あぽまに@らんだむ

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伝えきれない優しさを(SQ)

2007年02月24日 | 世界樹の迷宮関連




















<伝え切れない優しさを>



シェラザードに連れられ、新米メディックのシャスはエトリアにやって来た。
エトリアは世界樹の迷宮発見により大陸でも有名になった小さな街である。
その中の冒険者ギルドに登録中の新生ギルド「アシュトレイ」に招かれたのだ。
16人で構成されるギルド「アシュトレイ」はリーダーであるもう一人のメディック、エドヴァルドが指揮を取って3つのパーティで迷宮探索をしている。
シャスはシェラザードがいるパーティに入る事になった。
エドヴァルドはメガネを掛けた優しそうな青年で、今も都市で忙しく働く父を思い出された。
年配の父と比べるにはエドヴァルドは随分若いので失礼かとは思ったが、雰囲気が似ていたのだ。
シャスは勝手にエドヴァルドに親近感を持ち、懐いてしまった。
ゆっくりとした口調でエドヴァルドがシャスに挨拶をする。

「君が入るパーティはリュシロイという若いパラディンがリーダーだ。一番年長なのが君を連れて来たシェリーという事から分かるように、皆若者ばかりだ。珠に先走る事もあるかもしれない。だからメディックであるシャス、君が皆をセーブして欲しい。…大丈夫。皆いい子ばかりだから」

行き成り来てパーティをセーブして欲しいと頼まれても困るとシャスは慌てた。

「そ…そんな…私に…出来るでしょうか…」
「…エド、俺もそのいい子に入ってんのか?」

焦ってしどろもどろのシャスを庇って、シェラザードが横から茶々を入れる。
エドヴァルドは微笑むと目を細めた。無言で黙っていろと言わんばかりだ。
シェラザードは「へいへい」と頬を掻きそっぽを向く。
柔和そうなエドヴァルドが新生ギルド「アシュトレイ」のリーダーを務めるのも、全てがこの無敵の微笑みがあっての事だ。
彼のこの微笑には例えギルドマスターでも敵わないと迄言われている。
それ程に頭が切れ、策士で運営者としては右に出る者が居ないのだ。
いずれ、このエトリアの冒険者ギルドを任される事になるだろうと噂迄されているのだ。偉い人気である。
そんな彼にシェラザードが逆らえないのも仕方の無い事だった。

「シェリーのパーティには君が紅一点になる。女性一人では辛い事もあるだろう。何か悩み事があったら…」

そこでエドヴァルドは横にいた金髪の美女に目配せする。美女は小さく頷くとシャスに目が眩むような微笑みを向け挨拶した。
艶やかな唇から囁かれる声はまるで歌のようだ。

「あたしはダークハンターのヴェスティン。アシュトレイ女性メンバーの世話役をしているわ。何か遭ったらあたしに言って頂戴。相談に乗るわ」

今迄シャスの周りに居ないタイプの美女であるヴェスティンに気後れしているシャスに、エドヴァルドが和ませようと付け加える。
にっこりと微笑みも追加するのも忘れない。

「女性同士じゃないと言えない事もあるだろう。ベスは面倒見がいいから何でも言ってくれ。それ以外の事は僕に言ってくれて構わないからね」
「あ、それ贔屓贔屓!」
「そんな事、あたしも言われてないわ」

2人の批難も聞く耳を持たず、エドヴァルドは「解散」と言い切った。
小さく頬を膨らませるヴェスティンを伴いエドヴァルドが自分のパーティメンバーの元へ帰って行く。
2人を見送るとシェラザードもシャスに皆を紹介すると話し掛けて来た。
他のパーティメンバーも同じ長鳴鶏の宿に泊まっているのだ。
部屋の奥へ招き入れるとカウンターの横の扉の奥に小さな小部屋があって、其処に数人の若者が食事を採っていた。
赤い髪の青年と金髪のそっくりの青年が2人。最初はそっくりだと思ったが、良く見ると醸し出す雰囲気がまるで違う。

「皆、食事中だろうが聞いてくれ。彼女が仲間になるメディックのシャスだ」

緊張して無言で大きく頭を下げるシャスに3人が動揺しているのが伝わって来た。
しかし事前にシェラザードが状況を話してくれていたのだろう。皆、食事の手を止めシャスに向き直った。

「私がパーティのリーダー、リュシロイだ。皆はリュイと呼ぶ。宜しく頼む」

リュシロイが手を差し延べて来たので、シャスは慌てて握手をした。
リュシロイはパラディンの象徴でもある銀色の鎧は脱いで、下のリングメイルだけの軽装になっている。
しかし崇高な意志を持って冒険に出るというパラディンである。その真っ青な目は済んで強く煌いている。
眩しい位の視線にシャスは思わず目を細めてしまう。次に手を差し延べてきたのは、赤い髪の青年だった。

「俺はソードマンのアディール。アディって呼んでくれよな」

そう言って力強くぶんぶんと握手した腕を振り回すので、小柄なシャスは身体毎振り回されてしまう。
慌てて止めに入る3人に支えられつつもシャスは何とか転ばずに済んだ。
最後に手を差し延べて来たのは、リュシロイと同じ顔をした金髪の青年だった。ただ名前を名乗っただけの短い挨拶だった。
横でシェラザードが「リュシィはアルケミストなんだ」と説明してくれたので、少しシャスは納得した。
全てのアルケミストがそうではないと思うが、兄であるセシルに知り合いのアルケミストの話をいつも聞かされていたので、彼等一般が普通でないとシャスは思っていた。
既にシャスに関心が無くなったのか、リュサイアと名乗るアルケミストは食事を再開している。
そんなこんなでシャスのエトリアでの第一日目は終わった。



冒険の初日。朝から小雨が降り出した。
まだ雨具の無いシャスにリュシロイが雨具を買って来てくれると言うので、シャスは世界樹の迷宮の入口の処にリュサイアといきなり2人切りになってしまった。
頼みの綱のシェラザードも情報交換と言って近くに来ているエドヴァルドの許へ行っていて、アディールは既に木陰で寝息を立てている。
何処でも寝れると言うのが彼の特技らしかった。
しとしとと降る雨にシャスは少し肌寒さを感じる。
メディックは医療スキルの職業の為、常に腕捲りをした状態、詰まり半袖が多い。
世界樹の迷宮は熱帯や亜熱帯に近い気候としても、降雨の際には少し気温が下がる。迂闊だったと溜息を吐く。
やがて横から視線を感じ、シャスは恐る恐るリュサイアを見返した。すると其処には赤いマントが差し出されていた。

「あ…あの…」
「予備のマントだ。着ろ」

狼狽するシャスを無視してリュサイアは胸にマントを押し付けてくる。
ビロードのような厚い生地でとても高価な品だった。シャスは呆然としながらもリュサイアを見返す。
するとリュサイアは同じく「着ろ」とだけ繰り返した。
同じ位の歳で命令口調なのが気に入らなかったが、元々寒がりなシャスは大人しくリュサイアのマントを羽織った。
マントはやはり滑らかで温かかった。少し緊張が解けてシャスは安心してくる。そしてリュサイアの行動の意味を考えた。
寒そうな自分を気遣ってくれたのだと再確認する。マントの温かさがそのまま彼の心のような気がしてくる。
シャスはおずおずとリュサイアを見た。

「あの…有難うございます」

リュサイアはシャスの方も見ずにただ、「あぁ」とだけ答えた。本当は優しい癖に…とシャスは心で思う。
この言葉足らずの性格で、きっと彼は色々損をしていると思う。そしてシャスはそっと囁いた。

「私もリュシィって呼んでいいですか?」

それから間も無くしてメンバー5人がやっと揃い、愛らしい黄金色の雨具を着たシャスを伴いメンバーは初めて世界樹の迷宮に降り立って行った。
そして新参のシャスがただ一人愛称で呼んだのがリュサイアと皆が知るのは、もう少し後の話である。



<了>



















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