久しぶりの映画レビューは、倉本聰が描く渾身の脚本の映画化「海の沈黙」です。
青春時代に影響されたドラマの脚本家、倉本聰さんのその集大成となる脚本が映画化されました。また、その脚本が芸術の世界を中心にしたミステリーとなればアートの仕事に携わる者としては観らずにえません。
主演は本木雅弘でかつての恋人役には小泉今日子。かつて天才と騒がれた本木演じる孤高の画家、津山竜次。恋人だった安奈は、竜次の芸大時代の恩師、田村と夫婦の関係に。田村の展覧会に並べられた作品の中に贋作があり、その贋作を描いた人物は誰か?そして北海道で入墨の女性の遺体が発見され、二つの事件の容疑者として竜次が浮かび上がる。
女性の遺体と贋作の真相が徐々に浮かびあがっていくミステリーとして、倉本聰らしい心象風景とての物語が展開されていきます。本木雅弘は、孤高の画家である津山竜次を演じ、画家本来が持つ芸術に対する狂気と執念を時に静かに、時に荒々しく演じており、時代と共に変化する絵画ビジネスと普遍的な絵画の本質を倉本聰の視点として語っています。また、若松節朗監督も、地味な作品ではあるけど、極寒の地と消息不明となった画家の描く作品と半生をうまく具現化しています。
なぜか、鑑賞者は高齢者が多く、僕のような中高年は少なかったのは、最近、話題となったドラマ「やすらぎの郷」の影響なのかと揶揄してしまいますが、北の国から世代の人に贈られた作品に思えてなりません。アート好きにも、ぜひ観てほしい作品です。