映画館で観れなかった作品をDVDで観るシリーズ。園子音監督によるSFヒューマンドラマ「ひそひそ星」です。
今回の作品は、園子音監督が20代の時に書き下ろした絵コンテと脚本を基に2016年に制作されたオリジナルのSFヒューマンドラマで舞台は東日本大震災の被災地の富岡町、南相馬、浪江町の住人がキャストとして出演、また、ベテラン女優の森康子やカリスマミュージシャンの遠藤賢司が参加しています。
主人公はアンドロイドの宅配人、鈴木洋子。テレポーテーションにより瞬時に物体が移動できる世界で、彼女が運ぶ荷物は、何年もの年月をかけて運ばれる。アンドロイドである彼女には、その行為が理解できない。そうした中で、ひそひそ星に荷物を届けることに30デシベル以下の音でないと生きていけない世界で彼女から荷物を受け取った彼女の待ち受けた結末は。
主人公の演じるのは監督の妻で、作品にはかかせない神楽坂恵。モノクロームの世界の中で、レトロな宇宙船に乗り安アパートのような暮らしをする彼女の姿は無表情ではあるが、淡々と生活をする姿は、人間のごくありきたりな生活感が漂っていて、かつて抱ていたSF世界とは別に人間の生活は大きな進化を遂げていないことを知ります。
また、今回の舞台となった被災地は表向きの復興とは裏腹に、深い傷跡をのこした廃墟や打ち上げられた廃船の中に佇む人々の姿が忘却された人間の息遣いを静謐な空虚な世界の中で再び蘇らせてくれました。
文明の発展と共に消滅していく人間社会。自然の驚異によりもたらされた災害と共に進歩の中にある欠陥がもたらしたさらなる被害、20代の子音監督の着想が今に子音監督に引き継がれて、監督の持つ多様性を感じる作品でした。