無常
・・・・・・・・・
おお、めくるめくばかり華やかな世界よ、
なんとおまえは満ち足らせることか、
なんと満ち足らせ疲れさせることか、
なんとおまえは酔わせることか!
きょうはまだあつく燃えているものが、
まもなく消えてしまう。
・・・・・・・・・・
すべてのものは死ぬ、喜んで死ぬ。
永遠な母だけはとどまっている、
私たちの生まれて来た来た母だけは、
母の戯れる指が
はかない虚空に私たちの名を書く。
ヘッセ 「夜の慰め」より
陽だまりの残る山道を、愛犬を連れトボトボ歩く。
まだ風は冷たいのだが、春の匂いがした。
突然、脳裏にヘッセの詩と共に亡き伯父の句が浮かぶ。
「春風に わが名呼ばれし 惑いかな」
「はらからの小さき胸の片隅に せめてわが名を留めて欲しき」
武士の潔さを美学とした(かに見えた)伯父の最奥の心の表現である。
戦争・・裏切り・・赦し・・孤独・・
私など考え及びもつかない体験故の透過した眼が最晩年に
見たこと、聴こえ願ったことが熱く胸にせまる。
はたして血の繋がり以上にそれらを全て癒し流し得る、
永遠の母(比喩的)なる存在にも気付いていたのだろうか?
何時か聞きたいものである。
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