これは、2005年7月24日に書いた「創聖のアクエリオン」の二次創作SSの再掲です。
アポロニアスがアトランディアから出奔してアリシア城で暮らしています。
また、セリアンとの間に子供を儲けていて、シリウスの過去生としている俺設定です。
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<それは日溜りの中>
やっと一人歩き出来るようになったシリウスはかなりやんちゃだった。
今もアポロニアスが少し目を離した隙に、洗面所と浴室を通り抜け、
隣の部屋まで行ってしまったのだ。
隣は今も蒼い髪の剣士が使っている。
長い髪を掴まれ、困った顔で王子を抱いて連れて来た。
「若君は随分と冒険心がお有りだ」
「す…済まん」
余程慌てたのであろう、アポロニアスの髪に羽根枕から出た羽根が何枚も付いていた。
ベッドの下や中を散々探したようだ。
剣士は笑って王子をサークルの中に下ろすとアポロニアスに付いた羽根を取ってやった。
自分の醜態をまるで見られてしまったかのように、ほんのりと頬を染める。
これで子持ちで元は堕天翅族の守護天翅だったなんて誰が信じるのだ、と剣士は内心思うが、
心に留めておくだけにした。
お目付け役のように、叱咤だけしてやる。
「だから乳母達に任せておけばいいのだ。これで出撃した場合、どうする。
若君は此処で1人になってしまう可能性もあるのだぞ」
剣士もアクエリオンのエレメントの1人である。
もし、2人が出撃したとなるとこの部屋は無人になってしまう。
しかし、アポロニアスは唇を噛み締めているだけだ。
「いつ…私は塵芥になってもおかしくないのだ。出来るだけ…一緒に居てやりたい」
「……」
自分の存在を確かめるかのように、片腕で自分の肩を抱き締めているアポロニアスに、
剣士は大声を出した。
「だから…俺がお前を護ってやる!言霊というのを知らないのか?
そんな弱気なことを言っていると現実になってしまうのだ。しっかりしろ!」
アポロニアスは一瞬身体を震わせるが、その言葉を何度か頭の中で繰り返している内に、
嬉しそうに微笑んだ。
それだけで剣士は自分の言わんとしていた事をこの聡明な男は理解してくれたと悟った。
アポロニアスはゆっくりと剣士の肩に額をこつんと当て凭れ掛かって来る。
いつもの甘えたがる時の癖だ。
「君は…いつも私の欲しい言葉をくれる。感謝している…」
剣士は大きく溜息を吐いて、肩を竦ませるとアポロニアスの柔らかい緋色の髪を何度か撫でてやった。
すると、怒ったような甲高い声が背後からする。
「らめ!とたま!め~!」
背後を振り返ると、其処には顔を真っ赤にして怒るシリウスの姿。
2人はきょとんとして顔を見合わせる。
アポロニアスは急いでシリウスがいるサークルに走り寄る。
手を伸ばし抱き上げると何故か必死に抱き着いて来た。
どうやら、体調が悪いのではないらしいので、取り敢えず安心する。
ほっとしたものの、その必死な様が嬉しくてつい微笑んでしまう。
「とたま!し~の!」
「何を言っているのだろう…」
執拗にその言葉を繰り返すシリウスにアポロニアスは首を傾げる。
しかし、何を言っているか分かってしまった剣士は噴出してしまう。
アポロニアスは不思議そうに剣士を観た。
「アポロニアス。若君は、どうやら俺に嫉妬していたらしいぞ」
「……え……?」
「恐らく「父様は、シリウスの!」と言いたいのだと思う」
「えぇぇ!?」
どんな美姫の囁きでさえ、ここまでこの麗人を真っ赤にさせる事は出来ないだろう。
アポロニアスは最初は戸惑っていたが、しがみ付いてくる小さな手に微笑まずには居られなかった。
耳まで真っ赤になっていた人間界の救世主は剣士に誘われるまま、中庭に来ていた。
大きなゴム性のボールを渡し、シリウスを遊ばせる。
温かい日差しの中、太陽の化身とその炎の子、2人の天翅が戯れている。
剣士は目を細めた。
眩しい位の美しい光景だった。
それは日溜りの中。
永遠にこの幸せが続くと信じられたあの日の思い出。
<了>
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幸せは永遠では無いのは皆知っているからこその美しい光景なのです。