これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

祈りよ、届け!

2012年06月14日 20時44分48秒 | エッセイ
 その日、私は初めて高木という生徒に話しかけた。
「この前の課題なんだけど、この字が間違っていて、ここも変だから直しておいて」
「はい、わかりました」
 高木は目立たないタイプの女の子だ。中肉中背で、とびぬけて成績がいいわけではなく、悪さをして注意されることもない、ごく普通の生徒である。だから、翌日の職員打ち合わせでは、言葉を失った。
「昨日の放課後、1年の高木さんが自転車で下校途中、車にはねられました。緊急手術をしましたが、危険な状態が続いています」
 校長の説明に、どこかで納得していない自分がいる。昨日、話をしたときは元気だったのだ。呼吸が苦しくなり、「嘘でしょう??」と叫びたくなった。
 しかし、悲しいことに、生徒や教員が大けがをしたり、亡くなったりすることはままある。
 1校目では、男子生徒がバイクの事故で亡くなった。16歳だった。
 2校目でも、男子生徒がビルの屋上から転落して亡くなった。こちらも事故で、17歳だった。
 3校目では、副校長が病気で亡くなった。
 実は、過去にも交通事故に遭った女子生徒がいたが、ひと月ほどで復帰できた。なんとか、高木も無事に戻れればいいのだが。
 教員以上に、生徒の想いは強い。同じクラス、同じ学年の生徒たちが、協力し合って千羽鶴を折っているらしい。隣の席の先生が、授業から戻ったときに教えてくれた。
「でもね、授業中に折っているのよ。やめろとも言いづらいし、困ったわ」
 ……このあたりが、うちの生徒の弱いところだ。
 神様が呆れて、祈りを聞いてくれなかったらどうするのか!

「週末、飲みに行かれる先生方もいらっしゃるでしょうが、今はそれどころではないので、日を改めてください」
 飲み会自粛のお達しがあっても、誰も文句を言う者はいない。ムードを察して、新人が真面目な顔で尋ねてくる。
「今日は追試をしようと思っていたんですが、自粛したほうがいいんでしょうか」
「……追試は別にやってもいいんじゃない」
「そうですか。じゃあ、そうします」
 澄ました顔で答えたが、本音としては、授業も自粛、部活も自粛にしてもらいたかった……。

 こんなにたくさんの人が、高木の回復を願っている。
 私はまだ、彼女と一度しか話したことがないのだ。
 また、授業で「ここが違うよ」と、言える日が来てほしい。

・追記  おかげさまで、彼女は数日後、危険な状態から抜け出したそうです。
     後遺症の懸念もあり、手放しでは喜べませんが、だいぶ落ち着いてきました。
     これも、みなさまがたのおかげです。温かいコメントをちょうだいし、ありがとうございました!


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
 「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
コメント (14)
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