新古今和歌集の部屋

絵入横本源氏物語 賢木 崩御 蔵書


「おどろおどろしき樣にも、おはしまさで、隠れさせ給ひぬ。足を空に思ひ惑ふ人多かり」


まつらせ給にも、さま/"\御心みだれて

おぼしめさる。よろづのことを聞え
        春宮
しらせ給へど、いと物はかなき御ほど
     院心
なれば、うしろめたくかなしう見たて
         源      院詞
まつらせ給。大将にも、おほやけにつ
                   東宮
かうまつり給べき御心づかひ、この宮

の御うしろみし給ふべきことを、返す/"\
       東宮
の給はす。夜ふけてぞかへらせ給のこ

る人なくつかうまつりて、のゝしるさま、

行幸におとるけぢめなし。あかぬ程
           院心
にてかへらせ給を、いみじうおぼし
   地后
めす。おほぎさきも参り給はんとする
  藤つほ              ◯后
を、中宮のかくそひおはするに、御心を
                   院
かれて、おぼしやすらふほどに、おどろ

/\しきさまにもおはしまさで、か

くれさせ給ひぬ。あしをそらに思まどふ

人おほかり。御位をさらせ給といふ

ばかりにこそあれ、世のまつりことをし

づめさせ給へることも、わが御世のおなじ、

ことにて、おはしまいつるを、みかどは
                 右大臣
いとわかうおはします。おほぢおとゞ

いときうにさがなうおはして、その

御まゝになりなん世を、いかならんと、

上達"部殿上"人"、みな思ひなげく。
藤つほ  源
中宮"大"将殿などは、ましてすぐれ

てものもおほしわかれず、のち/\の
         孝事也
御わざなど、けうしつかうまつり給

さまも、そこらのみこたちの御中

にすぐれ給へるを、ことはりながらいと
              源
哀に、世の人も見奉るふぢの御ぞに

やつれ給へるにつけてもかきりなく

きよらに心ぐるしげなり。

こぞことしとうちつゞき、かゝることを

見給に、世もいとあぢきなうおぼさる

れば、かゝるつゐでにもまづおぼしたゝ

るゝことはあれど、またさま/"\の御ほだ

しおほかり。御四十九日までは、女御

御息所"たち、みな院につどひ給へり

つるを、すぎぬれば、ちり/"\にまかで

給。しはすの廿日なれば、おほかたの

世中とぢむる空の気色につけ
               藤つほ
ても、ましてはるゝよなき、中宮"の
          ◯后
御心のうちなり。おほぎさきの御心

をもしり給へれば、心にまかせ給へ

らん世のはしたなく、すみうからんを

おぼすよりも、なれ聞え給へるとし

ごろの御有さまを、思いで聞え給はぬ

ときのまなきに、かくてもおはします

 


まつらせ給ふにも、様々御心乱れて、おぼしめさる。よろづの事

を聞こえ知らせ給へど、いと物儚き御程なれば、後ろめたく悲し

う見奉らせ給ふ。大将にも、公に仕うまつり給ふべき御心づかひ、

この宮の御後見し給ふべきことを、返すがえす宣はす。夜更けて

ぞ帰らせ給ふ。残る人なく、つかうまつりて、ののしる樣、行幸

に劣るけぢめなし。飽かぬ程にて帰らせ給ふを、いみじうおぼし

めす。

大后も参り給はんとするを、中宮のかく添ひおはするに、御心置

かれて、おぼしやすらふ程に、おどろおどろしき樣にも、おはし

まさで、隠れさせ給ひぬ。足を空に思ひ、惑ふ人多かり。御位を

去らせ給ふといふばかりにこそあれ、世のまつり事をしづめさせ

給へる事も、わが御世の同じ、ことにて、おはしまいつるを、帝

はいと若うおはします。祖父大臣(おほぢおとど)、いと急に性

なうおはして、その御ままになりなん世を、いかならんと、上達

部殿上人、皆思ひ嘆く。

中宮・大将殿などは、まして優れて物もおほしわかれず、後々の

御わざなど、孝(けう)じつかうまつり給ふ樣も、そこらの親王

たちの御中に優れ給へるを、ことはりながら、いと哀れに、世の

人も見奉る。藤の御衣(ぞ)にやつれ給へるにつけても、限りな

く、きよらに心苦しげなり。

去年今年と打ち続き、かかる事を見給ふに、世もいとあぢきなう

おぼさるれば、かかるつゐでにも、先づおぼし立たるる事はあれ

ど、また樣々の御ほだし多かり。

御四十九日までは、女御・御息所たち、皆院に集ひ給へりつるを、

過ぎぬれば、散りぢりにまかで給ふ。師走の廿日なれば、大方の

世の中とぢむる空の気色につけても、まして晴るる世なき、中宮

の御心の内なり。大后の御心をも知り給へれば、心に任せ給へ

ん世の、はしたなく、住み憂からんを、おぼすよりも、馴れ聞こ

給へる年頃の御有樣を、思ひ出で、聞こえ給はぬ時の間なきに、

かくてもおはします

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