人間、あんまりにも悲しいと無意識に涙が出てくる。
それは自分の周りのほとんどの人に当て嵌まることだったし、勿論自分にも当て嵌まっていた。
そんな些細なことを、今日、強く否定したいと、オレの心は欲していた。
「君個人が好きなんじゃない。俺は人間が好きなんだ」
意地悪そうに微笑みながら、目の前の男はそう吐き捨てた。
アンタはオレが好きなんですか、とふと口走ってしまった質問への答えだった。
彼のそういった考えは知っていたし、十分に理解していた。
でも、心のどこかで、自分だけは特別なんじゃないかと、甘えていた。
折原臨也の答えは、確実に「拒否」だった。
・・・ただの甘えにすぎなかったのだ。
「そう、ですか」
別になんとも思わなかった。正直憎くて憎くてたまらない相手だったし、こうスッパリと切り捨ててくれたほうがありがたい。
「まぁ、オレもなんとも思ってないですし・・・」
そんな筈だった。
「なんとも思ってないのに、どうして泣いてるわけ?」
「・・・え」
自分の感情が零れ落ちていることに気づかされ、激しい嫌悪感が自分自身に対して生まれる。
(これじゃあ、悲しいみたいじゃないかよッ・・・!!!!)
悲しいと思う部分がどこにあるのか解らず、涙は止まることを知らず流れていった。
「陰気くさいから、泣くのやめてくれない?」
冷徹な声が届いた。
「す、みませ・・・」
「あとちゃんと仕事していってよね。そのために君はここにいるんだから」
どこまでも冷えた声。
正臣は涙を一生懸命堪えつつも、言われた仕事を消化し始める。
しかし手は思うように動かない。
ふと考え始める。
悲しいときに流れる涙。
臨也さんに拒絶されたことで流れた涙。
嬉しかったわけでも感極まったわけでもないから、さっきの自分は悲しくて泣いた。
拒否されて、悲しかった。
なら、自分の気持ちは。
(す、き、だ)
好きだよ臨也さん。
でも臨也は自分のことはただの手駒。
それなら、もう、・・・いいや。
なんだか何もかもどうでもよくなった。
今気づいたばかりだけど、こんなにも好きな相手にこんなにもはっきりと拒絶されたんだ。
ああ、もう、どうでもいい。
仕事の手を止めて、近くの窓までいき、カラカラと開けると、無防備にテーブルの上にあった30枚ほどの札束を、新宿の夜空に思いっ切りばらまいた。
はらはら、ひらひら、同じ印刷の施された紙切れ達は、夜空に映えて散っていく。
その様子を微笑みながら眺めていた正臣に、臨也が声をかける。
「ちょっと・・・俺の身分ばれるようなことはしないでよ?」
「・・・・・・その程度、ですか」
「・・・・・?うん」
「そう、ですか・・・・・・」
試してみようなんて考えた自分が馬鹿だった。
既にこんなに拒絶されてるのに。
心配されようなんて、馬鹿だった。
フッと、自分を嘲った。
もう、いいや。
自分の想いとか、もう。
オレがこの人を好きでいて、幸せになる人は、この世界に一人といない。
勿論、自分でさえも。
部屋の方向に向いて、窓枠に腰掛けた。
そして、綺麗に笑った。
「さよなら、いざやさん」
そのまま、窓枠から手を離して、背中のほうへ体重をかけた。
落ちる落ちる。
ああ、星が綺麗だ。
星に手を伸ばした。
いざやさん、さようなら。
目を閉じた。
●○●○●○●○●○●○●○●○●○
投身自殺って、本当に死ぬ前に、落ちてる間に意識がなくなるらしい。
だから、きっとこれは、死ぬ前の夢なんだと思った。
オレが、臨也さんに抱きしめられてるなんて。
「いざ、や・・・さん・・・・・・?」
掠れた声が出た。
その声に呼応して、抱きしめる力が強くなる。
あたたかい。
あれ。
抱きしめられて、あったかくて。
感覚がある。
死んで・・・ない。
「臨也、さん・・・?」
「ごめん、ごめんごめんごめん、ごめん正臣くん」
ぎゅう、とこもった力が強くなった。
「君を、死なせるようなつもりはなかったのに・・・・・・俺は・・・俺は・・・・・・」
そして小さく呟いた。
「正臣くんのことが好きなのに」
「・・・え、」
驚いて、臨也の顔を見た。
とても、泣きそうな顔。
やってしまった。
こんな悲しそうな顔、させるつもりなかったのに。
「ごめ、ん、なさ・・・」
「謝らないでよ・・・俺が追い込んじゃったんだから」
正臣の両肩に両手を置き、胸に頭をうずめ、甘えるように囁いた。
「死なないでよ正臣くん、俺を置いていかないで」
強く。
「好きだよ、愛してるよ、正臣くん
誰よりも、世界一、君を愛してる。
どんな他の人間より、君のことが、
好きだ。
試しちゃったりして、ごめんね」
「いざやさんっ・・・・・・!!!!」
また、子供のように泣いてしまった。
でも今度は、嬉しかったから。
「泣かないでよ、陰気くさくなるから」
目尻にキスして、涙を拭った。
「正臣くんは、こんなことした俺のこと・・・・・・好き?」
ずるい。
判りきってるくせに、そんなこと聞くなんて。
でもね、
「大好きに、決まってるっすよ」
その直後、正臣は後頭部を打った。
押し倒されて、キスされたから。
そんな間に、どちらからともなく、言う。
『大好き』
それは自分の周りのほとんどの人に当て嵌まることだったし、勿論自分にも当て嵌まっていた。
そんな些細なことを、今日、強く否定したいと、オレの心は欲していた。
「君個人が好きなんじゃない。俺は人間が好きなんだ」
意地悪そうに微笑みながら、目の前の男はそう吐き捨てた。
アンタはオレが好きなんですか、とふと口走ってしまった質問への答えだった。
彼のそういった考えは知っていたし、十分に理解していた。
でも、心のどこかで、自分だけは特別なんじゃないかと、甘えていた。
折原臨也の答えは、確実に「拒否」だった。
・・・ただの甘えにすぎなかったのだ。
「そう、ですか」
別になんとも思わなかった。正直憎くて憎くてたまらない相手だったし、こうスッパリと切り捨ててくれたほうがありがたい。
「まぁ、オレもなんとも思ってないですし・・・」
そんな筈だった。
「なんとも思ってないのに、どうして泣いてるわけ?」
「・・・え」
自分の感情が零れ落ちていることに気づかされ、激しい嫌悪感が自分自身に対して生まれる。
(これじゃあ、悲しいみたいじゃないかよッ・・・!!!!)
悲しいと思う部分がどこにあるのか解らず、涙は止まることを知らず流れていった。
「陰気くさいから、泣くのやめてくれない?」
冷徹な声が届いた。
「す、みませ・・・」
「あとちゃんと仕事していってよね。そのために君はここにいるんだから」
どこまでも冷えた声。
正臣は涙を一生懸命堪えつつも、言われた仕事を消化し始める。
しかし手は思うように動かない。
ふと考え始める。
悲しいときに流れる涙。
臨也さんに拒絶されたことで流れた涙。
嬉しかったわけでも感極まったわけでもないから、さっきの自分は悲しくて泣いた。
拒否されて、悲しかった。
なら、自分の気持ちは。
(す、き、だ)
好きだよ臨也さん。
でも臨也は自分のことはただの手駒。
それなら、もう、・・・いいや。
なんだか何もかもどうでもよくなった。
今気づいたばかりだけど、こんなにも好きな相手にこんなにもはっきりと拒絶されたんだ。
ああ、もう、どうでもいい。
仕事の手を止めて、近くの窓までいき、カラカラと開けると、無防備にテーブルの上にあった30枚ほどの札束を、新宿の夜空に思いっ切りばらまいた。
はらはら、ひらひら、同じ印刷の施された紙切れ達は、夜空に映えて散っていく。
その様子を微笑みながら眺めていた正臣に、臨也が声をかける。
「ちょっと・・・俺の身分ばれるようなことはしないでよ?」
「・・・・・・その程度、ですか」
「・・・・・?うん」
「そう、ですか・・・・・・」
試してみようなんて考えた自分が馬鹿だった。
既にこんなに拒絶されてるのに。
心配されようなんて、馬鹿だった。
フッと、自分を嘲った。
もう、いいや。
自分の想いとか、もう。
オレがこの人を好きでいて、幸せになる人は、この世界に一人といない。
勿論、自分でさえも。
部屋の方向に向いて、窓枠に腰掛けた。
そして、綺麗に笑った。
「さよなら、いざやさん」
そのまま、窓枠から手を離して、背中のほうへ体重をかけた。
落ちる落ちる。
ああ、星が綺麗だ。
星に手を伸ばした。
いざやさん、さようなら。
目を閉じた。
●○●○●○●○●○●○●○●○●○
投身自殺って、本当に死ぬ前に、落ちてる間に意識がなくなるらしい。
だから、きっとこれは、死ぬ前の夢なんだと思った。
オレが、臨也さんに抱きしめられてるなんて。
「いざ、や・・・さん・・・・・・?」
掠れた声が出た。
その声に呼応して、抱きしめる力が強くなる。
あたたかい。
あれ。
抱きしめられて、あったかくて。
感覚がある。
死んで・・・ない。
「臨也、さん・・・?」
「ごめん、ごめんごめんごめん、ごめん正臣くん」
ぎゅう、とこもった力が強くなった。
「君を、死なせるようなつもりはなかったのに・・・・・・俺は・・・俺は・・・・・・」
そして小さく呟いた。
「正臣くんのことが好きなのに」
「・・・え、」
驚いて、臨也の顔を見た。
とても、泣きそうな顔。
やってしまった。
こんな悲しそうな顔、させるつもりなかったのに。
「ごめ、ん、なさ・・・」
「謝らないでよ・・・俺が追い込んじゃったんだから」
正臣の両肩に両手を置き、胸に頭をうずめ、甘えるように囁いた。
「死なないでよ正臣くん、俺を置いていかないで」
強く。
「好きだよ、愛してるよ、正臣くん
誰よりも、世界一、君を愛してる。
どんな他の人間より、君のことが、
好きだ。
試しちゃったりして、ごめんね」
「いざやさんっ・・・・・・!!!!」
また、子供のように泣いてしまった。
でも今度は、嬉しかったから。
「泣かないでよ、陰気くさくなるから」
目尻にキスして、涙を拭った。
「正臣くんは、こんなことした俺のこと・・・・・・好き?」
ずるい。
判りきってるくせに、そんなこと聞くなんて。
でもね、
「大好きに、決まってるっすよ」
その直後、正臣は後頭部を打った。
押し倒されて、キスされたから。
そんな間に、どちらからともなく、言う。
『大好き』