<付記7b: 傷痕を数えてみる>
私の体には無数の傷痕があります。
最初に付けられたのは、たぶん上腕の内側の小さな針痕でしょう。
最初に付けられたのは、たぶん上腕の内側の小さな針痕でしょう。
皇居では、はしゃいだりする幼児を大人しくさせるために、侍従や護衛官が睡眠薬の注射器で刺すのです。
三歳になって、髪の毛がおかっぱに伸びてきた頃には、侍従が護衛官に「これなら、ここでも良いな」と指示していました。
首の後ろ側です。髪と着物の襟に隠されて、首の後ろなら針痕は見えません。
首の後ろ側です。髪と着物の襟に隠されて、首の後ろなら針痕は見えません。
病気でもないのに、私の体には、上腕、首の後ろ、胸、肩、腿・・・と、数え切れないほどの針痕が着物の下にありました。
或る日、女ばかりの後宮での午睡の時間に、私の横で添い寝をしていた若い侍女が、突然、小刀で私の尻を刺しました。
幼児のぷっくりと張った皮膚が裂ける鈍い音がはっきり聞こえ、布団に鮮血が飛び散り、私はあらん限りの声で泣き叫びました。
皮肉なことに、その傷口は医官によって医療用の針と糸で縫い合わされて、完治した時には、私のお尻に一線の縫い痕が残りました。
幼児のぷっくりと張った皮膚が裂ける鈍い音がはっきり聞こえ、布団に鮮血が飛び散り、私はあらん限りの声で泣き叫びました。
皮肉なことに、その傷口は医官によって医療用の針と糸で縫い合わされて、完治した時には、私のお尻に一線の縫い痕が残りました。
そこで、医官はこの縫合跡を隠すために、再度、尻の皮膚を八方から引っ張り寄せて、縫い合わせ、その中心に黒い大きなホクロを作ったのです。
右腕の外側にある、一本の細い線は、英国兵にサーベルで切られたものです。
四歳の時、初めて英国を訪問する際に、私は「不思議の国のアリス」のお話を教えられました。
四歳の時、初めて英国を訪問する際に、私は「不思議の国のアリス」のお話を教えられました。
女王陛下がトランプの兵隊に「首を斬れ!」と叫ぶ有名な童話です。
私は英国の宮殿で出会った兵士に、たどたどしい英語で「カット!・・・」と言ったのでした。
信じ難いことですが、厳格な国の兵士はその言葉の通り、子供の腕を「カット」したのです。
皮膚の上層だけを十センチほど切られました。
皮膚の上層だけを十センチほど切られました。
ところが、日本へ帰って来ると、今度は別の片方の腕を、皇宮護衛官に銃で撃たれました。
と言っても、やはり皮膚を焼かれただけでしたが。
護衛官は、自分も英国兵のように、肉を傷つけず皮膚だけを撃てるのだと自慢しました。
それでも、小学校へ通うようになると、これらの傷痕も大方が癒えていきました。
何故、この頃になって、一時的ではありましたが私の生活が平穏になったのかは、ずっと後になって理解しました。
学校では健康診断があるからです。
皇居で繰り返される虐待と、不規則な食事と、薬剤の投与によって、私は幾分、成長の悪い子供でしたが、それでも特別な自覚症状もなく、元来、暢気な性分と自身の健康への短絡な過信とが救いでした。
しかし、校医は私の心臓が悪いと言いました。心臓の位置よりやや下方に、小さな白い痣があります。
砒素によってできた黒い痣は、注射針の痕を中心にして径五センチくらいの円形だったのですが、この白い痣は歪んだ菱形に引き攣れていました。
白い痣は、天皇裕仁にやられたものです。
裕仁は、徳川侍従とともに、私を護身用ペン型銃の標的にして「試し撃ち」をした時、銃声を聞いて部屋へ入って来た護衛官を撃ち殺したのです。そして、目撃した子供の口を塞ぐために、自衛隊で新たに開発された薬剤を注射して、脅迫しました。
裕仁が、その時、私に言った言葉を未だ忘れません。
「お前を白人にしてやるぞ」
それは、人間の皮膚にある色素細胞を破壊して、肌を白くする薬なのだそうです。
それは、人間の皮膚にある色素細胞を破壊して、肌を白くする薬なのだそうです。