硬く凍てついた胸は 野の花にも満たされず、
旅に出たものの雨季となり、行く先々での雨宿り。
中原中也を口ずさみながら、寝転がっていると、
久しぶりの陽射しに、憑かれたように海に出る。
暫く、船が残した白い波をぼんやり眺めていると、
艀に砕ける飛沫を顔に浴び、ゴトンと船着場に着いた。
初めて目にする、元”海軍特別攻撃隊基地”
汗をぬぐいながら、たった一人荒れた砂利道を抜け、
ひんやりとしたトンネルに入り、出口に差し掛かった時、
『お前は何をしているのだ!』
どこからとも無く、一喝する声。
不思議に思ったが、全く恐れは無かった。
それから岸壁で、かの”人間魚雷”を観た時、
見知らぬ若者の宿命に はらりと涙が頬を伝う。
『本当に自分は何をしているのか?』
遂に・・・自己憐憫やら悶々とした想いを波間に打ち捨て、
真っ青な海と、銀色の入道雲を背に 帰路に着いた。
あれから幻のように青い歳月は流れたが、
あの声は、今の俺に何と言うだろう。
「まだ夢を見ているのか!」だろうか
「夢に生きろ!」だろうか
*なげけるか いかれるか
はた もだせるか
きけ はてしなきわだつみのこえ
『日本戦没学生の手記』は
今でも愛読書である。
詩は10代で初めてこの本を読み、
衝撃を受け、旅をした頃のものである。
国のブレインとも成り得た者たちの、
その魂の叫びが胸に突き刺さった。
今でも彼らは敵を憎まず、真の地球人として
平和や愛の尊さを訴えている。