courir…

衣擦(きぬず)れの気配を殺しなにものか愛なす異教の踏絵のごとく

expiatrice…

美しき膝立て眠る気狂ひの胸さわさわと恋はかなくも

pluie…

熟れきったをんなの足に力入る雨降ればしきりさみしきこころ

bague…

かなしみの続ける日々の指環ぬく日の差さぬまま夏は過ぎたり

respirer…

幸せにとほき息する産まぬ乳よしやをとこの温(ぬく)き手の平

toucher…

家妻の匂ひを消して夕街のこの人群にときめけるかな

osmanthus…

夕ごとに金木犀の匂ひくる秋の日やさしよきひとのうへ

vin chaud…

手のひらの燗(かん)の温もりひとり酒 美(うま)き女が売れのこりたる

prunelle…

美しき眸(まみ)もて立てる狂人の生き来(き)し寄る辺恋ひとつ曳(ひ)く

douleur…

他人(ひと)の夫(を)にこころ傾く埋めがたき芯(しん)の痛みをかたはらにして

silhouette…

さびしさの底より逃げる昼の顔母を恋ふ子の母ともなれず