先日のブログで、好きな聖地として「撮影地の必然性」が感じられる聖地。さらに物語の舞台としてその土地が選ばれ、さらには「その土地のこと」が語られている作品が好きと書きました。
そういう意味では、芦別市のカナディアンワールドを舞台とした『チロルの挽歌』と劇場版『GTO』も好きな聖地・作品です。
チロルの挽歌
高倉健さん主演で1992年4月11日・18日にNHKで放映されたドラマ。ほぼ全編が芦別市で撮影されています。
芦別市で撮影されましたが、架空の町・納布加野敷(ぬぷかのしけ)市を舞台とした本作。
関東電鉄(架空の会社)が資本参加するテーマパーク・チロリアンワールドの責任者となるため、技術者だった立石(高倉健)が納布加野敷市へ赴任するところからスタート。
資本関係があるとはいえ鉄道会社の社員がテーマパークの責任者になるという、一見するとおかしな設定に見えますが。
さすがに鉄道会社そのものの勤務ではありませんが、カナディアンワールドも東急グループの東急エージェンシーから社長を迎えています。
それだけでなく、炭鉱町にテーマパークを建設というアイデア、建設計画を立案するもオープンまでに難航など……架空のテーマパーク・チロリアンワールドの話なのですが、まるでカナディアンワールド建設を彷彿させるかのような設定となっています。
1992年の放映された本作では、常に旧来のものと新しいものが対立、または並置されています。 それは夫婦関係から、企業と自治体という組織を巻き込んで、最終的には石炭産業とレジャー産業という、人の営みや町のあり方にまで拡大していきます。
中でも印象的なシーンが、チロリアンワールドの関係者(新しい産業・価値観の担い手)の目の前を、炭鉱マン(古い産業・価値観の担い手)が行進する、という幻影を見るシーン。 幻影に向かって市長は「どうしたらいいんだ! 私に何ができるんだっていうんだ!」と叫びます。
市長は、古い産業から新しい産業へ推進する中心人物です。 観光産業が町の産業を取り戻せるとは思っていないけど、現状の閉塞的危機を打開するにはこれしかない、という諦観のような気持ちだったのではないでしょうか。
炭鉱マンの行進の幻影に現市長は苦しい胸の内を吐露
本作では、テーマパーク・チロリアンワールドの開園でハッピーエンドとなります。
本作放送の2年前、1990年にカナディアンワールドはオープン。バブル景気とは言われていましたが、すでに株価は暴落の最中。
おそらく、バブル崩壊の予感を感じながらも、1991年中に本作の撮影が行われていたのかも知れません。
そして本作放送の1992年には、一般的にはバブル景気が終わったとされています。同年9月には芦別市内のすべての炭鉱が閉山しました。
古い価値観=石炭産業が立ちゆかなかった故に、新しい価値観=観光産業への転換を図ろうとする。
そして、新しい価値観=観光産業の門出として、チロリアンワールドの開園はハッピーエンドとして描かれていたのですが。
本作の放送と前後するタイミングでバブル景気が終焉。
後の世から見ると、本作のラストは「テーマパーク開園によって希望が持てる、あり得たかも知れない架空の未来」、さらに意地悪な見方をすると「テーマパーク開園によって、むしろ多額の負債を抱えてしまう」という皮肉な結末となってしまいました。
教会の建設作業員として阿部寛も参加
作中では「チロリアンワールド」として登場する模型
ドラマで使われたジオラマが園内に展示されていました
ケンジントン駅でのオープニングセレモニー
クロックタワーセントジョンも花に囲まれている
『チロルの挽歌』はハッピーエンドで幕を下ろすが…
園内の某所にあった納布加野敷の名残
GTO
1999年12月に全国公開された劇場版『GTO』。『チロルの挽歌』の放送から7年後なります。
私はテレビドラマ版の『GTO』を見ていないのですが、この劇場版は主人公のGTO=反町隆史が共通というだけで、ほぼテレビドラマ版とは関連性がありません。
GTOこと鬼塚英吉が、北海道幌美内町の北文館学苑に臨時教員として赴任するところから物語はスタート。
GTOは赴任直後、校舎の屋上から自殺を図ろうとした桂木綾乃(田中麗奈)を救出。彼女は北文館学苑の理事長にして、町の名士であり、町のレジャー施設「カナダ村」のオーナーでもある桂木圭介(夏八木勲)の娘でした。
そして、名士が所有するカナダ村はかつての繁栄は見る影も無く、今後は産業廃棄物処理場へ転換される予定とのこと。
相変わらずGTOは学校内ですったもんだする、というお話です。
架空の町・幌美内町が舞台ですが、レジャー施設カナダ村はカナディアンワールドがモデルとなっています。
『チロルの挽歌』では新たな産業の希望として描かれていたのに、わずか7年後に公開された本作では産業廃棄物処理場への転換が検討されるという凋落ぶり。
芦別市とカナディアンワールドの関係を整理すると――
『チロルの挽歌』が放映された1992年9月、芦別市内のすべての炭鉱が閉山しました。
1995年4月、東田市長はカナディアンワールド問題の責任を取って、5選目の出馬を断念します。新市長には林政志氏が当選。
1997年11月、カナディアンワールドが休園。
1999年7月、市営公園カナディアンワールド公園として開園。入園料が無料に。
そして『GTO』は、1999年6月26日に帯広市でクランクイン。約2ヶ月間、北海道内で撮影していました。本作はカナディアンワールドが市営公園化した前後のタイミングで撮影されていたのです。
1999年当時、カナディアンワールドは市営公園として再スタートしていました。
作中のカナダ村は寂れて、産業廃棄物処理場への転用が検討されていますが、これはさすがにフィクションです。
本作のロケ地なども紹介されていてファンにはたまらない一冊
本作の幌美内町は、芦別市がロケ地の中心ですが。『映画『GTO』 Official Book』によると、清水町、帯広市、上士幌町、陸別町と、かなり広範囲でロケされていたことがわかります。
鉄道が走るシーンも、芦別駅がある根室本線ではなく、当時のふるさと銀河線でした。
カナダ村仕様のケンジントン駅でオープニングセレモニー
カナダ村のクロックタワーセントジョンは気球と風船のみ
撮影当時は園内の列車が屋外にありました
カナダ村でGTOが大暴れ
北文館学苑の旧校舎として、頼城小学校の校舎が使われています。
画面左にある時計塔は本作のために作られたセットです。
テーマパークから見える時代性
『チロルの挽歌』と『GTO』、まったく無関係な両作ですが。
『チロルの挽歌』のラストは、テーマパークのオープンを祝うシーン。
『チロルの挽歌』でのオープニングセレモニーのクロックタワー
『GTO』のオープニングは、かつて盛況だったテーマパークを回顧し、今は閉鎖されたテーマパークとなっています。
『GTO』でのオープニングセレモニーのクロックタワー(作中の10年前)
『GTO』での現在のクロックタワー
テーマパーク(=カナディアンワールド)が、かたや将来の希望へ、かたや産業廃棄物処理場へと、まったく異なる描かれ方をしています。
1990年代、バブル景気が日本にどのような影響を与えたのか、テーマパーク=カナディアンワールドの在り方で描かれているところが興味深いです。
その後のカナディアンワールド
現在、カナディアンワールドは芦別市の管理から、カナディアンワールド振興会の手によって運営されています。名前も「カナディアンワールド」に戻りました。
冬期間は営業していませんが、夏の間は運営されています。
しかも、ただ運営を引き継ぐだけでなく、建物の修繕やサービスの拡充もはかられています。
いつの日か、カナディアンワールドも聖地巡礼のスタンプラリーに加えてもらえると良いですね。
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