6月22日。
朝から激しい雨が降っていた。電車が遅れることを心配し、美奈はいつもより早く家を出る。高校では、無遅刻無欠席をキープしたい。
駅までは歩いて10分だ。道には深い水たまりができ、すぐにローファーが水浸しになった。傘を差していても、激しい降りに肩やスカートが濡れ、ずっしりと重くなる。駅に着いたときには、制服の色がグラデーションになっていた。
幸いなことに、電車はほぼ平常運行しているらしい。「JR埼京線は人身事故のため、運転を見合わせています」とのテロップが繰り返し流れているが、大きな影響はなさそうだ。
電車を降りてバスに乗る。よかった、この時間なら余裕で間に合う。窓から外を見ると、雨は小降りになっていた。
「おはよう」
隣から声をかけられ、顔を上げた。見ると、笹木という女性の先生が立っていた。
「おはようございます」
「すごい雨だったね」
「はい、制服が冷たいです」
他愛のない会話を交わしているうちに、バスが停留場に着いた。さっきまで、土砂降りだったことが嘘のように、明るくなっている。
教室に行くと、異常なくらい人が少ない。一体どうしたのかと思ったとき、担任の先生がやってきた。
「おはようございます。みなさん、せっかく登校したんですが、大雨洪水警報が発令されたので、授業はなしです」
「ええーっ!」
「解除されるまで、校舎内で待っていてください」
学校のルールでは、午前7時の段階で、何らかの警報が出ていた場合、自宅待機となる。解除された時間によって、3時間目からの登校となったり、5時間目からとなったりする。
大喜びの生徒もいたが、美奈は手放しで喜べなかった。ニュースや天気予報をしっかり見ていれば、警報が出ているから自宅待機とわかり、濡れネズミにならずにすんだのだ。連絡網がないのだから、友達にメールで確認すればよかった。
ふと、バスの中で会った先生を思い出す。あの様子では、先生も警報が出ていることを知らなかったようだ。うっかり者は、生徒だけではないのだろう。
40分後、また担任がやってきた。
「さきほど、警報が解除されました。授業は5時間目からになりましたので、それまではテスト勉強などをしていてください」
美奈は天を仰ぐ。授業がなく、仲良しの友達も登校していないのに、4時間近くも待たなければならないとは……。心底、判断の甘さを後悔した。
一人で勉強し、一人で本を読み、一人でお弁当を食べる。孤独な時間は過ぎるのが遅く、6時間にも7時間にも感じられる。正午を過ぎると、ようやく友達が登校し、話し相手ができた。長い長ーい一人時間が終わり、心が和む。
始業のチャイムが鳴ると、担任が出席簿を持ってやってきた。
「みなさん、今日の授業は5時間目と6時間目だけです。試験も近いので、しっかり受けてください」
「はーい」
勉強が好きなわけではないが、せっかく学校に来たからには、本来の目的を果たしたい。2時間だけ我慢すれば、あとは楽しい週末が待っている。教科書やノートを机に並べると、いつもと違う先生がやってきた。
いやな予感がする。
「5時間目ですが、○○先生が休みなので、自習になります」
いつもはおとなしい美奈だが、このときばかりは、「いい加減にしろよ!」と怒鳴りたくなった。
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
朝から激しい雨が降っていた。電車が遅れることを心配し、美奈はいつもより早く家を出る。高校では、無遅刻無欠席をキープしたい。
駅までは歩いて10分だ。道には深い水たまりができ、すぐにローファーが水浸しになった。傘を差していても、激しい降りに肩やスカートが濡れ、ずっしりと重くなる。駅に着いたときには、制服の色がグラデーションになっていた。
幸いなことに、電車はほぼ平常運行しているらしい。「JR埼京線は人身事故のため、運転を見合わせています」とのテロップが繰り返し流れているが、大きな影響はなさそうだ。
電車を降りてバスに乗る。よかった、この時間なら余裕で間に合う。窓から外を見ると、雨は小降りになっていた。
「おはよう」
隣から声をかけられ、顔を上げた。見ると、笹木という女性の先生が立っていた。
「おはようございます」
「すごい雨だったね」
「はい、制服が冷たいです」
他愛のない会話を交わしているうちに、バスが停留場に着いた。さっきまで、土砂降りだったことが嘘のように、明るくなっている。
教室に行くと、異常なくらい人が少ない。一体どうしたのかと思ったとき、担任の先生がやってきた。
「おはようございます。みなさん、せっかく登校したんですが、大雨洪水警報が発令されたので、授業はなしです」
「ええーっ!」
「解除されるまで、校舎内で待っていてください」
学校のルールでは、午前7時の段階で、何らかの警報が出ていた場合、自宅待機となる。解除された時間によって、3時間目からの登校となったり、5時間目からとなったりする。
大喜びの生徒もいたが、美奈は手放しで喜べなかった。ニュースや天気予報をしっかり見ていれば、警報が出ているから自宅待機とわかり、濡れネズミにならずにすんだのだ。連絡網がないのだから、友達にメールで確認すればよかった。
ふと、バスの中で会った先生を思い出す。あの様子では、先生も警報が出ていることを知らなかったようだ。うっかり者は、生徒だけではないのだろう。
40分後、また担任がやってきた。
「さきほど、警報が解除されました。授業は5時間目からになりましたので、それまではテスト勉強などをしていてください」
美奈は天を仰ぐ。授業がなく、仲良しの友達も登校していないのに、4時間近くも待たなければならないとは……。心底、判断の甘さを後悔した。
一人で勉強し、一人で本を読み、一人でお弁当を食べる。孤独な時間は過ぎるのが遅く、6時間にも7時間にも感じられる。正午を過ぎると、ようやく友達が登校し、話し相手ができた。長い長ーい一人時間が終わり、心が和む。
始業のチャイムが鳴ると、担任が出席簿を持ってやってきた。
「みなさん、今日の授業は5時間目と6時間目だけです。試験も近いので、しっかり受けてください」
「はーい」
勉強が好きなわけではないが、せっかく学校に来たからには、本来の目的を果たしたい。2時間だけ我慢すれば、あとは楽しい週末が待っている。教科書やノートを机に並べると、いつもと違う先生がやってきた。
いやな予感がする。
「5時間目ですが、○○先生が休みなので、自習になります」
いつもはおとなしい美奈だが、このときばかりは、「いい加減にしろよ!」と怒鳴りたくなった。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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