これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

サユリスト必見「母と暮せば」

2015年12月17日 21時06分14秒 | エッセイ
 お叱りを受けることを覚悟で打ち明けるが、スクリーンで日本を代表する大女優・吉永小百合を観るのは、これが初めてだ。
 監督 山田洋次 「母と暮せば」



 70歳という年齢には決して見えない、若々しさと美貌。



 3月には71歳になるというが、「ウソでしょ?」としか言えない張りのある美肌。実に素晴らしい。
 包容力や勇気もあり、外見のみならず、内面までピカピカに磨かれている方とお見受けした。
 さて、この女優の名を聞くと、ついセットで思い出してしまう大学講師がいる。
「商学部のみなさん、これから一年間、日本商業史の講義を担当するホニャララと申します」
 今から30年前、私が大学1年だったときのことである。まだ30代か40代だった担当の男性は、教授でも准教授でもなく、講師という肩書だった。でも、講義に手抜きはしなかったし、休講もなく、熱心であった。
 あるとき、ホニャララ氏は唐突に昔話を始めた。商業史に関する脱線は、たまにあったけれど、プライベートな話を披露したことはない。
「私は早稲田大学出身なんですが、一度、図書館で吉永小百合を見たことがあります」
 吉永小百合に反応し、眠そうな目をした学生も、友人とコソコソ話をしていた学生も、「なんだなんだ」と耳を傾けた。
「当時はすでに人気女優で、テレビで見るよりずっとキレイでした。私は目が釘付けになり、ジッと吉永小百合を見つめていました」
 うんうん、それで?
「すると、吉永さんは視線に気づいてこちらを見たんです。彼女は目が悪くて、私を友人か誰かだと思ったようでした」
 おお、すごいぞ~!
「私と小百合ちゃんは、5秒くらいずっと見つめ合っていたんです! 知り合いではないとわかり、目をそらされるましたが、このことは何年たっても忘れられません!」
 ついに小百合ちゃんときたか。熱を帯びた視線に、力のこもった声。教壇で、仁王立ちするサユリストに度肝を抜かれ、学生たちはその年一番の集中力を発揮した。
 ちなみに、日本商業史の講義内容は全然おぼえていないが、小百合ちゃんに関する話だけは、講師の表情や身振り手振りまで記憶している。この映画を観たら、堅物のホニャララ氏を夢中にさせた大女優の魅力を理解して、私にとっても憧れの人となった。
 吉永小百合が演じる母・伸子は霊感体質のようだ。戦地に赴いた長男の霊を見たことから戦死を悟り、原爆で亡くなった次男とは会話まで交わす。だが、原爆症を患っていたのだろうか、少しずつ弱って元気がなくなっていく。
 次男の浩二役に抜擢されたのが、嵐の二宮和也である。



 婚約者の町子を一途に想い続け、ときには涙をこぼすことも。素直な好青年ぶりに、「こんな息子がいたらなぁ」と笑みがもれる。吉永小百合とは、本当の親子のように睦まじく見え、息が合っていると感じた。
 浩二の婚約者・町子には黒木華。



 町子は原爆投下の日、運よく難を逃れたが、「死んでいった仲間に申し訳ない」と自分を責め続けている。死なずにすんだ者にも、別の地獄が待っていたのだ。こんな社会はおかしい。
 浅野忠信も出ていたようだが影が薄い。エンドロールで名前を見つけ、首を傾げて隣の娘にささやいた。
「浅野忠信なんていたっけ?」
「え? いないんじゃない?」
「もしかして、上海のおじさんとか」
「は? どんな特殊メイクだよ」
 プログラムで確認したら、戦争で左足を失った、黒田という男の役であった。メガネをかけていたせいもあり、「ヴィヨンの妻」とはまったくイメージが違う。この人は決して美男ではないけれど、スクリーンに登場すると、なぜかそちらを見てしまう。これも名優の条件なのだろうか。



 最後に、音楽担当の坂本龍一を忘れてはならない。この映画が病気休業から復帰して、初の仕事だそうだ。
 坂本氏は、反戦・反原発のスタンスで長らく活動されている。今年が戦後70年の節目であり、長崎の原爆の話であることから、自分がやらねばという気持ちで引き受けたという。私は、YMOからのファンなので、音楽が流れるたび、全神経を耳に集中させて聴いた。音楽には詳しくないけれど、ラストの合唱曲は、世代も職業も違うたくさんの人々が、「長崎の鎮魂」のために一つになったようで、心を揺さぶられた。
 隣で観ていた娘は、私の3倍泣いていたように見える。近くに座っていた老夫婦の嗚咽も聞こえてきた。嵐のファンとおぼしき少女3人組も、しきりにハンカチで目元をぬぐっていた。
 親子、兄弟、恋人、友人……。戦争によって絆を断たれ、元に戻れぬ哀しさよ。
 若い世代には、特に観てほしい映画である。


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コメント (8)
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