これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

駅員さんの苦労

2011年04月14日 19時51分22秒 | エッセイ
 4月12日の午前8時すぎ、東京でも大きな余震があった。電車が止まってしまい、15分経っても動かない。異動してきたばかりの同僚は、間に合わないと考え、遅れる旨を連絡しようと携帯電話を取り出した。
 しかし、番号が登録されていない。
 彼女は「ああっ、どうしよう」と焦り、たまたまアドレス交換をした教員に、「学校の電話番号教えて」というメールを送ろうとした。
 すると、皮肉なことに電車が動き出す。目的地は次の駅だ。急げばどうにか間に合いそうだと判断し、彼女は編集途中のメールを閉じた。携帯を閉まったところでドアが開き、同僚は荷物を抱えて飛び出した。予想通り、始業の8時半ギリギリに到着できた。
「間に合ってよかったですね~」と話しかけたら、不思議と浮かない顔をしている。
「全然よくないです……。車内にお昼を忘れてきちゃった」
「お弁当ですか?」
「ううん、パンなんです。今日はちょっと奮発して、380円のクラブサンドと、ストレート果汁のオレンジジュースを買ったのに。とほほ」
「ストレート果汁! 濃縮還元じゃないんですね」
「そう。高かったんですよ。しかも、ゆで玉子のおまけつきなのに、袋に入れたまま足元に置いておいたら、立ち上がったときにすっかり忘れていました」
「あらぁ~」
「ダメです。今日はもう立ち直れません……」
 電車のトラブルがなければ、携帯に気を取られることもなく、彼女は贅沢ランチを楽しめただろう。
「きっと、今頃は不審物として、ひどい扱いを受けていますよね」
 あるいは、単純に忘れ物として駅務室に届けられ、朽ち果てるのかもしれない。

 仕事中、こんな電話を受けたこともある。
「こちらは○○○駅ですが、そちらの、サトウタカシさんという生徒の忘れ物が届いています。クリアファイルなんですが、中には自己PR文や取得資格、成績などが書かれた書類が何枚かあります。一週間以内に、駅のホームにある事務所まで取りに来てもらえませんか?」
 私は言葉を失った。

 なんで、そんな大事なものを電車に忘れるんだ!?

 成績優秀な者ならともかく、こういうものを忘れる生徒に限って、とても人様には見せられない成績だったりする。担任に連絡すると、「なんて恥ずかしいヤツだ!!」と仰天していた。どんな顔をして取りに行ったのやら。
 聞くところによると、電車や駅内の忘れ物は、勝手に処分できないらしい。まず、中身をチェックし、持ち主が特定できれば連絡をして、引き取りに来るのを待つのだとか。
 パンやジュースに、1や2ばかりの成績など、さぞかし奇妙な忘れ物ばかりなのではないかと察する。

 私も人のことは言えない。
 20ウン年前、初めて教員になった年だった。当時、顧問をしていたバレーボール部の試合を見に行ったときのことだ。生徒への差し入れに、レモンスライスの砂糖漬けを作り、タッパー2個に分けて詰めた。レモンは全部で5個くらい使った気がする。
 前日から冷凍庫で凍らせ、試合の後には溶けて食べごろになるはずだったのだが……。
 電車に乗ったとき、網棚に載せたのが間違いの元で、降りるときにはコロッと忘れていた。会場に着き、ようやく気づいた。
「ああっ、レモンがぁ~!!」
 タッパーをなくしたことより、手ぶらで試合会場に行くことのほうが気まずかった。鉄道会社には連絡すらしなかったが、「またこんなものが」とウンザリされたのではないか。
 駅員さんって、苦労しているんだな……。
人気ブログランキングへ
クリックしてくださるとウレシイです♪

※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (18)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする