あぽまに@らんだむ

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幻のような香りの中で(セリニアス)

2020年05月13日 | 創聖のア◇工リ〇ン関係

 

 

これは、2006年4月23日に書いた「創聖のアクエリオン」の二次創作SSの再掲です。

男、ナイトシェードは本編のピエールの転生前の姿としており、

名前は「ソードワールドTRPG」のSSで出て来た怪盗の名前から頂いてます仮の名です。

実際の最後の戦いは別のキャラクターが出陣していたのですが、まだ知らない時の事で、

妄想で書いてましたので、その点は予めご了承下さい。

腐的表現がありますので、大丈夫な方のみ下へスクロールしてご覧下さい。

↓↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<幻のような香りの中で>


アトランディアとの決戦の日。
ベクターマシンの搭乗者はアポロニアス、セリアン、そして蒼い髪の剣士ナイトシェードの三人に決まった。
シリウスも既に幼年期を脱していた為、その資格を主張したがアポロニアスが許さなかった。
セリアンにもしもの事があった場合、アリシア王家の血を絶やさない為と、
三人が戻らなかった場合の士気の事もあった。
シリウスは生まれながらの王族で既に国民と連合軍の中で絶大な支持を得ていた。
堕天翅の血を引いていたとしても、そのカリスマは人々を率いていくのに充分だろうとアポロニアスは考えたのだ。
自分達が死んでしまった場合、人類を導く重責を愛する我が子に託すのは胸が痛んだ。
だからこそ、この闘いで長年に渡る争いに終止符を打たなければならない。
勝たなければ人類に未来は無いのだ。
アトランディアまでの道程はゲートを使う。
しかし、ゲートを開く場所まで襲撃される恐れがあった。
今迄も強力なバリアを張ったゲートを襲うのは難しいと悟った堕天翅達は、
ゲートへ入る迄に急襲する事が多かったのだ。
ゲートを開く準備は整っている。
しかし、そこに辿り着くのが難しかった。
人類には、ベクターマシンとアポロニアスの指示で造られたベクターマシンに模した戦闘機が数機しかない。
その為、人類は地上から堕天翅達に闘いを挑むしかなかった。
しかし活路を開かねばアトランディアに奇襲出来ないのだ。
人類の被害は今迄に無い程になるだろう。
それでもやらなければならない。
各国の指導者達の了解は既に取って士気も高めてある。
しかし、散って逝くだろう命を思い、アポロニアスは一人ベッドに座り胸を痛めていた。

「アポロニアス、会議ばかりで疲れたか?」

蒼い髪の剣士ナイトシェードは次の打ち合わせ会議に使う書類の束を抱え部屋に入って来た。
予測した通り、辛そうな顔をした人類の救世主に微苦笑する

「勝ちに行く総大将の顔じゃないな。今から死にに逝く顔をしているぞ」

大きく溜息を吐きながら目の前に跪き、頬を軽く摘んでやる。
アポロニアスは一瞬子供のような表情になると、弱々しく微笑んだ。

「君には敵わないな」

幾ら嘆いても仕方無いのは分かっていた。
彼等の死を無駄にするかどうかは自分達次第なのだ。
ナイトシェードもそれは分かっているのだ。
だからこそアポロニアスには毅然として貰う必要がある。
迷っている者に命を預ける事は出来ない。
指揮官の揺らぎは全体の士気にも影響するのだ。
しかし、犠牲となる命を思い遣る優しい面を剣士は愛していた。

「それがお前の美しい処だ。辛い事を強いているのは分かっている」

そしてナイトシェードは分かっていた。
もうすぐ運命の時が迫っている事を。


ゲートへの強行は熾烈を極めた。
ベクターマシンを行かせる為に戦闘機の大半は撃墜され、残った数機は地上からの攻撃の援護に当たった。
各国の兵達はレーザー砲や戦車など移動が困難なものばかりで、
機動力に富んだ神話獣達に次々と破壊されていった。
しかし、人類は負けなかった。
戦力では圧倒的な堕天翅達も叩いても叩いても立ち上がり、向
かってくる兵士達に次第に後退するしか無かった。
それほど人類はこの決戦に賭けていたのだ。
爆音と共に飛び去るベクターマシンの雄姿に、人々は目を輝かせ、家族や友人を思い、
命を散らせていった。
ゲート開発施設は氷の山々に囲まれた小さな渓谷にひっそりと造られていた。
施設の上空に既に開かれているゲートが暗黒の渦を巻いて金に輝いていた。
施設とゲートを護るバリアが一瞬だけ解除される。
その瞬間ベクターマシンは連合軍で共同開発したゲート開発施設に進入した。
ベクターマンがアリシア王家を飛び立ってから施設は堕天翅達の攻撃を浴び続け、
強固なバリアも後数分しか保たないだろう。
バリアが破壊されれば、ゲート開発施設ごとゲートは破壊される。
そうなれば、アトランディアへの道は絶たれてしまう。
これを最後の闘いにしなければならない。
アポロニアス達三人は決意を新たにアトランディアへ続くゲートに飛び込んでいった。


戦地のソーラーアクエリオンは無敵だった。
アトランディアに到着し、創聖合体を果たせば神話獣もケルヴィム兵も一瞬で蒸気と化した。
唯一トーマの駆る漆黒のケルヴィム兵との闘いには苦慮したが、
亜空間へ沈むアトランディアの城を見たトーマは闘いを放棄し、
堕天翅達の待つ城へ戻って行った。
ソーラーアクエリオンの力を遣い、アポロニアスは恐るべき力を発動させたのだ。
太陽の翼の力と連動させ、亜空間へアトランディアを封じ込めようと言うのだ。
それは彼の神話力の殆んどを遣う命懸けの行いだった。
沈むアトランディア城を見下ろしアポロニアスは僅かに唇を動かした。
アクエリオン内では、お互いをホログラフィを通して各エレメントの精神が感じられる。
ナイトシェードとセリアンはそんなアポロニアスに声を掛ける事が出来ずに居た。
背を向けて飛び立とうとした三人は沈む城から何かが飛び出したことに気付けなかった。


既にソーラーアクエリオンを維持出来なくなっていたアポロニアスに変わって、
機動力に長けたアクエリオンマーズに創聖合体する。
ベクターマーズに搭乗しているのは、ナイトシェードである。
すっかり神話力を遣い果たし、ぐったりとしているアポロニアスを休ませる為にも、
ベクターマシンより搭乗者の力で速度を増せるアクエリオンで移動した方がいいと考えたのだ。
堕天翅族の本拠地アトランディア城が亜空間に沈んだ為か、各地に残った神話獣は枯れ逝き、
ケルヴィム兵もただの人形と化したと報告を受ける。
その為、三人は油断していたのだ。
心の隙を突いたようなその猛襲に、いち早く反応したのは一人だけだった。

「この裏切り者が!!死んで塵と為しても許さぬ!!」

アクエリオンマーズのアポロニアスが搭乗している部分、
背中部分のベクターソルを突く攻撃は顔が半分焼け爛れた高天翅が駆るケルヴィム兵だった。
精神に支障を来たしているのか、その高天翅は狂ったように絶叫し、
ケルヴィム兵が握る黒く光る剣は的確にベクターソルのコックピットを狙っていた。
間に合わない。
アポロニアスは動く力さえ残っていない。
セリアンは声も無く叫んだ。
しかし、アクエリオンマーズは静かに反応を示した。
暗黒の剣が鈍い音を立てて蒼い機体に沈んでいく。
背後を向いていたアクエリオンマーズは正面からケルヴィム兵を受け止めていたのだ。
そしてその剣が貫いた先は、ベクターソルのコクピットではなかった。
今度は硬直していたアポロニアスが絶叫する番だった。

「シェード!!」

セリアンは震える手で操縦桿を握る。今、この二人を救えるのは自分しか居ないのだ。
溢れて来る涙を拭う事もせず、噛み切らんばかりに唇を噛み締めた。
膝が震え立つのもやっとの姫には残酷な話だった。
反応を無くしたアクエリオンマーズが光り、合体が強制解除される。
その場で力なく沈んでいくベクターソルの中で、アポロニアスは放心したまま動けない。
しかし、ベクターマーズは違った。

「俺が、護ると決めたんだ!!」

ナイトシェードはまだ生きていた。
しかしケルヴィム兵の剣でコックピットを貫かれた衝撃で右肩から先を吹き飛ばされ、
腹にまで減り込んだ熱は臓物を焼き、破片で左目は潰れていた。
しかし、その強い意志は彼をその場で立たせたまま、アクエリオンマーズに力を注ぎ込む。
蒼く光り輝いた機体は独自でもソーラーアクエリオンに匹敵する熱を放射し始めた。

「シェード…?」

アポロニアスは泣き濡れた顔を見上げ驚愕に目を見開いた。
突き出す剣を華麗にかわしながらケルヴィム兵に突き進んでいくベクターマーズの姿に、
セリアンが堪らず泣き叫ぶ。

「止めてぇぇぇ!!」

しかし、その勢いは止まらない。
その輝く燐光にケルヴィム兵の剣は弾け飛ぶ。
そしてその蒼い機影は主人を狙う憎き敵へと吸い込まれて行った。

「いや~~!!」

大爆発を起こす二体を緑色の穏やかな光が包み込む。
天へ帰る事を諦めてまで、アポロニアスへの復讐に燃えた堕天翅は、
ケルヴィム兵と共に黒い煙となって地へと堕ちていった。
淡い緑の光は儚い姿となった従士の身体を包み、ベクターソルへと運ばれていく。
セリアンのテレポート能力が発動されたのだ。
堕ちていくベクターマーズは散々たる姿だったが、まだその機体は保っていた。
震える身体に鞭打ちセリアンのベクタールナが機体を支え、ゆっくりと降下していく。
既にベクターソルは地上に降り立っていた。
舞い降りてくる蒼い髪の剣士をアポロニアスが受け止める。
濃く蒼かった髪は煤に塗れ、その輝きは見る影もない。
それでもアポロニアスは逞しい腕でその頭を支え、無惨に引き裂かれたその身体を抱き締めた。
焼き焦げて皮膚の表面ばかりか、その熱は筋肉さえ焼き切っていた。
もうどんなことをしても助からない。
今、ナイトシェードの命の火は消えようとしていた。


「逝かないでくれ…シェード…」

搾り出した声はか細く、今にも消えてしまいそうな程小さかった。
しかし、愛する主人の声はその心に届いた。
ナイトシェードは遂に主人を護り切ったのだ。
その満足感で死に至る重傷を負っていても表情は穏やかだった。
既に声を出すことも出来ない為、そっと心の声でアポロニアスに囁く。

(俺はずっと分かっていた。そしてその運命に従ったまでだ。お前が気にする事ではない)
(それに…)

大きな深紅の瞳に大粒の涙を浮かべたまま、アポロニアスは顔を上げる。

(こんな風に抱き締めて貰えるなんて役得だな。…お前を護って死ぬのもそう悪くない)
「何を言っている!これからだって幾らでもしてやる!
護るなんて…そんなの私は望んでいない!誰が護って欲しいなど言ったのだ!
傍に…傍に居てくれるだけで…!」

醜く焼け爛れた胸に額を付け泣きじゃくるアポロニアスの肩にそっと柔らかい手が触れた。

「アポロニアス…、彼を楽にしてあげましょう?今、私達に出来るのはそれだけなのよ?」
(セリアン姫…。最後までお仕え出来なくて申し訳ございません…)

涙に頬を濡らしたまま、セリアンは気丈に微笑んだ。聖母のような優しげな表情に、
ナイトシェードは力を抜き僅かに目を細めた。
セリアンはそれに答えるように頷いた。

「ナイトシェード、私はあなたを誇りに思います」

セリアンはそう言い残すと、そっとその場を離れていった。
すると大きな風音が薄桃色の花弁を舞い上げる。
ベクターマシンが降り立ったのは、一面の花畑だったのだ。
アトランディアに近いこの地域も僅かな春を謳歌していた。
小さな芝桜のようなピンク色の花々が強風に煽られ空に舞い上がっていく。
次第にナイトシェードの視界は暗く何も聴こえなくなっていく。
それでもアポロニアスの深紅の瞳だけは鮮やかに見えるような気がした。
愛する主人。
出逢って間も無く護ろうと、彼の剣になろうと決めた。
その誓いがやっと果たされたのだ。
そして誓ったもう一つの事。

(アポロニアス、聞いてくれ。俺の真の名は………)


既に一族は絶え、ナイトシェードは最後の一人だった。
彼を弔う者はもう居ない。
薄桃色の小さな花が咲く丘に、アポロニアスは彼を葬った。
墓石は堕天翅だけが知る鉱石で、彼の髪と瞳のように蒼く光り輝いていた。
無言で立ち尽くすアポロニアスにセリアンは同じく何も言わないまま、付き添っていた。
闘いには勝った。
堕天翅の脅威は去ったのだ。
しかし、一人残された天翅アポロニアスは、これから永遠に老いもせず、
一人、また一人と愛する者達を見送る運命なのだ。
共に生きられないならばと、彼が選んだのは命を賭けて護る事で、
セリアンは彼との子を為す事だった。
セリアンは分かっていた。
自分と同じようにナイトシェードがアポロニアスを愛している事を、彼の決意を。
気持ちが分かるからこそ、止める事が出来なかったのだ。

「君も…私を置いて逝くのか?」

まるで今にも死んでしまいそうな悲痛な顔でアポロニアスが呻いた。

「いいえ、アポロニアス」
「私を一人にしないでくれ…」
「えぇ。絶対にしないわ」

薄桃色の花は二人を包むように風に乗り、空へと舞い上がる。
一陣の風はまるで彼を地から引き剥がし天に連れ去ろうとしているかのようで、
アポロニアスは必死に手を差し伸べる。
ナイトシェードの真の名は彼だけの胸にそっと仕舞われた。
最後の言葉となったその名を告げた表情は満足気に微笑んでいた。


<了>

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歌詞そのままのイメージで書いたSSです。
元ちとせさんの歌、「春のかたみ」です。

 

 

 

 


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