兵藤庄左衛門、批評

芸術、芸能批評

兵藤庄左衛門の法則,歩道は無法地帯

2023-03-12 17:34:10 | 舞台芸能批評
兵藤庄左衛門の法則
・兵藤庄左衛門の法則
 くだらぬついでに、もっとくだらぬことをことを書こう。私の独断と偏見で思いついた法則または定理を書く。
・歩道は無法地帯
 歩道は無法地帯で、誰も交通安全に注意して周囲に配慮なんてしていない。前すらろくすっぽ見ていない。歩行者のみならず自転車で走行する人すら、隣の人とのおしゃべりに夢中で前も後ろも何にも見ていない。それどころか携帯電話に夢中な人も多い。自転車では法的に禁止されたが相変わらず平気で使っていて、周囲にとっては迷惑せんばんである。そこで歩道を通行するときは、歩道の右端か左端を通行しどちらか一方をあけて相手を通りやすくしたほうが無難である。真ん中をぶらぶら薄らぼんやり通行している人が多いが、その中には、どこの誰とも知らない人や自転車とすれ違いざまに痛い目にあった人はいるのではなかろうか。しかも相手は謝るどころかにらみつけて行ってしまうのではなかろうか。周囲の交通安全に気をつけないのも問題だが、その中を強引にぶつかってでも通ろうというのはもっと問題だ。だが歩道ではただどちらも交通安全を気にせず漫然と通行しているからだ。歩道には交通安全という言葉はない。そしてただ漫然と平気で蛇行している人は、これまたリスク判断の低い人で社会的責任や人への気遣いも低い人かもしれない。こういう人とトラブルに巻き込まれても責任を果たしてくれないかも知れない。その好例が中高生の無謀な自転車通行であろう。安全意識が低すぎるのだ。ただし被害に遭い弁償が絡むなら、子供相手でも、保護者に対し責任を追及すればよい。高校生ならば道路交通安全法が適用できるので、警察沙汰にしてもよい。
 歩道とは限らないが公道上では、くわえタバコで平気で歩いている人がいる。そういう人に限って、道の真ん中寄りの手のほうにタバコを持っているのだ。だから通行する人は、その火の付いたタバコ側のほうをすりぬけねばならない。せめてタバコを持つ手のほうを人とすれ違わないほうにしてもらいたいが、そんなことに配慮できる人なら、道路上でタバコを吸わないだろう。つまり、何の配慮もなく平気で道路上でタバコを吸っていて、そのたばこを人とすれ違うようにしていられる人は、もともと配慮の低い人で、リスク判断も低く、社会的責任も低いとみなしたほうがよい。下手するとチンピラやヤクザ、あるいは性格的に問題のある人かもしれない。こういう人にタバコの火を押し付けられ被害が生じてもろくな謝罪も弁償も責任もとらないことが想像されやすい。こんな人とのトラブルは極力避けたいものだ。これもリスク判断だ。ただ被害が生じたら警察沙汰にしてでも、徹底的に責任を追及すべきだ。
・兵藤庄左衛門のスポーツの法則①
 オールマイティな選手がいるということは、そのスポーツ分野はマイナーという証拠である。
 理由はメジャーな一流プロ選手またはアマチュアであってもトップレベルになるとオールマイティとはいかなくなる。しかしマイナーな分野だとまだある。例えば高校野球の地方レベルではエースピッチャーで4番ですべての守備ができ主将というのはまだあろう。他にもマイナースポーツでは何でもできることがセールスポイントになっている選手というのはある。一昔前の自転車ロードレースのオールラウンダーや、これまた一昔前のトライアスロンのオールラウンダーなんてのがあったが、今はとても出てこられそうにない。
・兵藤庄左衛門の性格と食の法則② 
 偏食のある人は、性格も硬いし融通が利かなく考えが凝り固まりやすく狭い。柔軟に対応できない。また身体も硬い。入社試験や人事のとき少し気にするとよい。
絶対的ではないが、周囲の人たちを観察し、偏食のある・なしと、性格の硬さを気にしてみてください。案外相関性があることに気付くはずです。性格の硬い人には偏食が強いことが、よく見受けられます。
・兵藤庄左衛門の性格と身体の法則③
 身体の硬い人は、考えも硬く料簡も狭い。柔軟に対応できない。
じゃあ体操の選手は皆考えが広く柔軟なのかと言われると困るが、あなたも、一般的に周囲の人たちを観察してみて、身体の硬い人と柔らかい人を区別してみてください。絶対的ではありませんが、一般的社会人で身体が柔らかい人は、環境に柔軟に対応しがちで、凝り固まる人に限って身体も硬いことが多いのは観察できるはずです。
そして身体の柔らかい人は実年齢より若く見えがちで、硬い人は老けて見えやすい。若く見られたかったら、化粧法以前に身体を柔軟にさせるとよい。また肩こり・腰痛・疲労予防にもなる。
・兵藤庄左衛門の怪我や病気、事故をしやすい人の法則④
 どうも骨折や大怪我、病気、事故等を繰り返ししやすい人はいる。例えば病院に不治の病でもなく、同情すべき理由もないのに繰り返し入院したり通院したりする人がいる。どうも本人が不注意というか無反省無自覚というか。同じ過ちを繰り返ししているのだ。注意深い人なら入院一歩手前で踏みとどまれるのだろうが、安易に入院にまで事態を悪化させてしまうのだ。
 骨折や交通事故等を3回以上経験している人は、思慮深さ、安全意識といったものが欠如している証拠だ。あなたの生活行動や考え方の何かを反省し対策を立てないといけないが、そういった人に限って無反省無自覚で周囲の何かに責任を擦り付け、自分は善意の被害者だ位に考えているに違いない。骨折や事故等3回以上、それは私であった。わはははは、ははははは、ひえー、反省します、といって何をどう反省するのじゃ? だから同じ過ちを繰り返すんじゃ、要するに、馬鹿は死ななきゃ直らない、チャンチャンでした。
 以前知り合いが、病院の外科や内科にやたら繰り返し入院する患者の中に、変な人たちがいるといっていたことがヒントになった。




兵藤庄左衛門の法則

2023-03-12 17:32:21 | 舞台芸能批評
・兵藤庄左衛門の法則
 くだらぬついでに、もっとくだらぬことを書こう。私の独断と偏見で思いついた法則または定理を書く。
・兵藤庄左衛門のスポーツの法則①
 オールマイティな選手がいるということは、そのスポーツ分野はマイナーという証拠である。
 理由はメジャーな一流プロ選手またはアマチュアであってもトップレベルになるとオールマイティとはいかなくなる。しかしマイナーな分野だとまだある。例えば高校野球の地方レベルではエースピッチャーで4番ですべての守備ができ主将というのはまだあろう。他にもマイナースポーツでは何でもできることがセールスポイントになっている選手というのはある。一昔前の自転車ロードレースのオールラウンダーや、これまた一昔前のトライアスロンのオールラウンダーなんてのがあったが、今はとても出てこられそうにない。
・兵藤庄左衛門の性格と食の法則②
 偏食のある人は、性格も硬いし融通が利かなく考えが凝り固まりやすく狭い。柔軟に対応できない。また身体も硬い。入社試験や人事のとき少し気にするとよい。
絶対的ではないが、周囲の人たちを観察し、偏食のある・なしと、性格の硬さを気にしてみてください。案外相関性があることに気付くはずです。性格の硬い人には偏食が強いことが、よく見受けられます。
・兵藤庄左衛門の性格と身体の法則③
 身体の硬い人は、考えも硬く料簡も狭い。柔軟に対応できない。
じゃあ体操の選手は皆考えが広く柔軟なのかと言われると困るが、あなたも、一般的に周囲の人たちを観察してみて、身体の硬い人と柔らかい人を区別してみてください。絶対的ではありませんが、一般的社会人で身体が柔らかい人は、環境に柔軟に対応しがちで、凝り固まる人に限って身体も硬いことが多いのは観察できるはずです。
そして身体の柔らかい人は実年齢より若く見えがちで、硬い人は老けて見えやすい。若く見られたかったら、化粧法以前に身体を柔軟にさせるとよい。また肩こり・腰痛・疲労予防にもなる。
・兵藤庄左衛門の怪我や病気、事故をしやすい人の法則④
 どうも骨折や大怪我、病気、事故等を繰り返ししやすい人はいる。例えば病院に不治の病でもなく、同情すべき理由もないのに繰り返し入院したり通院したりする人がいる。どうも本人が不注意というか無反省無自覚というか。同じ過ちを繰り返ししているのだ。注意深い人なら入院一歩手前で踏みとどまれるのだろうが、安易に入院にまで事態を悪化させてしまうのだ。
 骨折や交通事故等を3回以上経験している人は、思慮深さ、安全意識といったものが欠如している証拠だ。あなたの生活行動や考え方の何かを反省し対策を立てないといけないが、そういった人に限って無反省無自覚で周囲の何かに責任を擦り付け、自分は善意の被害者だ位に考えているに違いない。骨折や事故等3回以上、それは私であった。わはははは、ははははは、ひえー、反省します、といって何をどう反省するのじゃ? だから同じ過ちを繰り返すんじゃ、要するに、馬鹿は死ななきゃ直らない、チャンチャンでした。
 以前知り合いが、病院の外科や内科にやたら繰り返し入院する患者の中に、変な人たちがいるといっていたことがヒントになった。
 そう、過ちを繰り返す人はより具体的に対策を考え実行しなければならない。
・兵藤庄左衛門の法則⑤
 この世に絶対安全な物事はない。無論、原発も。食料も検査して安全であることを科学的に証明してから発売してほしいなどというたわけた発言が巷で見られるが、残念ながら絶対安全であることを科学的に証明することなど不可能である。(もしも食料が安全であるためには、一言でいって一切の食料を食べたり使ったり、触ったりしないことである。それって餓死。要するに絶対安全になるためには生きていなければ良いので死ねば安全である。) その反対に不確実であってもある程度の危険性があることはいくらでも証明できようが。私たちはすべての物事のリスクを抱えながら少しでもリスクを小さくするか、フォローする体制を作って対処していくかで、リスクをマネージメントしていくしかないのだろう。いつぞや新病が流行ったとき、医者にいって病気に罹っていないことを証明して来いなんていうことが、本当に行われたが、これまた一切の病気に罹っていないことをその時点で証明するなどできるわけがない。とりあえずその時点で病気らしい症状が発現していないということだけがわかるだけのことだ。ある特定の病気なら検査をすれば解析時間を設ければその後罹っているかどうかはわかるが、それは特定のものだけに限る。
・兵藤庄左衛門の法則⑥  ・歩道は無法地帯
 歩道は無法地帯で、誰も交通安全に注意して周囲に配慮なんてしていない。前すらろくすっぽ見ていない。歩行者のみならず自転車で走行する人すら、隣の人とのおしゃべりに夢中で前も後ろも何にも見ていない。それどころか携帯電話に夢中な人も多い。自転車では法的に禁止されたが相変わらず平気で使っていて、周囲にとっては迷惑せんばんである。そこで歩道を通行するときは、歩道の右端か左端を通行しどちらか一方をあけて相手を通りやすくしたほうが無難である。真ん中をぶらぶら薄らぼんやり通行している人が多いが、その中には、どこの誰とも知らない人や自転車とすれ違いざまに痛い目にあった人はいるのではなかろうか。しかも相手は謝るどころかにらみつけて行ってしまうのではなかろうか。周囲の交通安全に気をつけないのも問題だが、その中を強引にぶつかってでも通ろうというのはもっと問題だ。だが歩道ではただどちらも交通安全を気にせず漫然と通行しているからだ。歩道には交通安全という言葉はない。そしてただ漫然と平気で蛇行している人は、これまたリスク判断の低い人で社会的責任や人への気遣いも低い人かもしれない。こういう人とトラブルに巻き込まれても責任を果たしてくれないかも知れない。その好例が中高生の無謀な自転車通行であろう。安全意識が低すぎるのだ。ただし被害に遭い弁償が絡むなら、子供相手でも、保護者に対し責任を追及すればよい。高校生ならば道路交通安全法が適用できるので、警察沙汰にしてもよい。
 歩道とは限らないが公道上では、くわえタバコで平気で歩いている人がいる。そういう人に限って、道の真ん中寄りの手のほうにタバコを持っているのだ。だから通行する人は、その火の付いたタバコ側のほうをすりぬけねばならない。せめてタバコを持つ手のほうを人とすれ違わないほうにしてもらいたいが、そんなことに配慮できる人なら、道路上でタバコを吸わないだろう。つまり、何の配慮もなく平気で道路上でタバコを吸っていて、そのたばこを人とすれ違うようにしていられる人は、もともと配慮の低い人で、リスク判断も低く、社会的責任も低いとみなしたほうがよい。下手するとチンピラやヤクザ、あるいは性格的に問題のある人かもしれない。こういう人にタバコの火を押し付けられ被害が生じてもろくな謝罪も弁償も責任もとらないことが想像されやすい。こんな人とのトラブルは極力避けたいものだ。これもリスク判断だ。ただ被害が生じたら警察沙汰にしてでも、徹底的に責任を追及すべきだ。

「東京キャラバンthe 2nd 演出:野田秀樹」2022、11/27(日) 静岡市駿府城公園紅葉山庭園前広場、13:00~, 16:30~, 70分

2022-11-27 20:51:43 | 舞台芸能批評

・「東京キャラバンthe 2nd 演出:野田秀樹」2022、11/27(日) 静岡市駿府城公園紅葉山庭園前広場、13:00~, 16:30~, 70分  
 野田秀樹による心の交流としての文化混流ということだそうだ。伝統芸能の琉球舞踊:玉城匠・大浜暢明、アイヌ古式舞踊:公益社団法人北海道アイヌ協会、日本の郷土芸能の三社祭礼囃子:静岡県立横須賀高等学校郷土芸能部、花柳流:日本舞踊:花柳貴伊那、人形劇師:沢則行、現代音楽アーティスト:宇治原宗輝、音楽バンド:浅草ジンタ、ダブルダッチチーム縄跳びパフォーマンス:REG☆STYLE、朗読:前田敦子、アーティスト鈴木康広、東京キャラバンアンサンブル、とまあ畑違いの舞台芸能者たちが一堂に会し、野田により一つの舞台を創造するのだ。単なる寄せ集めではなく、有機的かつスリリングにくっつくのだ。例えば、アイヌ舞踊と琉球舞踊が同時にシンクロする場面は唖然とした。まさにスリルに富んだ文化混流で、ここを出発点に今後何か新たなる文化が創造されるのではなかろうか。一つ一つにしてみれば、決して現代人の娯楽主流とは言えないものが多いにもかかわらず、この楽しさ、ワクワクドキドキ感は何だ? 日本民謡、ドビュッシー「月の光」、アイヌ民謡、琉球民謡、現代音楽、ジャズロックすべてがごちゃ混ぜなのに、合ってる。いいねえ。
 舞台端から奥にある横たわる20mほどの巨大な人:ビニール製?の浮き輪みたいな感じは、何なのかな。それに触ったり、乗ったりして見たかった。よくぞビニールをすべてつないだものだ。膨らんでいるから空気が抜けないんだよね。本作品が鈴木康広「空気の人」なのかな? 
今回年齢も一番若く、純然たるアマチュアの高校郷土芸能部のオカメヒョットコ等のパフォーマンスは決して見劣りせず、すばらしいものだった。元アイドル日本一の前田敦子の朗読の声はアルトで聴きやすく、ピーターパンやアリスの衣装は華を添えていた。一度朗読を噛んだのもご愛敬。花柳の日本舞踊は妖艶でしっとりしていて、衣装の金銀は月で音楽もドビュッシー「月の光」だしね。浅草ジンタの演奏はジャズロックとして迫力満点だし他の音楽をよくつないでいた。宇治原の音楽は近未来的かつ効果的で劇的表現を高める。
ダブルダッチ縄跳びパフォーマンスは音楽に合い、スリルとスピード感に富んでいた。人形劇は神秘的幻想的で華やぐ。東京アンサンブルのつなぎ役兼子供役はわくわく感を高めてくれた。優れた役者にしてダンサーだ。


ダンス批評

2020-08-20 13:59:35 | 舞台芸能批評
批評

☆ダンス

・「朔月に寄せて」コントラバス:齋藤徹、ダンス:Jean Sasportes、橋本真奈、‘09,8,21、inつばさ静岡、プロデュース:森妙子、森和子、静岡県高等学校障害児学校ユニオン
 ジャズマニアのユニオン会長の齋藤徹紹介はなるほどである。いい音出してる。齋藤氏はジャズに限らず現代音楽全般にかかわっているようだ。フリーっぽく前衛っぽくのりのいい、かきむしるような、そこはかとない響きは堪能できる。
 Sasportesと橋本の探るような求めるような、かかわりあうような、ちょっぴり離れるような、淋しいような、滑稽なような、けだるく淋しい「サマータイム」の歌もよかったよ。
コラボさせた森姉妹のお目は確かだ。

・京の地唄舞 井上美智子 ビデオ『日本古典芸能大系』より
 井上八千代の娘である。その凛としたたたずまい抑制された男性的な動きの中に、それでもあふれる思いがある、上品な色気が漂う。現在二世井上八千代を名乗る。

・ローラン・プティ『ピンク・フロイド・バレエ』(NHK教育) 「吹けよ風呼べよ嵐」の群舞の振り付けがすばらしい。全員の動きがきちっと合っていて見ていて、全員のパワーが集結するようで見事。アンコールでもう一回踊っているので、自信をもてるまで踊りこんだ証拠。決して女性的ななよなよした振り付けはないにもかかわらず、草刈民代が妖艶で美しい。

・ビデオ マイヤ・プリセツカヤ『白鳥の湖』、オープニング『瀕死の白鳥』アンナ・パブロワ 本家本元のロシアバレエ、チャイコフスキー作品。折り目正しい古典的演出。プリセツカヤが可憐かつ美しい。
 パブロワの踊りは今の人たちと比べ特にうまいとは感じにくい。今の人たちの方がうまくなっている。しかしこの時代の極致がパブロワなのだろう。現在はこの程度はスタンダードかもしれないが、この精神性は傑出しているのだろう。

・ビデオ キーロフ・バレエ『白鳥の湖』、オープニング『瀕死の白鳥』アンナ・パブロワ
 前巻の折り目正しく古典的なものと違い、もう少し現代的かつシャープで親しみやすい演出。時代の流れがこうなるようだ。

・ビデオ キーロフ・バレエ『眠れる森の美女』、オープニング『瀕死の白鳥』アンナ・パブロワ
 御伽噺の中に、豊富なダンス曲の数々。やっぱりヒロイン最高。親しみやすく分かりやすい演出。

・ビデオ マイヤ・プリセツカヤ『バレエの詩』、オープニング『瀕死の白鳥』アンナ・パブロワ
サン・サーンス『白鳥』、バッハ『プレリュード』、『ライモンダ』、『カルメン組曲』とさまざまな曲の振り付けで踊る姿が百花繚乱でよい。クラシックバレエのバリエーションの一端を知ることができる。

・ビデオ ボリショイ劇場200年『ボリショイ・バレエ、ボリショイ劇場 昨日・今日』、オープニング『瀕死の白鳥』アンナ・パブロワ
 ダンサーやボリショイ・バレエの日常生活の一端を知り共感しやすくなる。各種バレエの振り付け、練習風景にクラシックバレエダンサーの心意気を感じることができる。
ボリショイ・バレエ、ひいてはロシアバレエの歴史の一端を知ることができる。劇場を視点にして芸能を見ることを知った。

・ビデオ 栄光のバレエ・コンクール『バレエの祭典』、オープニング『瀕死の白鳥』アンナ・パブロワ
 若手ダンサーがいかに世に出てくるのか、その緊張感ともども知ることができる。未完成でも若々しい感性の踊りに触れることができる。

・バレエDVD「GISELLE」原振付:ジャン・コラリ、ジュール・ペロー、振付:マリウス・プティパ、改訂振付:パトリス・パール、ユージン・ポリャコフ、音楽:アドルフ・アダン、演奏:パリ・オペラ座管弦楽団、指揮:ポール・コネリー、ジゼル:レティシア・プジョル、アルブレヒト:ニコラ・ル・リッシュ、ミルタ:マリ・アニエス・ジロ、ヒラリオン:ウィルフリード・ロモリ、ペザント・パ・ド・ドゥ:ミリアム・ウルド・ブラーム、エマニュエル・ティボー、パリ・オペラ座バレエ、06年12月パリ・オペラ座ガルニエ宮、111分、
 可憐かつ可愛く第一幕はのどかに見せる。第二幕は神秘的だ。飛型点の高い優雅な踊りはうっとりする。個人的には第1幕のペザント・パ・ド・ドゥ:ミリアム・ウルド・ブラーム、エマニュエル・ティボーが愛らしく新鮮でよい。いかにも優雅で愛らしいクラシックだ。

・バレエDVD「真夏の夜の夢」振付:ジョージ・バランシン、音楽:フェリックス・メンデルスゾーン、演奏:ミラノ・スカラ座管弦楽団、指揮:ニール・カパレッティ、美術・衣装:ルイザ・スピナテッリ、タイターニア:アレッサンドラ・フェリ、オーベロン:ロベルト・ボッレ、タイターニアのパートナー:マッシモ・ムッル、パック:リッカルド・マッシミ、ハーミア:デボラ・ジスモンディ、ミラノ・スカラ座バレエ団、104分、07年2月ミラノ・スカラ座、
 メンデルスゾーンの音楽にバラエティ豊かなキャラクター、衣装、個性の踊りが様々見られる。モダンでシャープな近代舞踊だ。爽やかな衣装演出だ。

☆バレエ名作物語 新国立劇場バレエ団オフィシャルDVD BOOKS 1~4巻 世界文化社 
・Vol.1「白鳥の湖」振付:マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ、改訂振付・演出・芸術監督:牧阿佐美、音楽作曲:ピョートル・チャイコフスキー、台本:マリウス・プティパ、舞台監督:森岡肇、演奏:東京フィルハーモニー交響楽団、指揮:渡邊一正、出演: 酒井はな、山本隆之、貝川鐵夫、グリゴリー・バリノフ、小野絢子、西山裕子、冨川祐樹、楠本郁子、市川透、丸尾孝子、西川貴子、マイレント・トレウバエフ、新国立劇場バレエ団、06年11月18日、新国立劇場、134分+42分、 
 特典映像によりダンサーの思惑を知ることができ、鑑賞に奥行きを持たせられるようになっている。
 繊細可憐な日本人クラシックバレエという既成概念を崩すように、どんどん大きくダイナミックな雰囲気になっていくものですね。繊細さをもちつつ大柄なダイナミックな迫力を出せるようになってきました。酒井はなは黒鳥と白鳥の違いをうまく引き出し踊り分けていた。パチパチ。やっぱりチャイコフスキーの音楽はクラシックバレエ史上最高に盛り上がる。これから伸びていく若手が多く将来楽しみである。

・Vol.2「ライモンダ」振付:マリウス・プティパ、改訂振付・演出:牧阿佐美、音楽:アレクサンドル・グラズノフ、演奏:東京交響楽団、指揮:オームズビー・ウィルキンス、ライモンダ:スヴェトラーナ・ザハロワ、ブリエンヌ:デニス・マトヴィエンコ、森田健太郎、楠本郁子、市川透、丸尾孝子、西川貴子、マイレント・トレウバエフ、芳賀望、新国立劇場バレエ団、09年2月10~15日、新国立劇場、129分+20分
 音楽単独ではぱっとしないが、踊りにはロマンティックに優雅に合っている。ラテンやスラブ系の踊りが入って彩りを添える。ザハロワは的確に踊りスピード感もダイナミックさも優雅さもあってよい。バランスがとれ、ぴたっと止まる瞬間のポーズは美しい。身体の流れるような流線型を描くフォルムもよい。

・Vol.3「ドン・キホーテ」振付:マリウス・プティパ、アレクサンドル・ゴルスキー、改訂振付:アレクセイ・ファジェーチェフ、舞台監督:森岡肇、芸術監督:牧阿佐美、音楽:レオン・ミンクス、演奏:東京フィルハーモニー交響楽団、指揮:アレクセイ・バクラン、キトリ:スヴェトラーナ・ザハロワ、バジル:アンドレイ・ウヴァーロフ、長瀬信夫、吉本泰久、西川貴子、貝川鐵夫、寺島まゆみ、西山裕子、澤田展生、田名部正治、堀岡美香、湯川麻美子、楠本郁子、小口邦明、厚木三杏、市川透、西川貴子、新国立劇場バレエ団、09年10月12~18日、新国立劇場、120分+28分
 愉快な演目で飽きない。ドン・キホーテは主役ではなく狂言回しだが、古典バレエ化するにはこうするしかなかったかな。音楽は結構ダイナミックだったりロマンティックだったりして聴けると思われる。より取り見取りのラテン系踊り満載で明るく賑やか情熱的で、なおかつ童夢のようなロリコン風キューピッド場面では可愛らしさにうっとりで、申し分ない娯楽の殿堂のようだ。踊りや演出の完成度が国内では高くすばらしい。

・Vol.4「くるみ割り人形」、振付:マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ、改訂振付・芸術監督:牧阿佐美、音楽作曲:ピョートル・チャイコフスキー、台本:マリウス・プティパ、舞台監督:大澤裕、演奏:東京フィルハーモニー交響楽団、指揮:大井剛史、出演:小野絢子、山本隆之、伊東真央、西山裕子、冨川祐樹、楠本郁子、市川透、丸尾孝子、西川貴子、マイレント・トレウバエフ、 新国立劇場バレエ団、09年12月20日、新国立劇場、129分+30分、
 牧阿佐美の演出・振付は日本人に分かりやすい。ムーア人の踊りの場面をトロルに変更していて好感がもてる。
ムーア人登場の場面といえば、モーツァルトのオペラ「魔笛」等多いのだが、たいてい野蛮な黒人役が多いので、今後差別を感じさせないように変更することが多くなるだろう。
 ストーリーとしてはチャイコフスキー3大バレエともにおとぎ話で単純でシンプルだが、その分はっきりしたキャラクター像となり、しっかりしたキャラクター造形をして踊らねばならない。トレパックのダイナミックさ、中国の踊りのリズミカルでユーモラスな動き、各種踊りをいろいろ見られてお得な演目。グラン・パ・ドゥ・ドゥはやはりよい。小野絢子の踊りが可憐である。さらに精進してもっと軽い雰囲気で踊れるようになるだろう。各人の踊りで微妙にずれを感じる箇所があるが、今後さらに上達していくだろう。

・TV、「世界バレエ・フェスティヴァル」東京文化会館 ’12 8月14日  
~Standing by the people of East Japan~

 東日本大震災復興のチャリティの一環として行われた。欧米の若手クラシックバレエダンサーによるいきのよい若々しいダンスが見られる。振付も世界の一流がそれぞれの個性で振り付けていて、さながら振り付けの一覧表のごとくで贅沢な企画だ。日本からは東京バレエ団の上野水香が出場している。 
○プログラムA  
指揮:ポール・コネリー、東京フィルハーモニー交響楽団 
歌劇「預言者」から「戴冠式行進曲」(マイヤベーア) 
・「モペイ」、振付:M・ゲッケ、フリーデマン・フォーゲル、 
 何か日常的なつらそうな状況から抜け出そうとしているのだろうか。動き自体は軽やかでユーモラス。
・「幻想~白鳥の湖より第1幕のパ・ド・ドゥ」、振付:J・ノイマイヤー、 エレーヌ・ブシェ、ティアゴ・ボァディン、 
 シックで優雅、どこな沈み込むような静謐な悲しさが漂う。
・「ドリーブ組曲」、振付:J・マルティネス、 上野水香、マシュー・ゴールディング、 
 明るく可憐で若々しいというより、ちょっぴり幼い少年少女の思春期の甘酸っぱさを香らせる。
・「扉は必ず…」、振付:J・キリアン、 オレリー・デュポン、マニュエル・ルグリ、 
 18~19世紀の近代絵画の一場面のようなドラマティックさと、モダンなスローな振り付けが新しい世界を魅せる。
・「海賊からパ・ド・ドゥ」、振付:M・プティパ、 ポリーナ・セミオノワ、イーゴリ・ゼレンスキー、 
 すがすがしくも恋しあう二人の晴れやかなパ・ド・ドゥ。
・「瀕死の白鳥」、振付:M・フォーキン、 ウリヤーナ・ロパートキナ、 
 黒舞台に白衣装、シックかつ悲壮な最期を鮮やかにシャープに可憐に描く。
・「パガニーニ」、振付:M・ゴメス、 マルセロ・ゴメス、 vn:チャールズ・ヤン、 
 バックステージ風にvnに合わせ二人で音楽と踊りをアドリブ風に作り出すという趣向で、徐々に高揚していく。ダイナミックでパワフル。
・「ラ・シルフィード第2幕から」、振付:J・コボー(ブルノンヴィル版に基づく)、 タマラ・ロホ、スティーヴン・マックレー、 
 恋しあう二人の楽しげな語らいが可愛い。
・「ブレルとバルバラ」、振付:M・ベジャール、 エリザベット・ロス、ジル・ロマン、 
 黒と白、何か日常のしがらみの中から二人の思いを確認しあっていくのか。日本の着物を思わせる衣装がシックで優雅。
・「カンタータ」世界初演、振付:N・ドゥアト、 ディアナ・ヴィシニョーワ、ウラディミール・マラーホフ、 
 黒衣裳、カンタータは喜びの歌だと思うが、どこか哀しげで切ない。
・「ドン・キホーテからパ・ド・ドゥ」、振付: M・プティパ、 オレシア・ノヴィコワ、レオニード・サラファーノフ、 
 恋しあう二人の楽しげな踊り、若く躍動感、華やか。扇の使い方がキュート。


○プログラムB  
指揮:ワレリー・オブジャニコフ、東京フィルハーモニー交響楽団
歌劇「預言者」から「戴冠式行進曲」(マイヤベーア)
・「パルシファル」、振付: M・ベジャール、カテリーナ・シャルキナ、オスカー・シャコン、 
 暗く情熱的な雰囲気を影、黒衣装、シャープな踊りで示す。最期を暗示する。
・「タイス(マ・パヴロワ」、振付:R・プティ、 上野水香、マシュー・ゴールディング、 
 タイスの瞑想曲にのせ静かにスロ-に可憐に舞う。
・「エフィ」、振付: M・ゲッケ、 マライン・ラドメーカー  
 肉体から何か躍動感のようなものが爆発してきそうだ。
・「ライモンダからパ・ド・ドゥ」、振付: M・プティパ、 タマラ・ロホ、スティーヴン・マックレー、 
 前半シックで静謐で大人っぽい抑制感すら漂わせ、後半一気に華やかでダイナミックなパドドゥと化す。
・「ロメオとジュリエットからバルコニーのパ・ド・ドゥ」、振付:K・マクミラン、 アリーナ・コジョカル、ヨハン・コボー 
 可憐、しなやか、情熱的。
・「ウィズアウト・ワーズ」、振付: N・ドゥアト、 オレシア・ノヴィコワ、レオニード・サラファーノフ、
 都会っぽくなく、シャープでなく、シックでなく、派手でなく、先鋭的でなく、東洋的な、どこか素朴っぽく土俗っぽく、決して素朴で土俗というわけでないが、どういえばよいのかわからない、あたたかっぽく、ぬくもりを感じる、
・「椿姫から第3幕のパ・ド・ドゥ」、振付:J・ノイマイヤー、アニアス・ルテステュ、ステファン・ビュリョン、
 シックに悲痛に情熱的に。
・「ラ・シルフィード第2幕から」、振付:P・ラコット、 エフゲーニャ・オブラスツォーワ、マチュー・ガニオ、東京バレエ団 
 可愛く,軽快、明るく。
・「マーラー交響曲第5番からアダージェット」、振付:J・ノイマイヤー、 エレーヌ・ブシェ、ティアゴ・ボァディン、 
 クール、禁欲的、悩ましく、死の香りの抑制された官能。
・「シェエラザード」、振付:M・フォーキン、 ポリーナ・セミオノワ、イーゴリ・ゼレンスキー、 
 勇壮ダイナミックな出だしで、しなやかな叙情的情熱的官能。
・「海賊からパ・ド・ドゥ」、振付: M・プティパ、 ナターリャ・オシポワ、イワン・ワシリーエフ、 
 コケティッシュ、軽業のようにスピード回転ジャンプを連発する。イワン・ワシリーエフの跳躍点高く軽やか。
・「ル・パルク」、振付:A・プレルジョカージュ、 ディアナ・ヴィシニョーワ、ウラディミール・マラーホフ、 
モーツァルトの音楽を使い、振り付けは日常生活動作からもってきたかと思うような、(きっと違うのだろうが、私はなんと言ってよいか分からないので、)創作ダンスで、前衛ぽくないユニークな舞台、男女の愛情をスローに悲しげに舞う。
・「コール・ペルドゥート」、振付:N・ドゥアト、 スヴェトラーナ・ザハロワ、アンドレイ・メルクーリエフ、
 音楽は中央アジア的な流行歌っぽく、甘く切なく情熱的に東洋的にスピーディーに舞う。
・「ドン・キホーテからパ・ド・ドゥ」、振付: M・プティパ、 ヤーナ・サレンコ、ダニール・シムキン 
 ヤーナ・サレンコは小柄でバランス抜群、ぴたっと止まったポーズが可憐。ダニール・シムキンは童顔で可愛く女性受けしそう。これからまだ伸びる若手
・「眠りの森の美女」からアポテオーズ、 カーテンコール、タイトルエンド  
 
・TV、NHK-Eテレ「ローザンヌ国際バレエ・コンクール」スイス、ローザンヌ ’15 2月、 放映:’15 5/9(土)15:00~17:00  
 久しぶりに見た。コンクールは例年2月でその前には研修期間が5日ほどあるようだ。70名ほど参加者がいて、テレビ放送されるのは最終審査に残った決戦での20名ほどである。
毎年のように日本から参加者が上位入賞するので知名度も上がっているようだし、NHK-Eテレが毎年5月に放送するので国内で有名になるようだ。どうもレベル的にはアメリカで行われる新人コンクールの方が高いらしいし、その他にも幾つかの大会があるようだが、国内でテレビ放送されるのはこれだけだろう。受賞要件はプロダンサーとしてやっていけるかという判断で、審査場面だけでなく事前研修もポイントになるようだ。

・TV、NHK-BS-1 スペシャル「ローザンヌでつかんだ未来~バレエダンサー 須弥奈と美桜~ 」スイス、ローザンヌ ’19 2月、 放映:’19 4/28(日)50分  
 今回は日本人有力選手女子2名に事前から密着取材し他番組だ。彼女らは決戦で3位と8位を得た。ちなみに日本人男子脇塚君が5位だ。3位の須弥奈はバランスといい踊りの広がりと言いすでに大物感が出ていて完成度が高い。8位の美桜もきっちりそつなく踊れてすでに一流への予感がある。予選を経て準決勝の20名に進めればプロのダンサーへの道が開かれる。二人は同じ先生のもと協力し合ってここまで進んできた。そして決戦でも入賞して将来への道を切り開いた。更なる試練は待ち受けるだろうが、プロへの道を精進してもらいたいものだ。それにしても日本はいつの間にかバレエ大国といっていいのではないか。ローザンヌ他国際コンクールで入賞者を輩出し続ける状態だ。

・TV、NHK-Eテレ「ローザンヌ国際バレエ・コンクール」スイス、ローザンヌ ’20 2月、 放映:’20 8/16(土)2:00  
 放映が真夏の8月なので再放送か、コロナ禍により放映が遅滞したのかも。まあそれはいいとして、内容は、昨年のものでは出場者2名に密着取材というのをやめ、例年通りというか、古めかしく、ひたすら本選コンクール一本をプロダンサー:山本康介の解説で見せていく。今回の日本人出場者は1名で、チョイ寂しい気はするが、それより韓国・中国からの出場者が多く、レベルも上がってきていることに驚いた。まあこれらの国々から優秀な才能は出てくるだろうと思っていたが、結構急激にレベルアップしている。この分なら、来年以降、台湾・シンガポール・インドネシア・タイ・ベトナム・インド等からの優れたジュニアダンサーが輩出してくるだろう。
 本選に進めた20名のうち日本人ダンサーは松岡さん:少年一人だったが、スイス・モントルーの研修に集められた84名のうち、日本人は13名で最も多かった。しかも欧州予選で出場資格獲得の加藤さんは辞退し、モントルーでも山田さんが足の故障で辞退という不運も重なっている。松岡さんは入賞を逃したがロイヤルバレエでの1年間の研修参加を獲得したそうだし、本選に進めなかったメンバーもそれぞれ未来が開かれるとよかろう。
 今回1,2位の男女はいかにも将来プリンシパル候補で王子様や王女様がお似合いだが、3位の少年はとても身体が柔軟で個性的だが、背が低いことを山本氏が指摘していた。身体能力は高いが、背が低いことで、女性ダンサーのお供、つまり王子様役には厳しいのかもしれないが、背が低く女性と不釣り合いという、伝統的固定的性差別観念はクラシックバレエ界からも駆逐していくべきだろう。女性ダンサーより背が低い王子様ダンサーがいてもよかろう。
 番組内で中国人名は漢字なので日本語風音読みで紹介している。例えば「王」は「オウ」だが、中国語では「ワン」だろうから、中国語読みの「カナ」で紹介したほうがよかろう。

〇ライヴ「白鳥の湖 ~新演出による~」バレエ団芸術座 静岡市民文化会館大ホール ’19 5/1(令和元年) 深沢和子:演出
 コンサート第一部
・『ライアルト・リップルズ』ガーシュイン:作曲、~劇場街のざわめき~ ピアノ:谷合千文、一般科の生徒さんたち、 ちょっとレトロな都会の物憂さとシャープな感じを、「ウェストサイドストーリー」を思わせるようでちょっとコンテンポラリーぽく踊っていた。演出では、まだ開演3分前で客席が明るくまだ客が動いているうちに、幕を開け、舞台上でダンサーがストレッチしている光景から始まる。舞台背景は倉庫みたいで、1本可動式バーが置かれていて、倉庫内がダンススタジオだという体裁である。5分ほどたつと照明が暗くなり、ストレッチしていた生徒さんたちのうち1,2名ずつ立ち上がり、ダンスが徐々に始まる。なかなか魅せごたえがある。バーについてはダンススタジオを想定させるだけでなく、一般科生徒さんが自立してバランスがとりにくいことを留意して、バーを触ったまま踊れる配慮にもなっていた。この演出は舞台設定と生徒さんの発表を両立させえている。

・「インディアン」児童科Bの生徒さんたち、 可愛らしくも動きや息が合っていた。

・『ドン・キホーテ』より「第一ヴァリエーション」、ヒロイン:キトリのソロの踊りを高等科:柳瀬が赤い衣装で踊る。短時間だがよくソロで踊り切ったものだ。きっちりしている。

・「海と真珠」プロ:辰巳、高等科:大橋、平野、辰巳のリードで女子二人もなおやかに動きがよい。広がりがちょいと。

・「海賊」プロ:田村、高等科:成田、田村のリードで成田が練習の成果を出す。回転でのバランスがよい。

・「ライモンダ」プロ:浅田、高等科:菅野、さすが男はプロでジャンプすると高い。両社ともバランスがよく見ていて安心感がある。

 コンサート第二部
・「カーニヴァル」高等科、児童科Aの8名、可愛い、軽やか

・「ブルーバード」よりフロリナのヴァリエーション、高等科:白岩、軽やか、

・パキィータのヴァリエーション、高等科:山下曇生、まだ不慣れなようですが回転を頑張ってます。

・「ジゼル第一幕」よりペザントのパ・ドゥ・ドゥ、プロ:辰巳、高等科:福代、辰巳のリードで福代さんバランスを取ろうと頑張っています。舞台での経験はこれから役立つでしょう。まだこれからも練習頑張りましょう。

・チャイコフスキーのパ・ドゥ・ドゥ:プロ:原田、高等科:武本、原田のリードで武本さん動きが軽いし広がりがある。

・「ラ・フィユ・マルガルデ」よりリーズの結婚:プロ:田村、高等科:藤田、田村のリードで藤田さん動きが自然で軽やかでさりげなく、ジャンプも高い。

~~~~~白鳥の湖~~新演出による~~~~~
配役:オデット:鈴木、オディール:大橋、王子:浅田、ロットバルト:川島、王子の友人:原田、田村、道化:望月、
~第一幕~
・パ・ドゥ・トロワ:プロ:辰巳、高等科:手島、竹内:辰巳のリードで優雅で軽やかで練習を積んだことが分かる。

・ワルツ:高等科、児童科A、B、幼児科の生徒たち:群舞は華やかで可愛いしゴージャス、相当練習をかさねたようだ。得意演目。

~第二幕~
・三羽の白鳥:高等科:成田、菅野、竹内:なかなか堂々と踊れている。

・四羽の白鳥:高等科:菊地、増田、児童科A:山本、橋本:四人で息を合わせるのが大変そうだが、頑張っています。

・白鳥たち:高等科、児童科A、B、幼児科の生徒:集中を切らさず、協力して踊れていた。「白鳥の湖」は得意演目であることを示す。

 総じて演出がよい。深沢氏の思い入れの深さだろう。役割を終える文化会館へのオマージュにもなっているようだ。道化の望月君は得な役だが、それだけでなく、大した舞台度胸の持ち主で存在感を発揮する。






舞台芸能、演劇

2020-05-09 00:46:46 | 舞台芸能批評
批評

☆演劇
・韓国ハクチョン「地下鉄1号線」(NHK教育、芸術劇場)、140分
 ドサグレ人生にも救いはあることを、歌入り、エレキバンドの生演奏付きで示す。ドサグレて社会を斜に構えて見るのは当然かと思っていたら、けっこう公平に見る方たちが多いことに驚いた。ソウルという大都会の中で、欲求不満を抱えつつもうごめく人々の思い、孤独感、憂鬱感を描く。歌も気に入った。

・S.ベケット『ゴドーを待ちながら』 緒方拳、串田和美(NHK教育)
人生というひまつぶしを軽く笑わせ、でも深刻な一面をちらっと見せることもできている。救いのない人間の状況をとりとめのないおしゃべりとけったいな行動で提示していく。そしてこの存在自体があるのかないのかさえもあやふやなことをさらりとあらわす。ゴドーGODOHはGODを意味するとも考えられるらしい。来ない神の救いを待つ人間ですかな。神無き実存主義。

・『シラノ・ド・ベルジュラック』エドモン・ロスタン原作、鈴木忠志演出(NHK教育)
鈴木流様式美といったものがある。役者の肉体の動かし方、台詞のしゃべらせ方に一種独特のものがある。批判もあるようだが、これはこれで美しい。
日本平芸術劇場総監督でもあり、グランシップともかかわりが深く、静岡での演劇や文化の育成にビジョンをもっているようだ。

・迷宮オペラ『青ひげ公の城』作:寺山修二(NHK教育)
殺人事件か妄想か入り組んだ事情は何が現実で何がフィクションなのか舞台設定はいったい何がどうなっているやら、現実と虚構、いや虚構と虚構、現実と現実、いや妄想と妄想か、何が何やら、はちゃめちゃ? いや筋は通っている? はらはらしつつ仮面を幾重にもはがすようにして見てしまう。さすが寺山。

・『アメリカ(失踪者)』原作:フランツ・カフカ 作、演出:松本修(NHK教育)
 一見ドタバタ風に描きつつ、視覚化しにくい迷宮のような社会を舞台化したものだ。ちょっと物足りなさも感じるが。

・『メルセデスさんの人形劇』メルセデス・ピュジョール、10年4月29日、重症心身障害児施設つばさ
 森のなかまたちによるリコーダー演奏、
「ウ・エ・マ・マン? おかあさんはどこ?」、三角や四角等いろんな形の仲間やらなにやらの中から、小鳥がお母さんを探していくのだ。ちょいとユーモラスでカラフルで、同じ形の分類分けみたいな知的遊戯のような、言葉は通じなくても万国共通のような母探しは楽しそう。そしてみんな仲良しになってほしいという願いもあるような。
 プロデュースする森さんたちは前回前衛的なダンサーを招いたが今回は障害児や子供たちに親しめる児童用パフォーマンスを提供したようだ。子供だけでなく大人も楽しめる存在とかかわりのパフォーマンスだ。

・TV、劇場中継「ふるあめりかに袖はぬらさじ」斎藤雅文:演出、坂東玉三郎、檀れい、松田悟志、団時朗、180分、’13 1/3
檀れいの演ずる薄幸さが既に人妻としての女の清廉だがほのかな色気を醸しだしぞくぞくする。これは小娘では出ない。玉三郎は始めどこかにくにくしげなイヤミっぽい役だが、実は周囲をいろいろ気にかける優しさと周囲の男達に支配される中で嫌でも生きていかざるを得ない女の哀れさを見事ににじませていた。

・NHK-BS3-TV、シアター中継、シス・カンパニー公演「三人姉妹、チェーホフ」KERA:演出、余貴美子、宮沢りえ、蒼井優、堤真一、段田安則、160分、’15 1~2月?
’15 8/22
今回初めてチェーホフに共感した。戯曲内容を解説したものはあり、読んではいたが、でも何が面白いのか?であった。しかしその退屈さ、アンニュイ、メランコリー、生きがいのなさ、夢や野心は破れるためにあるかのような人生、とりとめのないおしゃべり、これといったことが起きないアンチドラマ:盛り上がりがないこと、特定のヒーローやヒロインはいない、没落していく上流階級、これから何かをしなければいけないのに、決して希望には満ちてはいず、つらいことばかりなのは分かっているのに、という雰囲気。でもそうです。この雰囲気はあえてチェーホフが必要としたからあるのです。退屈でつまらなく体裁ばかり取り繕い、うわべだけのことばかりしゃべりながらも、時々人生の本音のセリフと、セリフとして言わないが表情やしぐさで見せるものがある。そこにつらい人生に傷つきながらも何かを信じてあるいは何かに縋りつくようにして耐えて忍んで生きていくしかないのだ。不条理で不幸ばかりの人生に対し、死なない限りは耐えて生きていくしかないことを引き受けざるを得ないでくの坊ばかりの人間たち。ラストはつらい希望表明なのだ。人生は不幸だ、でも生きていくしかないだろう、といいたげに。

・NHK-BS3-TV、シアター中継「わたしの星」柴幸男:演出、劇団ままごと、オーディションで選ばれた高校生、女子9名、男子1名、90分、’15 1~2月?
’15 8/23
地球は温暖化でもう住めなくなる寸前、ほとんどの人々は火星に移住しかかっている状態で、地球で少数残っている子たちのための唯一の高校での文化祭練習中という設定。一人の子が火星から転校してくるというありえないことが起きる。そして明日火星に転校するが同級生に言えない子。さてどうなるやら。
 彼らの歌と踊り、しゃべりは何のためにあるのか、彼らはそれでもやるのか、転校生とのかかわりは? 彼らの人間関係はどうなるのか、彼らはどう向き合うのか? 全身でエネルギーを発散させ、何か熱い思いをしゃべり動き回る。好感。

・「学芸会レーベル」劇団4ドル50セント×柿食う客コラボ公演、1:31‘15“  ’20 5/8
 99%エンターテインメントだが、終盤近く何でこんな脚本書いたんやろと気づく場面があり、そうすると、感動というか、笑いに紛らしながらも、チョイと感動ポイ気分が味わえて、情動が複層化して、見ている気分に厚みが増せてよかった。おそらく演劇論というか、人はなぜ演技するのかという思いがあって、こんなへんてこな脚本が成立するのだろう。かといって難しいことは抜きでよい。ひたすら早口喋りのヒートアップハイテンションシアターにどっぷり浸って楽しめばよいのだと思う。現代演劇も能も歌舞伎もモダンダンスも学芸会もすべて演じるということで共通項がある。
 この劇団は秋元康プロデュースで5000人のオーディションの中から選ばれたようだ。いったん大量に男性メンバーが退団したようだが、何とか公演ができてよかったようだ。がんばれ。
 You tube 広告動画で全編視聴

・「アセリ教育」劇団4ドル50セント×柿食う客コラボ公演、1:18‘13  ’20 5/7
 エンターテインメントで超早口言葉でしゃべりまくりハイテンションヒートアップ舞台のライヴをyou tube 広告動画で全編視聴。ガンガンいきまくっているパワー、突っ走る爽快感、早口まくしたてで軟調気味の私にはちょいと聞き取れないセリフ多数だが、なんかエネルギーが移ってきて見ていられる気分。




☆☆芸能☆☆ 
☆ライヴ
・大道芸ワールド・カップin静岡  例年11月第1周週末

静岡市で多額の予算を掛け実施することに否定的な意見もあるが、アカデミックなイベントより、子供から大人まで誰もが楽しめ、市民全体に返せる行事である。普段これだけの量と質に接することの無い芸能あるいはパフォーマンスでもある。見方によれば伝統的だったり、前衛的だったりするが、それらがすべてごった煮状態で魅せてくれる。知らず知らずに伝統から前衛、マジック、スポーツ、サーカス、クラウン、ピエロ、総合芸術、大衆芸能から革新的芸術まで、なんでもござれで、自然に接することができる。芸術観、芸能観が変革されるかもしれない。クラシックな古典的イベントも大事だが、この大道芸に着目したのはすばらしい。あらたな価値観の創造である。

・杉山直「新朗読」 2012、12/19(水) 静岡インザライフ(トップセンタービル)  
「星の王子様」1時間45分
  
 本人の解説パンフでは、「新朗読」とは音楽・照明・映像を融合させ、原作を忠実に表現する朗読劇として規定している。一人芝居に近いものである。
 その感情移入、臨場感は客観的朗読とは対極的である。しかし作品を生き生き蘇らす、あるいは一つの生あるものとして新たに生みだすといってもよいだろう。より生々しいドロドロした現実感のあるものとして観客は捉えることが可能になる。批判的に捉えれば杉山直作品になってしまい、原作とは同義と言えないなどとしたり顔で言われるのかもしれない。そこで杉山氏は解説パンフで「原作を忠実に表現する朗読劇」云々等と述べているのだろうが、そんなことはどうでもよいことで、新たなる生命が吹き込まれ、人間になにものかを訴えてくるものになればよいのだ。今後原作に非忠実な杉山直流の新朗読に多角化してもよいだろう。しかし今は原作を蘇らせたいという願望と制約の中で頑張りたければそれもよいでしょう。新たな文化創造を喜びます。
 かなり以前に読んだ岩波版とは違う印象をもったが、言葉自体は岩波版の内藤訳を基盤にしているようだ。ラストシーンは原作と違ったものになっていて、杉山氏のアレンジだろう。すでに原作に忠実とはなっていないようですが、そのことが進化で深化の一端なのでしょう。
 BGMの坂本龍一「星になった少年」というようなタイトルだと思ったのですが?、ラヴェル「ボレロ」はよい。
 ちなみに作者:サン・テグジュペリは第二次大戦中地中海で偵察飛行中消息を絶ったことは知っていたが、今日、海底から彼のブレスレットや搭乗機が発見されていて、その飛行機を撃墜したというドイツ軍パイロットもいることを知った。
 なおすぐに「星の王子様」の日本語訳全文を知りたければ、ネットの青空文庫で大久保訳「あのときの王子くん」で読める。挿絵は全てそのまま見られる。著作権が消滅したためである。




舞台芸能、批評、日本の伝統舞台芸能

2015-02-01 18:43:07 | 舞台芸能批評
批評、日本の伝統舞台芸能

☆ 能

・DVD『NHK能楽名演集 能 鉢木』宝生流 近藤乾三、松本謙三 1970
 近藤乾三は実直、愚直、剛直な雰囲気がよく出ている。松本謙三は奥ゆかしい上品さと誠実さが内に込められていてよい。

・DVD『NHK能楽名演集 能 隅田川』観世流 梅若六郎、宝生弥一 1977
 神秘的、静謐、わびしさ、母と子の情、しんみりさせる梅若六郎の存在感はすばらしい。ただ声の衰えは感じる。

・DVD『NHK能楽名演集 能 頼政 能 弱法師』喜多流 喜多六平太、森茂好、喜多流友枝喜久夫、松本謙三 1957
 喜多六平太の『頼政』前半の翁の朴訥さ、後半の頼政霊の凄み恨みの対比はすばらしい。『弱法師』のはかなさ、わびしさ、しみじみした情愛の場面がよい。

・DVD『NHK能楽名演集 能 井筒』観世流 観世寿夫、宝生閑 1977
 しっとりした出だしが、奥ゆかしくも上品で夢幻な感じを醸し出し良い。後半、有常娘の霊が登場してきて、霊そのもののような浮遊感をもってスローモーションのように、ゆっくり大きな動作でたおやかに舞う姿は、あの世の天女のように上品かつ夢幻的ですばらしい。シテ観世寿夫の真骨頂。舞台での動きに前がかりつつも重心のとれた姿勢がりりしい。

・DVD『NHK能楽名演集 能 黒塚 能 葵上』金春流 櫻間道雄、本田秀男、豊嶋十郎1957、 金剛流 豊嶋弥左衛門、江崎金治郎 1975
 本田秀男のひなびた女人と櫻間道雄の背筋の伸びたりりしくかっこいい鬼婆はよい。
 六条御休息所の悩める姿、生霊、救われた姿の違いを微妙に演じ舞うが、ど素人の私には分かりにくい。

・DVD『NHK能楽名演集 仕舞 独吟一調 舞囃子集 全十一曲』仕舞「船弁慶、江口、雨月、三山、実盛」独吟「天鼓、實方(蘭曲)」一調「葛城、三井寺」舞囃子「清経、松風」喜多六平太、櫻間道雄、高橋進、田中幾之助、武田太加志、梅若万三郎、宝生弥一、木原康次、友枝喜久夫、後藤得三、1979,81,82
 喜多六平太は無骨でおおらかなところがある。櫻間道雄はからくり人形のようなロボットみたいな動きをする。それが今のロック(鍵)ダンスを超スローテンポにしたかのようだ。高橋進は抑制しきった控えめな動きである。田中幾之助の動きは大きく、能だから抑制されているのは当たり前にせよ、その抑制感よりもっと前へ前へと出て行こうとするエネルギーを感じるのでなお大きく感じる。武田太加志は大きなゆったりした動きに特徴を感じる。独吟は梅若万三郎、宝生弥一である。木原康次の謡に柿元豊次の太鼓で、太鼓の音がすばらしい。友枝喜久夫の謡に大倉長十郎の小鼓で、この編成だと小鼓の緩急強弱が分かりやすい。後藤得三はふんわりゆったりした動きを感じる。先代梅若万三郎の「松風」におおらかさを感じる。

・DVD『NHK能楽名演集 能 葵上 能 実盛』金春流 櫻間金太郎(弓川)、宝生新1936、 金春流 櫻間道雄、森茂好 1967
 「葵上」、きわめて古い映像記録とされる。英語の解説と英字字幕がつく。原作は「源氏物語」で、光源氏の正妻・葵上に嫉妬し生霊となってとりついた愛人・六条御息所を描く。前シテの生霊が女の嫉妬心をねちっこい陰険さと幾分の色気で舞う。後半鬼女となり心狂う憤怒の形相で舞い見ごたえがある。最後は浄化され去っていく。
 「実盛」、老武者斎藤実盛が老人だからとえこひいきされず正々堂々と戦うため、若武者に変装し最後の戦いに臨み、討ち取られた無念と名誉を幽霊となって舞う。実盛は史実の人物で敵として戦った木曽義仲の恩人であったため、歴史に名を残す。伝説では上人の前に現れたとも言う。実盛の名誉を凛々しく典雅にかっこよく舞い、次いで無念を抑制させつつ典雅に情熱的に舞う。幽霊の凄みより風趣をにじませ去って行き、無常が漂う。

・DVD『NHK能楽名演集 能 鞍馬天狗・白頭 能 恋重荷』観世流 梅若実、1958、観世流 観世銕之丞(雅雪) 森茂好 1969
鞍馬天狗が剣術を教えるため薙刀による舞を舞うのはほんの少しだが、そこがクライマックス。遮那王(牛若丸)が引きとめた後余韻をもたせるがすぐ引っ込む。幼いながらも子方:梅若景英に存在感がある。
 片恋の荘司には哀愁が漂う。亡霊は凄みより恨みつらみを言う恋に殉じた女々しさをすら感じる。女御はいやみな女としては描かれていず、恋の理不尽を淡々と述べるのがよい。恋を通してこの世のどうにもならぬ理不尽・不条理を描く。

・DVD『NHK能楽名演集 能 羽衣 能 綾鼓』宝生流 野口兼資、松本謙三、52年、宝生流 高橋進、森茂好、78年
 「羽衣」、シテ野口は抑制しきった動きで、あっさりした動きに見える。姿勢はすっくとして美しいが、歩むと何やらたどたどしく見えて天女の舞うかのような軽やかさを感じられない。私の浅学さが分かる。
 「綾鼓」、シテ高橋の老人は前半あっさりした動きをし、さばさばと入水する。後半怨霊となっても凶暴さより恨み辛みを述べ、人の業の侘しさ悲しさを感じる。怨霊が女御に触れ綾鼓を無理に打たそうとする場面は、能には珍しく直接触るので、インパクトが強く官能的ですらある。

・DVD『NHK能楽名演集 能 通小町 能 鶴』喜多流 後藤得三、松本謙三、73年、喜多流 喜多実、81年
 「通小町」のツレ粟谷は、凛として強さと謎めいたものを醸し出す。僧への恨み言も強くきっぱりと見える。シテ後藤は小町へ恨みを述べるが、淡々としあきらめがあるかのように静謐謙虚でしおれていて哀れが出る。扇を開き舞うと急に凛とした雰囲気が出る。
 「鶴」は新作能で戦後昭和の作。シテ喜多実の鶴は最初女として登場し、赤衣で椅子に腰掛けるなど動かず背も低く見せるが、鶴の姿として白衣になると急にきらびやかになり背を伸ばし両腕の袖を大きく広げ、鶴が舞い上がる動きを躍動感すら感じるように舞う。新作能だからできる新しい振り付けといえようか。

・DVD『NHK能楽名演集 仕舞 一調 舞囃子集 全九曲』仕舞「実盛、頼政、笹之段、融、松風、羅生門」一調「橋弁慶」舞囃子「船弁慶・白浪之伝、清経、」梅若六郎、梅若恭行、大西信久、大坪十喜雄、櫻間金太郎、友枝喜久夫、宝生弥一、金剛巌、喜多六平太、1977,93、82、81、79、62
実盛、上記「鞍馬天狗」で子方だった景英が地謡で登場し成長しているのが分かる。六郎の声が朗々としていてよい。戦のハードアクション、老兵のわびしさ、無常観をあらわす。
 頼政、宇治川の合戦を描写し、勇ましさを訴える。はじめ腰掛け舞を抑制し謡を主とする。悲壮感よりすがすがしい型を感じる。最後は自害し果てるはかなさを描く。
 橋弁慶、謡と小鼓のコラボレーションの競演に熱が入る。
 笹之段、静かな舞だがきりっと締まっていてわびしさもある。
 融、厳しい抑制感がある。
松風、わびしい静けさ、静謐感がある。
羅生門、しみじみ風流に舞う。
 船弁慶・白浪之伝、平家の亡霊が長刀を持ち躍動感のある舞いでピカレスクのおもしろみを出す。歌舞伎風の子方がいる。他流派でも若者が演じるが子方なのは歌舞伎からの逆影響か。「白浪之伝」は金剛流独自の演出である。義経主従は船から動かず狂言師の漕ぎ手の漕ぐ動きが目立つ。そこへ縦横無尽に亡霊が舞い動と静の違いが明確化する。跡で白波だけが残るというのも動と静の違いで、始まりも静であることに気付く。
清経、動かぬ六平太14世、一種独特の緊張感、荘重さ、威風堂々たる雰囲気、腰が据わっている証拠だ。しかし謡いは今ひとつと感じた。声の衰えだろう。

・ビデオ『能のすべて 日本伝統芸能-鑑賞と指導』全6巻 斉藤耕一監督これも各要素を手際よく視覚的に説明していてよい。1巻30分。監督は斉藤耕一である。『津軽じょんがら節』『約束』で知られた名監督は以後このような仕事をしていたことを知った。名監督の一端としてフランスのフィルム・ノワールを思わせるシャープでクールな映像美を感じる。

・TV、「春日龍神、金春流」金春安明、宝生閑、大藏吉次郎、60分、’13 1/1

・TV、「新春能狂言 観世流 竹生島 女体」、梅若玄祥、角当直孝、野村四郎、三島元太郎、60分、’15 1/1 NHK-Eテレ、ダイジェスト
 初めに登場するあでやかな衣装でしとやかに佇み舟に乗る女性。変わり身をしての弁財天でのこの世ならぬ高貴にして浮遊するかのようなゆったりした舞。最後を飾る竜神の激しさ。季節は春爛漫花満開のうららかな陽春。ひたすら舞やしぐさを堪能できる作品。



☆狂言
・DVD『NHK能楽名演集 狂言 木六駄、武悪、見物左衛門』大蔵流 茂山弥五郎、茂山千五郎1959、和泉流 野村万蔵 1966、和泉流 野村万蔵 74
 木六駄、雪道を牛追う姿が滑稽。そそのかされ酒を飲むほどに止まらなくなり勢いが増し上機嫌になる様が予想通り愉快で、酔って舞う姿が見事でおもしろい。
武悪、太郎冠者が武悪を討たねばならぬが、討てずに泣き合うところが淋しくも滑稽だ。幽霊の振りをした武悪と主人が話し合う場面は愉快かつスリリングだ。武悪はうらみつらみを述べ責め立てられた主人が最後に逃げ回るのは滑稽かつ何か淋しい。
見物左衛門、一人芝居独演で、役者の技量が見もので、落語のように役者のせりふで周囲の光景が見えるかが課題、どこまで客を引き込ませられるかは、客にいかに話し掛け、わずかな動きに引き込むかの手練手管である。狂言独特の動きが確認しやすい。後半メインの相撲の取り組みが愉快だ。

・DVD『NHK 小さな狂言師誕生~野村萬斎・親子三代の初舞台~ 狂言「靭猿」』03年、110分
かの万蔵の息子が万作、万作の息子が萬斎、その息子が祐規三歳、万作、萬斎、祐規が魅せる。万作妻が言う、こうして狂言役者は作られる。そこには誇りと少しの哀しみがあると。猿に始まり狐に終わる狂言役者の出発点を記録する。稽古や公演を重ねて四歳になった祐規の舞台公演を鑑賞できる。稽古場面の緊迫した様子が貴重だ。

・DVD『NHK 万作・萬斎 狂言の世界』04年、151分  
3本のVHS作品を収録。「狂言師 野村萬斎 初舞台から襲名まで」’95 、「狂言師 野村萬斎 エイスケそしてニューヨーク」’98 、「野村万作『最後の狐に挑む』」’95 、
 萬斎の成長を100分掛けて見ることができる。他分野との緊迫したコラボも見られ狂言の可能性を感じさせる。父:万作の釣狐にかける情熱は凄みがある。万作による狂言演出の工夫も見られる。今もって演出は変化していることが分かる。

・三宅藤九郎
狂言役者、故人、特別重要無形文化財(人間国宝)。彼をはじめてみたのは、JR五反田駅南の喜多八能楽堂であった。登場してきたとき、なんやしょぼくれたじいさんやなあ、と思っていたら、突然生き生き演じ始め他の若い役者たちより、よっぽど若々しい演技で舞台をリードしていったのだ。それこそ人生にしょぼくれていた僕は、少し明るさをもらったのかもしれない。彼の頬が演技で上気して紅く染まっていき、響き渡る張りのある声を忘れられない。あとで彼が狂言界の重鎮であることを知った。

・ビデオ『狂言 鑑賞入門』全1巻
 30分の中でてきぱきと解説されているが、もう少し詳細で見たくなるような解説とはないものだろうか。


☆文楽   
・ビデオ『文楽 日本の伝統芸能 鑑賞入門』全5巻
なかなか親しみやすく各要素を紹介している。軽妙な司会で明るく展開していく。1巻30分。

○DVD『NHK国立劇場 人形浄瑠璃文楽名演集 通し狂言 菅原伝授手習鑑 vol.1』
初段:
・「大序 大内の段」(72年5月、22分、モノクロ)豊竹松香太夫、豊竹英太夫、鶴澤叶太郎、吉田栄三、吉田辰五郎

 モノクロで古びていても出演者はきびきびしている。
・「加茂堤の段」(96年9月、22分、カラー) 竹本三輪太夫、竹本貴太夫、鶴澤八介、桐竹紋寿、吉田文吾、吉田玉幸、桐竹一暢
 恋のデートのしっぽりさと桜丸と三善のつばぜりあいがよいです。ここから物語が動き出すという感じです。
・「筆法伝授の段」(96年9月、62分、カラー) 竹本綱太、鶴澤清二郎、吉田玉男、吉田文雀、吉田文昇
 源蔵が登場し寺子屋の布石です。源蔵と丞相の抑えた感じがよい。
・「築地の段」(96年9月、20分、カラー)豊竹呂勢太夫、野澤喜一朗、吉田玉男、吉田文雀、吉田玉幸
 救出劇のサスペンス。義太夫の太棹、太い声と人形の演技がなんともいえない余情をかもし出す。なお録画内容は年代が違うものがあり、統一されていないはずだが、内容や人形の統一性があるため、違和感はさしてない。

○DVD『NHK国立劇場 人形浄瑠璃文楽名演集 通し狂言 菅原伝授手習鑑 vol.2』
二段目:
・「道行詞甘替」(72年5月、24分、モノクロ)竹本南部太夫、豊竹嶋太夫、野澤松之輔、竹澤団六(現・鶴澤寛治)、吉田玉男、吉田文雀、桐竹一暢

 しっぽり踊り恋の余情の見せ所。
・「安井汐待の段」(72年5月、22分、モノクロ) 豊竹呂太夫、鶴澤清治、吉田玉男、四代豊松清十郎、 
 淋しさを漂わせる大人の場面。
・「杖折檻の段」(02年4月、30分、カラー) 豊竹咲太夫、豊澤富助、吉田文雀
 親子の情愛と切なさを見せ付けつつ抑制された演出が最高。
・「東天紅の段」(83年1月、16分、カラー) 豊竹呂太夫、鶴澤清友、二代桐竹勘十郎、四代豊松清十郎、吉田玉幸
 残酷なサスペンスドラマの見せ所。
・「丞相名残の段」(83年1月、71分、カラー) 竹本越路太夫、鶴澤清治、吉田玉男、二代桐竹勘十郎、吉田文雀
 奇跡と荒事の伝奇サスペンスははらはらどきどきでやがて溜飲が下がる。

○DVD『NHK国立劇場 人形浄瑠璃文楽名演集 通し狂言 菅原伝授手習鑑 vol.3』
三段目:
・「車曳の段」(59年、24分、モノクロ) 豊竹山城少掾、八代竹本綱太夫、豊竹つばめ太夫(竹本越路太夫)、竹本津太夫、鶴澤藤蔵、吉田難波掾、吉田玉助、吉田栄三、吉田玉市

 三兄弟の荒事、時平のすごみがよい。悪はやっぱこうでなくちゃ。
・「茶筅酒の段」(88年4月、33分、カラー) 竹本伊達太夫、竹澤団七、吉田玉男
 白太夫と三兄弟妻のちょっとコミカルな演出がとても好き。サスペンスの緩叙楽章。
・「喧嘩の段」(88年4月、15分、カラー) 豊竹呂太夫、鶴澤燕二郎(現・鶴澤燕三)、吉田文昇、桐竹紋寿、吉田文吾、吉田玉幸
 相撲場面が秀逸。
・「桜丸切腹の段」(88年4月、49分、カラー) 竹本越路太夫、鶴澤清治、吉田玉男、吉田簑助、桐竹一暢
 桜丸の武士の意地、白太夫、八重の悲しみ、泣かせるね。

○DVD『NHK国立劇場 人形浄瑠璃文楽名演集 通し狂言 菅原伝授手習鑑 vol.4』
四段目:
・「天拝山の段」(02年4月、39分、カラー)竹本伊達太夫、鶴澤寛治、吉田玉男、桐竹一暢

 のどかな田園風景の梅見、その後のすさまじさは見栄えする。
・「北嵯峨の段」(72年5月、15分、モノクロ) 豊竹嶋太夫、竹澤団二郎(現・竹澤団七)、桐竹亀松、吉田簑助、吉田文雀、吉田文昇
 八重の大立ち回り、殺陣と悲しい最期。
・「寺入りの段」(88年4月、12分、カラー)竹本緑太夫、竹澤団治(現・竹澤宗助)、吉田簑助、吉田文昇
 一見寺子屋入門のように見えて母子今生の別れをそっと見せる。
・「寺子屋の段」(88年4月、69分、カラー) 竹本織太夫(現・竹本綱太夫)、五代鶴澤燕三、吉田簑助、吉田文雀、吉田文昇、吉田文悟
 やっぱここです。ぎりぎり引き絞った手綱から滴る涙の場面、笑顔で坊やが首を差し出したというところで武士の子の忠義と義理、切なさが溢れる。
五段目:
・「大内天変の段」(72年5月、21分、モノクロ)豊竹英太夫、野澤勝之輔、吉田玉男、吉田辰五郎、吉田文昇

 幽霊、敵討ち、悪の滅び、大団円で溜飲を下げさせきる。ところで、もっと敵討ちを派手にかっこよく決めてほしかったのだけれど。


・ビデオ『文楽 日本の伝統芸能 鑑賞入門』全5巻
なかなか親しみやすく各要素を紹介している。軽妙な司会で明るく展開していく。1巻30分。



☆舞楽
 
・舞楽「陪臚」宮内庁式部職楽部、NHK-Eテレ ’15 1/1  20分
 2段構成:陪臚破、新羅陵王急。数十年前の宮内庁式部職楽部による雅楽の舞のビデオのイメージが残っていて、結構バランスを崩しそうだったり、動きが鈍かったりすることが素人目にも分かる内容で、あまり練習していないのではないかというものだった。しかしさすが近年はよく訓練された整った舞を見せるようだ。4人の舞がシンクロされきちんと同調された動きでバランスもきっちりとれ美しい舞になっていた。









歌舞伎

2015-02-01 18:36:15 | 舞台芸能批評
☆歌舞伎
・DVD『NHK歌舞伎名作撰 一本刀土俵入』中村歌右衛門、中村勘三郎
歌右衛門(人間国宝)のお蔦のすれっからしな退廃的雰囲気と圧倒的存在感はよいが、年の頃24~5という設定では無理を感じる。ずうずうしい存在感の情をうちにもった生活に疲れたおばさんだ。男のお人よしの善人さは残しつつも前半と後半での設定代わりはよい。最後のせりふは泣かせる。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 本朝二十四孝 平家物語健礼門院』中村歌右衛門
 恋心抱く若い八重垣姫を歌右衛門が芸達者に見せる。艶っぽい濡衣を中村芝翫が好演。
 健礼門院の枯れた味わいに歌右衛門の至芸を感じろということだろうが、苦手。

・ DVD『NHK歌舞伎名作撰 恋飛脚大和往来 封印切』中村鴈治郎、中村扇雀
 どうも今ひとつ気に入らないが、上方歌舞伎の名優による定番である。鴈治郎の当たり役、忠兵衛。梅川は扇雀。八衛門は定番の我當。おえんに片岡秀太郎。NHKによる07年初春舞台中継では梅川が秀太郎であった。柔らかな味わいの中に芯の強さ、情の機微を感じろということだろうが、どうも苦手。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 伊勢音頭恋寝刃』片岡孝夫 中村雀右衛門
「野原地蔵前の場」は狂言風追い駆けがコメディ風で良い。だんまりと万野の意地悪も味があって良い。片岡孝夫演ずる貢の頼りなくニヒルな役、勘三郎のかっこよさがよく出ている。殺陣シーンのスローモーション風なところがおどろおどろしい不気味な迫力があってよい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 勧進帳』弁慶:市川團十郎 富樫:中村富十郎 義経:尾上菊五郎97年2月 歌舞伎座
ビデオ「歌舞伎鑑賞入門」と同じ配役の同一映像であるが、これは全編ノーカットで堪能できる。主演三人の個性の出し方がよい。またコミカルさ、けれんみ、展開の妙、どれをとってもよい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 一の谷嫩軍記 熊谷陣屋』直実:松本幸四郎 相模:中村雀右衛門弥陀六: 市川左團次 義経:市川染五郎 藤の方:中村松江(魁春) 03年1月 歌舞伎座
幸四郎が清新でいやみがなくてよい。最後の泣かせもよい。染五郎の義経は動きのない中に品格と抑制された思いがにじみ出ている。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 菅原伝授手習鑑 寺子屋』松王丸:八世松本幸四郎(白鴎) 千代:二世中村鴈治郎 戸浪:中村芝翫 武部源蔵:十三世片岡仁左衛門 75年1月 歌舞伎座
幸四郎と鴈治郎がよい。「せまじきものは宮仕え」をしていかねばならぬ仁左衛門の苦味がよい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 野田版 研辰の討たれ』守山辰次:中村勘九郎 平井市郎右衛門:板東三津五郎 萩の江:中村福助 01年8月 歌舞伎座
抱腹絶倒。歌舞伎というより歌舞伎役者による現代風時代劇。勘九郎の台詞回しや所作がよい。抑制された歌舞伎美とは違い、過剰なまでに動き回りながらも、歌舞伎同様抑制された思いを出す演出、演技がよい。多分年に一度の歌舞伎座の余興フェスティバルで企画されたのではなかろうかと思うが、このような新名作までもが生まれでようとはたいしたものだ。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 天衣紛上野初花 河内山』宗俊: 中村吉右衛門 松江公:中村梅玉 市川左團次 板東弥十郎 99年1月 歌舞伎座
タイトルは「くもにまごう…」と読む。吉右衛門のけれんみ、今風で言うとちょいわるおやじが絶妙。これこそ歌舞伎のワルの醍醐味。獅童がせりふもない役で出ている。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 義経千本桜 川連法眼館の場、奥庭の場、蔵王堂花矢倉の場』忠信:市川猿之助 静御前:坂東玉三郎 92年12月 歌舞伎座
かつてスーパーカブキと呼ばれた猿之助お得意の芸だ。かつて私の大学の担当教授は猿之助は歌舞伎にあらずとまで断じたし、玉三郎にしても歌舞伎の芸に至っていないと手厳しかったが、今や立派な歌舞伎の一つのようです。二十数年も前、歌舞伎座で猿之助スーパーカブキ「義経千本桜」史上初の全編通し上演を見に行ったことを思い出す。宙吊りやぶっ返り、七変化に胸躍らせたものだ。
そのスピード感、そのど派手な演出、アクションに次ぐアクション、それは保守的には歌舞伎にあるまじきものだが、それこそが江戸の三悪所のひとつと云われた芝居、歌舞伎の醍醐味、エンターテインメントを掛け値なく知らしめてくれる。そして20数年前に見たものより、さらにスピード感、集団アクション(殺陣)が増している。玉三郎が妖艶だ。
 
・DVD『NHK歌舞伎名作撰 藤娘、保名、鷺娘』藤の精:七世尾上梅幸 安倍保名: 中村芝翫 鷺の精: 坂東玉三郎 87年5月、03年1月 歌舞伎座 02年5月 南座
梅幸の動きはしなやかで、娘らしく上品でよいが、でもちょっと、…。芝翫の崩れたようなデカダンな雰囲気はよい。玉三郎最高、ぞくぞくする。計算されつくした舞いだ。ただ後姿の色気は歌右衛門にはかなわない。玉三郎は十年後には人間国宝だろう。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 英執着獅子、隅田川』獅子の精: 中村雀右衛門 斑女の前: 中村歌右衛門 舟人:十七世中村勘三郎 01年5月 歌舞伎座
「英執着獅子」は能の「石橋」に材をとり、傾城の色気も加味して、ゴージャスな舞台にしたものだ。雀右衛門の色気と勇壮な動きが絶品。
「隅田川」は歌右衛門と勘三郎が見事、歌右衛門の演ずる悲しみと物狂いは、これこそ最高の演技、それを見つめる勘三郎が派手な演技をするわけではなく、かといって引きすぎることもなく、一見飄々としているが、たまらなく胸かきむしる、せつなさを訴える。二人の息がぴったりで最高の舞台だ。ベスト・オブ・カブキである。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 勧進帳』弁慶:七世松本幸四郎 富樫:十五世市村羽左衛門 義経:六世尾上菊五郎43年11月 歌舞伎座
富樫は威厳と凄みもあってよい。今の役者にとってはこれがスタンダードなのだろう。そのため凄みはあまり感じられない。長唄との息、弁慶の舞などさすが。ただ古い記録なので白黒で音響は今ひとつであるが、半世紀前の舞台映像を見られること自体が素晴らしい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 スーパー歌舞伎 ヤマトタケル』市川猿之助 中村歌六 市川段四郎 95年4月 新橋演舞場
猿之助スーパー歌舞伎の確立作。現代的エンターテインメント、歌舞伎の様式美、感動といった諸要素を並立させた一大叙事詩。歌舞伎の歴史、いや日本演劇史に名を残したといってよい。古典歌舞伎の様式からはだいぶずれているが、あらたなる歌舞伎の可能性を示した。

・DVD「NHK歌舞伎名作選、達陀・二人椀久」70年4月NHKスタジオ、二世尾上松緑、尾上菊之助(現・菊五郎)、初世尾上辰之助(三世尾上松緑)、中村富十郎、中村雀右衛門
 「達陀」は、いかにも僧の踊りが現代的シャープかつすっきりしている。女人と僧の踊りもおどろおどろしさがなく、すがすがしささえ味わえてシャープ&ドライで好感がもてる。
 「二人椀久」は、富十郎と雀右衛門により、熟しきって腐る寸前のような怠惰な色気が漂う。
・DVD『NHK歌舞伎名作撰 白浪五人男 浜松屋の場から滑川土橋の場まで』弁天小僧菊之助: 尾上菊五郎 南郷力丸:初世尾上辰之助 日本駄右衛門:市川左團次 忠信利平:坂東彦三郎 赤星十三郎:中村時蔵 86年12月 歌舞伎座
 歌舞伎の醍醐味に尽きる。菊五郎、辰之助コンビはまだ今ひとつといった印象だが、若々しくよい。菊五郎にはもっと娘っぽい色気があるとよいが、そこも今ひとつ。極楽寺屋根上の殺陣は見事。辰之助の力丸と名将の演じ分けはすがすがしい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 慙紅葉汗顔見勢(はじもみじあせのかおみせ) 伊達の十役 稲村ヶ崎の場~問注所白州の場』十役:市川猿之助 86年 歌舞伎座、177分
 「伽羅先代萩」の構図を借り、伊達騒動による勧善懲悪劇を見せる。芝居の魅力はなんといっても猿之助の十役早替り計四十数回というものだ。鶴屋南北のサスペンス・ミステリー・スペクタクル・エンターティンメントでスケールの大きな脚本がいい。無論猿之助の演出がいい。彼のスーパーカブキのよさが全開している。彼のワンマンショーといえるが、九世澤村宗十郎、三世實川延若が脇をしっかり固めている。一回早替りが早すぎて分からないところがある。猿之助のどすの効いた立役男役もいいが、女形もなかなかである。得意の宙乗りもあり、サービス満点だ。昔主任教授に猿之助のものは歌舞伎ではないとあっさり否定されたが、今となっては現代歌舞伎の改革路線の一つだったといえよう。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 義経千本桜 渡海屋の場、大物浦の場』渡海屋銀平・実は新中納言知盛: 片岡仁左衛門 源九郎判官義経:中村福助 相模五郎:中村勘九郎(現・勘三郎) 入江丹蔵:坂東三津五郎 04年 歌舞伎座、108分
今を盛りの役者多数出演で粋のいい演技を堪能できる。芝翫が長老格だ。おかしみ、殺陣、しんみりなどを中堅どころが生き生きした舞台で見せる。今の仁左衛門がダーティなよさを見せ付ける。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 伊賀越道中双六 沼津 沼津棒鼻の場、平作住居の場、千本松原の場』呉服屋十兵衛:先代:二世中村鴈治郎 平作娘:中村扇雀(現・坂田藤十郎) 雲助平作:十三世片岡仁左衛門 80年 歌舞伎座、109分
 鴈治郎、仁左衛門による最初のコミカルなやり取りはつかみとしてよく、上品な味わいを出す。扇雀のたおやかさ、しおらしさ、色気はほどよい。非業の最期をじわじわと醸し出していく手綱さばきは見事。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 新皿屋鋪月雨暈 魚屋宗五郎・茨木 魚屋宗五郎内の場、磯部邸玄関先の場』魚屋宗五郎:2世尾上松緑 女房おはま:7世尾上梅幸  68年、82年 NHKにて収録、104分
酔っていく様と啖呵の切り方が見所。
渡辺綱と茨木童子の優雅、哀れ、雄々しさ、怒りの渡り合いは見所満載。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 祇園祭礼信仰記 金閣寺』将監息女雪姫:中村雀右衛門 松永大膳:松本幸四郎 慶寿院尼:澤村田之助 此下東吉・真柴筑前守久吉:尾上菊五郎 03年 歌舞伎座、96分
 いかにも歌舞伎らしいけばけばしさと何でもいいとこ取りのご都合主義さがよい。けばい夢に酔える舞台。幸四郎の悪党は豪傑振りとシニカルなニヒルさ誠実さも併せ持った二枚目悪党振りでいい。雀右衛門の哀れさ清々しさ色気がいい。
 
・DVD『NHK歌舞伎名作撰 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 大序・鶴ヶ岡社頭兜改めの場 三段目・足利館門前進物の場/足利館松の間刃傷の場 四段目・扇ヶ谷塩冶判官切腹の場/扇ヶ谷表門城明渡しの場』高師直:2世尾上松緑 塩冶判官:7世尾上梅幸 桃井若狭之助・石堂右馬之丞:17世市村羽左衛門 顔世御前: 中村芝翫 足利直義:中村福助 大星由良之助:8世 松本幸四郎 薬師寺次郎左衛門:3世河原崎権十郎 大星力弥: 中村勘九郎(現・勘三郎)  77年11月 歌舞伎座、190分
 豪華絢爛なる大序、歯がゆさと滑稽の三段、四段の荘厳と悲哀、憤怒。疾風怒濤のドラマ展開。切腹の作法も分かる。色と欲がドラマの始まり、さまざまなる人間模様が綾を成していく。演技、演出がまたドラマを盛り上げよい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 道行・道行旅路の花聟 五段目・山崎街道鉄砲渡しの場/山崎街道二つ玉の場 六段目・与一兵衛内勘平腹切の場』早野勘平:17世中村勘三郎 腰元おかる:7世尾上梅幸/6世中村歌右衛門 鷺坂伴内:中村又五郎 不破数右衛門:17世市村羽左衛門 斧定九郎:市川海老蔵(現・團十郎) 千葉政五郎:3世河原崎権十郎 3世片岡我童  77年11月 歌舞伎座、154分
 道行きのあでやかさ色気華やかさあやうさが、後の生活感、非業さに対比する。おかるの色気、尽くす思いの女房ぶり。勘平の誠実さ悲しみ執念をいかに表すかである。ドラマティックなつくりがやっぱり水際立った演技を引き立たせる。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 七段目・祇園一力茶屋の場』大星由良之助: 2世尾上松緑 遊女おかる:6世中村歌右衛門 寺岡平右衛門: 8世 松本幸四郎 大星力弥: 中村福助(現・梅玉) 77年11月 歌舞伎座、106分
 遊び浮かれるさまと後半の手紙を見られてからの深刻さの対比がドラマティック。松緑、歌右衛門がひきしまる。
 
・DVD『NHK歌舞伎名作撰 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 九段目・山科閑居の場 十一段目・高家討入りの場(高家討入りの場/同 大広間の場/同 奥庭 泉水の場/同 炭部屋本懐の場)』戸無瀬: 6世中村歌右衛門 加古川本蔵: 8世 松本幸四郎 大星由良之助:13世片岡仁左衛門・2世尾上松緑 お石: 中村芝翫 大星力弥:3世實川延若・中村福助(現・梅玉)  小浪: 中村雀右衛門 小林平八郎:中村富十郎 高師泰:市川男女蔵(現・左團次) 竹森喜多八:中村勘九郎(現・勘三郎) 78年1月、77年11月 歌舞伎座、123分
 「山科閑居」の雀右衛門は可愛い。歌右衛門は深い思いがあってあのように刀を振るうのだろうが、やけに軽々と流麗に振るようで、切りたくないのにという思いや、いかに武家の妻とはいえ普段主人の剣を持ち振ることはなかろうから、もっと重そうに不器用に嫌々持ってほしいなどと、歌右衛門の思慮が分からぬ浅学な私は思った。幸四郎、仁左衛門の絡みが良い。特に誠実さと落ち着きが出る仁左衛門最高。
 討入りは近代の改作で近代風だ。テンポ速く、殺陣シーンのオンパレード。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 雷神不動北山桜 毛抜・鳴神』粂寺弾正: 市川團十郎 腰元巻絹:中村時蔵、鳴神上人:9世市川海老蔵 雲の絶間姫: 7世尾上梅幸 粂寺弾正:17世市村羽左衛門  05年、歌舞伎座、56年、明治座 157分
 「毛抜」、團十郎のおおらかさひょうきんさ豪快さが親近感をもたせる。家老玄蕃の憎々しさはこれでもいいが、もっと憎たらしいといいのだが。 若菜の右之助がきれい。勅使の抑えた上品さと人情味がよい。
 「鳴神」、梅幸はこれでいいが、個人的好みとしてはもっと色っぽい女形の方がいい。上人が色香に迷い堕落し、女の尻に敷かれるさまは笑え肯定的でおもしろい。上人が姫の体を触る場面はこの演出ではあっさりしていたが、もっと細かく扇情的な演出もある。どちらを好むかは人次第か。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 助六由縁江戸桜』花川戸助六・実は曽我五郎: 市川團十郎 白酒売新兵衛・実は曽我十郎:尾上菊五郎 曽我満江:澤村田之助 髭の意休・実は伊賀平内左衛門: 市川左團次 くわんぺら門兵衛:市川段四郎 三浦屋揚巻: 中村雀右衛門 03年1月 歌舞伎座、119分
 それぞれのキャラクターが明確で分かりやすい。だからといって単純平板な人物ではなく、腹に逸物もちつつ実は何とかだが、身をやつしているといった設定で、歌舞伎にはよくある設定である。そのことが人物を膨らめ人物造形をはっきりさせ魅力的にする手立てになっているようだ。途中のおちゃらけも楽しい。團十郎はすっきり二枚目かっこいい。歌舞伎はやっぱりエンターテインメント。豪華絢爛な舞台。
 
・DVD『NHK歌舞伎名作撰 梶原平三誉石切』梶原平三景時:中村吉右衛門 青貝師六郎太夫: 市川左團次 娘・梢: 中村時蔵 大庭三郎景親: 中村富十郎 99年 歌舞伎座、85分
 吉右衛門が抑えつつもすっきりした二枚目でいい。泣き、情け、見得などがほどよく配合されているが、大庭方の富十郎と橋之助がもっと嫌みたらしいといい。奴や囚人にもっとおかしみがあるとメリハリがつくかも。景時を善玉に描くものはこれくらいか。さわやかな後見心地の作。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 曽我綉侠御所染 御所五郎蔵 序幕 五条坂仲之町甲屋の場 二幕 第一場 甲屋奥座敷の場 第二場 廓内夜更の場』御所五郎蔵: 尾上菊五郎 傾城皐月: 中村芝翫 星影土右衛門: 市川左團次 甲屋与五郎:坂東三津五郎 01年 歌舞伎座、73分
 前半は七五調美文調のせりふ劇の楽しさ、立て板に水のような次から次への颯爽としたせりふのやり取りは心地いい。終盤の殺陣シーンは相手によって趣向が変わり見せ場たっぷり。傾城逢州の尾上菊ノ助は凛として若々しく色気もあってよい。人への隠された思い、激変する感情などの見せ場も多い。割り台詞のテンポがいい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 黒塚』老女岩手・実は安達原の鬼女: 市川猿之助 阿闍梨祐慶: 9世澤村宗十郎 強力太郎吾: 市川段四郎 山伏太郎坊:市川門之助 山伏讃岐坊:市川右近 95年7月 歌舞伎座、78分
 猿之助の老女、鬼女がよい。激しい舞はたいしたもの。阿闍梨との対決シーンは娯楽スペクタクル。老女の糸車シーンも風情があってよい。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 棒しばり・年増・供奴』奴菊平: 中村富十郎 お柳: 中村芝翫  次郎冠者: 中村勘九郎(現・勘三郎) 曽根松兵衛:坂東弥十郎 太郎冠者:坂東三津五郎 04年,02年、84年 歌舞伎座、76分
 棒しばり、狂言の演出をほぼそのまま持ち込んだ「松羽目物」。より娯楽色を強め、滑稽で舞の魅力もたっぷり楽しめるようになっている。勘九郎と三津五郎の舞が見事。せりふも狂言のものを踏襲している。
年増、芝翫の舞は若々しくすがすがしく凛としつつほんのり色気が漂う。いかにも24~5歳の年増を魅せる。
供奴、富十郎の舞は、少し滑稽かつ軽妙で若々しい男舞。元気な和製古式タップ。

・ DVD『NHK歌舞伎名作撰 極付幡随長兵衛 禰宜町 村山座舞台の場 花川戸 長兵衛内
の場 麹町 水野邸座敷の場 水野邸湯殿の場』幡随長兵衛: 松本幸四郎 水野十郎左衛門: 尾上菊五郎 長兵衛女房 お時:中村芝翫 唐犬権兵衛: 中村勘九郎(現・勘三郎) 坂田兵庫之助公平: 市川左團次 88年 歌舞伎座、92分
 舞台上での劇中劇の左團次がよい。見得を切ってばしっと決めていながら、トラブルで進行が止まり再度やり直すところは狂言回しとしてユーモアをうまく出す。その場面で登場してくる幸四郎が優しく威風堂々としていてよい。人情味と男っ気をうまく引き出す。ストーリー展開の持っていき方、特に最期への展開が何か腑に落ちない。

・DVD『NHK歌舞伎名作撰 壇浦兜軍記 阿古屋』遊君阿古屋: 坂東玉三郎  岩永左衛門致連: 中村勘九郎(現・勘三郎) 秩父庄司重忠: 中村梅玉 ‘02 歌舞伎座、76分
 玉三郎の琴、三味線、胡弓は絶品。そして色っぽい。梅玉のさわやかさ雄々しさもよい。勘九郎の人形振りが悪さと滑稽さと何か人のよさが出る。


・ビデオ『歌舞伎の魅力』全5巻 監督:羽田澄子
説明付きで各場面のダイジェストを見るというのは人によってはうっとうしかろうが、各場面の各要素が分かりやすくてよい。ただ1巻30分は短い。第2巻は片岡仁左衛門特集の30分間である。私は見たことがないが、あの大長編文化映画『片岡仁左衛門』で知られた女性監督の作品である。第2巻はその一部ということなのだろう。

・TV、「平成中村座ニューヨーク公演 法界坊 ‘07」  ’12 12/30    
 勘三郎(当時先代勘九郎)のコミカルさと荒事っぽさを存分に発揮、橋之助、新之助等もよい。芝居のおもしろさ、生の舞台の臨場感、ライヴ感、スピード感、生きてあるという存在感、そこから湧き出す生き物のパフォーマンスを大事にしていたのか。
歌舞伎界戦後昭和の改革者はスーパーカブキ創始者先代猿之助、平成の改革者は勘三郎であった。まだこれからというときに日本演劇界、いやさ日本文化界は偉大な改革者を失った。
・TV、「京都南座顔見世大歌舞伎」、「仮名手本忠臣蔵」五・六段目、片岡仁左衛門、市川左團次、中村時蔵、片岡秀太郎、「寿曽我対面」中村勘九郎襲名披露、   ’12 12/31   

・TV、大坂松竹座、東京新橋演舞場から生中継、「義経千本桜・四の切」市川猿之助・秀太郎・扇雀、「仮名手本忠臣蔵・七段目」幸四郎、吉右衛門、芝雀、150分、’13 1/2  
 新猿之助の忠信狐はよかった。前猿之助の名跡をしっかり引き継いでいけるだろう。香川照之こと市川中車も歌舞伎役者として始動したようだ。

・TV、こいつぁ春から~初芝居生中継、「劇場のにぎわいと初芝居の模様を生中継、四代目中村雁治郎」、150分、’15 1/2 NHK-Eテレ 
 「封印切り」:雁治郎の封印切りは基本線、藤十郎路線を引き継いでいる。
「廓文章」:しっぽり濡れるならこれ。
「棒しばり」:この狂言演目の歌舞伎を初めて見た。エンターテインメント性十分で、面白く見られた。
「黒塚」:新猿之助と新之助の若々しさ堪能。
「四代目中村鴈治郎襲名披露口上」
「金閣寺」:中村七之助が若々しくすがすがしい色気が漂う。
「蜘蛛の拍子舞」:玉三郎が色気と毒気を出す。
「一本刀土俵入」:松本幸四郎が魅せる。
「番町皿屋敷」:
「女暫」:玉三郎が凛々しい。
「寿曽我対面」:
「河内山」:片岡仁左衛門
「将軍江戸を守る」:
「春調娘七種」:若手役者が浅草に集結
「一條大蔵潭」:
「独楽売」:
「仮名手本忠臣蔵五段目六段目」:
「猩々」:若手浅草歌舞伎七人衆
「俄獅子」:
「石川五右衛門」:漫画作者による新作、海老蔵。南禅寺山門からの絶景かなもある。新橋演舞場。





芸能批評、オペラ-2

2014-03-22 13:52:18 | 舞台芸能批評

☆DVD厳選コレクション珠玉の名作オペラ

・第1巻「魔笛」モーツァルト作曲、2001年、158分、イヴァン・フィッシャー:指揮、ベンノ・ベッソン:演出、パリ国立歌劇場管弦楽団・合唱団、ピョートル・ベチャーラ、ドロテーア・レシュマン、デトレフ・ロート、マッティ。サルミネン、デジレ・ランカトーレ、
 演出、衣装ともに楽しく、愉快、おとぎ話らしい、明るい華やかな原色系色彩が、日本人にとっても親しみやすい。ジングシュピールだとミュージカルやオペレッタのようにして見ていける。オペラ入門に最適。モーツァルトのメロディが伸びやかで、かつフリーメイソンの儀式音楽に配慮しているそうで、フリーメイソン思想の音楽化といえるらしい。

・第2巻「リゴレット」ヴェルディ作曲、06年、127分、ネッロ・サンティ:指揮、ジルベール・デフロ:演出、チューリヒ歌劇場管弦楽団・合唱団、ピョートル・ベチャーラ、レオ・ヌッチ、エレナ・モシュク、ラースロー・ポルガール、カタリーナ・ピーツ、
 舞台・衣装ともに変に古風や前衛を気取らずすっきりしつつも必要なけばけばしさはあり、必要な清楚さは強調されるというネオ・モダンで好ましい。抑え目な演出、歌、演奏ともに必要な抑制感があり好ましい印象を与える。人間の嫌味と純情さをサスペンスフルに哄笑と憎悪、冷徹さで見せる。最後はヴェルディいつもの通りの悲劇だが、妙に現代的なアイロニーに富んだサスペンスで、喪失感を最後に覚える。ヴェルディにとってのヒロインは純情一徹でそれが理想的女性像で、創作意欲をかきたてるのだろう。チューリヒ歌劇場の小作りな舞台が好ましい。

・第3巻「タンホイザー」ヴァーグナー作曲、94年、192分、ズービン・メータ:指揮、デイヴィッド・オールデン:演出、バイエルン国立歌劇場管弦楽団・合唱団、ルネ・コロ、ヤン・ヘンドリク・ロータリング、ベルント・ヴァイクル、ナディーヌ・セクンデ、
 出だしの荒涼とした孤独な風景の中に一人、次いで悪夢のような群集劇、モダンコンテンポラリーな演出に現代人の自分に引き付けて共感を誘う。メータの指揮は質実剛健でじわじわ盛り上げよい。現代演劇的な演出で歌手にも演技を要求するので、歌手は演技に苦労しただろう。

・第4巻「ラ・ジョコンダ」アミルカーレ・ポンキエッリ作曲、1986年、169分、アダム・フィッシャー:指揮、フィリッポ・サンジュスト:演出・装置、ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団・バレエ団、エヴァ・マルトン、プラシド・ドミンゴ、マッテオ・マヌグエッラ、ルドミラ・セムチュク、クルト・リドル、
 ポンキエッリの音楽は朗々としつつ、合唱に迫力があり、甘さと壮大さのブレンドが見事で聴ける。台本の構成はボーイトがヴェルディ「オテロ」を真似したようだが、ヒロインの雰囲気はなんだか「トスカ」を思わせるのは、私の見当違いか。ドラマティックにあまやかにいかにもイタリアン。

・第5巻「フィデーリオ」ベートーヴェン作曲、1991年、150分、クリストフ・フォン・ドホナーニ:指揮、アドルフ・ドレーゼン:演出、コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団・合唱団、ガブリエラ・ベニャチコヴァー、ヨゼフ・ペロチュカ、ロバート・ロイド、マリー・マクローリン、モンテ・ペダーソン、
 音楽がベートーベンでちょっと硬くて厳しそうで重いところが、既成の甘く叙情的に盛り上げるのと違い、ハードかつヘヴィーでよい。無実の罪で囚われ殺されそうになる夫をすんでの処で救う妻というスリルとサスペンスに富む展開と、硬質な音楽が絡んで、好きな人にはよい。自由を希求し権力に屈しないという話がベンちゃん好みだったので作曲したのでしょう。ただし彼のオペラがこれ一つなのはこの自由主義的で反権力的な態度のため依頼しにくかったようです。ちょいとコミックなところもわざとはいっていて一応オペラらしく娯楽っぽい雰囲気は出している。


芸能批評、オペラ

2014-03-22 13:51:38 | 舞台芸能批評
☆オペラ
・ビデオ『オペラ大全集』ポリグラム全33巻より
1.「フィガロの結婚」全曲1、モーツァルト、カール・ベーム:指揮、演出:ジャン・ピエール・ポネル、ウィーン・フィル、ディートリッヒ・フィッシャー・ディースカウ、キリ・テ・カナウ、ミレッラ・フレーニ、ヘルマン・プライ、102分、音声75年12月、映像76年6月
序曲の演奏やいかにかすばらしきかなである。プライとディースカウの二大ドイツ歌手共演はよい。モーツァルトの皮肉の効いた快活なコメディオペラをウィーンフィルとベームの音が引き締める。演出と歌手も快活さと手堅さを両立させじっくり聴ける作品に仕立て上げている。
 音を前もって録音し、スタジオで映画録画して、より自然なドラマになっている。
2.「フィガロの結婚」全曲2、モーツァルト、カール・ベーム:指揮、演出:ジャン・ピエール・ポネル、ウィーン・フィル、ディートリッヒ・フィッシャー・ディースカウ、キリ・テ・カナウ、ミレッラ・フレーニ、ヘルマン・プライ、80分、音声75年12月、映像76年6月
 後半のドラマに一気にのめりこませる。
3.「魔笛」全曲、モーツァルト、サヴァリッシュ:指揮、演出:アウグスト・エファーディング、バイエルン国立歌劇場管弦楽団、クルト・モル、フランシスコ・アライサ、エディタ・グルベローヴァ、ルチア・ポップ、160分、93年、ミュンヘン・バイエルン・ライヴ、
 けっこう地味な演出で目新しさはないが、堅実できっちり聴ける。スタンダードを知るのによい。
4.『後宮からの誘拐』全曲、モーツァルト、
 *視聴不能。
5.「椿姫」全曲、ヴェルディ、サー・ゲオルグ・ショルティ:指揮、演出:、コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ管弦楽団、アンジェラ・ゲオルギュー、フランク・ロパード、レオ・ヌッチ、リー・マリアン・ジョーンズ、ロビン・レガーテ、ジリアン・ナイト、134分、94年12月、コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウス・ライヴ、
 ゲオルギューがよい。甘くドラマティックな音楽がうまく最後までもっていかせる。ショルティの質実剛健な演奏もマッチするのだろう。
6.「アイーダ」全曲、ヴェルディ、ジェイムズ・レヴァイン:指揮、演出:、メトロポリタン歌劇場管弦楽団、ディミトリ・カヴラコス、ドローラ・ツァーイック、アプリーレ・ミッロ、プラシド・ドミンゴ、パータ・プルチュラーゼ、シェリル・ミルンズ、157分、89年10月、メトロポリタン歌劇場ライヴ、
 ドミンゴがやはりよいです。
7.「オテロ」全曲、ヴェルディ、ヘルベルト・フォン・カラヤン:指揮・演出、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ジョン・ヴィッカーズ、ミレッラ・フレーニ、ピーター・グロソップ、ステファニア・マラグー、アルド・ボッティオン、ミシェル・セネシャル、マリオ・マッチ、ホセ・ヴァン・ダム、142分、72年12月音声ザルツブルグ、73年8月映像ミュンヘン、
 この性格的というか残忍というか不合理不条理の暗い熱情をうまいこと盛り上げていくものだ。ミレッラ・フレーニのはかなさがよい。
8.「リゴレット」全曲、ヴェルディ、リッカルド・シャイー:指揮、ジャン・ピエール・ボネル:演出、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ルチアーノ・パヴァロッティ、イングヴァール・ヴィクセル、エディタ・グルベローヴァ、ヴィクトリア・ヴェルガーラ、フェルッチョ・フルラネット、118分、81年12月音声ウィーン、82年4,5月映像マントヴァ、
 プロットとストーリーが近代的というか皮肉っぽい。そこにヴェルディも惹かれたのか。その内容にヴェルディの音楽が合っている。パヴァロッティが色男振りを唄でうまく表現する。
9.「トゥーランドット」全曲、プッチーニ、ジェイムズ・レヴァイン:指揮、フランコ・ゼッフィレッリ:演出、メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団、プラシド・ドミンゴ、エヴァ・マルトン、ユグ・キュエノー、ポール・プリシュカ、レオーナ・ミッチェル、134分、87年4月、メトロポリタン歌劇場ライヴ、
 残酷さと華やかさ、可憐さがマッチングしている。ドミンゴの歌いっぷりがよい。
 *現在、視聴不能。
10.「蝶々夫人」全曲、プッチーニ、ミラッレ・フレーニ(S)、プラシド・ドミンゴ(T)、クリスタ・ルートヴィヒMS)、ロバート・カーンズ(B)、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ウィーン・フィル、演出ジャン・ピエール・ポネル、’74.11.12月
出ずっぱりの蝶々夫人の音楽が切なくも節度があり、メロドラマでセンチなのにどこか抑制されていてよい。フレーニの歌唱、容姿申し分なし。それにしても蝶々夫人のワンマンショーね。
 *現在、視聴不能。
11.「ラ・ボエーム」全曲、プッチーニ、ヘルベルト・フォン・カラヤン:指揮、フランコ・ゼッフィレッリ:演出、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団、ミレッラ・フレーニ、アドリアーナ・マルティノー、ジャンニ・ライモンディ、ローランド・パネライ、ジャンニ・マッフェオ、イーヴォ・ヴィンコ、157分、65年4,5月、ミラノ・スカラ座ライヴ、
 メロドラマにプッチーニの音楽が合う。ミレッラ・フレーニがまたよい。


12.「トスカ」全曲、プッチーニ、ブルーノ・バルトレッティ:指揮、ジャンフランコ・デ・ボシオ:演出、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団、アンブロジアン・シンガーズ、ライナ・カバイヴァンスカ、プラシド・ドミンゴ、シェリル・ミルンズ、アルフレード・マリオッティ、ジャンカルロ・ルッカルディ、マリオ・フェラーラ、ブルーノ・グレルラ、ドメニコ・メディーチ、プラシド・ドミンゴ・ジュニア、116分、映像:76年10月ローマ、音声:76年8月ロンドン、
 トスカの嫉妬、強さ、弱さ、愛情がよく出ていて誇り高さだ出ていた。スカルピア男爵が一見実直そうだが高尚っぽく実はすけべでイヤミたっぷりなのは個性的。ドミンゴの歌はいいね。

13.「カルメン」全曲1、ビゼー、ジェイムス・レヴァイン:指揮、ブライアン・ラージ:映像監督、メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団、アグネス・バルツァ、ホセ・カレーラス、レオーナ・ミッチェル、サミュエル・レイミー、マイラ・メリット、ダイアン・ケスリング、アンソニー・ラチューラ、ブルーチュ・ハバード、バーノン・ハートマン、アラ・バーバリン、ニコ・カステル、シャルル・デュバル、111分、87年2月、メトロポリタン歌劇場ライヴ、
 序曲から夢心地の娯楽パラダイスの世界を感じる。カレーラスの実直そうな感じもよいし、他のメンバーもよいが、カルメンがもっとわがままで奔放でうまいとよかった。

14.「カルメン」全曲2、ビゼー、ジェイムス・レヴァイン:指揮、ブライアン・ラージ:映像監督、メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団、アグネス・バルツァ、ホセ・カレーラス、レオーナ・ミッチェル、サミュエル・レイミー、マイラ・メリット、ダイアン・ケスリング、アンソニー・ラチューラ、ブルーチュ・ハバード、バーノン・ハートマン、アラ・バーバリン、ニコ・カステル、シャルル・デュバル、60分、87年2月、メトロポリタン歌劇場ライヴ、
 ラストはホセがナイフを出しカルメンが刺されという伝統的な演出だが、これよりナイフを構えるホセに向かいカルメン自らがナイフめがけ飛び込み、ホセに抱きつき息絶えるという演出が好きだね。闘牛士とホセのバトルはいい。

15.「セビリャの理髪師」全曲、ロッシーニ、クラウディオ・アバド:指揮、ジャン・ピエール・ポネル:演出、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団、テレサ・ベルガンサ、ルイージ・アルヴァ、ヘルマン・プライ、エンツォ・ダーラ、パオロ・モンタルソロ、レナート・チェザーリ、ルイージ・ローニ、ハンス・クレイマー、カール・シャドラー、141分、映像:72年8月、ザルツブルグ、ミュンヘン、音声:71年9月ミラノ、
 ロッシーニの音楽が陽気で少しデモーニッシュ、今でならちょいと劇的でやっぱりよい。全編お気楽なコメディでうきうき。演出も気持ち良い。

16.喜歌劇「こうもり」全曲、ヨハン・シュトラウス2世、カルロス・クライバー:指揮、演出:オットー・シェンク、バイエルン国立歌劇場管弦楽団・合唱団、エーベルハルト・ヴェヒター、パメラ・コバーン、ベンノ・クッシェ、ブリギッテ・ファスベンダー、ヨーゼフ・ホプファーヴィーザー、ヴォルフガング・ブレンデル、フェリー・グルーバー、ジャネット・ペリー、イレーネ・スタンバイザー、フランツ・ムクセネーダー、イヴァン・ユンゲル、156分、86年12月、バイエルン国立歌劇場ライヴ、
軽く快活明るくうきうき浮気も酒もパーティーも楽しく騒げば人生すっきりか。音楽とせりふ、筋書きは観客を笑わせエンディングまで引っ張っていく。オペラ入門には最適。しかもこのカルロス・クライバー、バイエルン版は名演奏の誉れ高いようなのでなおさらです。クライバーはウィーンではこの指揮を決して行わなかったそうです。

17.楽劇「ばらの騎士」全曲1、リヒャルト・シュトラウス、カルロス・クライバー:指揮、演出:オットー・シェンク、ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団、フェリシティ・ロット、クルト・モル、アンネ・ソフィー・フォン・オッター、ゴットフリート・ホーニク、バーバラ・ボニー、オリヴェラ・ミリャコヴィッチ、ハインツ・ツェドニク、アンナ・ゴンダ、ペーター・ヴィンベルガー、75分、94年3月ウィーン国立歌劇場ライヴ、
 大掛かりな演奏で楽劇と称される。「サロメ」のような前衛性が薄らぎ聴きやすいし、それまでのウィーン後期ロマン派ぽい透明感のある洗練された音は健在で、ちょっとした官能性をくすぐる。シックな男装の麗人と麗しい女性の絡みはどきっとするし、スケベ男爵の下品エロの炸裂と対極化しつつも官能性を高める。官能と笑いと近代的な音楽の組み合わせがよい。

18.楽劇「ばらの騎士」全曲2、リヒャルト・シュトラウス、カルロス・クライバー:指揮、演出:オットー・シェンク、ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団、フェリシティ・ロット、クルト・モル、アンネ・ソフィー・フォン・オッター、ゴットフリート・ホーニク、バーバラ・ボニー、オリヴェラ・ミリャコヴィッチ、ハインツ・ツェドニク、アンナ・ゴンダ、ペーター・ヴィンベルガー、117分、94年3月ウィーン国立歌劇場ライヴ、
 クルト・モルのスケベ男爵全開。可愛い小姓の使い方が洒落ている。ロットの候爵夫人の哀しみとあきらめ上品な威厳は存在感があった。ロット、オッター、ボニーの歌の絡みは見事。だからこの配役なのね。吉田秀和はモーツァルト以外ではこれが最高に好きなオペラだそうだがむべなるかなです。私もこのオペラ好き。

19.楽劇「サロメ」全曲、リヒャルト・シュトラウス、カール・ベーム:指揮、ゲッツ・フリードリッヒ:演出、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、テレサ・ストラータス、ベルント・ヴァイクル、ハンス・バイラー、アストリッド・ヴァルナイ、ヴィエスワフ・オフマン、ハンナ・シュヴァルツ、フリードリッヒ・レンツ、エーヴァルト・アイヒベルガー、クルト・エクヴィルツ、カール・テルカル、アロイス・ペルナーレ・シュトルファー、ハインツ・クラウス・エッカー、ノーベルト・ハイドゲン、ラインホルト・メーザー、ヴォルフガング・プロプスト、ニコラウス・ヒルブラント、101分、映像:74年7,8月、ウィーン、音声:74年3月、ウィーン、
 官能的倒錯的残酷残虐的神の存在を問うという形而上学的深刻劇オペラで死の香りがプンプン漂う。音楽は官能的だそうだが、爽やかささえ感じられる。

20.楽劇「ラインの黄金  ニーベルングの指環 序夜」全曲、ワーグナー、ヘルベルト・フォン・カラヤン:指揮、フランコ・ゼッフィレッリ:演出、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団、ミレッラ・フレーニ、アドリアーナ・マルティノー、ジャンニ・ライモンディ、ローランド・パネライ、ジャンニ・マッフェオ、イーヴォ・ヴィンコ、157分、65年4,5月、ミラノ・スカラ座ライヴ、
 

21.楽劇「ヴァルキューレ  ニーベルングの指環 第1夜」全曲1、ワーグナー、ヘルベルト・フォン・カラヤン:指揮、フランコ・ゼッフィレッリ:演出、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団、ミレッラ・フレーニ、アドリアーナ・マルティノー、ジャンニ・ライモンディ、ローランド・パネライ、ジャンニ・マッフェオ、イーヴォ・ヴィンコ、157分、65年4,5月、ミラノ・スカラ座ライヴ、
 

22.楽劇「ヴァルキューレ  ニーベルングの指環 第1夜」全曲2、ワーグナー、ブルーノ・バルトレッティ:指揮、ジャンフランコ・デ・ボシオ:演出、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団、アンブロジアン・シンガーズ、ライナ・カバイヴァンスカ、プラシド・ドミンゴ、シェリル・ミルンズ、アルフレード・マリオッティ、ジャンカルロ・ルッカルディ、マリオ・フェラーラ、ブルーノ・グレルラ、ドメニコ・メディーチ、プラシド・ドミンゴ・ジュニア、116分、映像:76年10月ローマ、音声:76年8月ロンドン、
 


23.楽劇「ジークフリート  ニーベルングの指環 第2夜」全曲1、ワーグナー、ジェイムス・レヴァイン:指揮、オットー・シェンク:演出、メトロポリタン歌劇場管弦楽団、ジークフリート・イェルザレム、ハインツ・ツェドニク、ジェイムズ・モリス、エッケハルト・ヴラシハ、マッティ・サルミネン、ビルギッタ・スヴェンデン、ヒルデガルト・ベーレンス、111分、90年4月、メトロポリタン歌劇場ライヴ、
 ワーグナーならではのちょっと粘着質というかオルガンぽいようなじわじわとした響きがいいです。はじめジークフリードはなんて身勝手な奴で義父に辛く当たるのだろうかと思うが、後半でそれが正しいことは分かるのでよいでしょう。なぞかけごっこや神話的設定はおとぎ話というか19世紀のスターウォーズといえるでしょうか。前半だけだと歌で盛り上がるところがいまいちで後半を期待しましょう。なぞかけも物語の事前設定を観客に知らしめるために挿入されていると思われますし。

24.楽劇「ジークフリート  ニーベルングの指環 第2夜」全曲2、ワーグナー、ジェイムス・レヴァイン:指揮、オットー・シェンク:演出、メトロポリタン歌劇場管弦楽団、ジークフリート・イェルザレム、ハインツ・ツェドニク、ジェイムズ・モリス、エッケハルト・ヴラシハ、マッティ・サルミネン、ビルギッタ・スヴェンデン、ヒルデガルト・ベーレンス、140分、90年4月、メトロポリタン歌劇場ライヴ、
 ジークフリートが大蛇のファフナー退治、ミーメ殺し、エルダとの問答、ジークフリードとヴォータンの対決、ブリュンヒルデの目覚めと愛、というように後半は盛りだくさんで音楽もワーグナーだと思える分厚い響きが多く血湧き肉踊る展開だ。ちなみにヒトラーもワーグナーが好きだった。

25.楽劇「神々の黄昏  ニーベルングの指環 第3夜」全曲1、ワーグナー、ジェイムス・レヴァイン:指揮、オットー・シェンク:演出、メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団、ジークフリート・イェルザレム、アンソニー・ラッフェル、エッケハルト・ヴラシバ、マッティ・サルミネン、ヒルデガルト・ベーレンス、ハンナ・リソフスカ、クリスタ・ルートヴィヒ、ギネス・ビーン、ジョイス・キャッスル、アンドレア・グルーバー、カーレン・エリクソン、ダイアン・ケスリング、メレディス・パーソンズ、125分、90年4,5月、メトロポリタン歌劇場ライヴ収録、
 分厚い音とだまし、裏切り、欺瞞、企み、欲望満点。様々な思いが錯綜し展開していく中で誤解、すれ違いも。歌が人の思いを代弁していく。

26.楽劇「神々の黄昏  ニーベルングの指環 第3夜」全曲2、ワーグナー、ジェイムズ・レヴァイン:指揮、オットー・シェンク:演出、メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団、ジークフリート・イェルザレム、アンソニー・ラッフェル、エッケハルト・ヴラシバ、マッティ・サルミネン、ヒルデガルト・ベーレンス、ハンナ・リソフスカ、クリスタ・ルートヴィヒ、ギネス・ビーン、ジョイス・キャッスル、アンドレア・グルーバー、カーレン・エリクソン、ダイアン・ケスリング、メレディス・パーソンズ、154分、90年4,5月、メトロポリタン歌劇場ライヴ収録、
 分厚い音と集団合唱の迫力が相まってニーベルング大団円のスリル感満点。ジークフリート暗殺で一旦ピークを迎え、ブリュンヒルデの主張でカタルシスへと向かう。大道具が壊れていくさまに神々の黄昏を。

27.「タンホイザー」全曲1、リヒャルト・ワーグナー、ジュゼッペ・シノーポリ:指揮、ヴォルフガング・ワーグナー:演出・舞台装置、バイロイト祝祭管弦楽団、ハンス・ゾーティン、リチャード・ヴァーサル、ヴォルフガング・ブレンデル、ウィリアム・ペル、ジークフリート・フォーゲル、クレメンス・ビーバー、シャーンドル・ショーリョム・ナジ、 分、89年、バイロイト祝祭劇場、
 *現在、視聴不能。

28.「タンホイザー」全曲2、リヒャルト・ワーグナー、ジュゼッペ・シノーポリ:指揮、ヴォルフガング・ワーグナー:演出・舞台装置、バイロイト祝祭管弦楽団、ハンス・ゾーティン、リチャード・ヴァーサル、ヴォルフガング・ブレンデル、ウィリアム・ペル、ジークフリート・フォーゲル、クレメンス・ビーバー、シャーンドル・ショーリョム・ナジ、59分、89年、バイロイト祝祭劇場、
 最後の合唱はなんと清々しくも感動的で盛り上がることだろうか。よくTVコマーシャルのBGMにも使われる。はじめにヴェヌスを讃える賛歌も盛り上げるがこの曲に比べれば月とすっぽんになるように作られている。一度汚れた身でも精一杯あがなえば救われるという救済観念がある。ゲーテの「ファウスト」にも共通する。舞台設定は現代的でSimple is Bestを目指している。

29.「カヴァレリア・ルスティカーナ」全曲、ピエトロ・マスカーニ、ジョルジョ・プレートル:指揮、フランコ・ゼッフィレッリ:演出、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団、エレーナ・オブラスツォワ、プラシド・ドミンゴ、フェドーラ・バルビエリ、レナート・ブルゾン、アクセレ・ガル、70分、82年、
 イタリアン・リアリズモ(ヴェリズモ)による短編オペラである。はじめから音楽の彫りが深く劇的で聴衆を引きつけやすい。はじめの村人の合唱が美しく村の風景が心和む。劇的なラストに息つく暇なく突入していく。

30.「ボリス・ゴドノフ」全曲1、モデスト・ムソルグスキー、ワレリー・ゲルギエフ:指揮、アンドレイ・タルコフスキー:オリジナル・プロダクション・演出、ハンフリー・バートン:ヴィデオ演出、キーロフ歌劇場管弦楽団・合唱団、ロバート・ロイド、ラリサ・ジャチコーヴァ、オリガ・コンディナ、エフゲニア・ペルラーソヴァ、エフゲニー・ボイツォソフ、ミハイル・キット、アレクサンドル・モロゾーフ、アレクセイ・ステブリアンコ、オリガ・ボロディナ、セルゲイ・レイフェリクス、ヴラディーミル・オグノヴェンコ、イーゴリ・ヤン、リュドミラ・フィラートヴァ、ヴラディーミル・ソロドヴニコフ、エフゲニー・フェドートフ、ゲレゴーリィ・カラション、105分、90年、サンクトペテルブルグ、マリインスキー劇場におけるライヴ収録、
 ムソルグスキーらしいワイルドな音とストーリーの権力闘争と虚しさがマッチしている。

31.「ボリス・ゴドノフ」全曲2、モデスト・ムソルグスキー、ワレリー・ゲルギエフ:指揮、アンドレイ・タルコフスキー:オリジナル・プロダクション・演出、ハンフリー・バートン:ヴィデオ演出、キーロフ歌劇場管弦楽団・合唱団、ロバート・ロイド、ラリサ・ジャチコーヴァ、オリガ・コンディナ、エフゲニア・ペルラーソヴァ、エフゲニー・ボイツォソフ、ミハイル・キット、アレクサンドル・モロゾーフ、アレクセイ・ステブリアンコ、オリガ・ボロディナ、セルゲイ・レイフェリクス、ヴラディーミル・オグノヴェンコ、イーゴリ・ヤン、リュドミラ・フィラートヴァ、ヴラディーミル・ソロドヴニコフ、エフゲニー・フェドートフ、ゲレゴーリィ・カラション、105分、90年、サンクトペテルブルグ、マリインスキー劇場におけるライヴ収録、
 さて物語は佳境でスリリングな展開に目を離せない。カトリックの正教に対する権力欲、ポーランド女王のロシアへの領土欲、司教と女王の支配欲、偽りの皇子の権力欲、色と欲、狂えるトラウマ、残酷に崩壊する帝国、おびただしい犠牲と廃墟の上に成り立つ帝国、虚しさと権力闘争、それを盛り上げる野性的なムソルグスキーの音楽。

32.「イーゴリ公」全曲1、アレクサンドル・ボロディン、ベルナルト・ハイティンク:指揮、アンドレイ・セルバン:演出、コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ管弦楽団・合唱団、セルゲイ・レイフェルクス、アンナ・トモワ・シントウ、アレクセイ・ステブリアンコ、ニコラ・ギュゼレフ、フランシス・エガートン、エリック・ギャレット、エレナ・ザレンバ、パータ・プルチュラーゼ、ロビン・レガーテ、キャスリーン・スメイルス、ギリアン・ウェブスター、グレニーズ・グローヴス、カレン・シェルビー、エリザベス・マックゴリアン、ニコラ・ロバーツ、  分、90年2月、コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウスにてライヴ収録、



33.「イーゴリ公」全曲2、アレクサンドル・ボロディン、ベルナルト・ハイティンク:指揮、アンドレイ・セルバン:演出、コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ管弦楽団・合唱団、セルゲイ・レイフェルクス、アンナ・トモワ・シントウ、アレクセイ・ステブリアンコ、ニコラ・ギュゼレフ、フランシス・エガートン、エリック・ギャレット、エレナ・ザレンバ、パータ・プルチュラーゼ、ロビン・レガーテ、キャスリーン・スメイルス、ギリアン・ウェブスター、グレニーズ・グローヴス、カレン・シェルビー、エリザベス・マックゴリアン、ニコラ・ロバーツ、116分、90年2月、コヴェント・ガーデン・ロイヤル・オペラ・ハウスにてライヴ収録、
 ダッタン人の踊りは東洋的哀愁と親しみがあり聴きやすい曲だ。英雄的存在感と捕虜のもどかしさが出るところに奥行がある。広大な広がりのある曲想が中央アジアの平原を想起させる。




(総合)
気に入った歌手はビデオ映像として耐ええる、東欧出身のアンジェラ・ゲオルギューである。演目は『椿姫』である。
親しみやすい演目としては、モーツァルトの『ノッチェ・デ・フィガロ』で、面白おかしいストーリー展開と、彼らしい躍動感のある軽やかかつ甘美にしてダイナミックさもある旋律とリズムに軍配が上がる。
『魔笛』は地のせりふと歌が別々で踊りのないミュージカル感覚で見られ、もっとも現代人向きである。 
ロッシーニ『セビリヤの理髪師』は、『ノッチェ・デ・フィガロ』の前編としてストーリーが楽しめる。音楽も軽やかで親しみやすい。
ビゼー『カルメン』は、音楽内容が親しみやすい。一曲ずつがインパクトのあるラテンぽい小品で胸躍る旋律とリズムだ。その三面記事のような悲劇的結末にいたる暗い情熱に合っている。
ヨハン・シュトラウスⅡ世 オペレッタ『こうもり』は、音楽の陽気な親しみやすさとノー天気なストーリーが笑える。いかにもオペレッタ喜歌劇、はちゃめちゃきつい冗談だが、今となっては上品に見られる高級大衆娯楽。
しかも演出によってはダンサーたちの踊りもついて、ミュージカルの原型とされるが、逆にミュージカル的演出により現代的風味で見られる。別種類でNHK教育で放送されたものだが、グライドボーン音楽祭のものは踊りつきで、女を征服するというせりふ等が省かれ現代的演出であった。
リヒャルト・シュトラウス楽劇『ばらの騎士』は、主役カンカンのアンネ・ソフィー・フォン・オッターと侯爵夫人のフェリシティ・ロットが不倫なのに若々しくすがすがしささえ感じられよい。男爵のクルト・モルの滑稽な俗物さがまたよい。指揮カルロス・クライバー、ウィーン国立歌劇場管弦楽団である。
『カヴァレリア・ルスティカーナ』は、イタリアン・リアリズモによる短編オペラでなじみは薄いがこういうものもある。
プッチーニ『トゥーランドット』の華やかな残酷さは一興である。
ジャコモ・プッチーニ『蝶々夫人』2幕、ミラッレ・フレーニ(S)、プラシド・ドミンゴ(T)、クリスタ・ルートヴィヒMS)、ロバート・カーンズ(B)、ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、ウィーン・フィル、演出ジャン・ピエール・ポネル、’74.11.12月
出ずっぱりの蝶々夫人の音楽が切なくも節度があり、メロドラマでセンチなのにどこか抑制されていてよい。フレーニの歌唱、容姿申し分なし。それにしても蝶々夫人のワンマンショーね。
あとは『後宮からの誘拐』が見残してある。

☆DVD決定盤 オペラ名作鑑賞 全10巻(1巻DVD2枚組)世界文化社  
・第1巻「アイーダ」ヴェルディ作曲
①ミラノ・スカラ座、85年、153分、ロリン・マゼール:指揮、ルーカ・ロンコーニ:演出、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団

8曲目「凱旋行進曲」もいいが、13曲目「やっと会えた愛しいアイーダ」がいい。歌手同士が向かい合い、生で歌い合っているところがスリリングである。映画と違い限定された舞台であっても、大掛かりな大道具や役者の生の演技は舞台に人間自体が存在し生きているという迫力がある。
②オペラ映画、92分、クレメンテ・フラカッシ:監督、ジュゼッペ・モレッリ:指揮、RAI放送管弦楽団・合唱団
 オペラ映画では、画面の迫力・リアル感・壮大さ・整えられた設定、女優や男優の美しさや演技がよい。クチパクにより歌の迫力は劣るのだろうが、あまりそれを感じさせない。日本では封切られないが、なかなかよくできている。バレエシーンや吹き替えの歌はなかなか見せるし聴かせる。
いっそオペラ映画ばかりの全集があるとおもしろいのではなかろうか。オペラ映画は欧米ではよく作られるようで、以前イングマル・ベルイマンの「モーツァルト:魔笛」や、監督は分からないが「ベルク:ルル」、「R・シュトラウス:バラの騎士」なんてのを見たことがある。あのシリアス芸術映画の巨匠ベルイマンですら、軽快な「魔笛」を映画化してるぐらいなんだから、オペラ映画は欧米の人にとって日常親しめるものなのだろう。

・第2巻「椿姫」ヴェルディ作曲
①パルマ王立劇場、01年、131分、カルロ・リッツィ:指揮、ジュゼッペ・ベルトリッチ:演出、ヴェルディ没後100周年記念管弦楽団・合唱団

 テノールのジュゼッペ・サッバティーニがイタリア生まれで彼が歌うとイタリア語がさらに甘く響く。悲劇が甘いメロディでうまく盛り上がっていく。ドラマと音楽がうまくかぶさるのがよいが、今にしてみるともっと甘さを抑制するか激しく辛口に盛り上げたほうがよりドラマティックだったろう。白い服の少女の使い方にノスタルジーを感じ、マジシャンを使うことで、パーティーの娯楽性の臨場感を高めた。
②グライドボーン音楽祭、88年、134分、ベルナルト・ハイティンク:指揮、ピーター・ホール:演出、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、グライドボーン合唱団
 スタジオ録画され豪華なセット、衣装、小道具がすばらしい。演出やカメラ割りが演劇的かつ映画的というべきか。各人間心理の綾が様々描かれドラマを歌を盛り上げていく。

・第3巻「ラ・ボエーム」プッチーニ作曲
①サンフランシスコ歌劇場、88年、117分、ティツィアーノ・セヴェリーニ:指揮、フランチェスカ・ザンベッロ:演出、サンフランシスコ歌劇場管弦楽団・合唱団

 パヴァロッティとフレーニはすばらしい。パヴァロッティは3点ド:ハイCを出すところは絶品らしい。カレーラスやドミンゴですら半音下げるらしい。フレーニは可憐かつ優しい物腰の歌い方が自然でよい。
②トッレ・デル・ラーゴ プッチーニ音楽祭、07年、118分、スチュワート・ロバートソン:指揮、マウリツィオ・スカパッロ:演出、プッチーニ・フェスティヴァル管弦楽団・合唱団
 小規模で少しローカルだが可憐で情緒面をうまく引き出す田舎芝居っぽい古めかしい演出と現代的な演出の融合がよい。親しみやすい雰囲気と歌声がイタリアのオペラらしさを出していてよい。イタリアンらしい感情をそのまま出すような管楽器の音色がすばらしい。

・第4巻「フィガロの結婚」モーツァルト作曲
①ベルリン国立歌劇場、99年、191分、ダニエル・バレンボイム:指揮、トーマス・ラングホフ:演出、ベルリン国立歌劇場管弦楽団・合唱団

 歌、演奏ともに聴かせる。これが当代一流といいたい舞台を見せる。
②コンピエーニュ帝国劇場(パリから75km)、97年、181分、ジェローム・ピルマン:指揮、ピエール・ジュルダン:演出、ファイローニ・ハンガリー国立歌劇場室内管弦楽団、ミッレ・エ・トレ合唱団、
 出演者が若くはち切れんばかりの躍動感があってよい。すがすがしくも笑える青春の物語になっている。誰の声も若く張りがあってよい。その分声の凄味や渋みや味わい深さに劣るのだろうけど、映像としてはこの方が自然。ソプラノのアンネ・ゾフィー・シュミットとテノールのドミニク・プロトーがすばらしい。言語はフレンチである。

・第5巻「ドン・ジョヴァンニ」&「コジ・ファン・トゥッテ」モーツァルト作曲
①ドン・ジョヴァンニ/チューリッヒ歌劇場、01年、187分、ニコラウス・アーノンクール:指揮、ユルゲン・フリム:演出、チューリッヒ歌劇場管弦楽団・合唱団、ロドニー・ギルフリー、ラースロー・ポルガー、イザベル・レイ、チェチーリア・バルトリ

 人間の業というか性サガを描いた悲劇のはずだが、みょうにコミックな大人の御伽噺みたいで見ても楽しめる。こういう話を盛り上げるモーツァルトの音楽がよい。
②コジ・ファン・トゥッテ/チューリッヒ歌劇場、00年、192分、ニコラウス・アーノンクール:指揮、ユルゲン・フリム:演出、チューリッヒ歌劇場管弦楽団・合唱団、チェチーリア・バルトリ、リリアーナ・ニキテアヌ、ロベルト・サッカ、オリヴァー・ヴィドマー
 これまた見て楽しめる大人の御伽噺で愉快でスリリング、やっぱりモーツァルトの音楽がメロディアスかつ構築力が優れていて最後まで聴きこめる。

・第6巻「セビリャの理髪師」ロッシーニ作曲、パイジェッロ作曲
①ロッシーニ作曲/ネーデルランド歌劇場、92年、154分、指揮:アルベルト・ゼッダ、ダリオ・フォー:演出、ネーデルランド室内管弦楽団・ネーデルランド合唱
団、
 現代的なシンプルでやや抽象的な舞台設定で、序曲での集団はコメディア・デラルテ風に描かれ興趣を引く。若い歌手が多く、清々しい歌声を響かす。ベテランはそれらしくいやみな存在感を出し、若手との対比をうまく引き出す。なかなか清新な舞台で好感をもった。音楽は盛り上がりをうまく出していた。伯爵:リチャード・クロフトとフィガロ:デイヴィッド・マリスの方が②の歌手より説得力はあるようだ。ロジーナ:ジェニファー・ラーモアが②より声量・迫力は上だ。しかし色気がない。
②パイジェッロ作曲/ローマ室内歌劇団、70年、128分、指揮:レナート・ファザーノ、ヴィルトゥオージ・ディ・ローマ合奏団、コレギウム・ムジクム・イタリクム、大阪フェスティバルホール
 パイジェッロの音楽は上品で可憐な音をうまく響かせていた。ハイドンやサリエリの時代の音楽で「春めいたほのぼのした明るい感じ」の共通性がある。だが盛り上がりの激しさに欠ける。しかしコメディに合っていてしなやかでいやみのない音楽はロジーナを引き立てていた。歌のうまさでは男性歌手は劣るかもしれないが、親しみやすい歌唱に好感を持つ。ロジーナ:エレナ・ズィーリオは迫力は劣るかもしれないが、可憐な歌声と演技の色っぽさに堪らなく好感を持ってしまう。彼女はパイジェッロのオペラに可憐な花を咲かせた。
 この映像は70年大阪ライブのカラー映像で、①の92年映像と比べて、かなり薄暗く解像度が低いことが分かる。撮影機材の技術の進歩が分かる。しかしこの映像はパイジェッロのオペラを日本で上演したことの貴重な記録だろう。70年6月21日大阪といえばちょうど万博だったはずだ。

・第7巻「トゥーランドット」プッチーニ作曲
①ウィーン国立歌劇場、83年、139分、ロリン・マゼール:指揮、ハロルド・プリンス:演出、ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団、ウィーン少年合唱団
 ホセ・カレーラスの演技と歌は見せるし聴かせる。イケメンで歌よし演技よしだ。オペラ慣れしていない人は、歌で勝負し演技力のないドミンゴやパバロッティをいきなり見るより、カレーラスの方が親しめるだろう。
 東洋の中国を舞台にしているため、東洋風五音音階を用いていて日本人に親しめるメロディがある。清国国歌を参考にしているらしいが、「夕焼け小焼け」に似た旋律が聴こえ聴きなじみやすい。しかも無調音楽風、原始主義風な前奏曲で始まり、これがハードでただ甘いだけより甘さとハードさのバランスがよく聴くのによい。姫の上品な残酷さは、リューの純粋さを一層引き立たせる。ピンパンポンはひょうきんなのがよいのだが、今回はピンパンポンがまじめすぎてちょいおもしろくない。もっと道化ているほうがよい。水色の寒そうな衣装は姫の残酷さを象徴し、赤は首切り役人に似合った。階段は上から目線を分かりやすくした。
②イタリアRAI放映版、58年、114分、フェルナンド・プレヴィターリ:指揮、マリオ・フランキ:演出、RAIミラノ放送管弦楽団・合唱団
 白黒画像の見にくいテレビ・オペラだが、内容はなかなかよくできている。リュー役のレナータ・マッティオーリの歌と容姿が可憐で弱々しくよい。ピンパンポンも滑稽でよい。皇帝のテノールが若すぎて周囲との違和感がでる。衣装や振り付けは50年代の欧米人の見た東洋的イメージなので、中国・日本・タイ・インドごちゃ混ぜの無国籍アジアンなのだが、それなりにきっちり作られているし、その無国籍アジアンな雰囲気が妙に新鮮に映る。他の映画でいうなら「ブレードランナー」の大阪風近未来都市、「ラストサムライ」のへんてこ城下町みたいに新鮮で奇妙な美しさだ。コレッリはかっこいい。それにしてもソプラノのトゥーランドット役はアップにしてほしくない。

・第8巻「蝶々夫人」プッチーニ作曲
①ミラノ・スカラ座、86年、144分、ロリン・マゼール:指揮、浅利慶太:演出、ミラノ・スカラ座管弦楽団・合唱団

 歌も演奏も聴かせる、林康子はうまい。演出よし。
②オペラ映画、55年、114分、カルミネ・ガローネ:監督、オリヴィエロ・ファブリーティス:指揮、ローマ歌劇場管弦楽団、八千草薫
 魅せるし見せる、主演の八千草薫は可愛い、セットも日本製を空輸しただけあり、きちんとしたセットだ。吹き替えつまり口パクであっても、ライヴ録画を見せられるより、映像として見せられる映像に、口パクでそれなりにうまい歌で吹き替えられていれば、その方が見る分楽だし自然だ。どうせならオペラDVDに、オペラ映画全集なんてのがあればもっと親しみやすいが、クラシック音楽ファンはたいてい、名演奏、名手のものをありがたがって聴きたがるので、やっぱりだめかな。オペラ歌手の名手はたいてい熟年でそれなりの体型で年頃の娘役を演じられてもライヴ録画でアップにされると歌や演奏はうまくてもちょっと見るのがつらいのだ。

・第9巻「カルメン」ビゼー作曲
①ナポリ・サン・カルロ歌劇場、00年、163分、ダニエル・オーレン:指揮、パッピ・コルシカート:演出、サン・カルロ歌劇場管弦楽団・合唱団、ナディア・ミカエル、セルゲイ・ラーリン、ノラ・アンセルム、グレッグ・ベイカー

 その前衛的で一見高尚な雰囲気の衣装背景舞台はおもしろい。ラストで自らドンホセのナイフに飛び込み笑顔で死んでいくカルメンに人生の矛盾切なさが込められていて最高。演奏も歌もうまい。
②オーストリア ザンクト・マルガレーテン野外歌劇場、05年、159分、エルンスト・メルツェンドルファー:指揮、ジャンフランコ・デ・ポジオ:演出、ブルノ国立歌劇場管弦楽団・合唱団、ナディア・クラステヴァ、アレクサンドルス・アントネンコ、オーサ・エルムグレン、セバスティアン・ホレチェク
 この野外ステージの巨大さは見事、ただし広すぎる場での録音のせいかDVDの音量が小さい。カルメンはいかにもそれらしくリアルに見えた。エキストラも多数で街が再現されるがごとくである。演奏のテンポは速めで一気呵成に新聞の三面記事のような痴話げんかの果ての殺人まですれっからした雰囲気を醸し出し似合っている。ラストはカルメン自身が刺されに行く方が好きだ。

・第10巻「トスカ」プッチーニ作曲
①アレーナ・ディ・ヴェローナ、06年、119分、ダニエル・オーレン:指揮、フーゴ・デ・アナ:演出、アレーナ・ディ・ヴェローナ管弦楽団・合唱団

 壮大な舞台設定で迫力があり、歌、演奏ともよい。
②シュトゥットガルト歌劇場、61年、125分、フランコ・パタネ:指揮、シュトゥットガルト歌劇場管弦楽団・合唱団
 過去の名演スタンダードを知るによい。
③映画、カルロ・コッホ:監督、ルッキーノ・ヴィスコンティ:脚本・助監督、39~40年、102分
 レチタティーヴォ部分が普通のせりふになり、オペラ慣れしない人にも親しみやすい、オペラ入門用映画でもあるが、トスカはじめ人の生き様を残酷なまでに凝縮してネオ・リアリズモ風に見せる。アリアがやけに甘く美しく聴こえる。

☆「TDK  DVD Classics」オペラ TDKコア>
・「戦争と平和 13幕のオペラ」セルゲイ・プロコフィエフ:作曲、台本:セルゲイ・プロコフィエフ&ミーラ・メンデリソン・プロコフィエフ、原作:レオ・トルストイ、
ガリー・ベルティーニ:指揮、フランチェスカ・ザンベロ:演出、パリ・オペラ座管弦楽団・合唱団、ネイサン・ガン、オリガ・グリャコーワ、マルガリータ・マームシロワ、レオニード・ボムシテイン、00年3月1,4,8,11、パリ・オペラ座ライヴ収録、210分、特典79分

第一部の平和では、ヒロイン:ナターシャの恋愛模様が貴族社会での複雑な人間関係の中で夢や悪意等と絡め古めかしいワルツにのせ描かれノスタルジックな郷愁を感じさせる。第二部戦争はスペクタクルな戦争史劇となる。ナポレオンやクトゥーゾフ将軍を軸に壮大な国家の運命を戦闘シーンを交え描くので、不謹慎ながらワクワクしてみられる。フィナーレでナターシャとピエールが抱き合うシーンに熱いものがこみ上げる。

・「ハンス・ハイリンク  序幕と3幕からなるロマン的オペラ」ハインリヒ・マルシュナー:作曲、台本:エドゥアルト・デフリーント、
レナート・パルンボ:指揮、演出:ピエール・ルイージ・ピッツィ、マルクス・ヴェルバ:bar、アンナ・カテリーナ・アントナッチ:so、ヘルベルト・リッパート:te、カリアリ歌劇場管弦楽団&合唱団、少年合唱団、'04、4月、5月カリアリ歌劇場ライブ収録、147分

少年合唱団がよくて際立っていることで、大人の声も対照的に際立って聴こえよい。序曲の前に幾つかの歌と芝居があってそれも新鮮。おとぎ話の物語でのっけから軽い陽気な音楽ではじまり、ジングシュピール形式でモーツァルトの「魔笛」と同じく楽しそうでうきうきする。ただ途中悲しげな歌や復讐に燃える歌には迫力不足で退屈。フィナーレも劇的な感じが薄く散漫な印象を受ける。このライヴがイタリア、サルディーニャ島(人口160万)州都カリャリ(人口50万)で実施されたことに驚く。

・「仮面舞踏会  全3幕のメロドラマ」ジュゼッペ・ヴェルディ:作曲、台本:アントーニオ・ソンマ、
サー・ゲオルグ・ショルティ:指揮、演出:ジョン・シュレンジャー、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、プラシド・ドミンゴ、レオ・ヌッチ、ジョセフィーン・バーストゥ、フローレンス・クイヴァー、スミ・ジョー、’90、7,28、ザルツブルグ祝祭大劇場ライブ収録、144分

ヴェルディのオペラの楽曲はどんなに沈鬱で絶望的な状況であっても甘美な優美さを失わない。そこがいかにもイタリアンなカンツオーネ気質が底流に流れている。劇的興奮高揚、憤怒憎悪呪詛と甘美な優美さがうまくブレンドされ聴きなじみやすい。
 妻に裏切られたと思い込み妻への思慕と復讐に燃える心情の歌では両方の気持ちをうまくブレンドした配合となっている。ただ現代的にはもっとくらい復讐の念が色濃く出たものと思慕を歌う浪漫的な歌曲がはっきり分かれたほうが劇的だろうが。暗殺される王の度量の広さがドミンゴの歌唱に合っている。

・「ナブッコ  全4幕のドランマ・リリコ」ジュゼッペ・ヴェルディ:作曲、台本:テミストークレ・ソレーラ、リッカルド・フリッツァ:指揮、演出:ジョナサン・ミラー、カルロ・フェリーチェ歌劇場管弦楽団&合唱団、アルベルト・ガザーレ、オルリアン・アナスタソフ、スーザン・ネヴィス、中島康晴、アンナマリア・ポペスク、アルベルト・ロータ、’04、6月、ジェノヴァ、カルロ・フェリーチェ歌劇場ライブ収録、139分
聖書に書かれているバビロン補囚をもとにしたストーリーというのは日本人の私にはどうも馴染めず、神を祝福するという予定調和的ラストもポカンという感じなのだが、登場
人物の横恋慕、嫉妬、野心、後悔という感情及びそれにつけられたヴェルディの人間ぽい音楽には親しみがわく。ドラマティックな高揚感と親しげで優美甘美、感傷的なメロディがうまく手を取り合っていく。

・「蝶々夫人」ジャコモ・プッチーニ作曲、04年5月プッチーニ音楽祭ライブinトッレ・デル・ラーゴ、151分、プラシド・ドミンゴ:指揮、ステファノ・モンティ:演出、チッタ・リリカ管弦楽団・合唱団
 演出はモダンで昆虫に扮する衣装と装置で近未来的普遍化風だが、演奏は甘く爽やかに聴こえ親しみやすい。イタリア風かな。

・「トゥーランドット」ジャコモ・プッチーニ作曲、ザルツブルグ祝祭劇場大ホール・ライヴ、02年8月15,18日、141分(本編126、特典15)、ワレリー・ゲルギエフ:指揮、デイヴィッド・パウントニー:演出、ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団、テルツ少年合唱団
 これまた超近代風無機質機械文明舞台セットと衣装である。人の心をもたぬ機械文明の中、愛が目覚めるようだ。ベリオによる補筆完成版であるため、ラストシーンは既成のものと違う。歌、演奏ともにスタンダードだ。

・「セビリャの理髪師」ジョアキーノ・ロッシーニ作曲、パリ・オペラ座・ライヴ、02年4月、152分、指揮:ブルーノ・カンパネッラ、コリーヌ・セロー:演出、パリ・オペラ座管弦楽団・合唱団
 イスラム風の華やかな色彩の楽しい舞台セットと衣装の演出だ。さらに愉快さが増す。歌手たちの動きもきびきびしていてよい。

・「カルメン」ジョルジュ・ビゼー作曲、アレーナ・ディ・ヴェローナにおけるライヴ、03年7月4,10日、150分、アラン・ロンバール:指揮、フランコ・ゼッフィレリ:演出、アレーナ・ディ・ヴェローナ管弦楽団・合唱団・バレエ団、マリーナ・ドマシェンコ、マルコ・ベルティ
 カルメンのマリーナ・ドマシェンコがよい。情熱的で叙情的な音楽と、三面記事みたいな色と欲に踊る卑しい人間に共感する。ラストでカルメン自らがナイフに向かって身を投げるかのような一瞬にカルメンの醒めた無常観、人間のはかなさを感じさせ秀逸である。4幕最初に間奏曲をもってきてダンスシーンにしたのはよい。

・「魔笛」モーツァルト作曲、82年8月21日フェルゼンライトシューレ(ザルツブルグ)ライヴ収録、188分、ジェームズ・レヴァイン:指揮、ジャン・ピエール・ポネル:演出・装置・衣装、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン国立歌劇場合唱団、マルッティ・タルヴェラ、ペーター・シュライヤー、ワルター・ベリー、エディタ・グルベローヴァ、イレアーナ・コトルバス、クリスティアン・ベッシュ、グートルーン・ジーバー
 舞台装置、衣装、演出は古典的である。上演時間が3時間に達するが、別のものでは2時間半程度であることから、かなりオリジナルに近くて省略が少ないようだ。初めて見る場面もいくつかあるので、原作を知りたい人には役立ちそうだというか、たいていのものが省略していることを今回知った。パパゲーノ役のベッシュが芸達者だ。


舞台芸能、批評、シェイクスピア

2012-12-27 20:32:33 | 舞台芸能批評
批評、シェイクスピア

・ビデオ『シェイクスピア全集1,2 じゃじゃ馬ならしⅠ,Ⅱ』90年、演出:ジョン・アリソン、出演: カレン・アースティン、フランクリン・シールズ
現代的演出の抱腹絶倒早口しゃべくりナンセンスコメディー。じゃじゃ馬キャタリーナとペトルーチオのキャラのぶつかりあいはおもしろい。解説にあるように戯曲を読んでも今ひとつだろうが、実演すると目が離せなくなる。ペトルーチオのじゃじゃ馬ならしはおもしろいが、最後にじゃじゃ馬キャタリーナが従順になるとちっともおもしろくない。

・ビデオ『シェイクスピア全集3,4,5 ロミオとジュリエットⅠ,Ⅱ,Ⅲ』89年、演出:ウイリアム・ウッドマン、出演:アレックス・ハイド=ホワイト、ブランチェ・ベーカー、ダン・ハミルトン
本シリーズはスタジオ撮影されているが、なるべく当時の劇場の規模に合わせたこじんまりとした舞台設定になっている。その分、制作費が安かろうと思われる。
小田島雄志:訳のテキストが付いているので一部テキストと映像を見比べただけでも、映像の方が簡略で、脇役の数を減らしせりふを少なくし、シンプルで分かりやすく力強い演出になっている。たいていシェイクスピア劇の翻訳を読むと、全文が長く美辞麗句の長詩になっていて、登場人物も多くせりふはやたら多く、本筋から逸脱するようなコミックな場面が随所にちりばめられている。おそらく現代の作家なら半分以下の長さに翻案してしまうだろうことは予想される。こういう長たらしいのはシェイクスピアに限らず、文楽、歌舞伎、古典小説など古典ものに顕著である。昔は時間をゆっくりかけ長い美辞麗句の数々を堪能するのが楽しかったのだろう。さしずめ長編連載漫画がそんな調子だろう。
この演出でも少しはせりふや登場人物をカットしているが、だいぶ原作に忠実な方で、今ではリアル感がない長たらしいせりふでも忠実にたどっていくことが多い。その分シェイクスピアの原作の雰囲気を味わいやすい。パリスの死に方などシェイクスピアの筋立てに納得できない面も少々あるが、よくこれだけの近代的青春像を中世道徳譚から生み出せたものだ。またシェイクスピアの悲劇って血塗られた残酷劇でマーダーでサスペンスみたいなものに思える。本作品の絶品は、フランコ・ゼッフィレリ監督映画とレオナルド・ディカプリオ主演映画、蜷川幸雄演出舞台を挙げておく。
役者の演技はよい。台詞回しが長すぎ現代的感覚ではリアル感がないが、それでもどうにかリアル感を保っている。古典的雰囲気と現代的感覚をなんとかバランスをとりつつまとめている。美辞麗句満載な韻詩の長詩を浪々と語り聞かせるわけですな。

・ビデオ『シェイクスピア全集6,7,8 リチャード二世Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ 』81年、演出:ウィリアム・ウォードマン、出演:デビッド・ブルーニー、ポール・シェナー、ジョン・マクリアム
 一種とらえどころのないリチャード二世の性格の描き方が面白い。ハムレットのように内省的でノーブルで正義感があり、というわけで、なにやらハムレットみたいな性格ね。個人的には好かれながらも、政治権力の渦の中で人身御供にならざるをえないこともある。当時のイギリス人はこういう人物像に共感したということでしょう。

・ビデオ『シェイクスピア全集9,10,11 ウィンザーの陽気な女房Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ 』89年、演出:ジャック・マンニング、出演:グローリア・グラハム、バレリ・シーリー・スナイダー、レオン・チャールス
はちゃめちゃな男たちがおもしろい。けっこうテンポもよくドタバタ騒ぎの連続がいいですな。ラストシーンの全員登場でのこれまでのだましのいきさつを語るところは、説明が長たらしく、せっかくおもしろおかしくテンポよく進んできたのに緩慢になり、気持ちが萎えてくる。

・ビデオ『シェイクスピア全集12,13,14 オセロⅠ,Ⅱ,Ⅲ 』82年、演出:フランクリン・メルトン、出演:ウィリアム・マーシャル、ジェニー・アグター、ロン・ムーディ
悪党イアーゴーは魅力的だ。できればもっとかっこいいといいのだが。デスデモーナは可愛らしい。オセロとデスデモーナが不倫疑惑で言い合う場面がありながら、オセロが疑惑の確信を言わないので、デスデモーナ自身は何を疑われているのか分からない。単純かつ公明正大なオセロは相手を愛しているのなら、具体的に話をする方が合理的に思われるので、納得しにくい場面だ。それにしても四大悲劇みなマーダーで、ホラー・サスペンスといっていい。

・ビデオ『シェイクスピア全集15,16,17 リア王Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ 』89年、演出:アラン・クック、出演:マイク・ケレン、キティー・ウィン、ジェラ・ジャコブソン
 このデモーニッシュさ、暗鬱かつ血塗られた惨劇、色と欲、不信、疑惑、権謀術数の果てに人間の哀れさが引き立つ。人は愛情や正義によって生き生きするのだろうが、憎悪やよこしまな計略によっても生き生きするものでもあるのか。人とは何たる不可解な存在か。登場する正義の者たちはすばらしいがついていけない。そこへいくと、こすっからした小人物の悪党どもに共感している自分がいた。

・ビデオ『シェイクスピア全集18,19,20 マクベスⅠ,Ⅱ,Ⅲ 』81年、演出:アーサー・アレン・サイデルマン、出演:ジェレミー・ブレット、パイパー・ローリー、アラン・オッペンハイアー
ホラー・サスペンス・ドラマにして権力闘争劇、欲望に取り付かれた血塗られた惨劇、日本では黒澤以後、「蜘蛛の巣城」とも呼ばれるジェレミー・ブレットの演技がよい。

・ビデオ『シェイクスピア全集21,22,23 アントニーとクレオパトラⅠ,Ⅱ,Ⅲ 』83年、演出:ロウレンス・カーラ、出演:ティモシー・ダルトン、リーン・レッドグレイプ、アントニー・ゲェリー
 主人公の二人を最終的には肯定しているが、他のシェイクスピア劇同様、変に美化していない。わがままや悩みのある人間像として描き最終的に悲劇となる。場面転換が多いので、舞台上演は大変だろうが、やりようでどうにかなろう。本上演では、シェイクスピア当時の古式を重んじ、舞台装置はそのままで、場面転換はもっぱら役者のせりふによってである。これは能や狂言の場面転換と同じで、それらに慣れていればさして苦にならない。これは言霊による場の設定であるようだ。原文英語は美しい詩として評価されている。だからせりふが人口に膾炙するのだろう。日本の俳句や短歌の一節みたいなものだろう。

・ビデオ〘シェイクスピア全集24,25 テンペストⅠ,Ⅱ』83年、演出:ウイリアム・ウードマン、出演:イクレム・ジンバリスト、ウィリアム・H・バセット、テッド・ソレル
 この1600年代初めの時代に、音楽付きというか歌唱付きの音楽劇があったのを知った。シェイクスピアの作品でも唯一で、彼の最後の作品である。これ以後彼は引退した。内容は、軽い喜劇で、人の欲望やら何やらを許す、救済するといったものだ。彼が悲劇や史劇で幾度となく描いてきた、人間のおどろおどろしさを、軽妙に明るく希望をもって描いているのが印象的だ。引退作で、彼は重荷が取れやれやれといった希望を感じる。私も早いとこ隠居したい。10代の頃から隠居爺さんにあこがれていたのでね。役者の歌唱は今ひとつうまくない。
ちなみに演出のウイリアム・ウードマンはこれまでもウォードマン、ウッドマンとカタカナ記載されていたので、それを尊重したが、アルファベット記載ではどれも同じスペルなので同一人物である。

・DVD「ヴェニスの商人」劇団四季、作:ウィリアム・シェイクスピア、訳:福田恒存、演出:浅利慶太、装置:金森馨、土屋茂昭、照明:沢田祐二、衣装:レッラ・ディアッツ、音楽:松村禎三、125分、04年10月自由劇場
 役者たちがマイクなしでもせりふが聞こえるように腹式呼吸で話すことを実感できる。聞きやすく見やすい演出だ。衣装や背景の舞台設定はオーソドックスだ。折り目正しくきっちり作られた正当劇で真っ向勝負だが、ユダヤ人・シャイロックの差別されるひがみ根性、わびしさ、悲しみ、孤独感が描かれる。日下武史の複雑な名演と若手役者の直球熱情の瑞々しさがよい。浅利慶太はシャイロックという人物像によく日を当てたものだ。シェイクスピアの悪役の描き方は単なる正義役のための道具ではなく、魅力的に厚みのある劇的効果を生みやすい人物像だとされる。だがこの割り切れないシャイロックというキャラクターは喜劇としてはすっきりしない人物ではないか。それでもあえてこういう人物像を設定したのはなぜか。何かやむにやまれぬ熱情があるのだろうか。シェイクスピア作で福田訳の原作をテンポよく歯切れよい台詞回しにして3分の1ほどカットしているようだ。散文台詞として見やすく締まった脚色だ。