透明人間たちのひとりごと

追われし者の詩(うた)

 静岡県庁にサル出没の報に、っ と思ったのは、
つい先頃(9月上旬)に宮崎県の日向市で18人の被害者を
出して哀れにも殺処分されたばかりのサルの話とちょうど
3年前の今頃に(2010年8月末~10月にかけて)、静岡県の
東部(三島・裾野・長泉・沼津・富士・富士宮などの)地域を
股にかけて暴れまわり、神出鬼没にもおよそ50日にわたり
縦横無尽に跋扈し狼藉を働いて、人々を恐怖のどん底に
陥れたかみつきザル 「らっきーmonkey」 の記憶が瞬時にリンク
して甦ってきたからです。

 県の東部を舞台に広範囲に移動しながら117人の人々に
ケガを負わせた かみつきザル の話題は全国ニュースでも
取り上げられたのでご存知の方も少なくないと思いますが、
当時、彼女(捕獲後にメス猿と判明した)は、ワイドショーの
カッコウのネタとなっていました。

 最初の出没先でもあり、かつ最大の被害者を出していた
三島警察署管内では署の名誉と威信にかけて、この凶暴
で凶悪なサルの逮捕ならぬ捕獲にとうとう懸賞金20万円が
かけられるという事態にまで発展したのです。

 おそらく彼女は、傍若無人に振舞ったというよりも、むしろ
誰かに縋(すが)り付きたい、淋しくて、怖くて、甘えたくて…

 だから

 優しそうな女性や子供に出会うと、じゃれあいを求めては
抱き付いて甘噛みをしたのではないのか と ボク には
そういうふうに思えてならなかったのですが …

 それが、とんだことに 「凶状持ち」 となり追われる身
となってしまった彼女の心境は如何ばかりだったのかase

 symbol2 … って、先程から唐突に擬人化した表現になっている
のには理由(わけ)があるのです。

 というのも、逮捕後、いや捕獲後に判明したのは、彼女は
推定4歳のメスで、人間に例えれば15歳くらいの花も恥らう
乙女だったということと、次々と被害者を襲ったことからして
も、さぞや極悪非道な面構えをした醜女面(しこめづら)かと
思いきや、ほのかに色香を漂わせる可憐で端整な顔立ちの
美人、いや超美形のサル right 「美猿」だったということ …

 そして、何よりも、その後に起こる数奇な運命に弄ばれる
ドラマ性に人間味を感じ取ってしまったからなのです。

 先だっての宮崎・日向の例を見るまでもなく、人間に危害
を加えた動物たちはごく一部の例外を除いてその場で射殺
されるか捕獲後に薬殺、つまり殺処分されるのが通例なの
ですが、、彼女の場合はその美貌ゆえか、はたまた2か月
近い逃走期間中の変幻自在で機略縦横な活躍question2が人気を
呼んだのか地元のみならず全国からも多数の助命嘆願
が寄せられ、三島市の 楽寿園 の施設(オリ)に幽閉される
ことで一件落着となったのです。

 まあ、彼女からすればさらし者になったわけですが

 さらに愛称まで公募された結果、かみつきザルから連想
された 「ガブリエル」 という本命を押さえて決まったその名
は、命拾いに因(ちな)んだ 「らっきー」 というなんとも
ヒネリの効かない何の変哲のないイージーなものでした。

 そして、ここから彼女、「らっきー」 のアンラッキーな物語
が再び始まるのです

 一躍、三島市のアイドルとなった 「ラッキー」 は、来る日
も来る日も人々に囲まれ指を差されて見つめられ、カメラ
のフラッシュを浴びるような超人気者になったのですが …

 見世物小屋の展示物(人気アイテム)のように見物人から
の好奇な視線を浴びる毎日と、時折 訪れるスポット記事が
目当てのマスコミやワイドショーなどのカメラの砲列の嵐に
らっきー」 のストレスは限界値を超えつつあったのです。

 そんな日々が3か月も続いたある日のことでした。

 飼育係が油断して内側と外側の二重の扉を開けっ放しで
清掃を始めたのです。

 チャンスは今しかありません。

 脱兎の如く逃げ出した 「ラッキー」 でしたが、当然に、行く
あてなどありません。

 かつてのように見知らぬ民家に侵入してコソ泥まがいの
窃盗を繰り返すしか飢えを凌(しの)ぐ方法がないのです。

 こうして、またしても、「らっきー」 は 「追われし者」
となってしまったわけですが、今回の逃走劇はあっけない
幕切れでフィナーレを迎えます。

 脱走したまではよかったけれど、食事の手当てがないの
です。 彼女は一晩じっくりと考えて、自ら「出頭」するような
かたちで、翌朝の住宅街で捕縛されます。

 よほどお腹がすいていたのかもしれません。

 哀れにも、その容姿は、額から背中にかけて大きく毛髪
が抜け落ちて、みすぼらしくもありました。

 端正で気品さえも感じさせた、あの 「らっきー」 の姿は
そこにはありませんでした。

 ここで話を2か月ほど前に戻しましょう。

 楽寿園の人気アイドルとなって1か月半が過ぎる頃から
衆人環視のなかで過ごすことに強いストレスを感じていた
らっきー」 に抜け毛の症状が出始めます。

 ストレス性の「心身症」を発症したようなのです。

 「心身症」と言えば、逆噴射でお馴染みの片桐機長と
同じ病気ですが、彼女の場合、オリの中へと逆噴射ならぬ
逆戻りすることになるわけです。

 逆噴射事件をご存じない方は、日航機事故を記事にした

 『機長、やめてください』 を参考にしてください。

exclamation http://sun.ap.teacup.com/japan-aid/258.html(参照)

 さて、生活は保障されたものの、ストレスによる脱毛症に
悩まされる「らっきー」の身の上は、結局のところ囚われの
見世物に過ぎなかったのでした。

 『選択の科学』シーナ・アイエンガー著)には、
こんな文章があります。

 これ以上はないという贅沢なホテルを想像してほしい。
 朝昼晩と豪華な食事が用意されている。
 日中はお好きなようにどうぞ。
 プールサイドのラウンジで過ごすもよし、
 美容施術を受けるもよし、
 娯楽室で遊びに興ずるもよし。

     ― 中略 ―

 にこやかなスタッフがいつも控えていて、
 どんな要望にも喜んで応えてくれる。 その上、
 ホテルでは最先端の医療サービスが受けられる。

     ― 中略 ―

 そして何といっても最高なのは、
 すべて無料だということだ。
 だが一つだけ、ちょっとした条件がある。
 チェックインしたが最後、永久に出られない。

 これは、あの有名なホテル・カリフォルニアのことでは
 ない。 このような贅沢な監禁は、世界中の動物園の
 動物たちにとって、あたりまえのことなのだ。

 …

 そして、シーナ教授は、動物園とは、「動物に最も刻み
 込まれた生存本能とは、相容れないものだ」 と説いて
 います。

 つまり、

 シマウマは近くにいるライオンの臭いを毎日嗅ぎながら
 逃げることはできないし、毎日魔法のように現れていた
 餌が明日もまた現れるかどうかを知るすべも、また自分
 で食料を調達することもできない。

 そして、このような状態から逃げ出そうとする動物の心理
 を 「状況を自分自身でコントロールしたいという欲求が、
 強力な動機となって、不都合を招くことがわかっていても
 その衝動に突き動かされてしまう」 … と言っています。

 なるほど、そうかもしれません。

 しかし、「らっきー」 の状況はさらに過酷で、心理的には
もっと残酷な負荷を加えられていたと言えるでしょう。

 そして、とうとうあの日がやって来たのです。

 自由な外の世界に誘(いざな)うが如きに開け広げられて
いた内と外の二重の扉から彼女は何の躊躇もなく飛び出し
て行ったのでした。

 ところが現実は想像していたよりもはるかに厳しく彼女を
失望させるのに十分なインパクトで襲いかかって来ました。

 「凶暴なかみつきザル脱走」「らっきーの恐怖再び」など
マスメディアを中心に大々的に報じられた結果、周辺にある
民家の戸締りと監視の目はとにかく厳重で忍び込む隙など
微塵もなく、腹を空かせたままに怯えながら一昼夜を過ごさ
なくてはなりませんでした。

 朝を迎えて、ふらつく足取りで徘徊する 「らっきー」 には
もう、サツマイモやお菓子などの誘惑に勝てるだけの力は
残されてはいませんでした。

 symbol2kirakira2 ただ 「追われし者」にも詩(うた)はあります。

 もう少し遡って、そもそもの 「らっきー」 の出自というのか、
彼女の歴史に思いを廻(めぐ)らしてみましょう。

 すべては、想像の域を出ないものですが

 彼女が最初に姿を現したのは三島市内です。

 そこから往復で優に100kmを超える距離を移動しながら
かみつき(抱きつき)行為を繰り返し、最後に捕獲されたの
も三島市内のとある住宅の窓越しにいるのを住人に発見
されたことがキッカケでした。

 このことは何を意味しているのでしょうか

 噂話によると「らっきー」が捕まった場所はもともと彼女
が飼われていたと思われる地域の近くだということです。

 なんでも、彼女を飼っていたのは会社の事務所で、倒産
したか何かで置いていったか 近くの山に捨てたのでは
ないか という話です。

 まあ、それは、ともかく、彼女はその後も自分が飼われて
いた住宅地の周辺を離れませんでした。

 人へのかみつき被害が出始めたのもこの頃でしょう。

 自分を捨てた人間を恨んでいたのか それともただ単に
遊びたかったのか さみしかったのか ぬいぐるみで
遊んでいたという目撃談や気がついたらふくらはぎに抱き
つかれていたいう話、いずれにせよ彼女が人間と暮らして
いたことがうかがい知れる内容です。

 抱きつかれて慌てて振り解(ほど)こうとして引っ掻き傷を
つくる、そうした被害が拡大し、ニュースでも取り上げられ、
市をあげての捕獲作戦が開始されました。

 「追われし者」 となった彼女は、慣れ親しんだ街の
周辺から離れざるを得なくなってしまったのですase2

 西へ北へ … そして南に戻って、また西へ、50km近くも
離れた富士宮まで逃げたものの、やっぱりどうしても故郷
が恋しかったのです。

 東へ東へと … 「らっきー」 の足は急ぎます。

 結局、捕まったのは被害が一番多く発生した地域にある
一度侵入されたお宅での家族の絶妙な連携プレイによって
家のなかに閉じ込められてしまったからなのですが …

 このことはテレビでも繰り返し何度も放送されましたので
ご記憶の方も多いことでしょう

 そして、殺処分こそ免れたものの、もっと悲惨で屈辱的な
「さらし者」の憂き目を見たことは すでにお話しました。

 そして、自由を求めて脱走したことも

 そうそう、再度捕まる前のことでした。 

 彼女は 「らっきー」 と呼ぶ声に何の警戒心もなく近づいて
行ったといいます。

 新しい家族として迎え入れられることに、一縷の望みと夢
を託していたのでしょうかase

 ひょっとして、彼女は抱きつき行為を繰り返すことによって
自分を迎え入れてくれる新しい家族を必死で探し求めていた
のかもしれませんね。

 通常、メス猿は生まれた群れから一生離れないそうです。

 どういう事情で群れから離れ、一匹猿の暮らしを余儀なく
されたのか、はたまた、噂話のように飼い主に捨てられた
結果の行状なのか、知る由もありませんが、山に戻れずに
人間の生活圏に紛れ込んで生きていくしか方法がなかった
こと、そしてリスクを冒してでも人間と一緒に暮らす以外に
選択肢がなかったのが実情に最も近い真実なのでしょう。

 そう思うといたたまれなく切なくて仕方ありませんが …

 人間とは、かくも身勝手で理不尽な生き物だとあらためて
怒りが込み上げてきます。(飼い主に対してですが …)

 symbol2kirakira ここで断言します。

 彼女は、決して、 「かみつきザル」 などではなく、飼い主
に裏切られた さみしがり屋「抱きつきザル」
「らっきー嬢」 だと声を大にして紹介したいのです。

 最初の捕獲時に、殺処分をされず済んだのは、芸が身を
助けたわけでも、色が白くて七難が隠されたわけでもなく、
彼女の真実が人々の琴線に必然的に触れたが故の助命
嘆願であり、「さらし者」の悲劇も彼女にとっては宿命
だったのです。

 そうです

 ボク「追われし者の詩(うた)」 の記事
「反骨の乙女」 の物語を綴るアイデアを生み出す
ために仕組まれた天の配剤だったのかもしれません。

 「らっきー」 は、いまも楽寿園のどうぶつ広場内のオリで
ひっそりと暮らしてますが、毛並みも揃い毛艶も甦った感じ
ですので、どうやら心身症は克服しつつあるようです。

 ところで、冒頭の県庁に出没したサルの行方は未だ不明
の様子ですが、人を襲ったという報告はありません。

 大騒動の末に失敗に終わった捕物劇から、きょうで3日が
経過しますが、ちらほら目撃情報が届く程度で、件(くだん)
のサルの方が泰然自若にして大物感たっぷりの雰囲気を
漂わせています。

 おそらく、彼(若いオス猿だと思われる)からすれば …

 「山からひょっこりと様子を見に来ただけじゃないか

 「何を人間どもが上を下への大騒ぎをしているんだ

 … と、オリ のない 「人間園」 にやって来て、
面白半分に観察実験をしているだけなのかもしれません。

 、そんな馬鹿 な って

 決して、ないとは言えませんよ。 ないない

コメント一覧

雀=ポール・猿捕る
「人間は自由の刑に処せられている」

 (ジャン=ポール・サルトル)
舞茸ホウレン草
地球そのものが『動物園』というズーマニアさんに一万点をベットします。

と言っても古すぎて時効かもしれませんが。
ネット通り魔
ほんじゃ何かァ、ここは「猿の惑星」かい!
知らぬが仏
地球が、体裁の良い監獄という話も・・・
ズーマニア
実は宇宙人にとって、地球が動物園だったりして ・・・
それでちょくちょくUFOで見学にきているとか!
やぶにらみ
気付かずに一気に読んでいた。
集中力の欠如が自慢のはずなのに10分以上も集中してしまった。
恐るべし「らっきー嬢」の魅力!
おいら
http://sin-sei.at.webry.info/
調教師が虎に甘噛みされて大けがした事故があって虎が処分されたというニュースが昔あったな。

猿の甘噛み説に賛成だわ。何でも人間中心に考えるからダメなんだよね。
餃子ライス
噛みつき猿の話だけに、シュールにボケて落とすだけじゃなく、ボケ、ツッコミを噛ましましたね。
皮肉のアッコちゃん
そんな馬鹿なって、馬でもなく鹿でもなく、相手が猿だけに、
本当にあるかもね!
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「たわごと」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事