― 遺 書 ー
弁護士 久島和夫 著
財団法人 大蔵財務協会他 発行
遺言を残して死んだ人が何割くらいいるのか聞いたことがない。
しかし、争族という言葉はよく聞く。遺産の取り合いである。人が死ぬと親戚が増えるという話も聞く。
そこで、やはり遺言を書いておこうかということになる。まずは紙と鉛筆を持ち出して誰に、何をやるかメモをしてみようと思う。ところが、この誰に、というところで鉛筆がハタと止まることがある。
止まる原因はいろいろだ。たとえば、そもそも俺が、私が、長年身を粉にして稼いだ金をどうしてあんな奴に遺してやらなくてはならないんだ? 死ぬまでに全部使ってしまおう、ー 言葉に品がなくて恐縮 ー などという考えが湧いてくるかもしれない。 そういう考えの人もいるという話を聞いたことがある。
「働かざる者、食うべからず」、「神は自ら助くる者を助く」。昔から言われてきた戒めを徹底すれば全部使ってしまえという考えにも一理ある。この場合は遺産がなくなるのだから、遺書を書く必要もない。
しかし、そこまでするのは・・・と仏心が出てくる時がある。その時は遺す理由をじっくり考えてみればいい。ある方は、
① 遺産は家族の協力によってできたものだから。
② 残された家族の生活保障があるから。
③ 亡くなった人に借金があるときは貸してくれた人に返さなければいけないから。
という3つの理由をあげておられる。(要旨「相続法新版」中川善之助 泉 久雄 8頁~)
家族に遺したくない場合は赤の他人にくれてやる方法もある。ただし、貰う側にもこれを受ける、受けないの自由があるから、予め先方に確かめておくのが無難である。(民法986条)
また、配偶者や子、親には遺留分といって、取り分を保護する決まりがある。(民法1042条)この点も要チェックである。
遺言がなければ、相続人みんなで話し合って解決することになる。話し合いがつかなければ ① 家庭裁判所に持ち込むか(家事事件手続法244条) ② 放っておく。
①では遺産の行く先が裁判所に決められてしまう。
②の放っている間に自分がボケてしまったら遺書どころの騒ぎではなくなる。(民法963条)
( 次回は ー 遺 書 ー )