あぽまに@らんだむ

日記とか感想とか二次創作とか。

美味しい食卓(ニアス中心)

2020年05月16日 | 創聖のア◇工リ〇ン関係

 

 

これは2008年9月24日に書いた「創聖のアクエリオン」の二次創作SSの再掲です。

俺設定のピエールの過去生「ナイトシェード」との遣り取りで話が展開していきます。

腐的表現がありますので、ご注意下さい。尚、プラーナ摂取方法も俺設定です。

大きい人が涙ぐんだりしますので、大丈夫な方のみ下へスクロールしてご覧下さい。

↓↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

<美味しい食卓>


「私のシェサの実のゼリーを知らないか?」
午前中の会議の打ち合わせのため執務室へ案内するつもりで来たナイトシェードは、
アポロニアスの自室の扉をを開けたまま、固まった。
一瞬何を言われたのか理解出来ずに、暫く無言で居た後、愛する主君に今言われた事を失礼を承知で聴き返す。
人にものを尋ねておいて緋色の天翅アポロニアスは、
忠実な臣下の顔も見ないでサイドテーブルや浴室の方まで行ったり来たり、
落ち着き無く室内を探し回っている。

「ゼリーって…昨日セリアン姫が作られたゼリーか?」
「そうだ。容器に入ったゼリーが、あと一つ有った筈なのだ」

今朝方から探し回っているのだろう。
小一時間くらいの剣の訓練なら、汗一つ掻かないアポロニアスが額に汗を滲ませている。
頬を上気させ困り果てた顔は、迷子の子供のようだ。
これでは午前中の会議など集中出来よう筈もない。
ナイトシェードは大袈裟な程、肩を竦めて溜息を吐いて見せた。
困った主である。


アトランディアの守護天翅、人間界の救世主、緋色の麗人アポロニアスは天翅である。
その背には既に翅はないものの、本来天翅は人間で言う「食事」という行為をしない。
生体プラーナを翅か粘膜から直接、若しくは間接的に摂取をして命を繋ぐのだ。
天翅にとって、翅なしと蔑む人間達のように食べ物を口から採り入れ消化し、
排泄するなど考えられない事なのである。
アリシア城に来た頃は食べ物を摂取しても、中々消化出来ずに体調を崩してばかり居たアポロニアスだが、
次第に身体を順応させ少しずつではあるが、食べ物を摂取出来るようになって来たのだ。
まだ固形物は難しいが、飲み物や流動食である柔らかいゼリーなどを稀に食べている。
アポロニアスは薄めの繊細な味を良く好んだ。
その中でシェサという実のゼリーは甘みも少なく実も柔らかいので、
セリアンが良くアポロニアスの為に作ってやっていたのだ。
一般的にシェサの実のゼリーは万人受けするので、老若男女みな食べ易いデザートではある。
いつの間に自室に持ち込んでいたのか。

「お前の部屋は限られた者しか出入り出来ん。然もお前の私物だ。
独りでに無くなる筈が無かろう」

まるで自分で食べて忘れたのではないかと言わんばかりの物言いに、
アポロニアスは非常に傷付いた表情を見せた後、子供のように拗ねて顔を背けた。
不味い傾向である。
出来れば午後には会議を開きたい。
議題は幾らでもあるのだ。
然も昨日食料庫の管理役人からシェサの実の在庫が切れていると報告があったばかりなのだ。

「腹が空いているのか?ならば、ゼリーなど探さず俺に言え。ほら、プラーナをやる」

いつものように口付けようと腰を引き寄せると、アポロニアスは驚いた顔で目を見開き、
頬を真っ赤に染めると小娘のように抗い始めた。
翅が無い今、アポロニアスのプラーナ補給は専らセリアンから行われている。
しかしセリアンは一国の姫であり、外交の殆どを執り行っているのだ。
その為、アリシア城を空けている場合が多く、アポロニアスは一人で城内に留まる事が殆どだった。
今回もセリアンは二日前から城を空けている。
その間、プラーナ補給は臣下であるナイトシェードに任されている。
粘膜からのプラーナ摂取は性交が出来ない以上、キスをして摂取させるのが一番手っ取り早い。
しかし同性同士のキスである。
大事な主の生命維持のため仕方の無い事だとナイトシェードは割り切っているのだが、
アポロニアスは少し抵抗があるようだった。
慌てて自分の腕から逃れようと身を捩る主に、ナイトシェードは少なからず傷付いた。

「シェサの実のゼリーで空腹を満たしたかったのだろうが、
見付からないのだから仕方無いだろう。
セリアン姫と違って俺では役不足なのは分かるが、諦めてプラーナを採れ」

役不足だという言葉に、アポロニアスは青褪め、必死な形相で首を横に振った。
違うと言葉で否定したかったのだろうが、不器用なアポロニアスには咄嗟に伝える事が出来ない。
臣下である自分を気遣ってくれたのだろう、そんな主にナイトシェードも微苦笑する。
不器用でも彼は少しずつ変わって来た。
時間は掛かるが、自分の言葉で気持ちを伝えようと、心話では無く、
不慣れな「耳に届く言葉」を紡ぐのだ。

「腹が空いていた訳ではない。そんな大した理由ではないのだ。ただ…」

それから暫くの間、辛抱強くアポロニアスが話し出すのを待っていたナイトシェードは、
彼の告白の内容が余りにも愛おしくて、引き寄せていた腰を掴んだまま、
肩を掴みその胸に引き込んだ。
そして驚いて身を竦ませるアポロニアスを安心させるかのように、
背に腕を回し身体をすっぽりと覆い、力強く抱き締めた。

---いつか翅なしである君達と一緒に食事をしたかった---

その為、セリアンに毎回ゼリーを作って貰い、少しずつ食べて練習して居たというのだ。
道理で最近体調を崩している場合が多かった訳だとナイトシェードは小さく溜息を漏らす。
「心配掛けやがって」と苦しがるのを無視して更に強く抱き締めてやる。
健気な心。
清らかな魂。
いつか彼の努力が報われる時がくる。
その穢れ無き魂と血肉は、時間を超え二つの種を未来に導くだろう。
それまで彼を護り続ける。
ナイトシェードはアポロニアスに見えないように、そっと微笑んだ。


「そう言えば、今朝方シリウス王子がこの部屋から出て行ったのを見掛けたぞ」

午後の会議に向かう途中、ナイトシェードが独り言のように呟いた。
並んで歩いていたアポロニアスは大きく口を開けた状態で、その場に立ち止まってしまう。
大切に取って置いたシェサの実のゼリーの最後の一個を奪った犯人が、
愛する息子である可能性が高いと知り、やり場のない怒りより哀しさが勝ったのだろう。
幼子のように眉毛を下げ情けない表情を見せた。
ナイトシェードは吃驚して広い廊下を見渡す。
人間界の救世主の哀れな姿を、とても自分以外の誰にも見せられ無かった。
慌ててアポロニアスを壁際に押し遣る。

「私のゼリー…」
「あぁぁ!泣くな!またセリアン姫に作って貰えるようシェサの実大量入荷させるから!」

アリシア城の廊下に冷静な筈の蒼い騎士の叫びが響き渡る。
空は秋らしく高く、雲は遥かに遠かった。


<了>


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シェサの実は現在のライチに良く似た実だと想像してみて下さい。
とても上品な感じのゼリーになりますよね。

 

 

 

 


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