日本のジャーナリスト。日本経済新聞社でソウル特派員・香港特派員・経済解説部長・編集委員を務めた。
かつて韓国の嘘を暴いたバイデン「恐中病と不実」を思い出すか
11/3(火) 17:01配信記事
11月3日投票の米大統領選挙は開票の遅れから直ちには決着がつかない見通しだ。
D・トランプ大統領の再選を脅かすJ・バイデン氏は、意外にも韓国との深い因縁がある。
🔶韓国観察者の鈴置高史氏が解説する。
鈴置:バイデン氏は「本当のこと」を語ったため、韓国人から憎まれたことがあります。2013年12月6日、オバマ政権の副大統領として訪韓し、朴槿恵大統領と会談した際「米国の反対側(中国側)に賭けるな」と申し渡しました。これが反発を呼んだのです。
「米国の反対側に賭けるのはいい賭けではなかった」と2度も繰り返したうえ、「米国は今後もずうっと韓国に賭ける」と言ったのです。 当時、朴槿恵政権は露骨な米中二股外交に乗り出していた。そこでバイデン副大統領は「中国側に行っても良いことはないぞ」と警告したのです。
韓国外交部は記者に「通訳のミス」と説明、取りつくろうとしました。しかし、ホワイトハウスが発表した原文を見れば、ちゃんとそう言っています。誤魔化しようがありませんでした。
🔶バイデンはコメディアン
そこで韓国各紙は、この発言は米政府の本意ではないと強調するために「バイデンは失言で有名」などと人格攻撃に出ました。
中央日報の外交記者、裵明福論説委員は「賭けを要求する前に」(2013年12月10日、韓国語版)で「コメディアンのように、笑いを取るのに汲々とする男」と決め付けました。
――なぜ、韓国人は困惑したのでしょうか?
鈴置:図星を指されたからです。2013年当時、米国は日米韓の三か国安保協力体制を構築しようとした。しかし、韓国は中国に睨まれるのを恐れて、逃げ回っていたのです。
その際「歴史を反省しない安倍とは組めない」と日本のせいにしていた。そこでバイデン副大統領が「賭け」発言を通じ「日本のせいにするな。本当は中国が怖いのだろう」と、公開の場で「韓国の嘘」を暴いて見せたわけです。「米国は韓国に賭ける」とも言ったのは「中国からイジメられたら守ってやる」との保証です。
――なぜ、本当のことを指摘されて怒ったのでしょうか?
鈴置:韓国は屁理屈の国です。他の国では相手にされない、事実に基づかない主張でも大声で言えば通ってしまう。そんなお国柄ですから、外国人から「嘘だろ。言い訳するな」と指摘されると狼狽し、逆上するのです。
🔶「安倍が悪い」と責任転嫁
――わざわざ「嘘だろ」と迫る必要がバイデン氏にはあったのでしょうか?
鈴置:屁理屈をこね、逃げ回る韓国政府に対し、米政府はいら立っていました。ことにバイデン訪韓の2か月前、米国の国防長官がソウルで「ガキの使い」扱いされたのです。
2013年9月30日、C・ヘーゲル国防長官が朴槿恵大統領を表敬訪問した際、その事件は起きました。
ヘーゲル長官が「三か国安保協力体制のためには歴史問題を含む現実問題が適切に管理される必要がある」と述べると、大統領は以下のように答えました。 左派系紙、キョンヒャンの「朴大統領『退行的な日本の指導部のために信頼を作れない』」(9月30日、韓国語)から発言を拾います。
・(歴史・領土の葛藤で)ますます退行的な発言をする日本指導部のために信頼を作れない。
・今も痛みを抱えている国民が、傷を受ける国民がいる。国民が共に解決する問題であって、首脳2人が座って解決できない問題だ。 ・例えば、慰安婦のおばあさんの問題は今も進行中の歴史だ。この人たちは花のような青春をすべて失い、これまでも深い傷を負って生きてきた。それなのに日本は謝罪をするどころか侮辱している。
・そのおばあさんだけでなく国民も共に憤怒しており、このままではいけないと見る状況だ。
・そんな中で韓日の指導部が話し合ったとして、問題が解決するのか。日本が誠意ある態度を見せ、両国首脳も話し合って共に進まねばならぬのに、それは無視して誠意を見せもせず、傷口に塩を塗り込みながら対話をすればよいというのか。こういう困った状況だ。
🔶「勝手に公開」に怒った米国
――話がすり替わっていますね。
鈴置:まさに「すり替え」です。三か国安保協力体制を強化する、といっても日韓が軍事同盟を結ぶわけではない。
🔶GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の締結
――軍事情報の交換程度の話です。
鈴置:首脳会談を開かないと結べない協定ではありません。実際、日韓が2016年11月23日に結んだ際には、駐韓日本大使と韓国の国防相が署名しただけです。 というのに、朴槿恵大統領は「慰安婦で日本が誠意を見せない」の一点張りで逃げたのです。そのうえ大統領の発言を米国の了解もないまま、公表した。これが米国の怒りに油を注ぎました。 さすがに韓国でも問題視する声が上がりました。
🔶キョンヒャンの「青瓦台の『朴槿恵プレーアップ』
外交的な欠礼」(10月1日、韓国語)が強く批判しました。ポイントが以下です。
・青瓦台(韓国大統領府)は10月30日夜の会談の要旨を報道資料の形で公開し、朴大統領が日本に対し強硬な態度をとった発言だけを集中的に紹介した。
・問題は、このような内容をメディアに公開する前に、米国側と協議していないことだ。青瓦台関係者は事前協議したのかとの質問に「そのようなことはなく(内容が)とてもよいと考え公開した」と語った。
・外交慣例上、どこまで公開するかは双方で定める。米国防総省の報道資料には「ヘーゲル長官が北朝鮮の脅威に対応するため、韓米日の協力を強固にすべきと強調した」とあるだけだ。
・韓日の葛藤によって三か国安保協力体制がきちんと進まない状況を米国は深刻に受け止めており、この葛藤が表面化したことを極度に憂慮している。
・朴大統領の強硬発言が青瓦台の発表により、米日のメディアに大々的に報じられたことに米国は相当な不快感を持ったという。
🔶「中国へのゴマすり」が始動
――なぜ、青瓦台は公開したのでしょうか?
鈴置:見出しなどから判断するに、キョンヒャンは「国民の人気取りのため」との前提で書いています。しかし、「中国へのゴマすり」部分も大きかったと思います。
三か国安保協力体制の強化こそはもっとも中国が嫌がる動きです。朴槿恵政権は中国に対し「米国防長官にもけんもほろろに断りましたからね」と示したかったのは間違いありません。
――要は、ヘーゲル訪韓時に米国を怒らせていたのがポイントですね。
鈴置:そこで2か月後のバイデン訪韓の際、米国は「日本のせいで三か国安保協力体制を組めない」という「韓国の嘘」を暴いた。 「やりかえした感」もありました。韓国がやったように自分の側の発言を公開する手法を使って「本当は恐中病からだろ?」と指摘したのですから。
🔶図星に逆上して居直り
――図星を指された韓国メディアはどう反論したのですか?
鈴置:「米中二股のどこが悪いのか」と居直ったのです。先に紹介した、中央日報の裵明福・論説委員は「賭けを要求する前に」で以下のように書きました。韓国政府が言いたくても言えないことを代弁した感もあります。
・バイデン米副大統領の「賭け発言」は韓国外交史の1ページを飾る可能性が大きい。
・朴槿恵政権は均衡外交に出て、米中の間で危うい綱渡りをしている。米国は米国と日本の側につくことを望んでいる。中国は自分の側に引き寄せようと力を尽くす。しかし、韓国はどちら側にも全部を賭けるわけにはいかない。分けて賭けるしかないのだ。
・バイデン氏はアジア太平洋での再均衡への強力な意思を明らかにした。それなら静かに行動で見せてくれればよい。すぐにできることをしないで、できない選択を韓国に強要するのは賢明ではない。 裵明福・論説委員は「バイデン発言が韓国外交史の1ページを飾る」と評しました。が、「米中二股外交」を認めて居直った、この記事こそが画期的でした。それまで韓国人に米中二股を指摘すると、否定したうえ「韓米の離間を図る日本の陰謀だ」と怒りだしたものです。
🔶日本よりも重要な同盟国に
――当時から、世の中を見誤っていたのですね、韓国人は。
鈴置:李明博(イ・ミョンバク)政権(2008年2月―2013年2月)の半ばあたりから韓国人は「米中二股をやっても米国から怒られない」と信じ込んでいました。
経済力の伸長とともに国際的な地位が急上昇したため、1999年にはG20(20か国・地域)に開設メンバーとして参加。2010年には、日本よりも先に首脳会議を主催しました。
2009年9月、日本で民主党政権が発足し、米国との関係を決定的に悪化させたことも誤解を加速しました。韓国人は「米国にとって我が国がアジアでのもっとも重要な同盟国になった」と考えたのです。 バイデン発言に韓国人が怒ったのは、それが「我が国は日本よりも大事な同盟国」という幻想を打ち砕いたからでもあります。もし、米国が韓国の方が大事にするのなら「慰安婦の言い訳」を聞いてくれたはずだからです。
2016年11月23日に締結された日韓GSOMIA。退陣運動が燃え盛ったことが朴槿恵大統領の背中を押しました。ただそれまで、バイデン発言が韓国の言い逃れの道を絶っていたのも確かです。
🔶離婚を誘発した調停委員
――業績に乏しい、と批判されるバイデン氏。「日韓がらみ」ではそれなりに仕事をしていたのですね。
鈴置:2015年12月25日の日韓慰安婦合意の「保証人」も務めました。米外交誌『Atlantic』のインタビュー「The Geopolitical Therapist」(2016年8月26日)記事で以下のように語っています。 ・Or, you know, [Korean President] Park [Geun-hye] and [Japanese Prime Minister Shinzo] Abe. I go to see Abe and he says to me, “Will you help me with Park?” And I call her and say, “Will you do this?” And I don’t negotiate the agreement, but the end result was, because I had a personal relationship with both of them and they trusted me, I could be an interlocutor, that was more like a divorce counselor, putting a marriage back together.
「安倍に会ったら『朴との関係を助けて欲しい』と言われた」
「そこで朴に『こうするつもりはないか』と電話した」
「自分は結婚生活を元に戻す調停委員の役割を果たした」
――というわけです。 もっとも慰安婦合意は韓国によっていとも簡単に破られました。これもあって日韓関係は極度に悪化し、日本人は「韓国は約束をかわせない国」と確信しました。
バイデン氏は「結婚生活を基に戻す調停委員」ではなく、「離婚を誘発した調停委員」になったわけです。
🔶勇気百倍、新たな屁理屈を発動
――バイデン大統領が誕生すれば、韓国にとって悪材料ですね。
鈴置:確かにバイデン氏は「平然と約束を破り、堂々と嘘を言う韓国」を身をもって知りました。でも、そんなことを気にする韓国人ではありません。また、新たな屁理屈を考え出すと思います。
そもそも、バイデン氏は物忘れが激しくなっています。選挙演説でも自分が副大統領として仕えたオバマ大統領の名前を思い出せませんでした。トランプ氏を「ジョージ」と呼びました。G・ブッシュ元大統領と勘違いしたようです。
韓国には朗報も飛び込んできました。選挙戦の終盤にバイデン氏が聯合ニュースに「【全文】『韓国は強力な同盟』…バイデン米大統領候補、聯合ニュースに寄稿」(10月30日、韓国語)を寄せました。韓国系米国人の支持を得るためです。
見出しから分かるように、韓国を「強力な同盟国」と呼んでくれた。そのうえ「在韓米軍撤収カードを使って脅したりしない」とまで約束してくれたのです。離米従中に動く韓国を切り捨てかねないトランプ大統領と比べ、何とやさしいことか。 勇気百倍した韓国人が、またせっせと「慰安婦」や「徴用工」を米国で訴える姿を見ることになるのかもしれません。
政府系紙、ハンギョレは「日本よりも先に米大統領当選者と接触しようと韓国政府が躍起だ」と報じています。「菅首相より先に当選者にコンタクトを…米大統領選に奔走する韓国外交部」(11月3日、日本語版)で読めます。
鈴置高史(すずおき・たかぶみ) 韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95~96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。
週刊新潮WEB取材班編集 2020年11月3日 掲載
アメリカ大統領選挙が混沌としていますがバイデン候補も韓国の本質を知っていて、認知症が進んでいなければ悪い面ばかりではないかもしれません。