summer waltz

本格的な夏の合図が始まった
庭の睡蓮鉢の中に映るその世界が、また今年も連れて来る

五月雨の跡が葉の上に一つ二つ三つ
睡蓮鉢の中の空には、嘘のない世界が広がってる
何の駆け引きもない
偽りのない普遍の物がそこに一つ二つ三つ
真実を探す気なんてないけれど、そこには在る気がする
坂から見える海もそう


そんなものを信じる傾向にある、瑞々しい季節
撫子が咲き紫陽花は蕾を付ける
睡蓮の葉は、いつに間にかそこに浮かんでいた

本格的な夏の合図は何を連れてくるのだろう
願わくば、祖母が庭を眺めて時折、
『綺麗だやぁ』
と言う、そんな世界が一つ二つ三つ
愛でられたなら

母の日に

母は、母の母にカーネーション
母は、父の母に花がらの服


姉は、母に黒じに白い水玉模様の服
もう一人の姉は、母にラベンダーの鉢植え
僕は母に、リーフ型のブローチ


母の母は、もうずっと前にお空の星の人だから
母の日にはカーネーションを持ってお墓参り
よその墓石にも同じようにカーネーションがあったりして
少し心がホッコリする


父の母は、嬉しそうに母にもらった服を広げ
お出掛けの日が待ち遠しそうに
目にうっすら涙をためる
父の母は、感激屋さんなのだ



『はい、母の日、ありがとう。
　いつも感謝しております』


いつも何でも話せる、多分、仲の良い母だけれど
感謝の言葉を言う時は照れくさくて仕様がなくて
思わず
言葉づかいがやけに丁寧になってしまうのは僕
そのついでに
しまいっぱなしにしないでねと注文する


姉は、旦那さんとやってきて
母の日のプレゼントを渡しているらしき声が
僕の部屋まで聴こえてきた
窓からは、五月の風がふっくらカーテンを揺らしてた


ありがとう、ありがとう、いつも本当に、

ありがとう！



五月に感じる、ありがとうの気持ち
母の日の一日
世界は感謝の風が、ふんわりふっくら、吹き渡る


これからも、ずっとそばにいるからと

光の矢

これ以上ないくらい細い線を、
真っ白な空間に
これ以上ないくらいどこまでも真っ直ぐにひいて


出来得る限り気持ちを集中して
余白だらけの裸の気持ちを研ぎ澄まし
鋭く、そしてたおやかに
矢を放て
これ以上ないくらい真っ直ぐな矢を


うまい具合に線に矢が命中したら
命中した地点から現われる
さらに細い、絹のような真っ直ぐな線


そんな世界がどこかにあって
羽に気高さや高潔、時に影を宿した天使が
金銀の種子を込めて
矢を放つ
矢が選んだ一点から光の粒子が降る、恵みの雨が光る


真っ白な世界から生まれた線を
その音楽へと変換してくれる魂に
あらゆる美を芸術というものに姿を変え世界へ放つ為
選ばれしその心、君在りし

八十八や

五月といえば八十八夜
八十八夜といえばゴールデンウィーク
ゴールデンウィークといえば結婚記念日

結婚記念日といえば姉のウェンディングドレス姿と
泣かない宣言をした父の上を向いたままの姿と、
賑やかな街に遅刻しそうになった新郎と
ちまきを食べる僕ら家族の思い出
披露宴の料理には、ちまきが出てそれが人生で初ちまき
そんな思い出があるよと言ったら
姉夫婦は笑うだろうか？
あれから姪が生まれ新しい家族が増えていき
今では二番目の姉も結婚して甥が生まれ、
喜びは増えていく、哀しみは溶けていく
何処からやって来る新たな出会いや命を受け入れるその不思議
毎年思い出すのはこんな
上向く父といつもとちがう姉の姿と
新茶の季節と賑やかな街、新しい出会い
そこにあるのは何もかもが喜びで
それは今この瞬間にも繋がっている
途切れることなくあの時から、いやずっと前から

五月といえば八十八夜
八十八夜といえばゴールデンウィーク
ゴールデンウィークといえば
未来永劫続いて行く螺旋の不思議を、見た一瞬

優しい美

微細な繰り返しが重なると、境目は少しずつなくなっていく
そうあることが理想のように
空を流れていく愛のうた見上げる僕の目には
青と赤が映る
時々、赤と白が混じる
それらは力強い中で、とても優しく


遥かな空を縫うように届いた
温かな閃光に力を貰って、僕は僕で在る許可を得る
覚束ない身を照らしてくれる灯りに
どれだけ心が救われているか知れない


月夜に聴いた、上空を流れる希望の歌に
優しい美に