いきなりですが。
酒飲みの喜ぶツマミの定義とは、つまるところ
「すぐ出てきて、さっとつまめて、腹いっぱいにならない」
の三原則につきるかと思われる。
こ洒落たモノはいらん、単純明快なモノでよろし。
いくら美味だろうが、「出来上がりまで少々お時間がかかって」はいかん。
グラタン状のような、育ち盛りの子供用オカズもいらん。
…昭和のおっさんのつぶやきになりますが…
これに次の杯を誘う…“もう一杯欲しいかも”と言わせる何か。
これは後引き要因と呼んでみる。
これらを持ち合わせた究極のツマミをピンチョス天国、スペインで探す。
なんと大変な仕事ではないですかww
(いや~大変だww)
しかしながら意外とさくっと結論がでてしまいました、私の場合。
● 実は漬物文化のバリエーションの豊富さ、素晴らし!
保存食文化の歴史は長く、その世界は深い。
人類の歴史=飢えとの戦いの歴史である由、どの国どの地方に行っても
やれ塩漬だ、油漬、乾燥だと様々な工夫を凝らし、知恵を絞って熱心に食料の備蓄をした
文化の軌跡がうかがえる。それも市場やスーパーなど身近な場所に。
スペイン名物生ハム、チーズなんかもその仲間。
またもう一つの名産、オリーブもその代表ともいえる。
そう、オリーブを代表とする様々な漬物はこの土地の人々が好む、
伝統的なおつまみ、おやつ。
(いっつも大人買い欲をそそる、漬物やの店先)
調理不要、保存も利き、お値段も庶民的。
代表的なオリーブの種類も相当に迷うほどだが、それ以外に小タマネギ、キュウリ、ニンニク、ナスなど
あれこれあり、ちょいお酢きつめながらも、ビールなどには最適のおつまみとなる。
商店用広告。バケツ売りにドキドキw
中でも個人的に一時はまったのがこれ↓
アルトラムセス、エントレモソス、チョチョスなど地方によって呼称は違うが
ルピナス(日本でも観賞用に栽培される)の実。中国ではハウチマメという名で食される。
これを塩漬けにしたもので、枝豆感覚でいくらでも食べれる。安価でどこでも売っているので
ビール好きはぜひお試しあれ。
またピリ辛好きにはこれ、
“バスク風青唐辛子の酢漬け”とでもいうのか。中でも身の締まった小ぶりのものは「ピパーラ」
という名前でよりグレード高し。これはこの国に伝統的に多い豆料理を食する際、一緒に食べると
オナラを押さえるということで、必ず添えてだされる。
どれも「しょっぱ酢っぱい」ゆえ、強すぎる感もあるが、そのパンチが
呑兵衛のドリンク欲を刺激するという…あぶないラビリンスへの入り口であるのは確か。
● 串モノはこっちでも人気
上記に述べた様々なツケモノ系は、もちろんどこのバルでもみかける。
そしてこれらをひょいとつまめるよう、爪楊枝に刺して供する串モノはこっちで人気。
全国的にはこのおつまみ串を「バンデリージャ」と呼ぶのは、闘牛士の使用する銛から↓
(なんかつまみ一つに大げさなネーミングに聞こえますが…)
この串モノは手軽に用意できるゆえ、あちこちに定番ピンチョとして置かれているのみかける。
特に規則はないので、それぞれのお店での工夫がうかがえる。
オリーブ、アンチョビは使い易い定番アイテム。
ね?“すぐにでてきて、ひょいとつまめて、お腹一杯にならない”代表ピンチョはこれじゃないですか!
●そしてヒルダ。
ここで酒呑みの盟友、いってみれば「ツケモノ小串」ピンチョの話が終わらない。
彼ら小串仲間のうち、もっともシンプルと思われる
オリーブ+アンチョビ+青唐辛子酢漬
をセットにした串は「ヒルダ」と呼ばれ、北スペイン地方主にバスクあたりの名産ピンチョとして
ご当地キャラ的人気を誇る。
バスク産と言われる所以は、グルメ都市として名高いサン・セバスチャン(ドノスティア)にある老舗メソン、
「カサ・ラスバジェス」で誕生したというエピソードから。
街の中心地にある地元客におなじみのお店。
これが元祖と語られるヒルダ。
1946年創業当初、この店の常連客の何某氏(お名前まで判明している)が、当時同店で出していたこの三つの
おつまみを串に指して提供してはどうだい?と提案してくれたとのこと。そしてピンチョの名前は「ヒルダ」。
そう、この頃爆発的に人気を呼んだ映画「ギルダ」(スペイン語読みはヒルダ)に出演した、
時の輝くのセックス・シンボル、リタ・ヘイワーズへのオメナージュであったとか。
手袋を脱いだだけなのに皆大コーフンw
94年映画「ショーシャンクの空に」内でも語られたセクシー美人女優さんですな。
(本家の映画「ギルダ」上映は47年後半、当時フランコ独裁政権下。この映画もろのシーンはないものの、
上映と同時に全国各地で上映取り消しが相次いだとか。)
いわく、「オリーブの緑、青唐辛子の辛さ、アンチョビのしょっぱさ」の語意が
緑/Verde=ちょっとエッチで
辛い/Picante=刺激的で
しょっぱい/Salado=ウィットに富んだ…まさにこの大女優への賛辞になるという、言葉遊びとなるわけで。
または、串に刺したそれぞれの違う味をゆっくりしがんで味わうのが、
まさに映画のシーンで長手袋をリタ・ヘイワーズがするすると脱ぐ様子に似てるだの。
まあ、酒場の戯言といってしまえばそれまでだが、こんなエピソードを聞きながら食べるヒルダは
実に美味しい。
しょっぱさ、酸っぱさ、旨みのコラボ。
これがちょうど酒呑みの好きな“後引き要因”となって、ついおかわりを頼んでしまうというわけ。
…しかしながら、この昔から愛されたピンチョも気軽なもんじゃなくなってしまった。
バル店主らいわく、材料、特にアンチョビの価格高騰で、今やあの一切れに1ユーロあたりもかかるように
なってしまった。
「じいさんらの時代には気軽な、お安いピンチョで、カードゲームのコイン代わりに
した位のもんなんだがねぇ…」とのこと。
それでもしぶとく、それも全国的に生き残っているヒルダ。
やっぱり酒呑みの好物はどこでもいっしょなんでしょうねぇ…
面白かった。読みごたえがありました。
近いうちの更新を首を長くして待っています。