あぽまに@らんだむ

日記とか感想とか二次創作とか。

暗闇に浮かぶ光~前編~(SQ)

2008年02月14日 | 世界樹の迷宮関連






















<暗闇に浮かぶ光~前編~>





第四階層を進むに従ってメンバーの入れ替えの話が出た。
パーティリーダーであるパラディンのロイことリュシロイは、所属するギルド「アシュトレイ」のギルドマスターであるメディック、エドことエドヴァルドの元を訪れていた。
隣には補佐役でもあるレンジャー、シェリーことシェラザードが同伴している。
他のメンバーはエドヴァルドが事務所にしている部屋がある宿で遅い朝食に有り付いている。
昨夜は殆んど徹夜で第四階層の20階を探索し、F・O・Eだらけの階に手を焼いていたのだ。
レベルが足りないのは勿論だが、パーティ補助のスキルを持つメンバーが必要だとリュシロイは判断した。

「補助役は、レンジャーであるお前じゃ駄目なのか?」

エドヴァルドはリュシロイの横で黙って立っているシェラザードに聞く。
実際レンジャーであるシェラザードは味方全体の素早さを強化するファストステップ、高速でスキルを発動し、指定した仲間を先制させるアザーズステップのスキルを持っていて、ボス戦には無くてはならない存在である。
しかしシェラザードは微苦笑する。
傷付いていくメンバーを見るのに耐えられないといった表情をする。

「俺じゃ駄目なんだよ。素早さを上げても敵に与える攻撃力が低ければ戦闘は長引く。また強い攻撃から身を護る防御力も上げる必要がある。いずれバードの力がもっと必要になるだろう。今からレベルを上げさせておくのもいいと思うんだよ」

しかし其処で重要な問題がある。
度々イベント毎にブシドーやカースメーカーなど数人と入れ替わってはいたものの、リュシロイ達5人は殆んど今のメンバーで第四階層まで来ているのだ。
これから第五階層、第六階層とあった場合、今のメンバーで進みたいと思うのが心情だろう。
今の会話からだとシェラザードが外れる可能性がある。
しかしまだ経験の浅いリュシロイだけに若いメンバー達をまとめ上げられるか不安が残る。

「しかし誰を外すんだ?」

リュシロイが険しい顔で俯いた。シェラザードは大きく溜息を吐いた。エドヴァルドは両肘を付き、目の前で手を組んだ。
少し間があった。辛い決断が迫っている。エドヴァルドはリュシロイの決意に気付いた。

「弟を外そうと思っています。アルケミストのリュサイアとバードのアシュリーを交代させて下さい」





宿の主メイファがカウンタ席で白堅焼きパンを美味しそうに頬張っているシャスの皿に、追加のハムエッグを載せた。
その横で金髪の少年リュサイアが静かにグレープフルーツジュースを飲んでいる。
麦パンのツナサンドはリュサイアの好物で、シャキシャキのレタスと水に晒したタマネギを刻んで入れてやると喜んで残さず食べた。
好き嫌いが多く食べられない物が多かったリュサイアもメイファのお陰でだいぶ食べれる物が増えた。
この世界樹の迷宮で有名な街エトリアに双子の兄であるリュシロイと来たばかりの頃は、本当に一卵性の双子なのかと信じられない程、体躯が違っていた。
毎朝鍛錬を続けているパラディンであるリュシロイは細身ながら筋肉はしっかりとしていたが、錬金術を得意とするアルケミストのリュサイアは棒切れのように細く、キルが挨拶を兼ねて背中を叩いただけで咳き込む程だったのだ。

「リュシィ、ハムエッグ半分食べない?」

既に一つ目を食べているシャスはエドヴァルドと同じメディックである。
医療スキルのスペシャリストであるメディックは冒険には欠かせない職業である。
リュサイアもシャスもリュシロイのパーティの初期メンバーである五人の中の二人だ。
その後ろからダンビラのような両刃の剣を担いだ少年がリュサイアの肩に顎を乗せて来る。
戦士の職業ソードマンであるアディことアディールだ。

「無駄だって知ってるだろシャス。リュシィは卵はスクランブルエッグじゃないと食べられないんだって」
「この前、卵サンドも食べられるようになったんだから、今日はハムエッグも食べられるようになるかもしれないでしょ?アディー君こそ朝ご飯食べたの?朝の分の卵無くなっちゃうわよ?」
「…!!いっけね。また鶏小屋に卵採りに行かされるのは勘弁だぜ」

自室に両手剣を置きに駆け戻るアディールに二人がくすくす笑う。穏
かな朝だった。
そう、リュシロイの決断と苦悩を幼い三人のパーティメンバーは知らずに居たのだ。





廊下を歩きながらシェラザードが前を無言で歩くリュシロイに話し掛けた。

「なぁ、やはり俺が外れるべきだ。あの日が近いだろ?今はシャスの傍に居させてやりたい。俺が居なくてもお前なら一人で皆を纏められる。今はリュシィを刺激するな」
「僕だって分かってる。でもいつかは乗り越えなければならないんだ」

リュシロイはゆっくりとシェラザードを振り返った。
決意は変わらない強い光を称えた目だった。蒼く澄んだ瞳は強い炎のように燃え、深い哀しみを秘めていた。

「リュシィには僕から話す。シェリー、シャスには…あなたから話して欲しい」

シェラザードは綺麗に弧を描いた眉を歪めた。リュシロイは踵を返すと宿の廊下を静かに降りて行った。





リュサイアは兄リュシロイと二人で宿の一室を借りている。
朝早い兄と夜更かしをする弟。
狭い部屋を簡素な囲いで隔て、寝室と研究机とを分けている。
母親の腹の中では一つの命だった二人である。
一つのベッドで共に寝る事に何の抵抗も無く、深夜を過ぎて潜り込んで来る弟を抱き締めるように眠るのが兄リュシロイの日課だった。
階下ではシャスとアディールの話し声が聴こえた。
暫くすると大きな金属鎧の足音がして、向かいのアディールの部屋のドアが開閉する音がした。
リュシロイは自室でじっと弟を待っていた。
昨夜まで彼が書き込んでいた自筆の研究ノート。氷と雷を得意とするリュサイアは、雷に関してはまだ研究が必要で、毎日遅くまで勉強をしているのだ。
最近では苦手な炎も調べている。全ては彼女シャスのお陰だと思う。
シャスと出逢ってリュサイアは少しずつ変わって来ている。
女性が苦手でヴェスティンとも話をした事が無かったのに、シャスとは出逢った翌日に話をしていたのだ。
か細く内気なのに健気に頑張っているシャスを見ていると確かに自分も頑張ろうという気になってくる。
彼女にはそういう直向きな意欲を感じるのだ。
木が小さく軋む音がして、自室のドアが開く。リュサイアが入口の前に立ってリュシロイを見ていた。
数回瞬きをして首を傾げる。柔らかいレモン色の金髪がふわりと揺れた。
物言わぬ視線が「此処にいたんだね」と語っていた。ドアを閉めるとゆっくりと部屋の中に入って来た。

「エドとの話はもう終わったの?」

二つある窓のうち、細長い外開きの窓の前にリュサイアの研究机がある。
窓からの灯りを遮らないように本やノート類が差し込まれた本棚は机の横に設置されている。
これも全て宿の主メイファが作ってくれた手作りの代物だった。
静かに机の前に進み、兄を伺うように首を傾げて来る。リュシロイは頷いた。

「あぁ。僕に一任すると言われたよ」

話していた内容をリュサイアは知らない。リュシロイとシェラザードで話し合った内容だった。
一端言葉を止め、ベッドに座ったままのリュシロイはリュサイアに手を伸ばし、近くに来る事を促す。
兄が何か言いたいのだと察知し、リュサイアは無表情のまま兄の目の前に立った。
伸ばした手に手を乗せ二人は両手を繋いだまま暫く黙っていた。リュシロイは目を閉じ、もう一度深呼吸すると言った。

「リュシィ。パーティから抜けてくれ」





シャスはシェラザードが言った言葉を一度では理解出来なかった。
注文した林檎ジュースに射されたストローを掴んだままシェラザードの顔を凝視する。
振り向きざまに鼻を弾かれたような驚いた顔。言いたい言葉が声にならず、シャスは口を何度も開閉した。

「でででででも!リュシィは…リュシィは戦闘には必要なメンバーであって!」
「俺もそう思うよ。今の5人は皆お互い必要なんだと思っている」

駄々を捏ねた子供を宥めるように困った顔をしているシェラザードにシャスは傷付いた顔をして、正面に向き直ると項垂れた。
リュシロイの意見は最もだと思う。戦闘が長引けば皆が更に傷付く事になる。そんな姿を観たくは無い。
戦闘支援をする必要もあるが、誰が欠けてもいけない気がするのだ。

「私は…最後の最後まで、ロイさんとシェリーさんと、アディー君と…リュシィの5人で居たいです…」

項垂れたまま目尻に涙を滲ませるシャスを見て、シェリーは微苦笑した。

「シャス、リュシィが好きか?」
「…ぇ?」

シャスはシェリーの顔を凄い勢いで見上げた。おかっぱの髪が頬を叩く。
兄代わりのシェリーに隠し事は無理な話だった。みるみるトマトのように頬が真っ赤になり、ついに耳まで赤く染めた。

「なななななな何言って…!」
「君の本当の気持ちを知りたい。シャス、リュシィの事をどう思っているんだ?」
「シェ…シェリーさん…」

初めて逢った日からシャスは本能でリュサイアの優しさを感じていた。
言葉に出さずとも伝わって来る心遣いと哀しみを秘めた蒼い瞳に惹かれた。
シャスはリュサイアをもっと知りたいと思っていた。

「皆と同じ位大切な仲間であり、私に取って失いたくない大事な人…です」

シェラザードは満足してシャスの頭に掌を乗せ、にっこりと微笑んだ。




<後編に続く>
























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