徒然

音楽の昔話 続きの続き

ハンマークラヴィーアのCDは、アシュケナージの演奏が初めてでした。
ベートーヴェンのピアノソナタの最高傑作というのは分かりますが、イマイチ良さが分かりません。何も感じません。長大な作品ということは分かりましたし、難曲であることも特にフーガを見れば分かります。
しかし、魅力は感じませんでした。
ポリーニの演奏も聞きましたが、興味がわきませんでした。ものすごく上手いんですけどね?

そんな中、市立図書館でソロモンの演奏を借りてきて、これが結構面白い曲だと思うようになり、何度も聞き返すようになりました。おそらくテンポの痛快さ、緩徐楽章の深淵さ(遅いだけ)というのを中学生なりに感じたのだと思います。
高校時代に1ヶ月ドイツに行っていた時、ハンマークラヴィーアを聞きたいと思ってCDショップに行ってみましたが、もちろんソロモンの演奏などは無く、代わりにBBCのリヒテルの演奏を手に入れました。これがソロモンの演奏よりも面白い。フーガのテンポなどはソロモンの方が快調に進むのですが、リヒテルの演奏は感情も一緒に持って行かれます。ライブレコーディングなので、あちこち外していますが、そういうのはどうでも良いのです。3楽章は特に素晴らしいです。Largoの広がりは、平面的ではなく立体的です。

ベートーヴェンが作曲した当時、ベートーヴェンは1・2楽章だけで出版しても良いと出版社に伝えたとかいうウワサもありますが、ハンマークラヴィーアの真髄は3楽章と4楽章にあります。1楽章は大変大きなソナタ形式ですが、3楽章に入っていくと、まるで1楽章は序章であったかのようです。
ベートーヴェンのソナタを見ていくと、時代によって楽章のウエイトが変化していくのがよく分かります。
それが顕著なのが、作品27でしょうか。それまで、1楽章ソナタ形式で後半の楽章よりもウエイトが大きかったのを(4番などの例外はあるが)、クライマックスを完全に終楽章に持って行きました。テンペストのように、全楽章ソナタ形式というのもあります。
そういった試行錯誤があり、ヴァルトシュタインや熱情ソナタのような、1楽章と同等の大きさの終楽章を持つソナタを書くようになりました。
それが後期にかけても、27・28番のように、作品27のような試行錯誤をしました。緩徐楽章とソナタ形式の位置関係を動かしていますが、28番の特徴の一つはソナタ形式の中にフガートを挿入したことです。ベートーヴェンは、ソナタの中にフーガを入れようと試みたのです。その結論がハンマークラヴィーアです。やはりソナタは巨大な1楽章を必要としましたが、熱情ソナタと少し違うのは、それよりも大きな緩徐楽章や終楽章を作ったことです。その構成は、続く3つのソナタにも大きく影響を与えています。そして、1楽章の中間部(すでに呈示部で展開されているのに、展開部と呼ぶことには疑問があります)にフガート(またはフーガ)、終楽章はフーガになったことも大きいです。
作品27や作品101などの試行錯誤の時代とは、まさにベートーヴェンの人生の試練の時代であったのです。それらは、ハイリゲンシュタットの遺書、不滅の恋人の事件の時期と一致します。そうした大きな試練を克服する手段として、新たな音楽の世界を切り開こうとしたようです。
その一つが、ソナタの構成でした。楽章内の構成もそうですが、全楽章通しての大きな流れを組み立てていったようです。
もう一つが、フーガの研究です。ちょうどどちらの時代にも、バッハの平均律を弦楽四重奏曲に編曲するなど、フーガを深く研究した様子があります。変奏曲作品35にもフーガは登場しますが、フーガに関しては後期に花開きます。それがハンマークラヴィーア、作品110、ディアベッリ変奏曲、第九交響曲、大フーガなどに繋がっています。ベートーヴェンの数ある魅力の中の1つです。

今もリヒテルのハンマークラヴィーアを愛聴していますが、プラハリサイタルを1番よく聞くかもしれません。
また、大学時代にはアニー・フィッシャーを教えてもらいました。リヒテルが絶賛するだけのことはあります。ものすごく素晴らしい演奏です。芯の強い演奏です。一つだけ難点を挙げるとすれば、ベートーヴェンのソナタ全集の中でもリピートしない演奏があることくらいでしょうか。とても勿体無いですが、リヒテルもアニー・フィッシャーがリピートを省くことで素晴らしい演奏を台無しにする、というようなことを書いています。
現在はこの2人の演奏を特によく聞いていますが、シュナーベル、ゼルキン、チッコリーニ、ペーター・レーゼルなどの演奏も好きです。シュナーベルのフーガは速すぎてめちゃくちゃになっています。
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