© 読売新聞
全国の地方鉄道で運転士不足による減便や運休が相次いでいる。労働人口の減少が続く中で、重い業務負担が敬遠されて離職が進み、採用競争が激化しているためだ。人材確保に向けた賃上げなどの対策も進むが、公共交通のあり方が問われる事態になっている。(林佳代子、福井支局 長沢勇貴)
とさでん交通(高知市)は1日から、高知市中心部のはりまや橋などを通る路面電車計29本を減便した。
同社は、運転士2人の休職でダイヤが維持できなくなったとして、8月下旬には平日も本数の少ない土日祝日のダイヤで運行していた。2人が復職した9月以降は通常ダイヤに戻したが、別の2人が退職したことで再び減便に追い込まれた。
伊予鉄道(松山市)は、道後温泉を訪れる観光客に人気の「坊っちゃん列車」を11月から当面運休とした。運転士不足のため配置転換せざるを得なかったという。
担当者は「生活の足として必要な列車の維持を優先した」と理解を求める。
岡山電気軌道(岡山市)は8月から、福井鉄道(福井県越前市)は10月14日から減便に踏み切った。
地域公共交通総合研究所(岡山市)が5~6月に実施した調査では、全国の鉄道事業者の4割超が乗務員や技術者が「減少した」と回答した。
運転士は、早朝や深夜に及ぶ勤務もある中で日頃から体調管理が求められ、人の命を預かる運転中は高い集中力が必要になる。仕事量の多さや賃金水準の低さから離職が増え、採用も難しくなっているという。
新規に採用しても、運転士になるためには国家資格を取得する必要があり、すぐには列車を運転できない。
2022年の厚生労働省の賃金構造基本統計調査を基に計算すると、鉄道業の平均年収は、従業員規模が100~999人で約520万円だが、10~99人だと約390万円。従業員が少ない地方鉄道は、都市部の鉄道会社よりも年収が低い傾向にある。
西日本のある地方鉄道の人事担当者は「運転士がJRや大手私鉄に引き抜かれるケースもある」と明かす。
各社は、運転士の待遇改善を進める。とさでん交通は昨年10月と今年4月、運転士を含む社員の基本給を底上げするベースアップを実施。伊予鉄道は運転士の年間休日を8日増やした。
働き手不足は、地方でより深刻化すると見込まれる。リクルートワークス研究所は3月、40年に1100万人の労働供給が不足すると予測。東京都以外のすべてで人手が足りなくなり、不足率は京都39・4%、愛媛32・4%、岡山29・5%などとなる見通しだ。
都市部に路線網を持つ大手の鉄道事業者も危機感を強めており、将来の運転士不足を見据えた対応を急ぐ。
南海電鉄は今年8月、和歌山港線(和歌山市)で、運転士以外の係員を乗せた状態で運行する自動運転に向けた走行試験を始めた。
■休日出勤が常態化
「連続勤務が続いても、安全運転に力を尽くさないといけないから大変なんです」。10月に運行本数を2割以上削減した福井鉄道の運転士・永田貴大さん(37)が実情を語った。
永田さんは地元の高校を卒業後、20歳から運転士を務め、後輩の指導も担う。
同社では2019年頃から運転士の離職が相次ぎ、ダイヤ維持に必要な28人を大幅に下回ったため、減便を余儀なくされた。現在は20人だ。
休日出勤が常態化し、週休1日が多かったという永田さんは「体調不良になった運転士の代わりが見つからず、家族での外出をキャンセルして働いたこともある」と打ち明ける。減便後は週休2日に戻ったという。
ワンマン運転で無人駅が多く、運賃支払いの対応やドア開閉も担う。道路上を走る区間では、車や人と接触する可能性があり、緊張を強いられる。
永田さんは「乗客の『ありがとう』の声を近くで聞けるのが地方鉄道のやりがい。公共交通を維持する使命を果たしたい」と語った。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます