芝居が好き故 之をもって観ずるに
生涯皆芝居なり 舞台にて恩愛に迷い
忠孝により 義によりてさまざまの患難あり
と いへども 芝居はてれば 舞台の君臣も
君臣にあらず 親子も親子ならず
偏に生を換えたるに等し
芝居は虚にして実なり
人間一生は実にして虚なり
芝居素より虚ながら 虚を以てすれば
見物合点せず
実を以て真の泪を流して之を為せば
人感動す 夢中に真の汗を流すに同じ
20代30代でこれを言えば 何 馬鹿ほざいていると噴飯ものであるが
年齢と言うもんは不思議だ 86まで生きた人の言葉と思えば 沁み入る
世間様とのしがらみを終え 家族を終え
親子は若い頃の親子でないし 夫婦も若い頃の夫婦ではない
社会人を終え 父親の役目を終え 夫である事を終え 舞台から降りたのだ
300年も昔の人が言う事は 今も通用する
老いる事を学ぶ
役目を終え 本来の自分になる時期になったのだ
30代から50代 子育て 仕事 夫婦を無視し自分勝手に動けば
全ては壊れ 経済は立ち行かず 一家離散 夫婦離別 仕事難民となる
これは無責任の極みだ
結婚なぞするんじゃねぇ
と
簡単な結論になる
でも 社会人として 人として 家族を養うものとして 責任は果たした
老いる これは自分の生まれ変わり 新たなる道を歩く事なのだ
努力し 頑張って来た 自分のしたいように生活しても罰は当たるまい
年のせいか 人の考えは具体的にわからなくても 人の感情感覚をわかるようになった
美しいと思う事もあれば 面倒と思う事もある
もう役者としての役目は終わったんじゃないかな
もう 人々の喜怒哀楽すら 外の世界に見える
舞台の上の感動や嘆きすら 今の自分には遠い世界となった
旅立ちの時だな
何も日常は変わらないが 自分の心の中の風景が変わった
とても穏やかで 楽で 楽しい
自分を縛っていた役目に伴う沢山のルールから自由になれる
じじいに必要なのは最低限の健康と少しの金
10キロ歩いて疲れなければいい
8時間立ち仕事して何ともなければいい
朝ごはんが美味しく感じればいい
漬物豆腐味噌汁ご飯がおいしい
酒タバコがおいしい
絵を描き 字を書き 本を読み 散歩する
大地を友とする
花鳥風月を愛でてれば金はかからない
死ぬまで元気でいたい
これは 希望だ
さて どうなるか
駐車場で車を降りて澄んだ青空に浮かぶ月を 5分ながめた
句が浮かばなかった
だめだ こりゃ
精進しよう