あぽまに@らんだむ

日記とか感想とか二次創作とか。

暗闇に浮かぶ光~後編~(SQ)

2008年02月14日 | 世界樹の迷宮関連



























<暗闇に浮かぶ光~後編~>





吹き荒ぶ吹雪は大氷嵐の術式を発動させたのと同じ凄まじさだった。
まともに立っていられない。
その大氷嵐の中心に自分の片割れであるリュサイアが浮かんでいる。
想像はしていた。
しかし今の状況になる前にリュサイアが言った言葉がリュシロイの胸を突く。
そんな事は微塵も考えて居なかったのだ。
しかしリュサイアは結果的にいつもの自傷行為に走ってしまったのだ。
リュサイアの才気が更に上がっている為に、大氷嵐の規模が昨年より段違いに凄まじい。
前に進もうとしても風で息さえ出来ない。
ベッドの端に立て掛けておいた盾を手繰り寄せ、前面に立てるとやっと息が出来るようになった。

リュサイアを追い詰めてしまった。

こうなるだろう事は予期はしていた。
しかし仲間と出会い、シャスに恋し始めているリュサイアなら大丈夫かもしれないと僅かな希望を抱いてはいたのだ。
しかし、それも泡と消えた。
次第に雪が形を変え、小さな雹となり少しずつリュサイアの身体を傷付け始める。
リュシロイは弟の心の傷の深さを思い知らされていた。
また、パーティから外されると聞いただけでタガが外れてしまう程、皆に執着していたのだ。
盾にぶつかる雹がまた大きくなった。リュシロイは必死に弟の名を叫んだ。吹き荒ぶ嵐の中で掻き消されてリュサイアには届かない。
しかし開かぬ筈の扉が大きく吹き飛ばされた。

「アディール様参上っと!」

自分の身長程あるダンビラを肩に担いだアディールが立っていた。
その背後にシェラザードとシャスの姿も見える。
扉を力任せに壊したものの、飛び回る雹の大きさにアディールは驚いて、その場に凍り付いている。

「ロイさん!あの…一体何が…!?」

シャスが大氷嵐の中心に浮かぶ血塗れのリュサイアに気付いた。
虚ろな目で何かを囁いている少年にシャスは真っ青になって震えている。
シェラザードは盾の後ろで踏ん張っているリュシロイの処まで這って行った。

「去年よりパワーアップしてないか?どうするんだ?」

耳許で怒鳴るシェラザードにリュシロイも耳に怒鳴り返す。

「無理です。死なないようにキュアやメディカをしながらリュシィのTPが切れるのを待つしかないんです!」

シャスが流れて来た待つという言葉に反応した。
このままリュサイアが傷付き泣いているのを見ている事なんか出来ない。
シャスは胸の前で拳を握ると一歩部屋に脚を踏み入れた。

「シャス!無茶だ!止めろ!」

シェラザードが慌てて叫ぶ。
案の定、シャスはあっと言う間に大氷嵐に吹き飛ばされ、壁に打ち付けられる。
頭を打って一瞬意識が飛びそうになったが、意志の力で持ち堪える。
壁に手を付き、壁を這うようにして、少しずつシャスはリュサイアに近付いていく。
その間にも指ほどの大きさの雹がシャスの細い身体を突き刺していく。
片手で顔を庇い、もう片手で壁を伝う。
大量の出血に最初のキュア3を唱えた。
みるみる傷は塞がり血は止まるが、それは一瞬だけですぐに身体中ずたぼろにされて行く。

「止めろ…傷になったらどうするんだ…」

兄代わりであるシェラザードが真っ青になって懐からアムリタⅡを幾つか取り出す。
アディールは廊下まで被害が及ばぬように扉を閉め後ろ手に護っている。
盾の後ろ、祈るような顔でリュシロイはシャスを見守っていた。
自分には出来ない事を、あの少女ならやってくれるかもしれない。
シャスは手を伸ばせば届く処まで近付いた。
リュサイアはシャスに気付く事無く、ただひたすら泣き叫びながら何かを必死に訴えている。
シャスはその声を聞いた。
そして涙を溢れさせた。





錬金術を遣うアルケミスト。
アルケミストになるには膨大な知識を得なければならないが、それ以上に生まれ付いての素質がある。
詰まり知識があっても素質が無ければアルケミストになれないのだ。
しかし、素質に恵まれても生まれ落ちた地が悪ければ、その人間には不幸でしか無い。
その錬金術を忌み嫌う地域がある。
その中心都市にリュシロイとリュサイアは一卵性双生児として生まれた。
名家に産まれた二人は家督の問題の為、兄リュシロイを跡取りとして、弟リュサイアを人目から避けるように部屋に閉じ込めて育てる。
陽の光の中すくすくと育つ兄と、いつも機嫌の悪い使用人としか接する機会のない哀れな弟。
そんな不遇の中、弟リュサイアは物を凍らせる奇行を始める。
珠にしか逢えない家族への思いが秘められたアルケミストの素質を目覚めさせたのだろうか。
リュサイアは短時間で、物を凍らせたり部屋に吹雪を起こす事さえ出来るようになった。
しかし生まれた場所が悪かった。
リュサイアは殺されはしなかったものの、屋敷の中から更に薄暗い地下牢へ移され、唯一愛してくれる存在だった兄と逢う事さえ出来なくなった。
幼い子供は何度も許しを請い、いい子になると懇願しても、一日一回の食事を運んで来る使用人以外、地下牢へ続く階段を降りてくる者は居なかった。
アルケミストを産んでしまった事を夫から責められ、間も無く母親は自殺を図った。
折りしも一命は取り留めたものの、ベッドに寝た切りとなり息を引き取る際、リュシロイの願いもあってリュサイアも臨終の場に立ち会った。しかし、リュサイアの顔を見た途端、母親は叫ぶ。

「近寄らないで!誰か!誰か、その子をどっかにやって!いや~!」

母親は死んだ。
息を引き取った後、リュサイアはその場で倒れた。
意識を取り戻した幼子に父親は言う。母親が死んだのはお前のせいだと。
物心付かぬ子供に投げ掛けられる暴言に、リュサイアは何度も謝りながら気を失った。
何日も目を醒まさない弟のやつれように、兄はこのまま屋敷に居れば弟が死んでしまうと悟った。
自分は弟であり、弟は自分。
二人は元は一人なのだ。
弟が生きられない家なら自分も生きる事は出来ない。
二人が有りの儘で生きる事の出来る場所を探そう。
兄は弟の為に家を出る決意する。
衰弱した弟は古いアルケミストの本を数冊、弟を抱える兄は家督を継ぐ前に着る騎士の鎧と剣だけを身に付け旅立つ。
思い残す事は無い。二人の旅は始まったのだ。
しかし翌年、恐ろしい事が起きる。
母親が自殺した命日、弟リュサイアが自傷行為を始めたのだ。
間借りしていた部屋を氷漬けにして、突き出してくる氷で身体中を切り裂いた。
意識を失ったまま血を流しリュサイアは泣き続けたのだ。そ
して繰り返される言葉に兄は打ちのめされる。

「僕、いい子になるから、御免なさい…。御免なさい…」





貼り付いていた壁を蹴って、シャスは宙に浮かぶリュサイアの腰に抱き着いた。
それでも大氷嵐はシャスを引き剥がそうと吹き荒れ、シャスは必死にリュサイアにしがみ付いた。

「いい子になるから…。僕、いい子になるから…」

呪文のようにリュサイアは繰り返し呟いている。
シャスは血塗れのリュサイアにキュア3を唱えた。
しかしシャスと同様にすぐに傷だらけになってしまう。
シャスは大氷嵐を止めなくてはならないと悟る。
リュサイアの心が悲鳴を上げているのが聴こえる。それはシャスの胸までも抉った。

「リュシィはいい子よ!悪い子なんかじゃない!」

シャスは必死にリュサイアに語り掛ける。しかし大氷嵐は止まらない。

「初めて世界樹の迷宮に降りる時、寒がってる私にマントを貸してくれた!」
「術が効かなくて落ち込んでいる私を励ましてくれた!」
「友達が居なかった私の傍にいつも居てくれた!」

シャスの目に涙が溢れて来る。エトリアに来た後の思い出にリュサイアが居ない事は無かった。
いつもさり気無く傍に居てくれた。語る言葉は少ないけれど、稀に囁く言葉に、さり気無い動作に、溢れんばかりの愛を感じていた。リュサイアの虚ろな瞳に少しずつ光が戻り始めた。シャスは更に声を張り上げ叫び続ける。

「嫌いな食べ物も一緒に食べてくれた!」
「体力が無いのに、いっつも自分より私の体力を回復してくれた!」
「火が嫌いなのに、皆の為に火の術も使えるように努力してくれた!」

リュサイアの蒼い瞳に完璧に光が戻った。
自分の周りに展開している大氷嵐を不思議そうに見ている。シャスは涙を流しながら嬉しそうに笑った。
リュサイアは自分を抱き締めるシャスを見下ろし、傷だらけの自分とシャスに気付いた。
そして自傷行為で部屋に居る皆まで傷付けてしまった事を知る。
いつもは無表情な顔に絶望的な苦しみと哀しみが浮かんだ。唇を戦慄かせ、更に涙を零す。

「僕は…君まで…。何て事…を…」

リュサイアが意識を取り戻しても何故か大氷嵐は止まらなかった。
シャスは宙から床に舞い降りたリュサイアを母親のように胸に抱き寄せ、しっかりと抱き締めた。
リュサイアが驚いて目を見開く。
しかしシャスの高い体温に、震える身体から少しずつ力が抜けていく。

「大丈夫…。此処にいる皆はあなたが大好きなの。誰もあなたを否定なんてしない。アルケミストであるあなたも、一人の人間としてのあなたも、皆大好きなのよ」
「シャス…」
「私は…あなたの事が一番好き。この世界の誰よりも、あなたが大事なの」
「…!!」

この世の中で唯一の家族であるリュシロイ以外に一番好きだと言ってくれる人は初めてだった。
ずっと願っては叶わないと諦めていた思い。
リュサイアは真っ暗な世界に、光が満ちていくのを感じていた。





「止んだ…」
「…止まったな」

部屋の中は正に酷い惨状だったが、シャスの腕の中、意識を失っているリュサイアの表情は幸せそうに微笑んでいた。
二人を囲む三人は、もう二度とリュサイアが自傷行為に走らないだろう事を悟る。

「幸せそうだな」
「リュシィがこんなに可愛く笑ってんの、初めて見た」
「アディ、代金は高いぞ」
「何だよ、有料かよ!」

三人が笑う。
シャスも笑うとシェラザードにアムリタⅡを貰い、エリアキュア2を唱え、皆を全回復させた。
シャスは愛おしそうにリュサイアの頬に自らの頬を付ける。
温かかった。
もう一人で泣かせたりはしない。
自分が救って貰った分、この少年を護りたい。そう思った。
どんな暗い道でも、どんなに困難な敵にも、二人でなら怖くない。
この時、初めてシャスとリュサイアはお互いが掛け替えの無い存在である事を知ったのだ。





<了>






























コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 暗闇に浮かぶ光~前編~(SQ) | トップ | 世界樹の迷宮Ⅱ到着!! »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

世界樹の迷宮関連」カテゴリの最新記事