あぽまに@らんだむ

日記とか感想とか二次創作とか。

殺戮の天翅(ニアス中心)

2020年05月17日 | 創聖のア◇工リ〇ン関係

 

 

これは、2008年1月12日に書いた「創聖のアクエリオン」の二次創作SSの再掲です。

また、「アポロニアス20お題08.殺戮の天翅」で書かせて頂いた作品でもあります。

更に以前再掲した「金の翅の居場所」の以前のお話になります。

ナイトシェードはピエールの過去生、グレンはそのままの名前での過去生で出てます。

いずれも俺設定ですので、予めご了承下さい。

それでも大丈夫な方のみ下へスクロールしてご覧下さい。

↓↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<殺戮の天翅>


血のように赤い夕陽が男達の姿を赤く染め上げている。
遠い異国からの使者は無表情のまま銀髪の青年に言った。
その問い掛けに青年は頭を下げたまま蔑むように口を歪ませた。
選択権などあるものか。
これは命令。
断れば自分はこの破壊尽くされた廃虚で独り、野垂れ死ぬしか無い。
今は温かな季節だからまだいい。
今回ばかりはあの厳しい冬を独りで乗り切るのは無理だと分かっていた。
使者は「選択権は君にある」と再度繰り返した。
青年は顔を上げた。
太陽を背に立つ青年の表情は影になっていて、使者達には分からない。

「行きます。アリシア城へ。その機械天翅のエレメントやらになる為に」


ナイトシェードは各国に散った異能者達への使者を出迎える為、表門に向かっていた。
今日、堕天翅に対抗する国連軍の総本部とも言えるこのアリシア城へ来る事になっているエレメント候補生は2人。
機械に詳しい幼い少女と銀髪の青年。
バインダーに止めてある報告書を捲り、ナイトシェードは顔を顰めた。
銀髪の青年の出身地の欄に書かれた国。
青年が暮らしていたその国は既に存在しない。
堕天翅の総攻撃に遭って破壊尽くされたのだ。
今は亡き街でたった一人で暮らす異能者がいると噂が経ち、アリシア王家で保護する事になったのだ。
妙な胸騒ぎがしてナイトシェードはバインダーを隠すように胸に押し当てた。

「厄介な事にならなければいいがな…」

秀麗な顔を苦しそうに歪ませ、ナイトシェードは開いていく門に向かって歩き出した。


当主セリアン王女に目通りし、挨拶を終えた2人は城の案内を受け、それぞれの宿舎に案内されていった。
その後ろ姿を見送りながら、ナイトシェードも自分の役目を終え、安堵した。
自分の心配も取り越し苦労に終わりそうだと自嘲する。
使者達から紹介された銀髪の青年はまだ少年と言っても過言では無い男で、
王女の前でも物怖じしない気品を備えてさえいた。
受け答えもしっかりしていて、幼いエレメント候補生達のよき見本になってくれると期待も出来た。
ナイトシェードは本来の自分の職務に戻ろうと踵を返そうとすると、
2人が去った方向から愛する主君がやって来るのに気付いた。
剣の稽古をしていたのだろう。
汗を拭いながらナイトシェードに気付き、嬉しそうに微笑んでくる。
しかし其処でナイトシェードは凍りついた。
近付いて来るアポロニアスの背を見詰める視線。
それは憎悪を通り越した魂を焼かんばかりの瞳。
その銀の瞳はまるで研ぎ澄まされた刃物のように、光が届かない城の廊下で煌いた。
そして叫ぶ。

「死ねぇぇぇぇ!!太陽の翼ぁぁぁぁぁ!!」
「アポロニアス!!」

ナイトシェードはその銀の瞳に魅入られ一瞬行動が遅れてしまう。
小さく舌打すると書類を投げ飛ばし腰の獲物に手を伸ばし瞬時に抜刀する。
しかし青年の反応は凡人を逸していた。
城に敵などいないとすっかり油断していたアポロニアスは襲われた事のショックで身動き出来ない様子だ。
大きく目を見開き、その場に立ち尽くしている。
青年以外、皆が反応が遅れてしまったのだ。
しかし其処で少女の悲鳴が響き渡る。

「止めてぇぇぇぇ!!」

銀髪の青年は、突如目の前で起こった爆発で後方に弾き飛ばされ、石の廊下に引き摺られた。
その横に青褪めた少女が震えて佇んでいる。
肩までしか無いハチミツ色の髪がパサパサと揺れる程に戦慄き「ごめんなさい」と繰り返し泣き続けていた。
青年と共に来た少女。
彼女は騎士ばかりを排出する侯爵家の娘だったという。
救護兵が宥めるように少女を連れていった。
彼女の異能な力。遠隔爆破能力。
咄嗟にアポロニアスを庇ったのだろう。
しかし心優しき故、その能力を使う度に彼女は心を痛めるのだ。
彼女の能力で吹き飛ばされた青年は、胸と腕を火力に焼かれ這い蹲り唸っている。
ナイトシェードはアポロニアスの前に回り込み、庇うように剣を構えている。
色を失っていたその銀の瞳に凄まじい程の憎悪の炎が燃え上がり青年が呻くように叫んだ。

「何であんたが此処でのうのうと暮らしてるんだ!大勢人を殺している癖に!何故だ!?」

アポロニアスは震えた。
自らの身体を抱き締め青年を見返しているが、今にも卒倒しそうな程顔色が悪い。

「俺の家族を、俺の住む街を、俺のいた国を滅ぼしておいて、何故笑っていられる!?
自分だけ幸せになれるとでも思っているのか!ふざけるな!殺してやる!
二度と笑えない位に引き裂いてやる!」

焦げ付いた身体を鞭打って尚も立ち上がろうとしている青年に救護兵が安定剤を打ち眠らせる。
堕ちていく意識と闘いながら、青年は呪詛のように「殺してやる。殺してやる」と呻き続けた。


細い針を抜き取り、ナイトシェードは大きく溜息を吐いた。
予感は的中してしまった。
銀髪の青年と話をする時間を設けなかった自分の落ち度だと考える。
目の前で太陽の翼、アポロニアスは安定剤を打たれ眠り続けている。
あれからアポロニアスも恐慌状態に陥り大変な事になった。
元々責任感が強く自責する事の多かったアポロニアスは、倒れてしまったのだ。
そして目を醒ます度に「許してくれ」と、か細い声で何度も哀願するのだ。
これには気丈なセリアン王女も耐え切れず、ナイトシェードに安定剤を打つように指示した。
赤い睫毛が震える。
恐ろしい夢を見ているのだろう。
しきりに瞼が動き逃げ場所を探すかのように、忙しく彷徨う。
ナイトシェードはどうすればいいのか分からなかった。
眠らせても、悪夢から目覚めさせてもアポロニアスは苦しみ続けるのだ。
自分に出来る事があるのか分からない。
しかし何かせずには居られなかった。
救護兵にアポロニアスが目覚めてしまった際の安定剤の量を指示し、部屋を後にした。


グレンは自室として与えられた部屋に軟禁されていた。
当然アポロニアスを襲った罪人として地下牢にでも投獄されるものと思っていたので、拍子抜けしてしまった。
用意された部屋は城の調度品として申し分無い歓待振りだった。
柔らかなクッションの効いた椅子に座り太腿の上で拳を握り締める。

---殺し損なった----

グレンは唇を噛み締める。
自分がこの城に来たのは全て、失ってしまった祖国の、無くなってしまった街の、
温かかった家族の仇討ちの為だった。
容赦なく自分から全てを奪った堕天翅。
その象徴とも言える殺戮の天翅アポロニアスがこの城に居るというのだ。
機械天翅のエレメントとやらには何の興味も無かった。
ただ、アリシア城へ無条件で入り込めると聞いて承認したのだ。
それを、絶好のチャンスを自分はふいにしてしまった。
あの一緒に来た忌々しい少女。
こんな事になるのなら、先に殺しておけば良かったと殺意を滾らせる。
静かなノック音がして、グレンは顔を上げる。
今迄何の気配も無かった。
騎士など高貴な位の出ではなかったものの、優秀な戦士の血筋であるグレンの一族は、
堕天翅討伐の軍にも度々参加して生き残って来た。
グレンも成人した暁にはその闘いに参加する為、兄弟達と日々精進していたのだ。
戦士として気配を読むのに長けていた筈なのに、扉の前に立たれる迄気付きもしなかったのだ。
羞恥を感じて頬を染める。

「誰だ。囚人である俺に何の用だ」

警戒するグレンに、扉の前の者は静かに答えた。「お前を姫に紹介した者だ」と。
グレンは城の門を潜った時に自分を連れて来た使者から紹介された、蒼い髪の男を思い出した。
髪も目も、身に着ける衣服さえ蒼かった男だ。
無表情だった使者とは全く異なり、表情はやはり乏しかったものの、
何故か兄達に似た温かみが感じられたのだ。
城内で逢う兵士や官吏達全てから挨拶をされていて、その顔から彼が城内の皆から愛され、
尊敬されている事が分かった。
その彼が何の用なのか。
扉は彼の声と同様に静かに開かれた。
座っていた椅子から立ち上がったまま立ち尽くしているグレンにナイトシェードは「座ってくれ」と静かに言った。
自分がぼうっと突っ立った状態だった事にグレンはまた羞恥を覚える。
この男には何故か敵わない。
グレンは本能でそう悟っていた。
捕まってしまった野生の猫のように警戒しているグレンにナイトシェードは微苦笑すると、
勧めれないまま最寄の椅子に腰を下ろした。

「君の国を壊滅させたのはアポロニアスではない」

グレンは銀の瞳を見開く。
射殺すかのような視線をナイトシェードはやんわりと受け止めた。

「だからと言って彼が堕天翅である事には違い無い。
そして君の国を襲ったのが偶然、彼で無いだけで、彼が滅ぼした国は数え切れない。
俺の知る部族、行った事のある優しい人々の住んでいた街、全て彼が滅ぼした」
「じゃあ、何であんたはあいつに仕えている!?何であいつを許しているんだ!?」

小さな身体から溢れる憎しみを言葉に変えてグレンが吼える。
ナイトシェードは哀しげに微笑んだ。

「最初は憎んだ。俺の血族は俺以外、皆、彼に殺された。もう俺は…一人だ」
「じゃあ…何で…。何でだよ…」

ナイトシェードの瞳に自分の姿を認めたグレンは信じられず力なく首を振る。
ナイトシェードは続ける。

「許しているのか…俺にも自分が分からない。
だが、俺が仇討ちせずとも、あの方は充分に苦しんでいる。
微笑むようになったのはつい最近の事で、此処に来た当初はいつも苦しそうな顔をしていた。
罪は罪だ。幾ら償おうとその罪は消える事は無い。
何度許しを請うても、人が許すのではない。自分が自分を許さぬ限り、苦しみ続けるのだ。
あの方はきっと、死ぬまで自分を許す事は無いだろう」

グレンはうろうろと視線を彷徨わせ、その言葉を理解しようとした。
迷子の子供のように何故か儚い。

「憎しみはお前を不幸にするだけだ。憎しみに負けるな。幸せになれ。
それがお前の亡くした家族の願いだと俺は思う。俺がお前の兄ならそう思う」
「ナイト…シェード…様…」

涙が溢れて来る。
グレンは全てを失ってから、ただ仇討ちをする事だけを考えて生きて来たのだ。
憎しみに生きる事でしか孤独の自分を救う術が無かったのだ。
縋る人も、しがみ付く胸もグレンの周りには無かった。
打ち捨てられた廃虚の中、ただ生き残る事だけしか考えられなかった。
ナイトシェードは両手を広げグレンを抱き締めた。
グレンは獣のように泣き叫んだ。
魂の慟哭。年相応の青年に戻ったグレンの哀しみに、ナイトシェードは静かに涙を流した。


赤い睫毛に縁取られた睫毛が震えて、アポロニアスはゆっくりと目を開けた。
傍らにはいつも彼に付き従う蒼い髪の男。
ナイトシェードの名を呼んでアポロニアスは瞳を揺らした。
また眠っていたのだろう。
その間に沢山の夢を見た。
アトランディアでの記憶。
愛する聖天翅トーマの姿もあった。
しかし彼は自分を裏切った殺戮の天翅を、ただの創天翅として扱った。
悪夢だった。
しかし目を開けても自分の罪と向き合わなくてはならない過酷な運命が待ち受けていた。
過去も未来も。アポロニアスを苦しめるだけなのだ。

「彼はもうお前を狙う事は無い」

突如言われた言葉にアポロニアスは驚愕してナイトシェードを見詰める。
まさかナイトシェードに限ってあの青年を殺す事は無いだろうが、
あんなに憎まれていたのに自分を許す筈も無いと思い直す。
不安そうに瞳を揺らす主人に蒼い剣士は微苦笑する。

「殺してはいない。それに、お前を許した訳でも無い。ただ…」

その先を教えて欲しくてアポロニアスはナイトシェードを見上げる。
シーツを握り締めた指先が白い。

「お前のこれからを見定めると言っていた」

グレンは泣き疲れナイトシェードに抱かれた儘、そう呟いたのだ。
憎しみに囚われていた銀の瞳は本来の輝きを取り戻し、
醜悪に歪んでいた顔も儚げな美しい青年の顔に戻っていた。
もう心配は無いだろう。
アポロニアスはいずれ彼に許されるだろう。
しかし彼が自分自身を許す事は無い。
彼が嘗て「殺戮の天翅」と呼ばれていた事実は変えられないのだから。

<了>

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報われなくても願うだけならと彼は幸せを追い求め続けるのねと思い書きました。

 

 


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