uparupapapa 日記

ようやく年金をいただける歳に。
でも完全年金生活に移行できるのはもう少し先。

ママチャリ総理大臣 ~時給1800円~ 第16話、第17話

2021-11-20 04:58:35 | 日記
   第16話 地震とアメリカ対策




 6年前のネット政変以降、
南海トラフ大地震対策は
加速度的に進められている。

 政変以前の旧政治体制下では
近日中のいつかは必ず発生すると
断定されているのに、
大規模地震の対策は
何もとられていなかった。

 与党・野党など議会の不毛な対立と
省庁の無能な仕事しかできない
高級官僚たちには
そんな災害などどうでも良かった。

 
 予防的災害対策など
自分にとって業績の評価にならないし、
立場保持や蓄財には何の利益も生まない。
 起きるかどうかわからない
不確実な災害への対策やら努力なんて、
何の得にもならない。


 国民がどれだけ犠牲になろうが
(安全なところにいる)
自分は痛くも痒くもないから
何もしないのだ。


 しかし、庶民は違う。
今まさに 自分の生活圏の近未来が
危険に晒されている事が分かっている。

 そんな状態の今、
直接ネット民主制に変わり、
政治の意思決定の主体は
それまで虐げられてきた何の力もない
一般人にとって代わった。
 当然ネット庶民にとって大規模災害は、
自分の身に関わる最大の関心事となる。
 私たちが負担する税金を
そういうところに投入しないで
何処に使う?

 彼ら一般庶民は、我が身に降りかかる
災害や危機に対し、
最大の備えを最優先に取り掛かった。
 津波対策は勿論の事、
避難経路、避難所の拡充。

 それだけではない。


 機能的に活躍する
組織づくりが進められた。

 既存の役立たずの省庁主導ではなく、
それぞれの分野の現業を主体にし、
役割別に新たな災害対策組織を結成。

有事即応体制が整備された。



具体的には・・・

 大きな被害が想定される地域を
関東・島嶼(しょ)ブロック
(小笠原諸島など)、
静岡ブロック、名古屋三重ブロック、
和歌山大阪ブロック、
四国ブロック、九州ブロック
の6つの地域別に
緊急災害対処本部が置かれている。

 東京の総合統括本部は首相官邸地下深く
秘密裏に設立、
シャドーと命名された。
(何でシャドー?何で秘密裏?)

OGPイメージ

謎の円盤UFO 日本版オープニング OP

【デジタルリマスター 超高画質 高音質 1920x1080 フルハイビジョン】 再生時間1分10秒 本編は製品をご覧下さい。

公式ページは...

youtube#video

 


 現在は冷静沈着な?
竹藪平助最高司令官が指揮権を持つ。




  そしてとうとうその日が来た。
 

 地下司令部の超大型スクリーンには
各ブロックから災害状況が刻一刻と報告され、
編成部隊の出動状況が表示された。

 やはり予想通り
地震による建物倒壊の被害は殆ど見られなかったが、
高さ10mを超える巨大津波が各地で発生、
広範囲にわたり甚大な被害をもたらした。

 自衛隊を中心とする救出起動部隊。
 警察を中心とした捜索部隊。
 消防を中心とした消火避難誘導部隊。
 医療・救急を中心とした救命部隊。
 路上の瓦礫除去や物資輸送の建設・トラック部隊。
 救援物資分配・ボランティア編成統括部隊。

 などの活動が報告される。



 深刻で緊急を争う事態に
懸命に立ち向かう各部隊の名も無い人たち。



 首相官邸は対応に連日ごった返していた。


 そして・・・。

 大地震発生から1週間後、
テレビ番組の途中でうんざりする程流された
あの「AC」のCM内容が変わった。

 こんな事態が想定される前に撮られていた
首相官邸の面々による
宣伝用動画が一部使用され、
その後の災害に立ち向かう人たちの姿を
一本のメッセージとして作成、
広く公開されたのだった。

 

 参考資料【サカイ引越センターCM】



OGPイメージ

引越しのサカイ CM 仕事キッチリ(日本舞踊)篇

youtube#video

 



 ここでその当該動画を披露できないが、
内容を説明しよう。

 画面を想像して欲しい。



 まず竹藪平助首相が扇子を持って踊る。

 そこに流れるのが
「時給ゥ~安い~、仕事キッチリ!」

 次に平助に続き角刈り三兄弟が登場。
そこにまた
「時給ゥ~安い~、仕事キッチリ!」

 更に首相官邸メンバーズ
(閣僚、掃除、警備・管理人などの非常勤職員)
たちによる
「時給ゥ~安い~、仕事キッチリ!」


 場面が変わり、
ジョーカー大統領や近平、
プー〇ン大統領のそっくりさんが登場。
会議場に見立てた場面で
平助や井口外相たちが対峙し、
国を背負った喧々諤々
(けんけんがくがく)の主張を戦わすシーン。

 そこでも
「時給ゥ~安い~、仕事キッチリ!」




 でもここから雰囲気が一変。



 自衛隊、警察、消防、医療関係たちの
懸命な活躍が登場。

 「意識ィ高い~、仕事キッチリ!」



 そして・・・


 地の底から突き上げられるような
静かに、力強い曲が流れ、


 瓦礫の山を背に
崩れ落ちるように座り込む被災者。
 
 暗闇の中、一本のろうそくの光に見える
子供の顔。

 


 場面が更に一変し、
 瓦礫から救出される犬や猫たち。


 日常の避難所生活の中、
人々の笑顔が写される。


 そして最後に

『頑張ろう!日本!!』

のテロップが浮かぶ。







 この動画は大きな反響を呼んだ。


 TwitterやFacebook、Instagramなどで
世界中に拡散され、世界が動いた。


『災害に負けるな!!日本と連帯しよう!』

その潮流は国際政治をも動かす。


 平助たちは大地震対策がひと段落した後、
懸案だった対米交渉に臨む。


 世界の世論はそんな日本に味方する。






 そもそも多国間貿易協定を提唱したのは
アメリカ本人ではなかったのか?

 環太平洋貿易協定(TPP)は
アメリカ主導で進められたハズ。

 しかしトランプ大統領に時代、
自らの我儘で勝手に脱退したのもアメリカ。

 その後、空中分解し崩壊寸前に追い込まれた
TPP交渉会議。
 そんな危機的状況の中にあって日本が孤軍奮闘。
崩壊を回避しアメリカ抜きで
会議を最後までまとめた。

そうやって身勝手なアメリカの
尻拭い役を果たす。

 そう、アメリカ抜きで
残存交渉参加国をまとめたのは
日本である。

 しかも、いつでもアメリカが復帰できるよう、
常に配慮しているのも日本であった。

 本来ならアメリカが日本に頭を下げ、
「私たちが悪かった。
どうぞ私たちアメリカも仲間に入れてください』
とお願いするのが筋でしょ!

 今やあれから日本が主導し
努力して進化させた拡大TPPには、
中国やロシアまで参加を強く希望している。

 しかし中国もロシアも日本に倣(なら)い
ネット直接民主制を取り入れたとはいえ、
今までの国際社会に於ける
悪魔に等しい行状を考えたら
良識を持った民度の国民が造る政府とは考えにくい。

(ア!国名を言っちゃった!
もとい、彼の国です!
あくまで彼の国です!)


【参考資料】

OGPイメージ

【流出】中国が描く2050年後の世界地図

中国の外務省から流出したといわれる「2050年の国家戦略地図」が話題です。今回流出した地図が本物なのか?という事はわかりません。しかし、中国...

都市伝説まとめ大辞典

 



 当然日本の両国の国民に対する評価は低い。

 ランクから言えば危険度の高い
『要観察国』の最低ランクに属されている。


 そんなヤクザ国家を引き入れたら
せっかく苦労して作った
国際協調の強力な枠組みを
ズタズタにされてしまう。
 日本としては断固拒否するつもりです。

 アメリカはどうします?
そんな状況でもまだ我儘(わがまま)を通し、
理不尽な態度をとり続けますか?

 さぁ、どうします?


 交渉担当の井口外相が
いつになく強気でまくし立てた。

 日本には正論と世界の世論がついている。
 更に井口には官邸メンバーズがついている。

 負ける気がしなかった。


 返答に困るジョーカー大統領代理の
アメリカ通商代表部代表 ペリー交渉担当官。




 井口外相は表情を和らげ、こう言った。
「私たちの国、日本は知っての通り、
大きな災害に見舞われました。

 産業は大打撃を受け、
総生産の半分以上が消失しました。

 この状況から現状復帰するには
早くとも5年から10年はかかるでしょう。

 でも日本の国民は誰もくじけていません。
必ず復活します。

 あなたたちアメリカの皆さんも
自らの努力不足により招いた
経済不振という不遇な現状に甘えていないで
意地を持って奮起してください。

 そして、
自分たちが常に相手より優位に立とうとする


手段を択(えら)ばず
 「相手に勝つ」
 「有利に動く」
 「自分の欲望を満たす」

 そんな独りよがりの身勝手な発想から
脱却してください。


 私たちと共に、
幸せを掴む方法を探しましょう。

 

 この井口外相の発言は
どうした訳か、アメリカ側側近から
国家機密情報暴露組織にリークされ、
世界中に発信された。

 世界中で日頃から燻(くすぶ)っていた
アメリカへの不満が爆発、
それだけに限らず、
アメリカ国内からも

「日本や他の貿易相手国への
理不尽な要求に頼っても
根本的な構造的不均衡の解決にはならない。
高圧的な孤立から脱却し、
TPPに復帰すべき」

との世論が高まる。


 ここにきて勝負がついた。

 ジョーカー大統領が折れ、
大統領声明により
アメリカがTPPに再加盟するための
国内法整備に着手すると
約束されたのだった。

 それ程拡大・強化されたTPPは
重要な意味を持つ国際組織へと進化していた。


 凱旋する井口外相。

 日本の全国民から祝福を受け、
首相官邸メンバーズからはもちろん
モミクチャにされた。

 いつも昼食におにぎりを持参する
掃除担当、青木のおばちゃんは、
「 ┐(´д`)┌
ヤレヤレ良かった!
あたしゃ、毎日近所のお寺で
アンタのためにお百度参りしてたのよ。
 だからあんたの仕事が成功したのは
その効用もあったんだって忘れないでね。」
とクシャクシャにした笑顔で言った。



 その日の夜、
国中がまだ復興途中ではあったが、
官邸では内輪だけのささやか(?)な
祝勝会が開かれた。







    第17話 カエデとエリカ




 最近、官邸内の雰囲気は
とても明るくフレンドリーだ。

 最初緊張からギスギスしていた
官邸メンバーたちも、
お互い気心が知れ、仕事にも慣れ、
お互いを思いやる気風に溢れている。

 みんな生き生きしている。



 但し、例外もある。

 カエデとエリカの微妙な関係。


 あの温泉旅行以来、
エリカとカエデは競うように
平助にべったりだった。

 鼻の下が緩みっぱなしの平助。

 でも平助はそこにのみ
溺れているわけにもいかない。
角刈り兄弟や井口や板倉との
男の付き合いもある。


 男・平助。
仁王立ちになり、
皆を引っ張る気概に満ちていた。
(短足で角刈りだけど)

 そんな日常に埋もれ、
その上エリカの牽制に阻まれて、
ちっとも進展が見られない
カエデと平助の仲。



 次第にフラストレーションが溜まる。


 そんなある日、
カエデの誕生日がやってきた。

 歳はいくつ?

 平助の同級生だもの、
どちらかが落第していない以上、
同い年でしょ?
(落第疑惑に関しては、
平助はちょっと怪しいが)


 誕生日の一週間前、
平助の私邸(むつみ荘)一階の
『蓬莱軒』で
遅い夕食のチャーシューメンを一緒に食べながら
カエデに
「今度のカエデの誕生日は
確か1週間後だったな?
 どうだ、今度こそ誕生祝に
ホテルでディナーでも?」
と誘った。

 カエデは、
「えっ!今度こそホテルで?
まさかまだ私をホテルに誘う
いやらし~い野望を
持ち続けているんじゃないでしょうね?
 それにどうせ誘ってくれるなら
『安い』とか『格安』とかは嫌よ!」
「おいおい、僕を誰だと思っている?」
「へたれの平助。」
「誰が「へたれ」やねん?
よ~し、ここでしっかり宣言したる!
来週僕がカエデを
超~~、豪ォ~華なディナーに連れて行ったる!
どおだ!参ったか?」
「別に参ったりしてないし。
平助の『豪華』なんて信じてないし。
でも本当かどうか
確かめるチャンスをあげる。

 でもエリカには内緒よ。
また邪魔されたくないし。」

「分かった、
エリカには内緒な?」

 その後の1週間は
平助の顔に締まりが消えて
液状化したスライムのようだった。

 これは何か怪しい。

 勘の鋭いエリカは
何かを嗅ぎつけたかのようだった。


 
 

   つづく





ママチャリ総理大臣 ~時給1800円~ 第14話、第15話

2021-11-14 11:47:35 | 日記
 第14話 恋の行方と結束





 カエデと平助が顔を見合わせ
ヒソヒソ話をする。

 「ねぇ、ちょっと平助!!
どぉ云う事?」
 「知らねぇよ。
エリカに格安温泉旅館の予約を頼んだら
どういう訳かこうなったらしい・・・。」
 「格安?
あなた、私との初めてのドライブ旅行が
何で一泊なの?
しかも温泉じゃなくて
海にドライブって言ってたのに、
どうして団体旅行の送迎バスなの?
平助はしけたママチャリだけで
車なんて持っていないのは知ってるけど、
レンタカーでも借りて行くと思っていたのに・・・。
 しかも格安旅館?日帰りじゃなかったの?
下心見え見えだし、
私と初めて一緒に過ごす時間を
安く上げようだなんて・・・。
このスケベ!!
アンタって最低ね!」
「そんな風に言うなよ。
もしもの時のために
宿泊手段をリザーブしていただけじゃん。
大体ボクの『流星号』を「しけた」って言うな!」
「もしもの時って何よ?
どんな緊急事態が起きる訳?
あんたが何もしなければ
何もおきる訳ないでしょ?」
「それは・・・、ほら、そのぉ、あれだよ。
あれがおきたら・・・」
「あれって何よ?」

 そこにエリカがやってきて
話に割り込んできた。

「まあまあ、そこのおふたりさん、
そんなところでヒソヒソ揉めてないで
早くバスに乗りましょう。
 皆さんお待ちかねよ。」

バスの窓から掃除のおばちゃんたちが
笑顔で手招きする。
「平助さん、早くおいで!
おにぎり握ってきたから一緒に食べましょ!」
後ろの座席の窓から
「お新香とゆで卵もあるよ!」


いかにもバスの中は騒々しそうだ。

 平助はカエデの腕を掴み、
「しゃぁない、乗ろう。」
有無を言わさずカエデを引っ張るようにバスに乗る。

 昇降口から2段ほど階段を上り
運転席横からバスの後部を見渡すと、
よく見慣れた面々が既に着座している。
 最後部の座席には
田之上官房長官と角刈りの杉本が
もう缶ビール片手に鼻の頭を赤くしていた。
「こっち、こっち!」
杉本が立ち上がり、両手で招く。

 途中、空き座席には大きなクーラーボックスが
いくつか鎮座している。

 平助は田之上と杉本の間に座り、
カエデはひとつ前の席に着く。

 カエデは不機嫌そうな仏頂面で、
「何でこういう事になったの?」と
エリカを問いただす。
 「だって平助首相が
熱海の温泉で休養したいって言うから。
どうせなら今まで頑張ってきた仲間たちと
皆一緒の方が楽しいし、
親睦にもなるでしょ?」
「エリカ・・・!」
眉間にしわを寄せ、目を細め斜めから睨みつけ、
「ヤッパリ、エリカの企(たくら)みね。」
「ヤッパリって・・・。
企(たくら)みって・・・
人聞きの悪い!
企(くわだ)てって言って。」
「どっちも同じじゃない!
どうやらあなたは私のライバルのようね?」


 そこに平助が
「ライバル?何の事?」
「ううん、何でもない」
二人揃って返事をする。


 平助は首を傾(かし)げながら、
前に座る掃除のおばちゃん軍団から
おにぎりとお新香とゆで卵を貰いご機嫌になる。

 席に戻りおにぎりを頬張りながら
星のマークの500ml缶を
プシュ!!と開ける。

「プハ~!」

「ところであのたくさんのクーラーボックスは何?」
「あの中には宴会後の二次会用に
鯖江さんがスーパーの社員割で調達してきた
蟹やらホタテやらアワビ、
刺身が満載されているんです。」
板倉が説明する。

 やがてバスが動き出すと
エリカが運転席横まで移動し、
「皆様、
ようこそ首相官邸バス旅行にお越しくださり、
ありがとうございます。
 本バスは、ここ新宿を出発後、
一路、熱海温泉観光ホテル
「至極のいざない」まで
直行いたします。
 途中、一度だけドライブインにて
トイレタイムを設けますが、
お酒が過ぎますとトイレが近くなりますので
程々にしてくださいますよう、
お願いいたします。」

 「それはエライこっちゃ!」

糖尿の官邸管理人さんが言った。
糖尿病患者は糖を含んだ尿を体外に排出するため、
利尿剤を処方される人もいる。
 きっといつも柔和な顔をした管理人の新井さんは
トイレが近いのだろう。

 飲みかけのワンカップを
カップホールダーに名残惜しそうに収めた。

 それにしてもエリカって
銀座のホステスをやる前は
バスガイドだったのか?
そう思わせるほど、上手な案内だ。

 途中、エリカのバスガイド並みに上手な歌で
「東京のバスガール」を聴かされ、


『東京のバスガール』

東京のバスガール ☆ コロムビア・ローズ (映像:松原智恵子)

youtube#video

 




調子に乗ってそれまで不機嫌だったカエデまで
「すみだ川」を披露した。


 『すみだ川』

すみだ川/島倉千代子

島倉千代子 平成6年7月 「千代子の贈りもの」

東海林太郎、島倉千代子によるすみだ川.

島倉千代子歌手生活35周年記念限りなき歌...

youtube#video

 



 エッ?カエデって
こんなに艶っぽい歌い方が出来たっけ?
また少し惚れ直した平助。



それにしてもこの二人って歳はいくつやねん?
歌う歌が古すぎる!
恐るべし!
カエデとエリカ!!



「平ちゃん、口からよだれが出てるぞ!」
杉本が指摘し、
田之上が「カッ、カッ、カッ!!」と笑う。

「そこの角刈り三兄弟!
(平助も田之上も杉本も
フレディ・マーキュリーの身辺警護人に習って
角刈りを続けている。)
そこだけ盛り上がってんじゃないわよ!
私も交えなさい!」
井口おねェが嫉妬するように言い放つ。



 かくしてバスの中の宴会は終点まで続く。


 途中、平助は板倉に問う。
「この社員旅行(?)の費用はどうしたの?」
「官邸に勤務した月から徴収している『官邸互助会費』
500円を積み立て、
不足分は政策成功報酬特別手当から士気高揚交際費として
支出しています。
だからご心配なく。
 後で給料から差し引くなんていいませんから。」
「あ、そう。
あの鯖江女史が持ち込んだ蟹も、
その費用から出てるの?」
「そうです。
格安の割引価格だったので
その分節約できました。」

 それを聞いて平助は少し安心したのか、
今夜はとことん楽しもうと決心した。

 もちろんその夜は
乱れに乱れるほど、
盛り上がった宴会とカラオケ大会になった。

 
 次の日の朝、
二日酔いの平助、田之上、杉本の
角刈り三兄弟に加え、井口おねぇが一緒になり
朝の露天風呂に浸かる光景があった。
それは何故か顔を真っ赤にし、
一列に浸かる温泉サルたちのようにも見えた。

 ああ、朝日がきれい。

 この世に生まれてきて良かった。

 素直にそう思える平助達であった。






   第15話 南海トラフ大地震



 熱海温泉一泊社員旅行で
結束を強めた官邸御一行。


 段々政務でも連携が強化され
スピーディーに物事が運び始めた。

 それぞれの得意分野によって適材適所に配置され、
お互いの不得意なところをリカバリーしだす。


 そんな時、
突然アメリカのジョーカー大統領から
無理難題を言い渡された。

 アメリカ国内で
日米の貿易不均衡是正の世論が強まり
日米二国間協定での、
TPPを超える好条件の通商要求を
突き付けてきたのだ。

 要求が吞まれない時は、
日米安保の在日米軍への費用負担増か、
撤退を申し渡された。


 もちろん日本の国内世論は
反発を強め、強硬論が台頭した。

 今や日本は、以前のようにアメリカ一辺倒の
依存体質から抜け出し、
TPPを中心とした国際協調路線と
強力な国際物流交易ブロックの構築に
成功している。

 いつまでもアメリカの
理不尽な要求に答え続ける必要はない。

 それがネット世論の出した答えだった。

 しかしアメリカとの良好な同盟関係を
破壊するつもりもない。

 平助内閣は交渉の対応に苦慮した。

 回答期限は設けられていないが、
早急な対応を求められている。
 グズグズしてはいられない。


 幾度も閣僚会議が開かれ、
特に井口外相の語学力と外交手腕に
全責任が重くのしかかり、
その双肩に日本の将来が託された。


 井口の顔が引きつる。

「私にどうしろって云うの?」
「大丈夫!皆がついてるから。」
背後から掃除のおばちゃんが力強く言った。

 でもその『大丈夫』には
何の根拠もない。

 ただ、自分一人じゃないって
少しだけ力が湧いた井口であった。

 官邸が一丸になってくれた瞬間かもしれない。
 


そこにきて、
更なる不幸が日本列島を襲った。


 何と!このタイミングで
南海トラフ大地震が発生したのだ。



 この国に最大の危機が訪れた。







     つづく




ママチャリ総理大臣 ~時給1800円~ 第12話、第13話

2021-11-05 16:04:08 | 日記
第12話  Joker(ジョーカー)大統領


 彼の国のネット政変は
『第二天安門政変』と呼ばれるようになった。

 政権が倒れる時。
近平が言った。

『アイヤー!平助のせいで
ワイの政権が倒れてしまったアルヨ。
政権どころか、党も何もかも
失ったアル。
 平助は同じ『平』の字がつくのに
極悪非道の男アル。』

自分の非を棚に上げて
日本の庶民出身の平助を
詰(なじ)る近平であった。

 政変後の動乱と
その後のネット民による実質政権奪取は、
日本にとって
軍事脅威の回避を齎(もたら)した。

 尖閣諸島侵攻作戦は、
彼の国が推し進めた右肩上がりの軍拡の末、
実行された軍事行動であった。

 軍事力を行使した侵略は、
それを実行するためには
強力な権限を持つ政権である必要がある。

 しかしネット民によって
再構築された政権では、
侵略戦争という強力な
軍事行動を統率できない。

 その一方で着々と拡張された戦闘能力と
ハイスピードで成し遂げられた技術革新性は
無傷で残り健在である。

 また依然彼の国の一般人には
反日勢力が敗戦の腹いせから日増しに増殖し、
ネット庶民政権が落ち着き、
全権を掌握した後は
再び牙を剥きだしにする危険性は残る。

 しかし、日本同様、
彼の国もネット政変を成功させ、
全く同じ仕組みとは言えないまでも
直接民主制という同じ根幹の政治形態を
とり始めた国である。
今すぐ一部の極端な考えを持つ者が
実権を持つことはないだろう。

 そういった情勢分析と診断をした結果、
一応当面の間は彼の国からの
喫緊の危機は去っただろう。
そういう結論に達した。

しかし同時に
周辺国への影響も増す事となった。

 以上、日本国政府が導き出した見解である。

 
 そしてこの時、
彼の国の政変に一番過敏に反応したのが
ロシアであった。
 いずれも以前は共産主義を標榜した国であり、
世界各地の犯罪的非民主主義国家や勢力を
積極的に支援し、テロを支持した
悪の巣窟と呼ばれたヤクザ国家である。

 また、当然自国民に対しても
締め付けや非道な政策がまかり通っていた。

 単なる期成法に則した
ぬるま湯的弾圧に留まらず、
一部の権力者が処断した
暗殺・処刑が当然のように行われる国。

 そうした平然と行われた犯罪行為も、
ひとかけらの心を持った人間なら
うしろめたさも感じたろう。


 彼の国の独裁政権崩壊は、
次は我が身に降りかかるだろう
災難と感じていた。
要するに同じ穴のムジナの最後を
自分の身に当て嵌(あては)めたのだ。



 まずロシアの有力紙
イズベスチヤ(新聞の意)紙が、
続いてロシア及びウクライナ語で展開された
ノーボエ・ブレーミヤ(曖昧さ回避の意)
(NV:Novoe Vremya)グループの
新聞、雑誌、ニュースサイトが
大々的に特集を組み、取り上げられた。


 日を重ねるごとに国民の不満は増長され
政権非難はネットに限らず、
あらゆる手段で暴徒化し手が付けられなくなる。

 その結果、
永く続いたプー〇ン独裁政権は崩壊、
彼の国に続いて
ロシアにネット直接民主制を敷いた政権誕生。

国民は「ハラ―ショ!」
と云ったかどうかは知らないが
ロシア提灯をぶら下げ行列を作り行進した。
(どんな提灯?)

・・・・らしい。


その後半島の領有をめぐり争った
クリミア紛争以降、
ロシアと袂を分ったウクライナまで飛び火した。

 ウクライナには美人が多いそう。

その時平助は板倉に、
「今度の外遊はウクライナに行きたい!」
と云った。
しかし魂胆を見透かされた平助は
板倉に一言
「ダメ。」
と云われる。

 更に追い打ちをかけるように、エリカが
「今度、もっとカッコいい男が
総理大臣になった時に行ってもらいましょう。
平助じゃ、日本の恥になるから。」

「誰が日本の恥やねん!
日本のアランドロンと呼ばれた
この平助様に向かって
何と不敬な奴!!」

「今回の発言は
相談役のカエデ様にご報告申し上げます。
悪しからず。」
そう言われて脛に傷持つ平助は、
「へへ~!お代官様、お許しくださいまし。」
全面降伏した。


それはさておき、この一連の国際情勢を
目の当たりにした各国首脳や庶民たち、
 この勢いは全世界に及ぶようになるのか?
と誰もが思った。


それ程インパクトのある重大な政変であった。



 しかし、そうはならなかった。



 確かに直接民主制によって
それぞれの国に於いて、
その影響から数々の制度改善の動きがあった。
だが熟成された議会制民主主義諸国は
議会や国家体制への満足度は高く、
自国への政治の期待度が高いため、
多くの者たちが現状維持を望み、
議会による代議員制度の撤廃若しくは
縮小までの変化は望んでいなかった。

 特にアメリカ合衆国や西ヨーロッパ諸国は。

 ここにきて平助はことあるごとに
アメリカのJoker(ジョーカー)大統領と
オンライン接触を図り、
理不尽な不均衡や
不平等条約・制度の改善を訴えたが、
国益第一主義の合衆国大統領には通じなかった。

 その名の通り、
バットマンに登場する悪役そっくりな彼は、
いかにも冴えなく貧相な平助に対し、いつも
「ヘイ!平助!!ちゃんと喰ってるか?
アメリカ産牛肉をもっと買って
たくさん喰いなさい。」
と言ってくる。

 そして
「あぁ、平助の収入じゃ、
そう易々と買えないか?
可愛そうに・・・。」

 「低所得者で悪かったな!!」

ワザと『喋れるクン』を通さず
日本語で答えた。




 アメリカの民主主義は
建国時からの国是であり、
議会制民主主義と大統領制の牙城であった。

 更に圧倒的な経済力、軍事力を背景にした
白人にありがちな自分本位の覇権主義は、
極めて堅牢である。

 特に数年に渡るお祭り騒ぎのような大統領選は
アメリカの風物詩。
 見た目超ド派手なJokerは
大統領候補者としては一番目立ち、
最適任者だった。

 お祭り騒ぎで日常を忘れさせてくれる大統領選。

 アメリカ国民の誰もが
その習慣を手放そうとはしなかった。

 そしてそのアメリカ国民。

国民の大多数が頑(かたく)なに
銃の所持を希望し、
国民皆保険に反対し、
人種差別を止めようとしない。

それらは全て国民に与えられた権利であり、
自由の証であると思っているから。

そうした考えの彼らにとって、
Joker大統領に限らず、
覇権主義、アメリカ第一主義を
標榜するのは当たり前であった。

 当然先の大戦の
敗戦国に過ぎない日本に対しても
理不尽な要求をいくつも
平気で突き付けてきている。

 それでも平助と日本のネット民たちは
その巨大な力に屈しなかった。

 まず手始めに、
創設間もなかった当時のデジタル庁が
進めていた情報管理システム構築から
アメリカの巨大企業、
Googleや他のGAFA等を
締め出すことに成功している。

 私たち日本の国民は
国家を構成し根幹である
国民たちの個人情報一切合切
(いっさいがっさい)を
アメリカに売り渡す気などはない。

『アッカン・ベ~!』
 
自分たちの意思と総意で
決然とアメリカの情報支配を拒否したのだった。


 そんな強気に出ることができたのは、
環太平洋経済連携協定(TPP)に於いて
アメリカ脱退後日本が主導権を握り、
数々の困難を乗り切り、創設に成功。
更に連携を強化した次のステージに
移行させたことにより、
アジア太平洋地域のリーダーとしての地位を
強化できたからに他ならない。

 その後TPPには新たにインド、
EUを脱退したイギリスを新たに迎え入れ、
名実ともにEUを凌ぐ
一大国際経済連携網が完成している。

 更に2022年1月に発効した
RCEP(地域包括的経済連携)
(→日本及び、東南アジア諸国連合、オセアニア
中韓など15カ国で構成される連携協定)
から隣国と彼の国が尖閣紛争後、
その対立を契機に抜けた今、
環太平洋及び、
東南アジアの実質的単独盟主となった日本。

 盟主として相応しい国力を再生し、
参加国に後悔させないよう
様々な施策を講じなければならない。


 そうした事情からも
斜陽だった国内主要産業の
大幅な立て直しが図られた。

まず、ネット政変後、
国内の政策決定権を握る閣僚・官僚たちから、
国力衰退を招き、
国民所得減退を招いた張本人たち
売国的政策を推進した者を行政の場から追放し、
その元凶となった反日国家からの
留学・交流・技術移転を
禁止する政策へ転換。
国内からの構造的革新技術の流出を阻止した。

 また、日本の誇る先端技術保有企業の
部外への情報開示制約強化。
それ等と平行し、庶民への士気高揚策として
国民所得改善施策を発表。
非正規社員の正規化及び、
不必要と判定された
企業内留保の保持に対する規制措置。

具体的には
企業内留保資金を一定限度内レベルに抑え、
その結果生まれた余剰資金を
事業発展に貢献した従業員への
正当報酬の還元義務化と、
逆に事業が上手くいかなかったときの
経営リスクへの保証策として
無謀な投資に該当しない不採算による赤字への
国家補てんの保障。

 更に具体的に発表された施策。

『シェア40』


それぞれの分野で国際市場シェアを
40%に引き上げる目標を掲げ、
国家を挙げて達成に寄与する。

 例えば、
見る影もない程に落ちぶれた家電産業や
半導体産業を復活させるため、
日本の伝家の宝刀である技術集団、
町工場、中小企業を国家主導で参集させ
新たな企業体を結成。

 下請けが同時に元受けとなる
大企業組織化改革。

かつてのSONY、Panasonic、
東芝、シャープ、SANYOに代わる
花形電気加工企業創設に下町企業を活用、
再生・育成させた。
更に日本のお家芸だった
造船などの重工業復活も
素材見直しや
国内最先端技術を結集し、
安価での造船を可能に。
それに国の役割を新たに加え明瞭化。
加盟各国との物流手段に
新造船された輸送船を無償・有償貸出提案。
 例えば5隻購入契約を締結した場合、
そのうち1隻は無償、1隻は有償で貸し出すなど。

それら国際競争力を向上させる
様々な施策を講じ、
営業実績の積み上げと、
シェア向上を図った。

それに加え、厳しい国際競争に
なんとか踏み留まってきた
自動車産業を加え、
工業大国復活を成し得た日本。



日本は再び立ち上がった。


 太平洋戦争当時、アメリカの奸計から
ほぼ孤立無援の戦いを強いられた日本。
それ以降もアメリカには
数々の煮え湯を飲まされてきた。
 でも今は、その太平洋やアジアを舞台にした
連携協定の盟主になることで、
アメリカの不当な圧力を
跳ね返す事ができるまでになったのだ。
 
 アメリカの常套手段
CIAの圧力など、
様々な妨害工作を受けても尚、
日本の民意の力は決して屈しなかった。

 何故屈しない?


 それはお金(経済)だけに主眼を置かず、
そこに暮らす皆に合った様々な幸福を模索したから。

 
自分の国民だけでなく、
共感する全ての国の人たちが力を合わせ、
国を超えた幸福の実現を目指したからであった。


 平助が総理大臣を務めた日本は、
その時飛躍的な進化と成果を
あげる事ができた。






   第13話 社員旅行?





 そのご褒美に
平助は休暇を貰った。

 かねてからの約束

カエデを海に連れて行く。


 ある製茶メーカーが経営する
温泉ホテルグループ
(1泊ひとり8000円、
食べ放題、飲み放題付きプラン)
に予約を入れ、
新宿から無料送迎バスが出発する。

 平助はカエデと熱海で一泊し、
江の島海岸で楽しむ計画を立てた。

 カエデの水着姿を想像し
思わずひとり口からよだれを垂らす平助。

 しかし・・・。
ふたりだけの水入らずの旅行のつもりが、
蓋を開けると送迎用の大型バスは
乗合のはずが何故か貸し切り。

 バスの行き先表示には
『首相官邸御一行 様』となっている。


「え?」

 平助が約束のバス停に到着すると、
そこには教育係の板倉の他、
いつものメンバー、角刈りの杉本、
田之上官房長官、井口外相、
佐藤鯖江主計局長に
エリカが居る。

その上、官邸職員である嘱託管理人さん、
パートの掃除のおばちゃん、
その他閣僚・閣僚たち。

総勢60人の大所帯だった。

思わずカエデに聞く。

「聞いてるか?」
「聞いてないよぉ~」

ふたりは目を丸くした。

するとエリカが言う。

「おめでとうございます。
平助首相の業績がプラス100点に到達しました。
その目覚ましい業績を私から板倉さんに奏上、
政府の首相雑費から予算を割き
その実績を表彰し、
貢献した全てのスタップを労うため
ここに熱海一泊旅行を敢行いたします。
謹んでお受けください。」

「尚、宴会の後は、
参加メンバー全員で、平助首相の大好きな
夜どおしカラオケ大会も企画されています。

是非お楽しみください。」

満面の笑顔のエリカが言った。

 平助が描いていた
カエデとの二人だけの甘い夜は
その瞬間消え去った。




   つづく