今年の春に少し体調を崩し、通院してしまった私
そんなある日、その日の病院の待合室はいつもより混んでいた
かなり待つしかないなと覚悟して座っていた
しばらくすると、老婆が中年女性に手を引かれて入ってきた
「言ったでしょ!だらしないのよ、あんたは!」
老婆は、大きな声でその女性を叱っている
待合室にいた患者は、皆一斉にそのほうを見た
「ほんとうにだらしないんだから!!」
同じことを繰り返し言っている
老婆の娘さんなのだろうか、その中年女性も負けてはいない
「何回もうるさいのよ! じゃ、自分でやりなさいいよ!」
空いていた壁際の席に座ってからも、険悪な会話が続いた
聞こえてくる内容は、うんざりするものだった
介護というのは大変で、時にはこういうケンカにもなるのだろう
母娘であっても、なかなか難しいものなんだなと、思ったりしていた
口喧嘩もしばらくすると終わって、待合室はまた静かになった
私の順番はまだこない、少々待ちくたびれたなと思っていた時
ふたたび老婆の声が聞こえてきた
「目薬ちょうだい」
「マスクちょうだい」
「少し寒いよ」
老婆があれこれ言うたびに、女性は持っていたバッグの中から
要求されたものを渡している さっきのシコリが残っているのか、
女性は不愛想につっけんどんに渡してはいるが、それは感嘆するくらい色々なものを持参していた
突然老婆が、壁に手をついて立ち上がった
「どうしたの?」と、女性
「同じ姿勢だから足が痛くなった」と、老婆
すると女性は、老婆の足をさすり始めた
右足をさすり左足をさする
さっきまで不機嫌な顔をしていた女性の手は、ゆっくりと優しい
見ていた私は、涙が零れそうになった
愛とは、こんなにも哀しくあったかいものなのだ
ケンカしていたお二人の絆を見る思いだった
こうしてこの春の私の通院は、切なく愛おしく終わったのでした
そんなある日、その日の病院の待合室はいつもより混んでいた
かなり待つしかないなと覚悟して座っていた
しばらくすると、老婆が中年女性に手を引かれて入ってきた
「言ったでしょ!だらしないのよ、あんたは!」
老婆は、大きな声でその女性を叱っている
待合室にいた患者は、皆一斉にそのほうを見た
「ほんとうにだらしないんだから!!」
同じことを繰り返し言っている
老婆の娘さんなのだろうか、その中年女性も負けてはいない
「何回もうるさいのよ! じゃ、自分でやりなさいいよ!」
空いていた壁際の席に座ってからも、険悪な会話が続いた
聞こえてくる内容は、うんざりするものだった
介護というのは大変で、時にはこういうケンカにもなるのだろう
母娘であっても、なかなか難しいものなんだなと、思ったりしていた
口喧嘩もしばらくすると終わって、待合室はまた静かになった
私の順番はまだこない、少々待ちくたびれたなと思っていた時
ふたたび老婆の声が聞こえてきた
「目薬ちょうだい」
「マスクちょうだい」
「少し寒いよ」
老婆があれこれ言うたびに、女性は持っていたバッグの中から
要求されたものを渡している さっきのシコリが残っているのか、
女性は不愛想につっけんどんに渡してはいるが、それは感嘆するくらい色々なものを持参していた
突然老婆が、壁に手をついて立ち上がった
「どうしたの?」と、女性
「同じ姿勢だから足が痛くなった」と、老婆
すると女性は、老婆の足をさすり始めた
右足をさすり左足をさする
さっきまで不機嫌な顔をしていた女性の手は、ゆっくりと優しい
見ていた私は、涙が零れそうになった
愛とは、こんなにも哀しくあったかいものなのだ
ケンカしていたお二人の絆を見る思いだった
こうしてこの春の私の通院は、切なく愛おしく終わったのでした