建長寺 訪れし聲 松の蝉 <殿>
京ことば ひらがな文字の 花便り <殿>
柿若葉 車窓いっぱい 透くみどり <殿>
五月雨や 烟<けぶ>る鎌倉 とどまれり <殿>
弄<もてあそ>び 縺れ散りゆく 藤の花 <殿>
にりん咲く ふたりしずかの 深山かな <殿>
化粧坂<けわいざか> 魔界へ通ず 木下闇<こしたやみ> <殿>
ゆらぐとき 藤のかんざし 花こぼれ <殿>
仁王像 太き指さす 糸櫻 <殿>
鷽鳥や 花の化粧<けわい>を 散らしゆく <殿>
山の辺の ここかしこなり 山桜 <殿>
花よりも 早く出会いし 土筆かな <殿>
桜花や 背びら一片<ひとひら> 峠越え <殿>
なか空に 春風<しゅんぷう>流れ 鳶過る <殿>
春時雨 遺影となりし 叔母の笑み <殿>
つちかぜに 花の便りも 色褪せて <殿>
春雨や 海は嫌いよ 少女言ふ <殿>
廃屋の 猫にひだまり 春うらら <殿>