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最近読んだ小説レビュー Vol.18

2006年05月21日 | 小説レビュー
読むのが遅いのとなかなか読む暇がなかったというので、一ヶ月半も空いてしまいました。

今回は、伊坂幸太郎特集です。

その第一弾は、『終末のフール』です。
数ヶ月前に読んでたんですけど、更新できてませんでした(汗)。


『終末のフール』

まず表紙のデザインが今までの伊坂作品の中で一番好きです。
作品のテーマが終末の世界なのに色合いもデザインもさわやかなイメージで、そこが伊坂さんらしいというか、本編の色を表してると思います。

これは完全なパラレルワールドのお話です。だから過去の伊坂作品とのリンクはなく、『終末のフール』だけ別格です。

ストーリーは、「8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する」と発表されて5年後の話。犯罪がはびこり、秩序は崩壊した混乱が過ぎ、落ち着きを取り戻し始めた頃の仙台市北部の団地に住む人々のオムニバスで、それぞれの登場人物の決心や行き方を日常的に描いてます。

普通、こういう世界が滅びる話というのは、混沌としていて、世界観も暗く、人間の裏の部分がダイレクトに表現されたりしている作品が多いのですが、伊坂さんはあえてそこを踏まず、滅びるから明るく生きていこうという、良い意味での「ふっきれ感」を持つキャラたちを描いているので、全然暗くない。むしろ、終末の世界だからここまで彼らが明るくなれるんだろう、そういう考えを持てるんだろう、そういう行動を起こせたんだろう、と解釈できる。今まできっかけやタイミングを逃していただけで、この〝終末〟というきっかけによってキャラはポジティブに動き出す。

これは、今の日本にも置き換える事ができると思うんですよね。

何も考えず明るく能天気に生きている人間と物凄く悩んでいるネガティブな人間は、内面は違えど、地球規模で考えれば、「どちらも同じ人間」でしかない。どちらにしろ世界が滅びるのなら、ネガティブに考えるよりポジティブに考えた方がいいんじゃない?っていうメッセージが含まれてると思うんです。

一度きりの人生しかないわけで、平等に与えられた時間の中で、ネガティブに生きる人は今結構いると思うんだけど、同じ時間が過ぎていって年をとっていくのなら、ポジティブにアクティブに生きていく方が絶対楽しいし、得した気分になるという事です。

本編のどの登場人物たちを見ても、不安感はあれど、〝今〟を楽しんでいるように感じたし、元気を与えられる。フィクションだけど、彼らはあと3年で滅びるのに明るく生きてるんだから、滅びる事のない世界で生きてる僕らはもっと明るく生きていかなきゃ、と思ってしまう。

今回は、伊坂さんの爽快なオチやテンポのいい文体ではないけれど、この作品に合った雰囲気を描けてると思うし、終わり方も爽やかで、滅びるんだけど、希望が垣間見れる終わる方なのがいいです。

短編集だけど、連作になってるし、全てリンクしているので、一つの長編として読めると思います。

伊坂さんの新しい一面を見たい方はぜひ。





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