
先日、ジョナサン・グレイザー監督による「関心領域」を鑑賞しました。
ホロコーストをテーマにした映画は僕にとっては映画鑑賞におけるライフワークとして数多くの作品を観てきました。
今回の作品は、僕にとって新しい視点で描かれ、恐怖が体の中にじわじわと注ぎ込めれるような作品でした。
マーティン・エイミスの同名小説を原作に、アウシュビッツ収容所の隣で生活する家族の幸福な日常を淡々と描いていますが、冒頭やシーンに切り替え時におぼろげなスクリーンとノイズが日常の生活を遮るように現れます。
かつて、MTVなどのミュージックビデオの世界で活躍した監督らしい斬新な演出に翌朝に軽い頭痛を感じるほどでした。
また、家族の日常の隣では、叫び声や暗闇を突くオレンジ色の炎など収容所で行われる地獄の日常が間接的描かれています。
僕がもっとも印象に残ったのが、休日所長が子供たちと共に川遊びをする場面で微笑ましく遊泳する親子の横に灰色によどんだ水が流れ遺骨を拾い上げるシーン。自らの行為の中にもまれるような恐怖が繰り広げられます。
ホロコーストをテーマにした作品は、正邪を明確にし、ナチスが行った犯罪行為を徹底して叩く手法は多いのですが、かつて映画「否定と肯定」で描かれたホロコースト論を視覚的効果で鑑賞者にゆだねる新しい思考に挑んでいるように思います。そこには特殊な状況下における人間の無能さと無情さを痛みという感覚で伝えているように思います。

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