【阿多羅しい古事記/熊棲む地なり】

皇居の奥の、一般には知らされていない真実のあれこれ・・・/荒木田神家に祀られし姫神尊の祭祀継承者

付記4a: 北方領土

2024年03月01日 | 歴史

 

就学前に、侍従と護衛官を付けられて、海外へあちこち連れて行かれた中、「北方領土」へ行ったことがある。しかし、行ったことがあると自慢げに言うのも実は複雑な心持で、幼児の私にはどの辺りが北方領土なのか、本当はよく判っていなかった。
 
 
海上自衛隊の船に乗せられて、「北へ行くんですよ」という侍従の説明を聞きながら、厚い防寒着を着せられた。
出航して、しばらく経つと、紺碧の海に白い氷塊が出現し、その氷塊の向うにまた帯状の氷壁が重なった。
「ほら、あそこにアザラシがいます」 白髪の侍従が笑って遠くを指差し、勿論、彼以上に歓喜した私は大声ではしゃいだ。
「本当だ。ここは何処なの? 日本なの?」
すると、背後にいた護衛官が答えた。「日本ですよ。・・・樺太です」
 
 
アザラシが何処かへ逃げて行ってしまうと、後はもう見る物が無かった。
所在無げに甲板に立っている子供に、船員が気の毒そうな顔で話しかけてきた。
「もうすぐ夏になると、あの氷が解け出して、雪崩のように落ちて来るんです。だから、船はこれ以上、岸壁に近づけないのですよ」
 
 
ところが、ここにまた、無法者の護衛官がいた。
「私が落として差し上げよう」
そう言ったかと思うと、男は腰に携帯していた短銃を抜いて、氷壁の上層部にへばり付いている一塊に向け、数発を撃った。
銃声が、氷盤の深い谷間を響き渡り、私の頭ほどの槐がガラガラと落ちてきた。
驚愕した侍従が何か叫んだが、とうに日本領海から出奔したその男は卑屈な薄ら笑いを浮かべるだけだった。
 

 
ほんの数分後、突然、船の側面に銃弾が当った。見上げると、氷壁の淵を数人の黒い人影が走っていた。この地を領土としている国の兵隊である。甲板を逃げる私の頭上を弾丸が飛び、防寒着の裾に焦げ穴が開いた。
船は急旋回して、さらに銃弾を浴びながら、ようやく氷壁から遠ざかった。