そのストーリーは基本的にはボーイ・ミーツ・ガールのラブストーリーなのだが、1960年代、ベトナム戦争で大きな混乱の中にあったアメリカを舞台に、英国の青年と米国の女性が周りの友人や家族を巻き込んで展開される物語。ヒッピーやサイケデリックカルチャー全盛であった1960年代のニューヨークや、ビートルズの故郷である英国リバープールなどが登場し、ロンドンとニューヨークが好きな僕としては、それだけでもかなり楽しめる内容であった。
主演陣は殆ど無名の役者を使っているが、どの役者もなかなか見事な配役で、個性的で且つ歌もなかなか素晴らしかった。主役のカップルは名前がジュードとルーシーであり、完全にビートルズの世界に入っている点も注目だが、ストロベリー・フィールズなどに絡めてイチゴのモチーフが印象的なシーンでベトナム戦争の描写がシンボリックに登場する点なども見逃せない。ジュード役のジム・スタージェスはどことなく若き日のメ[ル・マッカートニーにも似ている英国青年である点もなかなか粋な演出だと感じたし、ルーシー役のエヴァン・レイチェル・ウッドもなかなか美しい女性で、演技、歌共に見事であった。またビートルズがデビュー前に歌っていた伝説のライブハウス、リバープールのThe Cavern Clubも映画の冒頭に登場するという、ファンにはたまらないおまけ付きだが、これは決してビートルズの伝記映画ではないのである。
この映画の魅力はビートルズの名曲の数々、そしてシンプルながらもパワフルなラブストーリーもさることながら、そのアーティスティックでパワフルな映像表現への拘りにある。物語中に突如登場するアートな世界や、当時の時代背景、特にベトナム戦争の悲劇を訴える反戦運動をメッセージとした映像のコラージュがしばしば登場。中でも釘によって壁に打たれたイチゴから流れるイチゴの赤い汁が、やがて血のように赤くなって戦争での犠牲に繋がる描写は、実にアーティスティック且つ巧みな映像美となっている点が大変に印象的であった。この映画での映像表現はかなり大胆で実験的な試みだと感じたが、それでいて実にうまく物語にも溶け合っており、ビートルズの名曲とも違和感無く調和していた。そしてやはり基本はラブストーリーという設定として、全体を単なる深刻な反戦ドキュメンタリー的な暗い映画に終わらせていない点で、エンタメ性も充分確保されているというバランス感覚が実にうまいと感じた。結局最後は、「All You Need is Love」の大合唱となるのである。
そして最後になってしまったが、出演陣の中で、注目すべき大物がちょい役で潜んでいた点で実に驚いた。何とあの1980’sのスーパーバンド、U2のボーカリストであるBonoがDr. Robertsという変なサイケおじさんの役で登場し、見事にビートルズの名曲「I am the Wharus」を歌い上げるのは圧巻だった。奇抜なコスプレなので一見Bonoだとわかりにくいくらいだが、その独特な声とやはり隠し切れない風貌でピンときた人も多いことだろう。このBonoの配役は見事としか言いようが無い。
この映画はドラッグが横行したサイケで変わった演出も登場するので、必ずしも万人受けする映画ではないと思うが、間違いなくビートルズファンにはお勧めで、純粋にビートルズの楽曲、そしてその歌詞のメッセージ性と素晴らしさを再認識する意味でも良い映画だと思う。更にユニークなアート映画、ラブストーリーをベースにした反戦映画としても大変に興味深い、楽しめる映画であると感じたのでぜひお勧めしたい1本である。
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