空と無と仮と

渡嘉敷島の集団自決 沖タイ連合と曽野組の仁義なき戦い 中編⑥

「沖縄戦」から未来に向かって 第3回


 第3回は辛辣ともいえる論調で太田氏への反論を試みています。


 「太田氏のジャーナリズムに対する態度には、私などには想像もできない甘さがある」
 「新聞は間違えないものだとなどという素人のたわごとのようなことを言うべきではない」
 「太田氏という人は分裂症なのだろうか」


 上記は第3回からの引用です。

 太田氏が以前女性差別的なことを主張したのに対して「素人のたわごと」といった表現や、同じく差別的な表現である「分裂症」といった言葉で攻撃する曽野氏の主張を鑑みるに、論争とはいえ双方が過度に感情的な応酬になってしまっていることは残念であります。

 このような誹謗中傷合戦になりがちになるのは、論戦という性質上、どうしても避けられないのかもしれませんが、ヒートアップすればするほど問題の核心がずれていくことにもなりますので、ここではこれ以上の言及はいたしません。
 そういうわけで、曽野氏がこの第3回で何を主張しているかのみを考察したいと思います。

 一つ目はジャーナリスト・ジャーナリズムに対する正確性です。以下に引用いたします。


「新聞社の集めた「直接体験者」なるものの中にはどれほど不正確なものがあったかをつい昨日のことのように思い出せるはずだ」


 具体的な「不正確さ」として、朝日新聞が報じた「毒ガス報道」を取り上げています。
 これを簡単に説明すると、日中戦争時の当事者が「毒ガス攻撃をしている写真」を朝日新聞に売り込み、朝日新聞が紙面上で「毒ガス攻撃の写真」として掲載しました。しかし別の当事者によって「毒ガスではない」と指摘され、最終的には朝日新聞が紙面で訂正したというものです。

 このような事例があるにもかかわらず、太田氏は新聞記者というプロフェッショナルなジャーナリストなのに、その「直接体験者」のなかには不正確なものもあるという事実を理解していないのではないか、というような主旨だと思われます。
 証言には意図的なものや恣意的のものを含め、信ぴょう性が問われるという事態は歴史認識問題や歴史学に限らず全てにおいてあり得ますので、この件については特に説明するまでもないと思われます。

 ただし、今回の場合は当事者による証言の正確性、あるいは不確実性どころではありません。集団自決決行の中心人物である元村長が「命令は聞いていない」という証言(ある神話の背景)があり、それを補完するように駐在巡査の証言もあります。
 それによって「命令があった」とする「鉄の暴風」の描写と真っ向から対立してしまっていますが、曽野氏はこのような矛盾を一貫して主張し、太田氏に問うているのです。

 しかしながら、先述したように元村長の証言は、ごくごく簡単にいえば「命令はきていないが、命令のようなものがあった」というような曖昧なものであります。「命令のようなもの」が何を指すのかは現在でも全く不明なままであり、元村長は既述のとおり亡くなってもいますので確認がとれません。その点に関しては注意が必要かと思います。

 二つ目は「赤松側に立つ」ということに対して「赤松大尉を擁護するものではない」という主張です。これについては特に説明するまでもありません。以下に引用いたします。


 「赤松氏とは、ほかの人ほど接触しなかった。こういう場合の当事者が何を言っても弁解だということになることは目に見えているから、私はむしろエネルギーを省きたかったのである」


 三つ目は知念少尉に関することです。
 知念少尉は少なくとも「鉄の暴風」では取材を受けていません。


 「知念副官が赤松隊長の残虐さに慟哭したという場面も伝聞証拠ではないというなら、知念氏の内面の苦悩を書いた場面は特に知念氏自身から聞いて書いたのだろうと思うのだが、その知念氏が「真相を語っているとは思えない」と太田氏は自らいう。太田氏という人は分裂症なのだろうか」


 上記も引用ですが、要は知念少尉が言ってもいない、やってもいない、考えてもいないことを知念少尉自ら証言しているのに、その慟哭を事実と主張する太田氏が「知念氏が真相を語っているとは思えない」と断言することに、曽野氏は少なくとも疑念を持っているということです。

 ただ、こういった矛盾・疑念を生み出す太田氏を「分裂症」と揶揄しているのは肯んじえません。
 繰り返しになりますが、白熱した論争が過熱してしまって太田氏・曽野氏双方が差別的表現を使用してお互いに攻撃しているのは、第三者からすれば残念ながら不快でしかありません。


次回以降に続きます。

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