる。そこで、まるごとヘルシオに放り込んでウォーターグリルで焼くことにした。
両面じっくりと焼き上げ、冷ましたら「針に気を付けてや」と言われたことを思い出して、固く閉じている口をこじ開けて針を探すも大丈夫入ってなかった。
エラなどを取り除いた後、2合の米に味を付けて生姜とでっかい頭をど~んと放り込んで炊飯器をスイッチオン。

もう、片身は白味噌と酒粕を味醂と酒で溶いて味噌漬け。骨を外した方が良いのだろうけれど、もう嫌になっていたので骨付きのままぶった切って漬ける。
しかし、後で気づいたが絶対骨を外す方が楽だったろう・・アホやなぁ。私は一度嫌になったことはそこで思考が停止ことに気づいた。一日漬けた後で冷凍しておき、これも冷凍した鯛飯と共に息子に食べさせよう・・。

ただ、貰ったことをメールしたとき、「良かったね。でも残して置かなくても良い」わざわざ返信が来たけれど・・どういう意味だろう?

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コメント一覧

ムベ
遙か南の島からのコメント感謝します。
アハハ・・
話し相手の無いときの言葉遊び、「ひとり鯛とじゃれる」という実況中継でした・・。

鯛茶漬け・・その手があったか!もう少し早く言ってよ・・です。
奥様とハワイで存分にじゃれ合ってくださいませ。
電気屋
大変物語り性のある長文ご苦労さまでございます。
こちらは南の島
鯛などは夢の又夢ではございますが
なにやら鯛のお茶漬けが恋しくなって来ました。

故郷は遠くに在りて思うもの
家内にご飯でも炊いてもらおうか。
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