その子供が両腕で抱えている物が何であるのか・・・ しばらくの間、判らなかった。
正殿は広く、照明が暗いので、子供の影に半分隠れた瓢箪(ひょうたん)のような形は、動物を模倣した玩具か何かだろうと思った。
子供は独りきりなのに、泣きもせず、衣音も立てず、呼吸さえしていないかのようだった。
私が近づいて行くと、ゆっくり顔をこちらへ向けたが、笑いもしない。
その時、屈んでいた子供の影が急に起き上がって、隠れていた玩具に鈍い照明が当たった。
丸い頭に、二つの目玉と小さな角が付いている。最初、木製かと思った物は、硬い金属の表面に深い溝が刻み込まれた・・・ミミズクを模した殷代の酒器だった。
私は思わず手を伸ばして、子供の腕を掴んでいた・・・
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東宮御所に監禁されていた間に、「倭国の宝物」のうち三点を損壊された。
一つ目は古代中国殷代の青銅器で、愛子が玩具にして遊んだあげく、床に転がした。二つ目は西暦紀元頃の銅剣で、宮内庁の男性職員が両手を広げた状態で持っていたところ、(理由は知らないが)突然、床に落として、真っ二つに折れた。三つ目は、宝物の中で唯一私が東京国立博物館へ寄贈した「親魏倭王」金印だが、雅子がそれを東宮御所へ取り寄せて、まるで野球のボールのように素手で放り投げる動作をしたあげく、手が滑ったのか硬い床に落としたために、やや凹んだ。
宮内庁は修復すると言ったが、私は古代の刑罰のように、その手を斬り落して欲しい。