「なあ、鏡?この世でいちばんのべっぴんは…私、なわけないわね。私はあの子を殺した。あの子が美しいというだけで。自分の手で自分をけがしたのよ。これで私もおわりね。あの子がいちばん美しい」
すると鏡はこうゆうた。
「確かにあの子は美しい。でも、あんたはけがれてへんで。これを見てみ」
鏡に映し出されたのは小人たちと楽しそうに踊る白雪の姿。継母はそらほっとしたで。
でも、継母はどうじに思いあたったんや。
(あの子はこれまでいちども外の世界にでたことがない。動物も友達のように暮らしてきた子よ)
そう思うてみたら、小人たちの家は男ばっかりで、なんや心配になってきてな。さけど、いちどは殺しかけた子や。そないに簡単に呼び戻すわけにもいかへん。そこで継母は白雪に体で教えることにしたんや。
(でも、どうやったら…)
継母は考えたんやけどな、幸い自分は魔女や。
自分が不審者に化けたらええねん。
そうと決まったら、さっそく、毒の櫛を作った。これを髪にさしたら、たちどころに眠りにつく。でも、誰かが取ってさえくれれば目は覚める。
(これで、警戒してくれれば…)
案の定、白雪は櫛を受け取った。
「ねぇねぇ、お婆さん、こんな感じかしら?」
白雪は櫛をさしたとたんに眠りに落ちた。
(まったく…。でも、これでちょっとは気をつけてくれるわよね )
継母は期待してたちさったんやけどな、目が覚めた白雪は元どおり、警戒心もないままやった。
そこで、次に継母は毒のコルセットを用意した。
(小人たちにもあれだけ注意されていたし、ましてや、櫛を渡した私がまた現れれば警戒するだろう)
そう思うたんやけど、白雪はあろうことか、また受け取りよる。
継母は内心あきれながら、次を期待して帰っていった。
せやのに、白雪はそれでもあかんかった。鏡に映る白雪は、どこの誰ともつかん男を家に入れたり、ひどいときには、あの毒のコルセットをきれいに洗って腰に巻きよる。
(もう、これはあかん。無理や)
絶望した継母はこんどは毒のリンゴを用意した。
リンゴは食べ物や。櫛やコルセットとちごて、手では取れへん。結婚相手が見つからんかぎりは、眠り続けたままや。
作っといてなんやけど、やっぱり内心は、
(お願い、食べないで)
の一心やった。でも、それも虚しく、白雪は食べてもたんやな。
「なんでよ。なんで食べるのよ、白雪!あなたって子はどうして…」
継母は叫びたかった。でも、小人が帰ってきたら、おるわけにもいかん。で、泣く泣く帰った。
でもな、白雪はほんまはわかっとったんや。
コルセットを腰に巻いたあの日、小人たちは白雪を問い詰めた。
「なあ、白雪。あんたはなんでそう、やすやすと怪しい人から物を受け取るんだい。…言いたくはないけど、これ以上は俺たちでも守りきれないよ?」
「ごめんなさい。実は、あの老婆、私の継母なの。なんで、こんなことをするのかは分からないけど、私、こんなことは辞めてほしくて」
「なんだって!?君が継母に追われてきたのは知ってたけど、そこまでするなんて。よければ僕たちがとっちめに行こうか。」
「やめて。私が追われたのは、今考えれば、私が悪かったのよ。お義母さんがいつも鏡に聞いていたの、知っていたのに…。あの人は、人を信用できないの。お父さんと結婚したことだって疑って。自分の見た目がきれいだから、それだけなんじゃないかって。お父さんはそんな人じゃないのに…。もっと人を信用してほしいのよ」
リンゴを吐き出した白雪はため息混じりに目を開けた。
(やっぱり、あの人は誰も信用しないのね。…私のことも)
白雪姫は結婚式で真っ赤に焼ける赤い靴を用意した。それは、最後の手段だった。娘の私がそんなもの履いてほしいと願うはずがない、と、継母に感じてほしくて。
(ねえ、お義母さん)
でも、継母は履いてしまった。踊るように死んでいくお義母さんの姿に、白雪は涙した。
親の心子知らず、子の心親知らず。
すると鏡はこうゆうた。
「確かにあの子は美しい。でも、あんたはけがれてへんで。これを見てみ」
鏡に映し出されたのは小人たちと楽しそうに踊る白雪の姿。継母はそらほっとしたで。
でも、継母はどうじに思いあたったんや。
(あの子はこれまでいちども外の世界にでたことがない。動物も友達のように暮らしてきた子よ)
そう思うてみたら、小人たちの家は男ばっかりで、なんや心配になってきてな。さけど、いちどは殺しかけた子や。そないに簡単に呼び戻すわけにもいかへん。そこで継母は白雪に体で教えることにしたんや。
(でも、どうやったら…)
継母は考えたんやけどな、幸い自分は魔女や。
自分が不審者に化けたらええねん。
そうと決まったら、さっそく、毒の櫛を作った。これを髪にさしたら、たちどころに眠りにつく。でも、誰かが取ってさえくれれば目は覚める。
(これで、警戒してくれれば…)
案の定、白雪は櫛を受け取った。
「ねぇねぇ、お婆さん、こんな感じかしら?」
白雪は櫛をさしたとたんに眠りに落ちた。
(まったく…。でも、これでちょっとは気をつけてくれるわよね )
継母は期待してたちさったんやけどな、目が覚めた白雪は元どおり、警戒心もないままやった。
そこで、次に継母は毒のコルセットを用意した。
(小人たちにもあれだけ注意されていたし、ましてや、櫛を渡した私がまた現れれば警戒するだろう)
そう思うたんやけど、白雪はあろうことか、また受け取りよる。
継母は内心あきれながら、次を期待して帰っていった。
せやのに、白雪はそれでもあかんかった。鏡に映る白雪は、どこの誰ともつかん男を家に入れたり、ひどいときには、あの毒のコルセットをきれいに洗って腰に巻きよる。
(もう、これはあかん。無理や)
絶望した継母はこんどは毒のリンゴを用意した。
リンゴは食べ物や。櫛やコルセットとちごて、手では取れへん。結婚相手が見つからんかぎりは、眠り続けたままや。
作っといてなんやけど、やっぱり内心は、
(お願い、食べないで)
の一心やった。でも、それも虚しく、白雪は食べてもたんやな。
「なんでよ。なんで食べるのよ、白雪!あなたって子はどうして…」
継母は叫びたかった。でも、小人が帰ってきたら、おるわけにもいかん。で、泣く泣く帰った。
でもな、白雪はほんまはわかっとったんや。
コルセットを腰に巻いたあの日、小人たちは白雪を問い詰めた。
「なあ、白雪。あんたはなんでそう、やすやすと怪しい人から物を受け取るんだい。…言いたくはないけど、これ以上は俺たちでも守りきれないよ?」
「ごめんなさい。実は、あの老婆、私の継母なの。なんで、こんなことをするのかは分からないけど、私、こんなことは辞めてほしくて」
「なんだって!?君が継母に追われてきたのは知ってたけど、そこまでするなんて。よければ僕たちがとっちめに行こうか。」
「やめて。私が追われたのは、今考えれば、私が悪かったのよ。お義母さんがいつも鏡に聞いていたの、知っていたのに…。あの人は、人を信用できないの。お父さんと結婚したことだって疑って。自分の見た目がきれいだから、それだけなんじゃないかって。お父さんはそんな人じゃないのに…。もっと人を信用してほしいのよ」
リンゴを吐き出した白雪はため息混じりに目を開けた。
(やっぱり、あの人は誰も信用しないのね。…私のことも)
白雪姫は結婚式で真っ赤に焼ける赤い靴を用意した。それは、最後の手段だった。娘の私がそんなもの履いてほしいと願うはずがない、と、継母に感じてほしくて。
(ねえ、お義母さん)
でも、継母は履いてしまった。踊るように死んでいくお義母さんの姿に、白雪は涙した。
親の心子知らず、子の心親知らず。