MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2556 長生きのリスクと基礎年金のあり方

2024年03月14日 | 社会・経済

 日本の公的年金の基礎となる「国民年金」は、日本に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人が加入しなければならない(つまり加入は国民の義務)と定められています。

 国民年金の加入者は、原則20歳から60歳までの40年間国民年金保険料を支払う必要があります。しかし、実際には、2022年の加入者総数6754万人のうち、(低所得などにより)保険料の全額を免除もしくは猶予されている人が606万人おり、さらに未納者も89万人を数えるなど、加入者の概ね1割から保険料を徴収できていないのが実状です。

 国民年金保険料の支払いが免除されておらず、なおかつ年金保険料の支払期間が10年未満の場合は、原則年金が受け取れません。また、(現行)65歳を過ぎて国民年金(基礎年金)の満額(月額6万6000円)を受け取るためには、支払期間(40年間)を通じた納付が必要とされています。

 少子高齢化の進行による年金財源の不足が懸念される中、昨年の10月24日に開かれた厚生労働省の社会保障審議会(年金部会)において、国民年金保険料の納付期間を現行の20歳から60歳までの40年間から、65歳になるまでの45年間に延長する案が議論されたと報じられ話題を呼びました。

 国民年金のみの人の平均年金受給額は、現在5万円台前半とのこと。このままインフレが続けば、マクロ経済スライドの発動によって年金水準を約3割程度下げないと制度自体が持たなくなるという話も聞きます。

 特に、低年金が多い国民年金(のみ)の受給者にとって、もしも(ここから)3割下がるとなると、生活自体が成り立たない状況がそこここに生まれてくることになるでしょう。消費者物価の高騰が続く中、生活に困窮する高齢者の老後を支える年金は、今後どうなってしまうのか。

 そうした折、1月23日の毎日新聞が「年金は信頼できるか?『長生きのリスク』を考える」と題し、大妻女子大学教授の玉木伸介氏へのインタビュー記事を掲載していたので、参考までに概要を小欄に残しておきたいと思います。

 税金が投入される年金は、特に弱い立場の人にとって非常に助かるもの。なのに、あまりそのように思われていないのは何故なのか。それは、「払ったものが返ってこない可能性」…つまり制度への不信感によるものではないかというのが記者の認識です。

 一方、玉木氏はそうした(記者の)見解に関し、「毎月払ったものが何十年かたつと返ってくるという積み立てのイメージは間違っていない。しかし、年金の役割はそれだけではない」と語っています。

 公的年金は、現役世代が高齢者世代を養う仕組み。最もわかりやすい言葉でいえば「仕送り」だと氏はしています。ただし、子どもから親への仕送りと違うのは、集団から集団への仕送りという部分にある。集団なので、長く生きる人もいれば早く死ぬ人もいる。「年金は得か損か」という議論がよく聞かれるが、大切なのはどんなに長生きしても、死ぬまで年金をもらえるという一点にあるということです。

 自分が将来どれくらい長生きするかは(多くの人には)わからない。蓄えがあっても、死ぬ前に使い切ってしまったらどうするのか、インフレで価値が下がったらどうするのか。個人であればそうした心配は尽きないが、集団であれば「高齢者」全体の平均寿命が変わらなければ、年金財政にとっては痛くもかゆくもなくなる。実は、これがこの制度のすごいところだというのが玉木氏の見解です。

 さらに、公的年金のメリットはそれだけではない。もしも年金制度がなくて、老後はすべて子どもが面倒を見るなら、子どもの数が少ないほど子ども1人あたりの負担は大きくなると氏は言います。

 兄弟姉妹が少なくて親が長生きすれば負担が重くなり、兄弟姉妹が多くて親が短命であれば負担は少なくなる。しかし、年金制度があれば、保険料さえ払っていれば(親が)亡くなるまで国が年金を払ってくれるので、現役世代の負担は均等になるということです。

 このように、「公的年金制度」は、兄弟の数や親の寿命といった本人にはどうにもできない事情で人生が左右されにくくする(つまり社会を安定させる)仕組みでもあると玉木氏は説明しています。それでは、現在の日本の国民年金への不信感はどこから生まれているのか。その大きな原因は保証される年金額の少なさにあるというのが氏の認識です。

 国民年金の制度ができた当時は、農家や自営業が念頭にあった。田畑やお店などがあり定年もない人たちは、年金額が低くてもやっていけることが前提だったと氏はしています。

 一方、現在はどうなのか。老後を基礎年金(つまり国民年金)だけで暮らす人の中には、非正規雇用であったり無職であったりして田畑やお店がない上に、厚生年金にも入れない方がたくさんいる。雇用が不安定なうえ定年もあり、彼らの生活を支えるには、基礎年金を「基礎」という名前にふさわしいくらいに大きくしなければならないということです。

 では、そのためにはどうすればいいか。基礎年金を大きくするといっても、保険料の値上げは国民が容認しない。 国庫負担が2分の1あるので財源の確保は容易ではないと氏は言います。

 で、あれば、すぐにできることは、現在政府がやっている厚生年金に入れない人たちを入れるようにすること。厚生年金の適用拡大をもっと進めるというのが氏の示す対応策です。そうすれば、事業主負担があるので本人の負担は減る場合もあり、かつ給付は手厚くなる。人手不足の時代、(今まで通りに)「時給900~1000円程度の非正規労働者を事業主負担無しで使いたい」というのは何とも虫のいい話だというのが氏の指摘するところです。

 現在の基礎年金は老夫婦が2人でなんとか暮らすイメージで作られているので、1人になってしまうととたんに真っ暗になる。さらに、現在、40代、50代の就職氷河期世代は単身で非正規の人も多いため、この人たちが厚生年金に入れないまま年金受給者になると、大量の貧困高齢者が生まれる可能性も高いと氏はしています。

 そうした中、厚生年金に入る(入れる)人が増え、社会保障が手厚くなれば、それだけ消費も増すことが期待できる。経済全体への影響も考え、企業への負担を慮るばかりではなく、国全体の視点を(もう少し)考慮すべきだと話す玉木氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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