KANON廃園

スタジオカノン21年間の記録

海外アニメの背景 

2019年08月12日 | カノンの記録
「桜通信」の仕事が終了して次のTVシリーズを受ける間、合作もの1本と短編のOVA(オリジナルビデオアニメーションの略) などの仕事でつないでいた時期があります。
「合作もの」とは、外国で制作、放映するアニメーションを日本で作画や背景の下請けをするというもので、(逆もあります)この当時は主にアメリカの作品の背景を下請けする仕事がありました。
国内で人気作品の背景を描く方がスタッフとしてもモチベーションが上がるというものですが、
たまたま「ジョニークエスト」という合作の依頼があって1本受けてみる事にしたものです。

・・・が、考えが甘かったと言おうか、何も考えていなかったと言うべきか(多分後者)、アメリカ製の美術ボードを見て愕然としました。
まず、技術的な基本というより、絵作りの基本が違います。
通常、日本ではまず光源ははどっち?と確かめます。 つまり1点光源主義と言っても良いくらい、光の方向は一つに絞り、ほかは考えないのが普通なのです。
確かに昼間の外なら光源は太陽のある方向に限られてきます。
けれど光はもっといろいろなところにあり、光を受けて目に見える色彩は絶えず変化しています。
たとえば 森の中で木漏れ日の光は分散して木の幹に反射します。川面に映る光は屈折してゆらめき、雨の後には、水滴に反射屈折して分光し、虹色になります。
夜には月の光、街の街頭、雨にぬれた石畳に映るショーウィンドゥの光、ビルの窓明かり、人口の光がたくさん輝きます。
画家達はそうした光のページェントを見逃しません。一見余計と思われるものも含めて様々な現象をそれぞれの感性で多角的に取り入れる労苦を惜しまないでしょう。
つまりは、そうした絵画的表現がアニメーション背景の根底にも生かされているのではないでしょうか。
  
「ジョニークエスト」のボードは見慣れないとハイライトがうるさく描き込み過ぎな感じがしましたが、「絵画」と見ると理解できます。
さらにレイアウトそのもののアングルが多角的で、TVだから(仕事を)楽にするという発想はない感じです。
コンテも丁寧にしっかり描かれてあり、映像の流れは実写ドラマと変わりません。
それだけ作業にかける時間も費用の面でもアニメーションという仕事の立ち位置そのものが日本とは違うのです。

もちろん日本のアニメの背景が決して絵画的ではないということではありませんが、いかに単純に効率よく余計なものを省略して表現するか、引き算の美学が根底にあるのも事実です。

 形(デッサン)を正確に
 パースを正しく
 光源を明確に
 ボードに色を合わせて
 塗りをきれいに
 地塗りは集中してすばやく
 質感を出して
 コントラストをつけて
 
背景制作の現場ではだいたいこんな事が注意点としてあげられます。
複数人で同じ作品を描くのですから美術ボードに合わせなければ統一がとれないわけで、説明のつかない描き方は避けるしかありません。
ですからあまり絵画性を追求しても…という事になってしまうのです。
もちろんすばらしい背景美術は昔からたくさんありますが、アニメーションの背景が広くアートとして認識されるようになったのはもう少し後の話。


海外アニメという明らかにこれまでこなしてきたTV作品の背景とは違う絵柄にぶちあたり、
弊社の新人スタッフは皆夜を徹して描くはめになり、そうでなくとも無口なスタッフがますます沈黙してしまう状況でした。
こんな仕事やってられないと思い始めたスタッフもいたかもしれません。
よくとらえるなら画力UPのきっかけとなり、こういう絵も描けるんだという自信にもなったのでは・・・と思いたいところです。

しかしこれより更なる苦境がこの後に待っていました。

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