「鳥は卵から出ようとしてもがく。*卵は世界だ。生まれ出ようとする者は、一つの世界を破壊しなければならぬ....」
ぼくはこの数行を何度か読み返すと、深い瞑想に入った。
...そとへ出ると、家並みと町から走り去って山の方へ向かった。
ななめに吹きつける霧雨がぼくの顔にあたった。雲は重くおさえられて、低くおびえたように流れすぎていった。
...そのとき空をよこぎって、ふんわりとした黄色い雲が流れてきた。
それが灰色の雲の壁でせき止められると、風の流れでほんの数秒間のうちに、その黄色と青から一つの形が作りだされた。
それはものすごく大きな鳥の姿で、鳥は青い混沌からぐっと抜け出すと、大きく羽ばたきしながら、空高く消えていった。
「デーミアン」より
*卵の殻が暗示する様々な世界...
自分にとっての殻とはなんだろう?