蟷螂の独白

世に背を向けた蟷螂です。喜怒哀楽を綴って19年モットーは是々非々の団塊世代です。

続々々々僧帽弁閉鎖不全手術の顛末

2022-01-09 16:28:29 | 徒然

東京西部の心臓専門病院から帰宅しても悩みは晴れません。

なにしろ自分という車のエンジンの修理です。
エンジンが直らなければ廃車=死人になってしまいます。
翌日のJ大学病院行きも気になります。
2日続けて初見の医療機関に行くのは力仕事に等しく、加えて極めて高度な判断力が求められます。
心臓とは別の、心がボロボロになり始め、夕食もなかなか喉を通りません。
身体への負担の軽いダヴィンチだと自費で380万円の上、保険の効くMICSという手術法も選択可能な都内西部の医療機関か、さもなくば保険がバリバリに効くJ大なら10万ちょい。
開胸器でギリギリ胸を大きく開かれて、我が心の臓を白日の(無影灯だけど)もとに曝すか、究極の選択を迫られているのですから、お茶だってのどを通らないほど胸が締め付けられます。
 
もし感染性心内膜炎が悪化しているのでJ大で開胸ということになったら、そしてもし幸運にも教授先生に切ってもらうとなると、謝礼の相場は青天井。
果たして一介の市井が払いきれる額かどうか悩みは深いのです。
謝礼お断りなどと書いてある紙が貼ってあるけれど、あんなもはあくまでも建前。
その昔、親父の肺や男性の乳がんの手術のときには、帯のついた札束が飛び交っていた。
 
その上胸骨を切るなんてことをしたら、もともと作りが頑丈でない蟷螂なんかは、その場はいいけれど1年くらいしたら死ぬ可能性は99.9%。
箸を食卓に置いて『幾らか出せないかな』と、真顔で同居人を見据えると、血相を変えて『じ、冗談じゃないわよ』とけんもほろろです。
やむを得ません。
大切にコツコツ買い貯めてきた製薬メーカーの株を全て処分することにしました(その後株は暴騰した!)。
血が繋がっていないくせに、舌を出すのも嫌がる蟷螂の親父にクリソツな同居人。
(覚えてやがれ!)
蟷螂は心の中で吠えました。
車はタクシーが捕まらないことを考え、勤人時代に知り合ったタクシードライバーを手配しました。
彼は55歳で紙屋の営業マンを辞し、タクシードライバーに転職。
周りをアッと言わせました。
懐かしい話をしたかったことと、その友人が大腸がんで手術を受けていたので、手術前の心得などを聞いておきたかったのです。
 
そして暗い心を抱きつつも、J大受診の日が来ました。
当日はピカピカの冬晴れ!
マンション前に停まっている黒塗りのタクシーの前で、彼が羽箒で車体を拭きながら笑顔で蟷螂を迎えます。
お〜凄いじゃん。
なんでもその業界では黒塗りのタクシーを割り当てられるのは腕の良いドライバーである証拠、超一流ホテルなどは赤や黄色で塗られたタクシーはご法度と聞いていたのでびっくりです。
『元気そうじゃん』
四国訛りが懐かしい。
『一見ね』
タクシーに乗り込んで、直ぐに靖国通りに出て西へ向かいます。
『いったいどうしてそうなっちゃったの?』
蟷螂は暮れの歯医者での出来事を話します。
その頃はだいぶ手短にまとめて話せるようになりました。
『そういえば女房、歯医者へ行くって言っていたっけ』
『気をつけたほうがいいよ』
『で、今日行くJ大で手術を受けるんだ。あそこにはたしか・・・なんとかっていう先生がいたっけ』
『いや、もうJ大では切らないって決めている』
『どこで切るの?』
『心臓手術を内視鏡でやってくれるところを見つけた』
『誰かの紹介?』
『ネット』
『大丈夫かよ』
『だから今日J大に行くんだ。見極めにね』
一度も行かずにJ大を切り捨てることはできない。
もし、MICSができるとなると、心が動くこともあり得る。
医者が丁寧で、コチラがかえって恐縮するような低姿勢だったら、『う~ん大学病院もいいかな』と心変わりする可能性がある。
 
『着いたぜ』
J大の車寄せにタクシーをつけると友が言った。
『じゃあ、がんばれよ』
タクシーを降りてから気が付いた。
『そういえば大腸がんの手術のこと、聞かなかったな』
終わったら電話で連絡しよう。
そう考えながら、J大の巨大なホールを見上げました。
 
 
 
 
 
 
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