『悪人』というショッキングなタイトルがついていますがそうではありません。
吉田修一は長崎出身の芥川賞受賞作家で、長崎や東京を舞台にした作品を数多く書いています。この作品は福岡、佐賀、長崎を背景にローカル性を生かした渾身作だと思いました。
関東を中心とした人間関係が九州ワールドで展開され、小説中で語られる会話はほとんど九州弁ー、それがとても胸に沁みます。
不慮の死を遂げた娘を持つ父親、佳男がきっかけを作った男鶴田に詰め寄り云うことばは圧巻でした。
「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は何でもできると思い込む。自分には失うものなかっち、それで自分が強うなった気になっとる。失うものもなければ、欲しいものもない。だけんやろ、自分を余裕の在る人間っち思い込んで、失ったら、欲しがったり一喜一憂する人間を馬鹿にした目で眺めとる。そうじゃなかとよ、本当はそうじゃ駄目とよ」
光代や自分を捨てた母親を被害者にさせることで彼女らを守った祐一・・・、どうして彼を悪人と云えましょう。
読み終えた今、むしろ三瀬峠は選ばれた場所として感慨深く映ります。
ラストの
「世間で言われとる通りなんですよね? あの人は悪人やったんですよね? その悪人を、私が勝手に好きになってしもうただけなんですよね? ねぇ? そうなんですよね?」
という光代の問いかけは、読者への問いかけでもありました。
このラストに関しては賛否両論あるようですが、私は素晴らしいラストであったと思います。
最近、同じ著者による『さよなら渓谷』という本を読みました。
“『悪人』を凌ぐ傑作”と帯で謳っていたのですが、なかなかの作品だとは思いましたが、やはり『悪人』の方が優れているように感じました。
悪い作品ではないので、機会がありましたらこちらも読んでみて下さい。
この作品のテーマもかなり重いです。
吉田修一は、これからもこういった作品を書いていくのでしょうか?
私としては、楽しみなのですが……
ラストの問いかけを私もかなり考えた結果、彼が悪人ではなく、むしろ鶴田ではなかろうかと・・・。祐一が善人とは思えませんが優柔不断な気の弱い男だっただけにちがいない。
『さよなら渓谷』というタイトルー、彼にしては珍しい題ですね?興味が俄然湧きます。
タクさんのブログでレビューを探したのですが見つかりませんでした。
書き足りないのですが、今日はこの辺で~。
明日ミラさんらと多良山系花巡りです。天候が心配